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dancyu編集長が教える「同じ料理がもっとおいしくなる5つのルール」

プレジデントオンライン / 2020年7月17日 11時15分

イラスト=中村隆

飲食店で食事をするとき、同じ代金でほかの人よりもおいしく食べる方法はあるのか。食についての雑誌『dancyu』(プレジデント社)の植野広生編集長は、「同じ料理でも、食べ方によって味わいがまったく違う。食べ方には大きく分けて5つのルールがある」という――。

※本稿は、植野広生『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■「同じ店の同じ料理だったら誰が頼んでも同じ」は違う

僕は、常に「隣の人より美味しく食べたい!」と考えています。

隣の人が注文したものより高価なものをオーダーする、といったことではありません。同じ店で同じときに同じ料理を注文して、同じ代金を支払うとしても、隣のお客さんより美味しく食べたいのです。

ここで、「同じ店の同じ料理だったら誰が頼んでも同じでしょ」とツッコミを入れる人は、人生の8%くらい損しているかもしれません。いやいや、違うんです。

店で食べていて、同じ料理を注文したのに、隣の常連客に自分より美味しそうなものが提供されたり、自分の皿には入っていないものが出ていた、といった経験はありませんか? そう、店は客によって出すものを変えることがあるのです。たとえば、魚が一尾しかなくて、それを切り分けて出すとしたら、店は一番いいところは常連客に出し、一見の客にはその残りを出すでしょう。これは当然ですよね。

初めて行った店で「常連客にばかりいいものを出している。差別だ!」と文句を言う人がいますが、それは間違いです。店にしてみれば、長年通ってたくさんお金を使ってくれた客を優遇するのは当たり前。これは「差別」ではなくて「区別」。いい思いをしたければ、足繁く通って常連になるしかありません。

■ひとりメシだからできる試行錯誤

ただ、実は常連にならなくても、場合によっては初めて行った店で優遇してもらえる可能性があるのです。実際、僕は初めての店でも美味しい思いをさせてもらえることが結構あります。それは『dancyu』の編集長だから、といったことではなく“食いしん坊力”を発揮するから(初めての店で「『dancyu』の植野です」などと名乗ることはありません。予約が必要なら普通に「ウエノです」と言いますし、フリで入るときは当然名乗りません)。

予約から店での注文の仕方、料理人との会話の仕方など、食いしん坊力の発揮の仕方は多岐にわたりますが、こうしたことによって、隣の人より美味しい思いができるのです。

もうひとつ、同じ料理でも、食べ方によって味わいがまったく違ってきます。

7月16日配信『dancyu編集長が教える「吉野家の牛丼を最高においしく味わう食べ方」』で披露したように、ナポリタンでも鰻でも、食べ方次第で味わいや楽しみを大きく広げることができます。

アホらしい、と思うかもしれませんが、一度試してみてください。一皿をずっと同じ味わいで食べ続ける隣の客よりも、美味しく楽しく食べることができますから。前回挙げたのはほんの一例ですが、鮨でも焼肉でもピザでも、あらゆる料理は食べ方や調味料のつけ方をちょっと変えるだけで、味わいがまったく異なるし、上手に食べれば美味しさがグンとアップします。同じ料理でも隣の人より美味しく食べられます。そして、これらは誰かと一緒に食べているときにはできない(変な人だと思われて友達を失う可能性大)、ひとりメシだからこその密かな楽しみ……と思っていたのですが、実はそうではありませんでした。

以前、ある会食で真面目な話をしながら食べていたのですが、相手の方が「そういえば、植野さんは独特なナポリタンの食べ方をされるのですよね?」と話しかけてきました。僕がテレビ番組でインサイド、アウトサイドを実践しているのを観られたそうです。他の方も「え、どんな食べ方ですか?」と急に盛り上がり、しかもそこが和洋中なんでもつくれる店で、急遽ナポリタンが出てきてしまいました。

仕方がないのでいつもの食べ方を披露したところ、みなさん妙に感心されて、全員がナポリタンを注文して同じ食べ方をするという不思議なことになりました。でも、それで一気に雰囲気がなごみ、会話も弾むいい会食になりました。食いしん坊の“ひとりメシ術”が、会食や仕事に役立つこともあるのです。

■「隣の人がもったいない食べ方をしませんように」とも思っている

もちろん、「そんなの面倒くさい」と思う人は、好きな食べ方をすればいいのですが、ただ、少なくとも、運ばれてきた料理に、いきなり調味料をドサッとかけるのだけはやめてほしい。ラーメンの胡椒しかり、とんかつのソースしかり。同じメニューでもその日の素材の状態、季節、料理人の体調や機嫌などによって味は微妙に変化しているはず。どんな料理でも、まずはなにもかけずに一口食べてみて、それから必要があれば調味料をかけてください。

僕が考える美味しいお店の条件に「テーブルに調味料を置いていない店」というのがあります。これは味に自信がある証拠であるだけでなく、「まずはそのまま食べてみてください!」というお店の無言のメッセージであると思っています。

僕は、隣の人より美味しく食べたいと思っていますが、同時に、隣の人がもったいない食べ方をしませんように、とも願っているので。

■植野流5大ルール

隣の人より美味しい思いをするために、自分なりの5大ルールがあります。前回、実践したことはこのルールを応用しているものです。この理論を身につけておくと、いろいろなものに応用できます。

1.舌を意識する
2.犬歯を喜ばせる
3.間接風味づけ
4.温度差をつくる
5.フィニッシュを決めておく
5大ルール
イラスト=中村隆

■ルール1・舌を意識する

「舌を意識する」というのは、最初に舌に何が当たるのかを意識するということです。

たとえば、刺身を食べるときに、箸で持って醬油をつけてそのまま口に入れていませんか? そうすると、まず舌に醬油が当たりますよね。いきなり醬油の強い味が広がってしまいます。だから、醬油をつけたら、その面が上になるように食べるのです(言葉では説明しにくいのですが、箸を持つ手の手首を少し捻ればできます)。これで、まず魚が舌にのり、その後から口の中に醬油の風味が広がります。魚本来の味をしっかり感じてから醬油に包まれて美味しく食べることができるのです。

鮨を食べるときも同様です。握りの底(酢飯)に醬油をつけてそのまま食べたら、舌が醬油ご飯の味に支配されてしまいます。だから、高級な鮨屋ではタネに煮切り(煮切った酒や味醂と合わせた醬油)を塗って出しますし、回転寿司など自分で醬油をつける場合でも、酢飯ではなくタネに醬油をつけて、酢飯を下にして食べるのが正解。

ただ、上にのっているタネに醬油をつけてから、それを裏返し酢飯を下にして食べるのは、実は結構難しいですよね(特に箸で食べる場合はアクロバティックな動きが必要)。そこで、回転寿司では小皿に醬油を入れ、そこにガリを少し入れておきます。握りがきたら、箸でガリを持ち、ガリを刷毛のようにしてタネに醬油を塗るのです。普通の鮨屋で手で食べる場合でも、ネギがのったアジなどは直接醬油を付けにくいので、“ガリ塗り”が便利です。

ちなみに、鮨屋が煮切りを使うのは、生醬油のままだと香りや味が強いので魚の繊細な味わいを消してしまうからです。酒と味醂を煮切って(アルコール分を飛ばして)醬油を合わせるだけなので(最初から醬油も入れて煮切るやり方もありますが、醬油によっては風味が飛んでしまうので、僕は後から醬油を足します)、家庭でもできます。刺身を食べるときに生醬油と煮切りで食べ比べてみてください。違いに驚くはずです。

あるいは餃子。小皿に醬油、酢、辣油を入れ、焼き目がついた餃子の底面をたっぷりつけてそのまま口に入れたりしていませんか? そうすると、口に入れたときにまずタレが舌について、餃子の味を感じる前に、タレの味から感じてしまいますよね。しかも、焼き目にタレをつけると、餃子の醍醐味である香ばしさが損なわれてしまいます。

僕は、まずは餃子そのものの味を楽しみたいので、皮を舌に当てることを考えます。まず皮の美味しさを感じ、それから具の味わい、焼き目の香ばしさと、それぞれピュアな状態で楽しむのです。タレも、酢→酢胡椒→酢と醬油→酢と辣油→酢と醬油と辣油、といった具合に淡い味から濃い味へと、それぞれの味わいを舌でしっかり感じられるようにします。

この「舌を意識する」というのは、どんな料理でも共通の基本。最初に舌に触れた味に支配されるので、まずは素材や料理そのままの状態で舌に当てるように意識しています。

■ルール2・犬歯を喜ばせて本能で食らう

「犬歯を喜ばせる」のは、特に肉を食べるときには重要なルールです。ステーキや焼き肉、唐揚げ、生姜焼きなど、肉料理は犬歯で食いちぎるように食べます。

今度、ステーキを食べるときに試してみてください。①ナイフで一口大に切って食べる、②一口で嚙み切れないような大きさの肉を犬歯で食いちぎってから食べる――②のほうが味を強く感じませんか? ①の一口大にカットして食べると、そのまま奥歯で嚙み締めることになります。もちろん、それでもじわりと肉の旨味を感じられるのですが、②のように犬歯で食いちぎると、肉の繊維をより強く感じ、歯茎で旨味を感じるような気がします。人間という動物の本能が喜ぶ旨さを感じるのです。

とはいえ、高級レストランやデートの際にこれをやると、店のスタッフの眉間に皺が寄ったり、相手の女性が二度と会ってくれなくなるというリスクがあるのでご注意。

■ルール3・間接風味づけのテクニック

どんな料理も最初はそのままの状態で食べるのが基本です。ただし、その後に味わいをさらにアップするためにちょっとした技を使うこともあります。「間接風味づけ」もそのひとつ。

通常、途中で味わいに変化をつける場合には、調味料などを加えるのが一般的です。ただし、調味料などの香りや味に口の中が支配されては意味がありません。特に強い香りや味わいのものは要注意です。

前回説明したように、たとえば鰻重を食べるときには、蒲焼をちょっとめくってご飯に山椒をふります。口の中がいきなり山椒の強い風味に支配されるのを防ぐのです。

あるいは卵掛けご飯であれば、通常は卵に醬油を垂らして、かき混ぜてからご飯にかけますが、これも卵のピュアな味わいが醬油に負けてしまうことが多いのです。そこで、ご飯に醬油を垂らし、少し混ぜてから卵をかけます。醬油の香りがついたご飯を卵でコーティングする感じ。これで、卵そのものの味を味わいつつ、ご飯と醬油との絶妙の相性が楽しめます(醬油がついた米とついていない米が混在することで、味わいのグラデーションも楽しめます)。

さらに時間に余裕のある方は、卵は卵黄と卵白に分け、醬油をかけたご飯と卵白を混ぜ合わせておいてから、卵黄をのせ、崩しながら食べてみてください。これで、さらにきめ細かな味わいのグラデーションが完成します。

ちなみに、途中で調味料などをちょい足しして味わいを変えることを「味変」と呼びますが、味に飽きるのを防ぐような、消極的な感じがして個人的にはちょっと違和感があります。「間接風味づけ」は、味わいをどんどん向上させるためのものですから。

■ルール4・温度差が複雑な味わいをつくる

「温度差をつくる」というのは、熱いものと冷たいものを組み合わせるということです。よく「熱いものは熱く、冷たいものは冷たいうちに食べるのが最高に美味しい食べ方」と言いますよね。その通り。料理人も熱いうちに、あるいは冷たいうちに食べてほしいと思って料理をつくっています。

しかし、それをさらに超越する美味しさの世界が実はあります。それが、あえて熱いものと冷たいものを混在させ、口の中で温度差をつくること。それぞれを別々に味わうよりも、香りや味わいの複雑性が感じられるようになるのです。あるいは別々に食べたのでは感じられなかった旨味が引き出されます(さらに、「温(ぬく)い」「ぬるい」というとても高度な味わいトーンがあり、先端の料理人がそこを狙って料理をつくるようになっています)。

とはいえ、そんなに難しいことではありません。たとえば、家で残り物のカレーを食べるときに、冷たいご飯に温め直したカレーをかけたり、温かいご飯に冷たいカレーをかけて食べたりすることありますよね? 熱いご飯に熱いカレーをかけて食べたときとは違う旨さを感じませんか?

だから、前回紹介したように、吉野家に行ったら、牛丼に生野菜サラダをのせて食べます。同じように、洋食屋に行ったらハンバーグにコールスローサラダをのせます。とんかつ屋では揚げたてのとんかつとキャベツの千切りを一緒に食べます。韓国料理の店に行けば、冷麺をキムチチゲにさっとつけて食べます(冷麺が冷たい状態のまま食べるのがポイント。つけ麺を熱い汁につけて食べるのと同じ感覚)。

これだけで、定番の料理の味わいが大きく変わります。

■ルール5・フィニッシュを決めておく

最後は「フィニッシュを決めておく」。これは、食べ始めるときに、最後はどのように食べ終えるかを決めておくということ。「好きなものは最初に食べるか、最後に食べるか」といった話ではなく(これはこれで重要な問題ですが)、印象と余韻を高めるための選択肢を探すという高度な戦略なのです。

植野広生『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』(ポプラ新書)
植野広生『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』(ポプラ新書)

ついカレーを食べ過ぎて、最後にご飯だけ残ってしまうとがっかりですよね。最後の一口を食べるとき、カレーとご飯が最適なバランスで残っていれば、美味しいイメージで食べ終えることができるはず。そのためには食べ始めるときに、どのように食べ進むか、順番や組み合わせなどの戦略を立てておくことが必要なのです。

基本は「メインの味わいで始まり、メインの味わいで終える」。たとえば、人によって食べ方の流儀がある崎陽軒のシウマイ弁当は、シウマイに始まりシウマイに終わるのが僕にとってのベストです。アンズをデザート的に最後に食べる人も多いと思いますが、それでは、食べ終えた口の中はアンズの味になってしまいます。

同じように、ステーキやハンバーグなら、付け合わせのジャガイモやニンジンを最後に食べるようなことはせず、最後の一口は肉で締める。ハンバーガーなら、バンズだけが残るような事態は避け、最後の一口はパティと野菜とバンズがバランスよく残るようにする。これが基本です。

結局、前回に続き、食べ方の説明になってしまいましたが、以上が、植野的「美味しい食べ方」の5大ルール(実際には、さらに細かいバリエーションがありますが……)。これを読んで「面倒くさい」と思うか、「試しにやってみるか」と思うかはあなた次第です。もちろん、食事は楽しむことが最も重要なので、こうしたルールを必死に考えながら食べるのはつまらない。たまたま僕は、考えないで自然に、直感的にこうしたルールを実践することが身についてしまっているのです。

ただ、ひとりメシの際に、「たまにはこんな食べ方してみるか」と思うだけでも、隣の人より美味しい思いができる可能性は確実に高まります。

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植野 広生(うえの・こうせい)
dancyu編集長
1962年、栃木県生まれ。法政大学法学部卒業。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「プロフェッショナル~仕事の流儀~」などテレビやラジオの出演多数。

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(dancyu編集長 植野 広生)

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