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安倍首相のスピーチが「言い訳ばかり」に聞こえる根本原因

プレジデントオンライン / 2020年7月16日 9時15分

「新型コロナウイルス感染症に関する安倍内閣総理大臣記者会見」(4月7日) - 首相官邸ウェブサイトより

4月7日、緊急事態宣言の発出に際して、安倍晋三首相は約25分間のスピーチを行った。社会学者の橋爪大三郎氏は「このスピーチを文字に起こすと約5600字。プロの手は入っているが、言い訳や力みのフレーズが多く、結局なにを言いたいのかわからない。私が添削すると約半分に削る事ができた」という――。

※本稿は、橋爪大三郎『パワースピーチ入門』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■並々ならぬ覚悟で臨んだはずの「緊急事態宣言のスピーチ」だが

安倍首相は、二○二○年四月七日、緊急事態宣言を発するにあたり、午後六時から記者会見を行なった。まず、約二十五分におよぶスピーチをし、そのあと記者の質問に答えた。

コロナ危機で、各国のリーダーは指導力を問われた。ドイツのメルケル首相や韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領、台湾の蔡英文総統やニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相など、国民の信頼をかちえ評価を高めた指導者は多い。

安倍首相は、対策が出遅れ、指導力に疑問符がついた。「困窮世帯に三○万円」支給するとした補正予算案を、公明党などの要求で「全員に一○万円」支給にあわてて組み替えざるをえなくなり、面目をつぶした。各世帯に二枚ずつ配布する布製の「アベノマスク」も、不良品が多く配布も遅れて、さんざんな評判だ。コロナ危機で国民が信頼するリーダーの国際比較で最下位、という調査結果もある。

安倍首相は世論の評判を、人一倍気にしていたろう。それもあって、このスピーチには並々ならぬ覚悟で臨んだはずだ。

以下、私はいろいろ駄目出しをする。それは、私がかりに首相のブレーンだったら、こういう点を注意しますよ、という意味である。とにかく、スピーチをよくしよう。そうすればそのぶん、政治がよくなる(順番が違うような気もするが、そういう側面が確かにある)。

■「トピック・センテンス・メソッド」によるスピーチの組み立て

さて、このスピーチの原稿を誰が準備したのか知らないが、それを、大勢でチェックしたはずだ。いちおうプロの手が入っている。

たとえば、段落がいくつもあるが、それぞれの段落はまとまったことをのべていて、別な話はつぎの段落でのべる。いわゆる、「トピック・センテンス・メソッド」によっている(このメソッドのことは、木下是雄『理科系の作文技術』〔一九八一年、中公新書〕を参照してほしい)。

■4月7日、安倍首相の緊急事態宣言を解剖して赤字を入れよう

そこで、このスピーチの段落を、すべて列挙して内容を整理してみよう。段落の内容を簡単にまとめ、番号をつけてみた。

〔1〕医療従事者に感謝します
〔2〕医療現場を守ります
〔3〕医療現場は危機的な状況です
〔4〕緊急事態宣言を七都府県に発します
〔5〕感染を防ぐため外出しないでください
〔6〕五月六日まで外出自粛をお願いします
〔7〕テレワークをお願いします
〔8〕オンライン学習、診療をしましょう
〔9〕外出はよいが「三密」はいけません
〔10〕マスクをして感染を避けてください
〔11〕経済への影響は避けられません
〔12〕一○八兆円の経済対策を実施します
〔13〕中小企業に給付金を出します
〔14〕ロックダウンではありません
〔15〕地方に行かないでください
〔16〕社会機能は維持します
〔17〕全ては皆さんの行動にかかっています
〔18〕不安ですが希望は生まれています
〔19〕現場に復帰する看護師の皆さんがいます
〔20〕力を合わせれば試練を乗り越えられます

全体を読んでみた印象。いろんな内容を詰め込みすぎである。長すぎる。メッセージの本筋がはっきりしない。「しかし」「けれども」など留保が多くて、歯切れが悪い。もっと言いたいことを、ストレートに言えばよい。

橋爪大三郎『パワースピーチ入門』(KADOKAWA)
橋爪大三郎『パワースピーチ入門』(KADOKAWA)

とコメントすると、安倍首相のスピーチに難癖をつけていると思われそうだ。

そうではない。日本の政治家のスピーチは一般に、ひどいのが多い。安倍首相のこのスピーチは公平にみて、平均点かそれ以上だ。段落のつくり方など、よく考えてある。

みんなが知っているスピーチだから、取り上げるのだ。首相だから、人びとの期待値は高い。きつめの駄目出しがあっても、我慢してもらいたい。

以下、具体的にみていこう。

■なぜ本題から入らない?

まず最初に腑に落ちないのは、なぜ〔1〕「医療従事者に感謝します」からスピーチを始めるのか、である。

この記者会見は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の緊急事態宣言をするから開いた。「このたび、緊急事態を宣言することにしました」と始まらなければならない。〔4〕「緊急事態宣言を七都府県に発します」を冒頭にもってくるべきだった。医療従事者に感謝したければ、あとで言えばよい。

これは私の想像だが、原案ではそうなっていたのを、「医療従事者に冒頭、まず感謝をしたほうが、印象がいいと思います」と誰かが言い出した。それもそうだということになった。その結果、スピーチの構成がガタガタになってしまった。

医療について触れるのは、コロナ危機の全体像を説明したあとのほうがいい。そして、〔3〕「医療現場は危機的な状況です」→〔2〕「医療現場を守ります」→〔1〕「医療従事者に感謝します」の順番だと自然だ。

■なぜコロナ危機の全体像を説明しない?

スピーチの全体を聞いても、コロナ危機がどういう事態で、政府が何をしようというのか、よくわからない。マスメディアの報道の切り貼りみたいな、散漫な印象を受ける。

これは、安倍首相のスピーチに限らない。たいていの政治家の発言もそうなのだ。(最近、一部の知事たちが、明確なメッセージを発するようになった。よいことだ。)

■それでは添削を開始しよう「半分の長さでよい」

安倍首相のスピーチを、どう添削しようか。まず、短くしよう。半分の長さでよいと思う。あれもこれもと、詰め込むから長くなる。結局何を言いたいのか、はっきりさせ、それ以外の部分はカットする。段落の数が二〇あるが、少し減らす。

たとえば、〔4〕「緊急事態宣言を七都府県に発します」の段落には、こうある。

《本日は、この記者会見に尾身先生にも同席いただいておりますが、先ほど諮問委員会の御賛同も得ましたので、特別措置法第三二条に基づき、緊急事態宣言を発出することといたします。対象となる範囲は、関東の一都三県、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、関西の大阪府と兵庫県、そして九州の福岡県であります。最も感染者が多い東京都では、政府として今月中を目途に五輪関係施設を改修し、八〇〇名規模で軽症者を受け入れる施設を整備する予定です。今回の緊急事態宣言に伴い、必要があれば、ここに自衛隊などの医療スタッフを動員し、特別措置法四八条に基づく臨時の医療施設として活用することも可能であると考えています。》

「この記者会見に尾身先生にも同席……特別措置法第三二条に基づき」は、余計なのでカットする。「専門家の賛同を得た」とつけ加えるのは、責任逃れだと思われる。「最も感染者が多い東京都では……活用することも可能であると考えています」は、急に細かい話になっているうえ、なぜこの段落に入っているのかも不明。カットする。

すると、こうなる。

《本日、緊急事態を宣言します。その範囲は、関東では、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県。関西では、大阪府と兵庫県。九州の福岡県。合わせて七つの都府県です。》

言っていることはこれだけだから、簡単なほうがよい。言葉も時間も、公共のものだ。法的根拠をどうしても示したい場合は、つぎのようにつけ加える。

《この緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の、第三二条にもとづくものです。さきほど、諮問委員会にも諮り、賛成をえました。》

もっともこういうことは、テレビ番組や新聞報道が必ず補足してくれるので、首相がわざわざ言わなくてもよい。

■順番をこうやって整理するとすっきりわかりやすい

段落の順番も、変更しよう。

〔4〕〔3〕〔2〕〔1〕、とするのが一案だ、と先にのべた。

だが、それだと、医療現場の話に引っ張られすぎだ。本筋(人命が大事→感染予防のため外出規制が必要→緊急事態宣言→市民と企業の損害→補償措置)が見えなくならないように、〔4〕のあとは、この順番がよいだろう。

a.緊急事態宣言を出しました〔4〕
b.感染防止で外出制限をします〔5〕〔6〕〔7〕〔8〕〔9〕〔10〕〔15〕
c.医療現場を支援します〔3〕〔2〕〔1〕〔19〕
d.社会機能は維持します〔14〕〔16〕
e.経済対策をします〔11〕〔12〕〔13〕
f.皆で頑張れば希望があります〔17〕〔18〕〔20〕

これで、スピーチの流れはできる。bが不釣り合いに大きいので、圧縮する。

このように元のスピーチを手直しして、「修正A案」をつくった。(本稿文末に掲載)

■「修正A案」のポイント

「修正A案」は以下のようだ。この原稿の楽しみ方。

第一に、文末に掲載した修正A案(段落a~f)まで通して読む。スピーチ原稿として、楽しんでほしい。

第二に、安倍首相のオリジナル原稿を読んで、それからもう一度「修正A案」を読む。印象の違いをじっくり味わう。

第三に、オリジナル原稿がどう修正されたか、段落ごとに具体的に確かめる。スピーチ原稿を書くのに役立つヒントがいっぱいみつかる。

■「言い訳だらけ」約5600字あったスピーチは2分の1になった

さて、安倍スピーチがもともと(四〇字詰めで)およそ一四○行あったのに比べて、安倍スピーチ「修正A案」は、七七行。およそ二分の一に縮まった。

読んでみると、だいぶすっきりした。枝葉が取れた。そして、元のスピーチが言おうとしていることは、そのまま残っている。

どういう点を削ったのか。

お役所が好む「ただし書き」のたぐいは削った。「ただし書き」は、言い訳である。役人が責任を取りたくないときに、つけ加える。いや、もうこれは役所の習慣で、それ以外の文章の書き方がない。本人は、責任を取りたくないので「言い訳」をしているという意識すらないかもしれない。なお恐ろしい。

たとえば、元の安倍スピーチの〔3〕の段落の後半は、こんなふうだ。

《医療現場は正に危機的な状況です。
イ 現状では、まだ全国的かつ急速な蔓延には至っていないとしても、
ロ 医療提供体制がひっ迫している地域が生じていることを踏まえれば、
ハ もはや時間の猶予はないとの結論に至りました。
この状況は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあると判断いたしまた。》

言っていることは、「医療現場は正に危機的な状況です。もはや時間の猶予はありません」だけである。イ、ロは「言い訳」の見本。ハの「との結論に至りました」も余計な説明。「この状況は……判断いたしました」も余計。そもそも、「正に危機的な状況」で「時間の猶予はない」ひとは、余計なことを書かない。

どうしてこういうことを書き加えてしまうのか。どうしてこういう原稿を、それでいいと思ってしまうのか。そうしたひとの頭の中を思いやると、気が滅入る。「アンパワースピーチ」を書きたければ、「言い訳」を散りばめた「言い訳」体で書くことだ。

「言い訳」を書かないですむ秘訣。これ以上簡単に書けないか、言わないでもよいフレーズはないか、いつもチェックして、チェックして、削っていくことだ。

■安倍首相独特の「力みフレーズ」は不要である

安倍スピーチの〔13〕段落は、こんなふうである。

《(1)日本経済を支える屋台骨は中小・小規模事業者の皆さんです。
(2)本当に苦しい中でも、今、歯を食いしばって頑張っておられる皆さんこそ、日本の底力です。
(3)皆さんの声は、私たちに届いています。
(4)皆さんの努力を決して無にしてはならない。
(5)その思いの下に、史上初めて事業者向けの給付金制度を創設しました。》

(1)~(5)は、便宜のためにふった番号である。どれも安倍首相がよく使う決めフレーズの数々だ。

この〔13〕段落は、「修正A案」では、こうである。

《中小・小規模事業者の皆さんにも現金を給付します。(後略)》

言っていることは、これだけなのだから、シンプルにこう言えばよい。

ではなぜ、(1)~(5)をつけ加えるのか。中小企業が「日本経済を支える屋台骨」だとも、「日本の底力」だとも「皆さんの声は……届いてい」るとも「努力を無にしてはならない」とも、思っていないと誰かに思われていないか。心配になって、ついつけ加えてしまった。要は自分の心配のため、くどくどと書き込んでいる。つまり「言い訳」だ。

こんなふうに思われてしまうのなら、(1)~(5)は逆効果で、やめたほうがよい。でもこの原稿を書いたひとは、聞き手を感心させる「決めフレーズ」のつもりで書いている。私に言わせれば、その気持ちだけが空回りしている「力みフレーズ」である。

そのほかの「力みフレーズ」の例。

〔14〕段落の《今回の緊急事態宣言は、海外で見られるような都市封鎖、ロックダウンを行うものでは全くありません。そのことは明確に申し上げます。》の、「そのことは明確に申し上げます」は、典型的な「力みフレーズ」。

〔17〕段落の《この二カ月で、私たちの暮らしは一変しました。楽しみにしていたライブが中止となった。友達との飲み会が取りやめになった。行きたいところに行けない。みんなと会えない。かつての日常は失われました。ただ、皆さんのこうした行動によって多くの命が確実に救われています。》の、「楽しみにしていたライブ……かつての日常は失われました」の部分。「親しみやすさ」感、「一般人」感を出そうとしたのだろうが、いかにも軽い。「多くの命が確実に救われています」の、命の厳粛さとまるで釣り合わない。「親しみやすさ」感を出さねばとだけ思ってしまった「力みフレーズ」だ。

安倍スピーチのオリジナル版は、ざっとみて三○%が、「言い訳」や「力みフレーズ」でできていたことになる。

■緊急事態宣言【修正A案全文】(橋爪大三郎氏)

(参考資料)4月7日の安倍首相のオリジナル原稿

a.《本日、緊急事態宣言を発します。範囲は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県、の七つの都府県です。期間は、五月六日までのおよそ一カ月間です。》〔4〕

b.《緊急事態宣言を発したのは、大切な命を守るためです。感染を防ぐには、皆さんの行動を変えることが、大切です。外出を控えましょう。七つの都府県はもちろん、全国の皆さんにお願いします。どうしても必要な外出は、マスクをして、ほかの人と二メートルの距離を空けてください。それ以外は、なるべく家にいてください。》〔5〕

《私たちが、人と人との接触を、いままでより八割減らして、二割にするなら、感染の拡大にブレーキをかけて、コロナウィルスを抑え込むことができると、専門家は言っています。》〔6〕

《八割減らすとは、並大抵のことではありません。これまでもテレワークをお願いしていましたが、これからは原則として、オフィスではなく自宅で、仕事をしてください。どうしても出勤が必要な場合は、ローテーションを組む、時差出勤をするなどして、人数を最低七割減らしてください。レストランでは、換気を徹底し、お客さん同士の距離を確保してください。》〔7〕

《学校は休校が長期化します。オンラインで学習できる環境を整えます。また、医師の診察は、電話やオンラインでも受けられるようにしました。

生活必需品の買物など、どうしても外出する場合には、密閉、密集、密接、三つの密を避けてください。》〔8〕

《散歩やジョギングはかまいません。けれども、バー、ナイトクラブ、カラオケ、ライブハウスへの出入りは避けてください。集会やイベント、飲み会や食事会も、やめてください。三つの密が重なって、感染が起こりやすいからです。》〔9〕

《この感染症の恐ろしい点は、症状がないのに感染していて、知らないうちにほかの人にうつしてしまうことです。外出する場合は、人混みを避け、ほかの人と二メートルの距離を保ってください。そして必ずマスクをつけてください。》〔10〕

《また、東京や大阪などの皆さんは、地方を訪れるのをぜひ控えてください。地方には高齢の皆さんが大勢います。地方を感染から守ってください。》〔15〕

c.《東京や大阪では、感染者が急増しています。病院のベッドもほとんど埋まっています。医療従事者の皆さんの負担も大きく、医療現場は限界に近づいています。これ以上感染が拡大すると、本当に危機的な状況になります。》〔3〕

《医療現場を支え、医師や看護師の皆さんを守るため、政府はできるだけのことをします。医療用マスク、防護服、手袋、フェイスガードなど、医療従事者を守るための物資を供給します。アビガンなどの医薬品や、人工呼吸器など必要な装備も、不足しないようにします。軽症の感染者の皆さんは病院でなく、ホテルなどの宿泊施設で隔離、療養するようにします。関東では一万室、関西で三〇〇〇室を確保しました。こうして、だれでも重症になれば、医療機関で適切な治療が受けられるようにします。》〔2〕

《そして、いまこの瞬間も、全国の医療の一線で働いている、医師、看護師、スタッフの皆さん、保健所や検査技師の皆さんに、敬意を表します。皆さんの確かな技術と、責任感と、献身は、私たちの誇りです。また、私たちを安心させ、勇気づけてくれます。政府を代表して、心からの感謝とお礼を申します。》〔1〕

《実際、呼びかけに応じ、医療現場への復帰を申し出ている方々がいます。あらゆる分野で、この危機に立ち上がっている皆さんがいます。これこそ、私たちの希望です。》 〔19〕

d.《今回の緊急事態宣言は、海外のいわゆる「都市封鎖」、ロックダウンとは違います。電車やバスは動きます。道路も封鎖されません。ですから、不安に思わないでください。デマやフェイクニュースに惑わされないでください。正しい情報は、政府や地方自治体のウェブページで確認してください。》〔14〕

《電気、ガス、水道、電話などは途切れません。ゴミの収集や銀行、郵便局なども休みません。高齢者の介護施設や保育所も開きます。食料品や生活用品も、スーパーなどで買うことができます。こうした職場の皆さんが、家を出て働いてくださるおかげで、それ以外の皆さんが、家にいることができます。感謝します。》〔16〕

e.《外出制限などで、経済活動に大きな影響が及んでいます。中小・小規模事業者の皆さんが、困難に見舞われています。》〔11〕

《皆さんの雇用と生活を守るために、一〇八兆円の経済対策を進めます。GDPの二割に当たる、大規模な額です。

困難に直面している皆さんに、現金を給付します。困窮している家族には、一世帯三〇万円の現金を給付します。児童手当て一人当たり一万円も追加します。》〔12〕

《中小・小規模事業者の皆さんにも現金を給付します。売上げが大きく減った事業者に二〇〇万円、個人事業主に一〇〇万円。総額六兆円です。固定資産税も減免します。消費税などの納税や、社会保険料の支払も、一年間猶予します。延滞金はかかりません。この猶予分が、二六兆円です。地方銀行、信用金庫、信用組合でも、無利子・無担保、最大五年間据置きの融資が受けられます。雇用調整助成金の助成率も引き上げます。

このようにあらゆる手を尽くして、この危機を乗り越えて行きます。》〔13〕

f.《この二カ月、私たちの暮らしは一変しました。外出を我慢して、誰もがなるべく家で過ごしています。そうすれば、多くの命が救われます。政府や自治体は方針を立てます。それを実行して、感染爆発を食い止めるのは、皆さんの行動です。》〔17〕

《私たちは、先が見えない不安のなかにいます。けれども、私たちの行動が、未来をつくり変えることができると信じましょう。

そんな中にも、希望が見えています。わが国が開発したアビガンは、症状を改善させる効果があるようです。ワクチンが実用化するまで、もうしばらく時間がかかるでしょう。それまで、感染者の数を抑え、この社会を守っていかなければなりません。》 〔18〕

《九年前、私たちは東日本大震災を経験し、また起ち上がりました。大きな困難のなかで底力をみせた人びとを、誇りに思います。困難のなか、希望をもたらしたのは、人と人との絆でした。

いま私たちは、また新しい困難に直面しています。今度の困難も、必ず乗り越えられます。ウィルスは、恐ろしい敵ですが、科学と、正しい政策と、人びとの一致した行動で、克服できます。緊急事態宣言が終了する日まで、共に戦いましょう。》〔20〕

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橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
社会学者
1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『日本人のための軍事学』(角川新書)など。

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(社会学者 橋爪 大三郎)

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