「女は魅力的な同性に対して、男よりいじわる」は科学的に正しいか
プレジデントオンライン / 2020年7月25日 11時15分
※本稿は『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)の一部を再編集したものです。
■女性研究者が研究を深めてきた、女性の「間接的攻撃」
対人関係でトラブルが起きたとき、男は「直接的攻撃」すなわち暴力を用いやすく、女は「間接的攻撃」を使う。噂を流したり、友だちグループから排除したりといったことだ。
男の攻撃性は戦争から殺人まで、社会に大きな影響を与えるため、さまざまな視点から膨大な研究が積み上げられている。それに対してこれまでの科学は、女の攻撃性をずっと無視してきた。その理由のひとつは、研究者のほとんどが男で、女のことになど興味がなかったからだろう。
1980年代から「間接的攻撃」が関心を持たれるようになったが、当初の研究者はやはり男だった。それが2000年代になって、多くの女性研究者がこの分野に参入するようになった。
■女性は魅力的な同性をイジめるのか?
男も女も、なんらかの利益を獲得するか、あるいはいまある利益を守るために「攻撃」を行なう。すべての生き物は「生存」と「生殖」に最適化されているから、当然、生き延びることと同様に性をめぐる攻防も進化したにちがいない。だが女は、「直接的攻撃」を使わない。だったらどのようにして魅力的な男を自分のものにするのだろうか。
女同士が1人の男をめぐって争う場面では、最大の障害は、自分と同じくらい、あるいは自分よりも魅力的な女だ。そう考えれば、女は魅力的な同性に対して「間接的攻撃」を使うのではないだろうか。
じつは、これを調べた研究はいくつもある。思春期の恋愛では、魅力的な女の子が女性から「間接的攻撃」を受けるリスクは魅力的でない女の子より35%高く、魅力的な男の子では25%低い。職場では、魅力的な女性社員は同性の同僚からいじめられ、男性の同僚から歓迎される。
思い当たることがあるひともいるだろうし、「ほんとうなのか」と疑問に思う読者もいるだろう。そこで今回は、相手の魅力によってどのように評価が変わるのかを調べたミュンヘン大学の心理学者マリア・アグーテらの研究を紹介しよう。
研究者はまず、大学年鑑とインターネットのフリー素材から、20代の白人で、眼鏡をかけておらず、肥満でもない300枚の顔写真を選び、男女20人ずつの協力者に10段階で魅力度を評価してもらった。
次に、その顔写真から極端なものを外(はず)し、「魅力的な男女(評価7~9)」と「魅力的でない男女(評価2~4)」の4枚を決めた。肌を露出するような姿ではなく、どれも履歴書に貼るようなフォーマルな装いだ。
そのうえで、ドイツでよく知られた雑誌の政治経済部門の編集者を募集しているという設定で、4タイプの履歴書(レジュメ)をつくった。顔写真と名前を別にすれば、学歴、経験(インターンシップ)、スキル、趣味などはすべて同じだ。
こうして準備が整うと、ドイツの大学で学ぶ223人の白人女性(平均年齢23歳)に、採用の一次選考担当者になったつもりで、ランダムに割り当てられた履歴書を読んで10段階で評価してもらった。それとは別に、その応募者と「いっしょに働きたいか」「友だちになりたいか」と、応募者の魅力度をやはり10段階で答えさせた。
その結果を示したのが図表1で、女性の被験者は魅力的な男性の応募者を高く評価する一方、魅力的な女性の応募者を魅力のない女性の応募者よりずっと低く評価した。さらには、魅力的な男性の応募者と同じ職場で働きたいと思い、魅力的な女性の応募者とはそう思っていなかった。
次の実験では、設定をより身近なものに変え、被験者は5分間のインタビュー動画を見て、自分の大学への入学を許可するかどうかを判断した。動画ではプロの役者が同じ質問に同じように答えており、性別と魅力度だけがちがう。最後に、その受験生と友だちになりたいかどうかと魅力度を答えた。
この結果が図表2で、やはり女性の被験者は魅力的な男性の受験者を高く評価し、魅力的な女性の受験者を低く評価した。それと同時に、魅力的な男性の受験者と友だちになりたいと思い、魅力的な女性の受験者とはそう思わなかった。
■自信のある女性は魅力的な同性を低く評価しない。自尊心の低い女性は…
より興味深いのは3つめの実験で、被験者は第一の実験と同じ条件で、広告会社のクリエイティブ・ディレクターの仕事への適性を評価した。それに加えて今回は、被験者の自尊心(自己評価)の影響を調べた。
それによると、自分への肯定感が高い女性の被験者は、魅力的な女性の応募者を低く評価することはなかった。それとは逆に、自尊心の低い被験者は、魅力的な女性の応募者をきわめて低く評価したのだ。
自尊心は外見に強く影響されることがわかっている。研究者はこの結果を、容姿に自信のない女性が、魅力的な女性を排除したのではないかと説明している。魅力的なライバルは、魅力のない人間にとって「性愛競争」の深刻な脅威なのだ。
この実験は、女のいじわるさを示しているのだろうか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。
じつは研究者は、男女を反転させた同じ設定で男の被験者の評価も調べている。その結果は女の被験者の評価とまったく同じで、性差はなかったのだ。
男もまた、「間接的攻撃」によって魅力的な男のライバルを排除しようとした。女がいじわるなら、男も同じくらいいじわるなのだ。
外見の心理的影響はきわめて強力で、面接官は魅力的な同性の応募者を落とし、魅力的な異性の応募者を優先的に採用する。それに対して魅力のない応募者は、同性の魅力のない面接官からは高く評価される。
「新卒女性の採用を顔で決めている」と揶揄される会社があるが、面接官が男ばかりだと当然こうなる。こうしたバイアス(偏見)をなくすためには、履歴書に写真を貼ることを禁じたり(アメリカでは徹底されている)、面接官を男女同数にする必要があるだろう。
外見のバイアスは昇進や昇給などでも顕著で、人生に大きな影響を及ぼす可能性がある。あなたが自分のことを魅力的だと思っているのなら、魅力のない同性の上司や同僚には気をつけた方がいいだろう。
34 Maria Agthe, Matthias Spörrle and Jon K. Maner(2011)Does Being Attractive Always Help? Positive and Negative Effects of Attractiveness on Social Decision Making, Personality and Social Psychology Bulletin
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作家
『マネーロンダリング』などの国際金融小説のほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など、金融・人生設計に関する著書多数。近著に『上級国民/下級国民』。
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(作家 橘 玲 写真=iStock.com)
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