コロナ禍で熱視線「いま介護業界に転職」はアリなのか
プレジデントオンライン / 2020年7月20日 9時15分
■コロナ禍の雇用不安で「介護業界」転職希望者が増加している
厚生労働省は7月2日に「新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇や雇い止めにあった人は7月1日時点で3万1710人に達した」と発表しました。
また、総務省が6月30日に公表した5月の労働力調査によれば、失業予備軍ともいえる休業者は423万人に達しました。コロナ禍による経済停滞は旅行・宿泊業、飲食業、製造業など多くの業種を直撃し、未曽有の雇用不安が起こっています。
当然、介護業界もコロナ禍の影響を受けました。
デイサービスやショートステイといった通所介護事業所には利用自粛によって経営が成り立たなくなったところが少なくない。介護職員も免疫力が落ちた高齢者と接するうえ「3密」が避けられない労働環境で、感染防止に神経をすり減らす日々を送っている。
ただし、この業界に「雇用不安」はありません。
もともと慢性的な人手不足状態。サービスに対するニーズがなくなることはないし、職員の給与の原資の大部分は介護保険料を主とした国の福祉財源だからです。そうしたこともあり、今、求職者の働き口として注目されつつあるという。
■介護施設に人材派遣会社から問い合わせ電話が相次ぐ
「私が所属する社会福祉法人は、老人保健施設とデイサービスの事業を行っているんですが、6月に入った頃から人材派遣会社から頻繁に問い合わせの電話がかかるようになりました」
そう語るのは、首都圏近郊の自治体でケアマネジャーを務めるYさんです。他の介護施設でも似たような問い合わせが相次いでいるようです。
問い合わせの目的は、いうまでもなく自社に登録された人材の派遣先確保です。
「電話を受ける事務職員に聞いたところ、人材派遣会社からこれほど多くの電話がかかるのは2008年に起きたリーマン・ショックの時以来だと言っていました。人材派遣会社にとって、通常時はさまざまな業種からの求人案件を預かっていて、優先順位の低い介護業界まで手がなかなかまわらなかった。でも、今はコロナ禍で求人先が減ったのでしょう。それで、うちのような介護施設にも電話をかけてくるようになったのだと思います」
介護業界は慢性的な人手不足。公的施設の特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス、民間施設の有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、通所介護のデイサービス、ショートステイなど、多くの施設や事業所が人材を求めています。コロナ禍で雇用不安が続く現在、門戸を開いているのが介護業界なのです。
■給料は? 要資格? 介護業界への転職はハードルが多いのか
とはいえ、介護職は他の業界で働いていた人が転職先として選びにくい職種でしょう。Yさん自身、それを感じるといいます。
「私のようにケアマネジャーをしている者は大半が、学生時代から介護業界で働くことを目指していますから何の問題もありませんが、もともと選択肢になかった人にとっては抵抗を感じる部分はあると思います」
抵抗を感じる原因として考えられる3つのハードルは次のようなものです。
第1は「資格が必要なのではないか、経験のない者は採用してくれないのではないか」という思い込み。
第2は「高齢者を相手にする仕事が勤まるのか、仕事にやりがいを感じられるか」という仕事内容に対する不安。
第3は「大変な割には給料が安い、将来を考えられるかといった部分」という介護職に対するネガティブなイメージです。
■人柄がよく真面目に仕事をする人なら、資格や経験の有無は問わない
Yさんは、この3つのハードルについて本音を交えて解説してくれました。
「まず、資格と経験ですが、これはなくても職員として採用する施設はかなりあります。介護職の入口には“介護職員初任者研修”という資格があり、責任ある仕事はこの資格がない人には任せられませんが、無資格でもできる仕事はたくさんありますからね。もちろん人手不足だからといって、どの施設も応募してきた人を全員必ず採用するわけではありません。経歴はちゃんとチェックしますし、面接を厳密に行ったうえで採用を決める。トラブルを起こしそうな人は絶対に入れたくありませんからね。でも、人柄がよくて真面目に仕事をしてくれる人なら、資格や経験の有無は問わずに採用するはずです」
■コミュ力と相手を思いやる気持ちの強い人に向いている
つぎに仕事内容に対する不安です。高齢者を相手にする仕事が勤まるか、やりがいを感じられるかといった点です。
「これは人にもよるので、なんともいえません。でも、どんな仕事でもそうではないでしょうか。自分に向いた仕事だと思って就職したら全然合っていなかったということはよくある。介護職も同じです。やってみなければ合っているかどうかは分からないんです。ただ、私から見て確かに言えることがあります。それは、介護職はコミュニケーション能力と相手を思いやる気持ちがあれば十分務まるということです。このふたつがあれば、入所者・利用者さんとも施設のスタッフともいい関係が築けますし、職務もまっとうできる」
「やりがいを感じることも多いです。自分が行ったことに対して入所者さんが笑顔を見せてくれたり、ありがとうと言ってくれたりした時は、うれしいですしモチベーションが上がりますからね。介護の仕事に対してそういう受け止め方ができるかどうかは、やってみなければ分からないんです」
たとえば飲食業をやっていて「お客さんがおいしいと言ってくれた時がうれしい」と思える人なら介護職でもやりがいを感じられるのではないか、とYさんは言います。
■資格取得のサポートあり、待遇施設長クラスの年収は500万円
そして、3つめのハードル、給料と待遇面です。
「この点に関しては、世間で言われているように他の業種に比べて決して良いとは言えません。とくに無資格の人は介護助手という扱いになる。ほとんどの施設・事業者が非正規雇用で給与も時給で支払われることになるはずです。時給は1000円を超えるかどうかでしょう。月収でも20万円はいきません。他の仕事から転職した人は、きついと感じるはずです」
ただし、先に述べた介護職員初任者研修の資格を取れば待遇は良くなる、と言います。
「施設側としても、この資格を取ってくれれば戦力として計算できるわけですから、うれしいわけです。だから、無資格の職員が資格を取る意志を示せば協力してくれるし、その費用を補助してくれるケースもあります」
初任者研修は、かつての「ホームヘルパー2級」にあたる介護職の入門資格ですが、個人で取得するとなると、結構大変です。約90時間の実技、約40時間の座学、合計130時間のカリキュラムを修了する必要があり、専門のスクールに通わなければなりません。
全カリキュラム修了には最短でも約1カ月かかりますし、修了後には知識を習得しているかをチェックする試験もある(ただし授業を聞いていれば誰でも合格する内容で難易度は高くない)。また、スクールの受講料5万円から高いところでは10万円近くかかるところもあります。
しかし、施設や事業所によっては、スクールに通う時間的、金銭的サポートをしてくれるところがあるというのです。
「だから、無資格であっても施設の求人に応募して、まずは働いてみる。そして、介護の仕事が自分に合っているか、やりがいを感じられるかを自問し、違和感なく続けられそうだったら初任者研修の資格を取るという考え方でいいと思います。場合によっては、資格取得のサポートもしてくれるわけですから。実際、そのプロセスで介護職を一生の仕事にしている人もたくさんいます」
「先ほどリーマン・ショックの後、ウチの施設に人材派遣会社から求人の問い合わせがあった話をしましたが、当時、介護業界に入った人が多かった。その中には介護職に水が合い、今では施設長クラスになっている人も少なくありませんからね。本人のやる気次第では給料も上がっていくし、介護を一生の仕事にすることもできます」
公益財団法人介護労働安定センターが2018年8月に発表した「2017年度介護労働実態調査」によると、2017年度の施設の管理者の平均月給は35万6679円(労働者は22万7275円)、平均賞与は70万9230円(労働者は57万2079円)で、年収は約500万円(労働者は約330万円)でした。
■介護職の最大の利点は不景気になっても「失職しない」こと
そしてYさんは、介護職の最大の利点をつけ加えます。
「職を失うリスクが極めて低いことです。今回のコロナ禍では健全経営をしていた会社やお店でも廃業せざるを得なくなり、失業に追い込まれる人が続出しました。でも、介護職は介護保険制度で成り立っている職業であり、給与のほとんどは国の財源で支払われていますから、真面目に働いている限り失職は考えられません。この安定性が最大の利点でしょう。団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になる、5年後の2025年には介護職員が34万人不足するとも言われており、人材確保のため処遇改善給付金などの給与上乗せも図られています。コロナで職を失い、再就職先を探している方は、介護職を選択肢のひとつに入れてもいいのではないでしょうか」
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フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。
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(フリーライター 相沢 光一)
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