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ディーン&デルーカの「エコバッグ」が爆発的ヒットになった3つの理由

プレジデントオンライン / 2020年7月21日 15時15分

2007年にブレイクした、ディーン&デルーカのロゴ入りトートバッグ - 写真=奥田正治/Masaharu Okuda

ディーン&デルーカは全国に50店舗以上を展開する、食のセレクトショップだ。ロゴのプリントされた「エコバッグ」は街でよく見かける。国内店舗を運営するウェルカムグループの横川正紀代表は「3つの要素が揃うことで、このバッグのムーブメントが起きた」という——。

※本稿は、横川正紀『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

■「なんかいいな」の提案で爆発的に売れたトートバッグ

いわゆる「エコバッグ」の走りと言われるようになったディーン&デルーカのロゴ入りトートバッグですが、実のところ、僕たちが「エコバッグ」と称して売ったことは、今まで一度もありません。

ニューヨークでは90年代からエコをテーマにしたムーブメントが始まり、一般的になりつつありましたが、僕らは環境問題を意識しながらも、あくまでライフスタイルとして、お客さまが「いいな」「かわいいな」と身近に感じていただけるよう提案しました。だから、特別な仕掛けやプロモーションを打つこともしなかった。それが、これほど「爆発」しようとは、思ってもみませんでした。

トートバッグがブレイクした理由のひとつには、SNSの影響があったと思います。当時はmixiが流行していて、少し後になると日本でもフェイスブックの利用が広がるようになりました。

そんななかで、読者モデルと呼ばれる方たちや、ファッション・スタイリストさんが、ディーン&デルーカのトートバッグを「いいね!」と言って使ってくださり、同時多発的にSNSや雑誌で発信するようになったところ、爆発的に売れはじめた。

まだ「インフルエンサー」という言葉もなかったころの話で、とりたてて宣伝などをお願いしたわけでもなく自然発生的に人気に火がついたのです。

誰かの押しつけや理屈ではなく、お客さまが「なんかいいな」と、自分事としてライフスタイルに取り入れてくださる。それが、トートバッグがいまだに続くロングセラーとなったことのひとつの理由なのかなと感じています。

■毎月違うテーマでライフスタイルを提案

この時期、僕らがつくった仕組みのひとつが「プロモーションエリア」でした。

どういうことかというと、お店のど真ん中、入ってすぐ目に飛び込んでくる場所に、一定のスペースをプロモーションエリアとして設定したのです。

そこでは、毎月違うテーマでプロモーションを行います。こうした仕組みは、ニューヨークのディーン&デルーカにはなかったし、当時の日本のスーパーにもありませんでした。

この発想がどこから来たかというと、ウェルカムで生活雑貨を扱う「ジョージズ」や「シボネ」でライフスタイルを提案するなか、培(つち)かってきた経験でした。

雑貨やインテリアを扱う店には、たいてい入口に「平台」と呼ばれるスペースがあり、季節やその時々で、新しい商品や提案したいアイテムを置いています。アパレルショップのトータルコーディネートをほどこしたマネキンのようなもので、ライフスタイルを「提案」する、そうしたプロモーションのためのスペースが、ディーン&デルーカにも必要だと考えたのです。

例えば、朝食のプロモーションなら、パンケーキミックスとグラノーラとハチミツとジャムが並んでいて、そこにレシピ本や小ぶりのフライパンもあって……というふうに、お客さまが具体的にライフスタイルを想像できるようトータルで提案していくわけです。

グローサリーに平台を取り入れるアイデアや、プロモーションの仕掛け方、さらにそれをウェブサイトやカタログに広げていくという発想も、すべて雑貨を扱う経験がもたらしたものです。

当時のディーン&デルーカのキーパーソンのひとりは、もともとキッチン雑貨やアパレルのバイヤー経験のある女性だったのですが、その他のコアメンバーもほとんどが雑貨店や商社、ホテルやレストラン出身で、スーパーや百貨店といった食料品販売を扱う業界出身のメンバーは誰もいませんでした。だからこそ、固定観念にとらわれない発想ができたのかもしれません。

外食で培った技術、商社で学んだ開発力や仕組みづくり、雑貨店を通して得た提案力など、それぞれの強みをフルに生かす。それが、あの大変な時期を乗り切る原動力になったのだと思います。

■世の中の流れが一致する瞬間

トートバッグのヒットとほぼ時を同じくして、日本でも「地産地消」や「食のトレーサビリティ」といった言葉をよく聞くようになりました。

そのきっかけになったのは「BSE(狂牛病)問題」と「中国製冷凍ギョーザ事件」でしょう。

BSE騒動が始まったのは2000年代の初めですが、有名チェーン店の牛丼が一時販売中止になるなど問題は長引きました。また、中国製の冷凍ギョーザで中毒者が出たのが2007年末から2008年初めのこと。その合間に、産地偽装や消費期限偽装といった事件もあり、日本中で連日「食の問題」が報道されていました。

つまり、日本人の「食の安全」への意識が高まっていった時期と、僕たちが方向性を改めて世界の食の産地を追いかけ、背景にあるつくり手の思いや味わい方を伝えることを大切にしながら店舗を展開するようになっていった時期は、ぴったり重なるのです。「わからないながらに感じる」ことも、ディーン&デルーカが躍進する大きな追い風となりました。

世界的な長寿国と言われる国で、伝統的かつヘルシーな食文化を先人が築いてくれたおかげか、日本ではそれまで「食の安全」に疑いをはさむことはあまりしてこなかった。しかし裏を返せば、知らないところで食に関する様々なことが、経済成長とともに脅かされていたわけです。

デルーカさんのフィロソフィーを知り、海外の生産地をめぐって、多くのつくり手たちが食の表向きの豊かさだけでなく、そこにある危険を感じ、「本質」を大切にしたいと思いはじめていることを肌で感じ取るうちに、日本にも同じ流れが来るだろうと予感するようになりました。

そんな矢先に一連の食の問題が起きたことで、日本の消費者のあいだでも「オーガニック」であることや、生産者が見える食材へのニーズが高まっていった。

そのころには、僕らはすでに産地の表現にこだわり、お客さまとつくり手をつなぐブリッジになろうとしていました。ちょうど、自分たちがやってきたことに世の中の流れが一致した形です。

■ムーブメントを起こすための3つの要素

ムーブメントは起きたあとなら誰もが理解できるけれど、起きる前はフワフワしている、だから、もしフワフワした「こうあったほうが素敵だな」と思う存在に気づいたら、その存在の本質を探り当てること。僕らの場合は、ヨーロッパ各地の田舎で暮らすつくり手の人々に出会って生活に触れ、観光地ではないその土地の奥にまで入っていくことで、「なんとなくいいな」と感じていたフワフワしたものの本質が見えてきました。

本質を探り当て、それを正しく伝えられたらムーブメントはいずれ起きます。必要なのは以下の3つの要素が揃うこと。

ひとつめは「ビジョン」。単にどこかで「流行(はや)っているから」ではなく、なぜそうあったほうがいいのかという理由とそれを人々に伝えるエネルギーが自分の中にあるかどうか。

ふたつめは「賛同者」。自分と同じくらいの熱量でそのビジョンを応援してくれたり、一緒に行動を起こしたりしてくれる仲間はいるか。もし仲間が集まらないなら、それは目指す方向かタイミングが、時代に合っていないということです。

最後は、「時代の流れ」を引き寄せられるかどうか。よく「時流を読む」と言いますが、時流というのは「読む」というより、ただ近くに感じて仲間を増やしていけば、自然とそれを自分のほうに引き寄せることができるというのが僕の持論です。

■時代はあとから自然とついてくる

「このほうが流行る」と言っているようでは、時すでに遅し。そもそも「流行る」と感じるということは、すでにそこに潮流が見えているわけで、その潮流を導いている人が自分よりももっと前にいるということになります。

横川正紀『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
横川正紀『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

そうした流れに乗るのも悪いことではないけれど、自分の前にいる人がなぜその潮流をつくったのかを理解せず、ただ流れているからという理由で乗っていると、潮目が変わったときにそのまま振り落とされてしまうでしょう。

それが、よくいう「ゼロイチ」を起こせる人とそうでない人の違いではないかと思います。前者は、時流が変わると自分で勝手に舵(かじ)を切って次に行くけれど、後者は舵を切るところまでは見ていないので、流れが変わった瞬間「あれ?」となってしまう。

ビジネス書ならば、「こういう戦略でエコバッグを売ったら大ヒットしました!」と言ったほうが受けるのかもしれませんが、そういったマーケティングやアナリティクスよりも、直感的に「こっちのほうがいいよね」「これって面白くない?」と感じることを掘り下げ、替同者を集って丁寧に広げていけば、時代はあとから自然とついてくる──そんな気がしています。

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横川 正紀(よこかわ・まさき)
ウェルカムグループ代表
1972年東京生まれ。京都精華大学美術学部建築学科卒業後、2000年に株式会社ジョージズファニチュア(2010年に株式会社ウェルカムへ社名変更)を設立、DEAN & DELUCAやCIBONEなど食とデザインの2つの軸で良質なライフスタイルを提案するブランドを多数展開。その経験を活かし、商業施設やホテルのプロデュース、官民を超えた街づくりや地域活性のコミュニティーづくりへと活動の幅を拡げている。武蔵野美術大学非常勤講師。

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(ウェルカムグループ代表 横川 正紀)

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