プロが断言「コロナを機にとにかく投資を始める」風潮に乗る人はなぜ危ないか
プレジデントオンライン / 2020年7月21日 6時15分
■アフターコロナの資産運用は「投資」よりも「貯蓄」?
今世紀に入った頃から「貯蓄から投資」へというフレーズを良く聞くようになりました。そんな中、この見出しだけ見ると、何だか時代に逆行しているように思えるかもしれません。でも最初にお断りしておきますが、私は「投資は駄目」だとか、「投資なんかしないほうが良い」ということを言うつもりは全くありません。むしろ逆で、少しずつでも投資はしておいたほうが良いと考えていますし、私自身の資産運用でも8割ぐらいは株式で運用しています。
ただ、最近の風潮、「とにかくよく分からなくても良いからまずは投資を始めよう」という風潮についてはとても違和感を持っています。むしろ今回のコロナ禍を経験して感じることは、投資を考えることと同じぐらい貯蓄も大切ではないかということです。
投資と同じくらい貯蓄をしっかり考えておくべきだという理由は4つあります。まず1つ目ですが、1.「預金は目的がなくても、貯めておきさえすれば使い道は後で自由に決められる」ということです。実はこれ、預金の最大のメリットなのです。保険は何かあった時には助かりますが、何もなければ払った保険料は無駄になります。投資は短期間では価格の変動がありますから、たまたまお金が必要な時に株価が大きく下がっていたとしたら困ります。ところが預金は、ほとんど利息はつかないものの、いつでも好きな時に引き出して使うことができます。さらにある程度貯まってきたら、そこから少しずつ投資にお金を回していくこともできます。つまり非常に汎用性が高いのです。
■定期預金でも普通預金でもどちらでもいい
「でも定期預金に預けてしまうと、好きな時に引き出せないじゃない?」と思う人がいるかもしれません。けれどもそれは、解約できないのではなく、中途解約すれば金利が普通預金金利になるというだけのことです。今の時代、定期預金と普通預金の金利差はほとんどありません。具体的に言えばメガバンクだと、定期預金の金利は0.002%、普通預金の金利は0.001%です。すなわち100万円預けたとしても定期預金の金利は20円、普通預金の金利は10円ですから、その差は10円しかありません。したがって、預金であれば定期預金であれ、普通預金であれ、別にどちらでもかまわないのです。要するに「利便性」ということを考えれば、持っているお金は全部投資や保険にせず、預金で持っていたほうが良いのです。
でも、ちょっと詳しい人の中には「預金なんてほとんど利息がつかないから損だ。これからインフレになったら目減りしてしまう」という人もいるでしょう。これは特に金融機関の人たちが投資を勧誘するセールストークとしてもよく使われています。ところが実際に調べてみると必ずしもそういうわけではないのです。
■「インフレになったら目減りする」は本当か
定期預金の金利と物価上昇率の推移を過去70年近くにわたって調べてみると、面白い結果が出てきました。1951年末をスタート地点とし、その時に100円を1年定期預金に預け、2019年12月まで68年にわたって預けっぱなしにしておくと複利計算による元利合計金額は1106円になります。ところが同じ期間の消費者物価上昇率を見てみると1951年末を100として指数化した場合、同じ2019年12月末の指数は695です。なんと定期預金が物価の上昇率を1.6倍も上回っているのです。
でもこれはちょっと考えてみればすぐにわかります。物価が上昇する理由は二つあります。一つは原油価格上昇等のように製品を作るための原材料価格が上がることです。もう一つは景気が拡大してモノに対する需要が増える場合です。需要が増える=モノが売れるということになれば企業はこぞって設備投資をして生産力を増強しようとします。それには当然お金が必要ですから今度は世の中で資金需要が増えてきます。金利は需給の原則にしたがって上昇することになります。つまり多少のギャップや時期的なズレはあったとしても物価上昇=金利上昇と考えるのが自然です。したがって、預金にしていたからといって大変なことになるわけではないのです。
ただし、現金のまま置いておいたのでは駄目です。前述の例で見ても現金のままだと100円は100円のままですから大きく目減りするということになりますから、少なくとも預金にはしておく必要があります。このように考えると貯蓄が大切な理由の2つ目が出てきます。
そう、2.「預金は案外悪くない」のです。
■コロナ後は職を失うリスクを覚悟しておくべき
貯蓄をしっかりとしておいた方が良い3つ目の理由は、3.「生活資金を確保しておくことの重要性」です。今回のコロナ禍は、まだまだ収束には程遠い感があります。自営業やフリーランスの人たちと違って、サラリーマンで給料が大きく下がったという人はまだそれほど多くはいないでしょう。しかしながらこのまま行けば年末のボーナスは多くの企業で大幅減になることが予想されるでしょうし、既に破綻した企業も出始めています。
つまり今回のような想定外の出来事によって職を失ってしまうリスクはコロナ後の社会では覚悟しておく必要があるのです。いつ何時、そういう事態を迎えたとしても半年や1年ぐらいは生活していけるだけの資金を預金で確保しておけば多少は安心することができます。したがって投資は大事ですが、少なくとも半年~1年分ぐらいの生活費に相当するお金は投資へ回すよりも現金でおいておくほうが良いということなのです。
■投資家にとって一番残念なこと
そして最後、4つ目の理由は、現在、投資をしている人にも大切なことです。それは4.「常に一定のキャッシュポジションを持っておくことの必要性」です。今回、コロナ禍で1月中旬から3月中旬ぐらいまでの2カ月ほどの間にマーケットは大幅に下落しました。率で言えば日経平均株価は32%ほど下がったのです。ところが3月19日を底にしてそこからほぼV字回復と言って良いほど急激に株価は戻ってきました。その後の高値を見ると約40%程度は戻っています。大底で買うことはできなくても3月下旬から4月上旬ぐらいの下がっていたところで株を買っていれば、日経平均でも3割以上の上昇、個別の銘柄では倍以上になっている銘柄はたくさんあります。ところが今回に限らず、大きなショックで株価が下げると必ず「今は下がって買い時だと思うけど、資金がないのが残念だ!」という声が出てきます。
私自身、今まで何万人もの投資家の相談に乗ってきましたが、誰もが自分の投資歴を振り返ってみて「下がった時に資金がなくて買えないことが一番残念だったことだ」と一様に言います。
したがって、どんなにマーケットが好調な時でも常に一定のキャッシュポジションを持っておくことは投資家にとっては必須なのです。もちろん「あの時に買っておけば良かった」というのは後講釈であり、当時はまだまだ怖くて買えなかったという人も多かったことでしょうが、少なくとも手持ちの現金が無ければいくら勇気があっても買うことはできません。私のように資産運用のメインを株式投資でおこなっていてもこうした暴落に備えて一定の預金は必ず保有するようにしています。
お金をできるだけ効率よく動かすためには投資が必要というのはその通りですが、人生においては、何が起きるかわかりません。お金の管理で大切なことはバランスです。一定割合の預金は保有しつつ、自分でリスクを取れる分は投資に回すというのが理想的なのではないでしょうか。
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経済コラムニスト
オフィス・リベルタス代表 大手証券勤務を経て2012年独立。行動経済学、シニア層向けライフプラン等をテーマに執筆・講演活動。著書に『「定年後」の“お金の不安”をなくす 貯金がなくても安心老後をすごす方法』ほか。
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(経済コラムニスト 大江 英樹 写真=iStock.com)
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