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【続報】「泥沼パワハラ」に怒るPwC社員たちから来た内部通報の嵐

プレジデントオンライン / 2020年7月17日 18時15分

プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の本社があるロンドンオフィスのエントランス - 写真=iStock.com/NicolasMcComber

■PwC関係者から毎日のようにある「情報提供」の切実さ

6月29日に「『泥沼パワハラ』にフタをする大手監査法人と大手法律事務所の暗い結託」をプレジデントオンライン上に掲載した。

世界四大会計事務所の一角であるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の日本法人でパワハラが横行し、一人の女性社員に対して不当な降格や退職勧告、そしてついには解雇が突きつけられた。その過程で大手法律事務所の森・濱田松本の弁護士が中立を装ってこの女性社員から事情を聞き出すと、労働審判ではPwC側の弁護に回って女性を攻撃し始めた――という内容である。

記事掲載を受けてPwCでは、社員に向けて「記事の内容は事実と大きく乖離があり、当グループの名誉を著しく棄損するものです。また、個人名を挙げての誹謗中傷など看過し難い内容も含まれており、大変遺憾です」とのメールを送信。7月7日には木村浩一郎代表も同様のメールを社内に向けて送信した。

さらにAさんの上司で、PwCグループのマーケティング部を統括する森下幸典パートナーは部内の会議で、筆者の記事が事実無根であること、(女性社員にパワハラを加えた)永妻恭彦ディレクターへの名誉棄損であること、Aさんはあらゆる職務規定違反をしたため当然の降格人事であったと発言。今後、自分自身の名前が報道される可能性もあるが、まったく会社的にも個人的にも問題にはしていない。会社が自分や永妻氏を処分する理由はひとつもないし、PwCは正しいことをしているので、安心して業務に励むようにと伝えたそうだ。前回記事ではその名に触れなかった森下氏が自らこうした説明をしたのだから、パワハラ問題の責任が誰にあるのか、語るに落ちるとはこのことだろう。

さらにPwCでは同じくパワハラ問題を報じようとした英国紙に対しても、この問題を記事にしないようプレッシャーをかけたと聞く。

無駄なことだ。

記事がこのサイトにアップロードされた直後から、筆者のSNSやプレジデントオンライン編集部には情報提供を申し出るPwC関係者からのアクセスが毎日のように寄せられており、到底隠しきれるとは思えないからだ。

■弁護士費用は経理担当者さえ何の支出か分からない費目に

寄せられた情報によれば、記事で触れた女性社員Aさんの身に何が起きたのか社内で知らされることもなければ、話題にすることもためらわれるタブーになっているとのことだ。PwC内部ではAさんに関連した訴訟で発生した弁護士費用が目立たないように処理され、経理の者さえ何の支出か分からない費目になっていた。弁護士費用として計上してよいとの指示が出たのは、2020年6月期末が迫った頃からだったという。

さらにAさんに対する人事評価でも機微に触れる部分は社内でメールのやり取りはせず、「口頭のみや、短期間で履歴の消える社内チャットツールを使っている」(PwC関係者)と言うから、組織ぐるみでパワハラを行い、これを隠そうとしていると見られても仕方ないだろう。

こうした内部情報の提供は量が増えるとともに多角化しており、点が線になり、線が面になった。面はすでに立体になりつつあると言っていい状況である。今後は告発内容がさらに多角的かつ重層的になるだろう。パワハラが社員の心と体を疲弊させ、通院している社員や、退職を余儀なくされた社員も少なくない。それだけに社内の不満が鬱積しているのだ。しかし社員を退職に追い込んだ幹部が昇格しており、特にマネジャー職以上に問題が多いという。

■まるで「オリンパス事件」を上からなぞるような展開

PwCのパワハラ問題で特徴的なのは、記事を読んで情報提供を申し出た人たちのうち、女性の割合が高いことだ。PwCに女性社員が多いことばかりがその理由ではあるまい。パワハラは古い時代の男社会が抱え続けてきた長患いの病いであり、これに女性が反旗を翻し始めたのではないか。そしてこれは「組織が持続可能性やガバナンスの健全さを保つためには、多様性を重視して取締役に女性を積極的に登用せよ」という社会や投資家の要請にも通じているのだろう。

彼女ら告発者は思い出させてくれる。ちょうど9年前の今頃、筆者がオリンパスの損失隠しをスクープしたときの展開を。オリンパスの社員たちのうち、ある者は「極秘」と印が押された決定的な内部資料を筆者に提供してくれたが、これはほんの序の口だった。別の社員はICレコーダーで録音した社内会議の音声データをUSBメモリに落として匿名で筆者に郵送してくれたし、印刷した痕跡を残さないためにパソコンの画面をこっそりスマートフォンで写し、フリーメールのアドレスを用いて送信してくれた社員もいた。

告発者のデジタル武装化が進んでいる今、漏れては困る秘密を完全にガードするのは不可能と言っていいだろう。現に前回記事で登場した、パワハラの被害者である女性社員のAさん本人さえ入手できない内部資料も手に入った。

情報提供者らはPwCグループ内の複数の合同会社にまたがっており、互いに見ず知らずの間柄だが、「このままではいけない」という意識を共有し、口々にそれを筆者に聞かせてくれた。オリンパス事件を上からなぞるような展開だが、今回の場合、情報提供者がヒートアップするのは、オリンパス事件よりもはるかに早い。

■社員満足度調査は「不満分子をあぶり出すための仕組み」に

ある情報提供者は「これはガバナンスの問題」だという。そうだろう。PwCにはパワハラなどの問題を通報するホットラインもあるが、「実際には機能していないことは、社員のみんなが分かっているから使おうとしない」。

経営上層部に社員の声が届くはずの社員満足度調査という仕組みも設けられているが、「パワハラが横行して、社員の退職が後を絶たないことをここに書き込んだ複数の社員たちに対して、いずれも退職に追い込まれた。ヒアリングさえ行われないままだった」という。社内の不満分子をあぶり出すためのゲシュタポのような仕組みなのだ。

なぜPwCではパワハラがここまで横行するようになったのか。PwCはこの数年、組織が肥大化しており、内部統制がこれに追いついていないのに加え、新型コロナウイルスの感染拡大により、経済の先行きを厳しく見なければならないことが響いているようだ。

PwCは常々「パワハラを許さない」と言い、パワハラ撲滅のためにやってはいけないことや、使ってはいけない言葉などを具体的に列挙したガイドラインを設けている。6月のパワハラ防止法施行のタイミングでも詳細なガイドラインの更新が行われているほどだが、声を上げた社員は退職に追い込まれているのが実態だという。

ある男性の情報提供者は「パワハラ行為を明示することで、違法すれすれのパワハラを逆説的にガイドライン化しているようなもの」と言い、いかにも法律の専門家が指南しそうな悪知恵だ。

■「報道の力をお借りして、なんとか彼らを糾弾いただきたい」

PwC広報担当者は上記の森下氏の発言内容や弁護士費用の処理方法、内部通報用のホットラインが機能していないことについて全否定し、「記事の内容は事実とかけ離れており、当グループとしては極めて遺憾に思っております。元職員とは裁判手続を通じて係争中のため、事実関係についての詳細な説明は差し控えますが、記事の内容は降格および解雇に至った理由と経緯について、元職員の主張のみに依拠しており、事実とは著しく異なっております」と説明している。

しかし別の情報提供者は筆者にこう訴えた。

「オリンパスのような社会的にもインパクトのある大事件と比べると、ささいなパワハラ問題かもしれません。しかし、社内にはこういった上層部の対応、態度に腹立ち、あきらめ、恐怖を感じている者が多数います。報道の力をお借りして、なんとか彼らを糾弾いただきたいと切に願うばかりです。どうぞよろしくお願いいたします」

痛切でさえある。だが、ドイツのワイヤーカードの不正見逃しで矢面に立つアーンスト・アンド・ヤングという直近の例もある。監査法人の「闇」が暴かれる時は近い。

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山口 義正(やまぐち・よしまさ)
ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。

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チーム「ストイカ」 オピニオン誌「ストイカ」を刊行する阿部重夫氏(前FACTA発行人)が、臨機応変に記者と組んで取材するチーム。仮開設中のオンライン版は「http://stoica.jp」。

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(ジャーナリスト 山口 義正、チーム「ストイカ」)

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