第2波「職場クラスター」発生を加速しかねない、昭和企業の恐るべきコロナ対策
プレジデントオンライン / 2020年7月21日 11時15分
■なぜ通勤ラッシュが復活するのか
5月下旬に緊急事態宣言が解除されて以来、東京では朝の通勤ラッシュが徐々に戻りつつあります。これは、宣言中はリモートワークを実施していた企業が、解除後に出社して働くスタイルを復活させたためだと思われます。
もちろん、業種によっては出勤が必須のところもあるでしょう。しかし、宣言中のおよそ2カ月間、リモートで仕事ができていた企業なら、今後も続けることは可能なのではないでしょうか。新型コロナウイルスは収束していないのに、なぜ元のスタイルに戻すのか、私には不思議に思えてなりません。
これは、働く=会社にいるべきという「出社の伝統」があるからではないでしょうか。ただ単に伝統に従っているだけなのか、それとも本当に顔を合わせないと仕事にならないのか、各企業にはいま一度真剣に考えていただきたいと思います。
最近では満員電車のほか、職場内クラスターを危ぶむ声も上がっています。会社の方針に従って出社しているけれど、席の配置上フィジカルディスタンスがとれなくて不安──。そう思いながら働いている人もいることでしょう。
席についている時にとれる対策としては、互いに飛沫が届く距離ならマスクをつける、こまめに換気をする、の2つが挙げられます。ただ、高層ビル内のオフィスは窓の開閉が禁じられていることも少なくありません。その場合はドアを開放する、空調を調整するなどして、できるだけ新鮮な空気が循環するよう心がけることが必要です。
■楽観的すぎる上司に危うさを感じたら
また、医師としては会議の場面も気になります。プレゼンを聞くだけの会議ならいいのですが、議論するとなるとつい声を張り上げてしまう人も出てくるでしょう。大きな声を出すと、それだけ飛沫も飛びやすくなります。
議論をする際はできるだけ広めの部屋で間隔をあけて座り、小さな声でも届くよう、各自がハンディーマイクを使うなどの工夫をしてみるのもよいかもしれません。
難しいのは、社内で危険度の認識に差がある場合です。多くの職場では、感染を心配して念入りに対策したい人と、細かいことまであまり気にしたくない楽観的な人とが職場内で混在している場合は、お互い大きなストレスを感じることになります。そしてその職場の方針は、決定権を持つ人が心配派なのか、それとも楽観派なのかで決まってしまうことでしょう。
上司が楽観派で、部下の大半が心配派の場合は、皆で声を上げることで解決に向かう可能性があります。問題は、上司も心配派であるにもかかわらず、実際に行っている対策が適切ではない場合。
新型ウイルスということもあって、その不安感から、企業や学校は思い思いの感染対策をしている状態です。感染拡大を防ごうという熱意はとても強く伝わってくるのですが、少し冷静になって振り返ってみてください。「それって本当に感染対策になっているの?」と疑問に思う対策も少なくないかもしれません。
■熱意が空回り「残念な感染対策」とは
身近なところでは、スーパーやコンビニのレジでの対策が挙げられます。飛沫対策として、レジの前にビニールを吊り下げている店も多いのですが、こまめに消毒をしていなければ、ついた飛沫がそのままの汚いシートがぶら下がっているだけということに。さらに空気の循環を妨げていると思われるケースもあるようです。これではせっかくの対策で、かえって不潔な空間を作ることになってしまっています。
店員さんがつけている手袋も同様です。レジを打ち、カゴや現金やカードをさわったのと同じ手袋で次の客の食材に触れるわけですから、どこかの段階で手袋にウイルスが付着したら、それが以降の客の品物に移動していくことになるのです。
本来、手袋は素手にウイルスがつかないよう、あるいは汚染した素手でさわることで清潔なものを汚染してしまわないようにつけるもの。感染対策として使うのなら、店員さんは同じ手袋をつけっぱなしにするのではなく、客1人ごとに手袋を変えるか、手袋はつけずにその都度手を洗うか消毒する必要があります。「面倒くさいし、そんなことをイチイチ現場ではやっていられない。非現実的だ」と思われるかもしれませんが、感染対策とはそういうものなのです。その面倒くさいことをしなければ意味をなさないばかりか逆効果にすらなってしまうのです。逆効果になるくらいなら、何もせずコロナ前のまま、今まで通りのままの方がよっぽどマシと言えるでしょう。
職場での対策にも、同じことが言えるのではないでしょうか。例えば、会社では密にならないよう気を配っているのに、満員電車の原因になる「定時出社」は守らせる。黙ってデスクワークをしている時にはマスクをつけるのに、昼食などで大声で談笑する場面では外す。せっかく一方で神経質に対策しても、もう一方では穴だらけ。単なる「やっている感」だけになってしまってはいないでしょうか。
■その出勤や会食は本当に必要なのか
接待や商談を目的とした会食、社内の交流のための飲み会なども、今、どうしてもやらなければならないのかを考える必要があります。参加者全員が同じ見解で、「感染対策をとりながら慎重に行いましょう」という姿勢ならまだしも、中には「心配だから出席したくない」と思っている人もいるかもしれません。
不安がある人は正直に伝えましょう。もし言い出しづらい、あるいは言っても却下されるようであれば、その企業の風土自体が間違っています。断りたくても言い出せない、行きたくないのに無理やり連れて行かれる──。これは、コロナの問題以前の問題。まさにパワハラ・アルハラというものです。
接待をしなくては仕事を受注できないのでしょうか。商談とは、会食をしなければまとまらないものなのでしょうか。社内交流には飲み会が必須なのでしょうか。そして、それらは意志に反して出席しなければならないほど、重要なものなのでしょうか。出席したい人もしたくない人も、その意志は同じように尊重されなくてはならないと思います。
■企業文化ではなく「必要かどうか」を行動のものさしに
先ほども言ったように、新型コロナウイルス感染症に関しては心配派と楽観派とが混在していて、人によって意識に差があります。感染防止についても、各自が思い思いの場で思い思いの対策をしていて、ダブルならぬマルチスタンダードの状態にあります。
職場やスーパーでは過剰なほど3密に気をつけているのに、満員電車には普通に乗るし、飲み会ではノーマスクで大声で談笑、その3密の居酒屋から外に出てきた瞬間に慌ててマスクを着けるといったように、対策を「一生懸命行う場」と「まったく気にしない場」が奇妙なほど混在している日常を、皆さん当然のように受け入れてはいませんか。そのことを気づいていない人がむしろ多いようにさえ見えます。。
職場での対策についても、おかしいと感じることがあればオープンに話し合っていくことが大切だと思います。緊急事態宣言中は、多くの企業がリモートワークという統一行動をとりましたが、今後は業種や企業体質によって対応が分かれていくでしょう。その時に、一部の人の見解だけで方針が決まるようでは、不安や不満を抱えながら働く人がどんどん増えてしまいます。
本当に対面しないと仕事にならないのか。飲まないと仕事にならないのか。今、そうしたことを真剣に考える時期が来ています。今後、働く人が行動のものさしにすべきなのは、長年の間に出来上がった出社の伝統や、しみついた企業文化ではなく、「本当に必要なのかどうか」「本当に意味があることなのかどうか」です。
新型コロナウイルスは収束どころか感染拡大の様相を呈しています。各企業は第2波、第3波に向けて、リモートワーク期間中の評価や、今後の働き方に関する議論を行っていく必要があるでしょう。この機会に、日本の職場が変わっていくことを期待しています。
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医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。
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(医師 木村 知 構成=辻村洋子 写真=iStock.com)
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