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文在寅の“韓国版ニューディール政策”が大失敗に終わりそうなワケ

プレジデントオンライン / 2020年7月21日 15時15分

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2020年7月16日、ソウルで第21回国会の開会を告げた。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■韓国のリスクは文政権そのものだ

現在、韓国経済の先行き懸念が高まっている。6月24日、国際通貨基金(IMF)は、韓国の2020年の実質GDP成長率の予想値をマイナス1.2%からマイナス2.1%に下方修正した。さらに7月12日、韓国の有力シンクタンクである韓国経済研究院は、本年の成長率がマイナス2.3%に陥ると一段と厳しい予想を示した。

その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大で世界の貿易取引が落ち込み、韓国経済をけん引してきた輸出が減少していることがある。個別の産業では、輸出競争力を発揮した半導体に代わる新しい成長分野が見当たらない。そうした経済構造のまま、韓国全体が経済環境の変化に対応することが難しくなっている。

重要なポイントは、いかに経済環境の変化に対応する力をつけるかだ。そのためには、思い切った構造改革が欠かせない。

一方、最近の文在寅政権の政策を見ると、財政支出を増やすことで、何とか目先の景気を支えようとしているように見える。それでは、長い目で見た韓国経済にとって大きなプラスにはなりにくいだろう。

文政権自体が、韓国にとって見逃せないリスクになりつつあるといえそうだ。

ここへ来てさらに下振れ懸念高まる韓国経済

コロナショックを境に、韓国経済の潜在成長率(経済の実力)の下振れ懸念が高まっている。韓国最大の企業であるサムスン電子の収益を支えてきた半導体事業以外に、韓国企業が目立って稼げる分野が少なくなっている。

韓国経済とサムスン電子の関係をみると、中国などの需要を取り込んだ半導体事業を中心にサムスン電子の業績が拡大し、それが韓国経済の成長を支えてきた。

需要項目〔個人の消費、投資(設備投資など)、政府の支出、純輸出(輸出‐輸入)〕ごとに韓国経済の成長率を確認すると、基調としてサムスン電子の業績が拡大する局面において韓国の個人消費や設備投資などは増加した。それによって、政府は支出を抑えることができた。

サムスン電子の株価上昇は韓国の年金運用などにも大きな影響を与えた。実質的に、サムスン電子の業績拡大が韓国経済の成長に欠かせないけん引役となってきた。

■サムスン1社の半導体事業に依存している

現在、世界的なデジタル化の進行によって、高機能サーバー向けのメモリ需要などが高まり、サムスン電子の業績は比較的よい。

一方で、鉄鋼や石油化学、航空などの産業は需要の低迷に直面している。言い換えれば、新型コロナウイルスの感染が深刻化した2020年の年初頃を境に、韓国経済はこれまで以上にサムスン電子1社の半導体事業への依存度を高めている。

それは、輸出動向から確認できる。7月に入り、韓国の輸出には徐々にではあるが下げ止まりの兆しが出始めた。品目別にみると、半導体の輸出が全体の下げ止まりを支えている。他の産業は苦戦している。

背景には、コロナショックによって世界的に需要が低迷したことがある。中国の在来分野では国有・国営企業の過剰生産能力が深刻だ。基礎資材分野を中心に韓国の過剰生産能力も顕在化している。

韓国では家計や企業の債務残高も増加し、経済全体で下振れリスクが高まっている。

文政権は長期のグランドデザインを示せ

見方を変えると、韓国にはサムスン電子の半導体事業に代わる新しい成長産業が見当たらない。それは、韓国経済が抱える深刻な構造的問題の1つだ。

現在、韓国は対中半導体輸出を見直すよう米国から圧力をかけられている。サムスン電子の半導体事業によって韓国が景気安定を目指すことは一段と難しくなるだろう。新型コロナウイルスによって世界経済が低迷する可能性は高い。

いつ、効果のあるワクチンが開発され、世界への供給体制が確立されるかにもよるが、輸出依存度の高い韓国経済の下方リスクは軽視できない。金融政策も限界を迎えている。

成長産業が見当たらない状況下、文大統領は構造改革に真剣に取り組む必要がある。冷静に考えると、文政権はどのようにして経済の実力を高め、国民が安心できる環境を目指すか、長期のグランドデザインを示さなければならない。

具体的には、どの産業を育成して雇用を増やすか。そのために人々にどのような教育・訓練を提供するかなど、具体的な施策を明示し、推進することが求められる。多様な利害を調整して国を1つにまとめることが政治の役割だ。

しかし、文氏の経済対策からはそうした理念や熱意が感じられない。7月14日、文大統領は今後5年間で114兆ウォン(約10兆円、韓国の名目GDPの約5.8%)の政府予算をつぎ込み、デジタル化推進のための投資や雇用対策を強化すると主張した。それを文氏は“韓国版ニューディール政策”と呼ぶ。

その政策の実体は、政府資金のつぎ込みによって非正規雇用の正規雇用への転用を進めることなどにある。そう考える理由の1つは、どのように財政資金が新産業の育成に使われるか、説得力ある具体策(改革の中身)が乏しいからだ。

労働組合などを支持基盤とする文氏は、構造改革に真剣に取り組むことが難しい。文政権の経済運営は既得権を持つ人の富を増やす可能性はある。しかし、その発想で韓国が産業競争力を高め、変化に対応する力をつけることは困難だろう。

■“欧州の病人”の構造改革に倣えるか

文政権下、学生や失業者など経済的な弱者が将来に希望を持つことは一段と難しくなる恐れがある。その結果、若年層を中心に韓国の所得・雇用環境は悪化し、文政権への批判が高まる展開が想定される。

そうした展開が予想される中、文氏が政府の支出を増やして目先の景気安定を目指し、経済格差の深刻化などを糊塗しようとする可能性は高まっているとみるべきだ。

重要なことは、政府が財政政策を用いて経済の実力向上を目指すためには、構造改革が欠かせないことだ。それを確認する良い材料が1990年代のドイツだ。東西統一後のドイツは経済の低迷にあえぎ、一時は“欧州の病人”とまで揶揄された。

そうした状況を大きく変えたのが、1998年から2005年までドイツの首相を務めたゲアハルト・シュレーダー氏による労働市場改革だった。その要点は、人々の働く意欲を高めたことだ。

シュレーダー政権は、労働市場と社会保障の制度改革を一体で進めた。政府は職業の訓練と紹介制度を強化し、職業紹介を受けた失業者が就業を拒んだ場合には失業保険の給付を減らした。起業や研究開発の支援も強化され、人々が自律的に就業を目指す環境が整備された。

そうした改革が財政健全化と自動車などの産業競争力の向上を支えたのだ。

■一気に資金が海外に流出するリスクも

未来永劫、財政支出に依存することはできない。長期的に考えると、財政支出を増やし続けると、どこかのタイミングで財政懸念が高まる。状況次第では悪性のインフレが進行する恐れがある。特に、北朝鮮と対峙する韓国にとって海外投資家が財政の悪化リスクを真剣に懸念し始めると、かなりの勢いで資金が海外に流出するリスクがある。

そう考えると、文政権が構造改革の重要性を直視できていないことは軽視できない。わが国にとってその状況はひとごとではない。

わが国は、当面の経済を財政政策で支えつつ、長期の視点で構造改革を進め、米国からも中国からも必要とされる技術先進国の立場を確立しなければならない。

わが国の社会と経済の安定を実現するために、構造改革を進め産学連携や人々の新しい取り組みを引き出し、国全体で変化への適応力を高める重要性が高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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