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「道路上の最恐車両」トラックドライバーが自転車を怖がる3つの理由

プレジデントオンライン / 2020年7月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piola666

勢いよく走る自転車に、ヒヤリとした経験はないだろうか。元トラックドライバーの橋本愛喜氏は「自転車はドライバーの死角に入り込みやすい。事故が起きれば大きな被害につながるが、交通ルールや危険現象を理解していない人が多い」という――。

■「道路上で最恐」自由すぎる自転車

車体が大きい割に繊細な運転を要するトラックに乗ると、それまでなんとも思うことのなかった道路事情が、実はとんでもない障害だったと気付く。突然の割り込み、街路樹の伸びきった枝葉、交差点の歩道ギリギリに立つ歩行者……。中でも何度も肝を縮こませたのが、サイクリスト(自転車乗り)たちの「自由っぷり」だった。

自転車は道路交通法上「軽車両」と位置付けられており、原則「車道」を走らねばならないことになっている。が、「やむを得ない場合は歩道も走っていい」とする曖昧なルールの存在によって、彼らの法感覚は他車両より緩い。

また、歩道を歩く歩行者からは「車輪付いてるんだから車道走れ」、車道を走るクルマからは「死にたくなければ歩道走れ」と、どちらからも疎まれる存在となってしまっている。

とりわけ車道においては、「2つの輪っかに生身のカラダ」という、他の二輪車以上に無防備かつ不安定な状態で走っている彼らは、ほぼ全てのクルマから邪魔者扱いされているのだが、その中でもトラックにとって自転車は、もはや天敵ともいえる存在となるのだ。

その理由を3つ提示しよう。

■トラックの死角「左後方」に居座る自転車

<理由①見えない>

トラックは、左後方に多くの死角を作る。というのも、乗用車のような後部座席がなく窓も付いていないため、振り向いた先に見えるのはただの壁なのだ。

トラックの運転席からは左後方には窓がない。
写真撮影=筆者、撮影協力=浦島サービス株式会社
トラックの運転席からは左後方を直接見ることができない。 - 写真撮影=筆者、撮影協力=浦島サービス株式会社

しかし、よりによって左後方は自転車の「定位置」。そこからしばらくじっと機を伺い、トラックの隙を見つけるや否や、彼らはその真横をすり抜けようとするのだ。そのため、さっきまで後ろにいた自転車が、ふと気が付くと知らぬ間に目の前にいるという怪現象がしょっちゅう起きる。

こうした死角をなくすべく、トラックには大小様々なサイドミラーが付いているのだが、皮肉なことにそれらはできるだけ広い範囲を映し出そうと曲面になっているため、対象物を捉えたとしてもすべてを豆粒ほどの大きさにしか映さず、距離感が非常に掴みにくい。そこに雨なんか降ってミラーが濡れれば、対象物はより一層見えづらくなる。

トラック運転席から見た左後方の見え方。自転車があるが、停止したトラックからでもこれほど見えない。
写真撮影=筆者、撮影協力=浦島サービス株式会社
トラック運転席から見た左後方の見え方。自転車があるが、停止したトラックからでも見えない。 - 写真撮影=筆者、撮影協力=浦島サービス株式会社

そのため、最近のトラックには最終兵器として後部を映すバックカメラが常時稼働しているのだが、やはりこのカメラも「左後方」にはめっきり弱く、すべての死角が解消されるまでには至っていない。

■無防備なのにハートが強すぎる……

<理由②被害が大きくなりやすい>

車道を走れる自転車は、つまるところ時速60kmものスピードで走る自動車たちと並走することになるわけなのだが、そんなサイクリストを見てみると、彼らの格好は先述通り驚くほど無防備である。

いわゆる「ママチャリ」と呼ばれる自転車に乗っているサイクリストでヘルメットをかぶっている人を、筆者は今までほとんど見たことがない。車道を走る車両の中で、外身は弱いがハートが強いのが彼らサイクリストなのだ。

対照的に、外身は強いのに彼らの存在によって神経をすり減らすのがトラックだ。トラックは車高が高いため、たとえ自転車が真正面からぶつかってきても、ドライバーが怪我をすることがほとんどない。

そんな真逆のパワーバランスから、たとえトラックに過失がなくとも事故を起こしてサイクリストが怪我を追ったり死亡したりすれば、トラックドライバーが逮捕されてしまうという理不尽が起きる。

実際過去には、高速道路を走っていたロードバイクをはねたトラックドライバーが逮捕されるという事例もある。ただまっすぐ前を走っていただけのトラックにとっては、とんだ「とばっちり」だ。

■「無知ほど最強なものはない」自転車に乗る子ども

<理由③交通ルールや危険現象を分かっていない>

先述通り、自転車は「軽車両」に属するため、他車両と同じように道路交通法を守らねばならない。つまり、「自転車を除く」などの補助標識がない限り、自転車も一時停止や進入禁止、一方通行などの標識に従わなければならないのだ。

しかし、サイクリストの中には道路交通法に従う・従わない以前に「従わねばならないことすら知らない」人も少なくなく、現役ドライバーからも「無知ほど最強なものはない」というため息声が聞こえてくる。

その中でも最も怖いのが、「子どものサイクリスト」だ。

子どものサイクリストの中に、運転免許を取ったことのあるサイクリストは無論皆無。彼らが「最近取れた」と喜ぶものは「免許」ではなく「補助輪」で、走行技術の未熟さゆえにフラフラしやすいうえに、法と危険を知らないため、怖いものがないのだ。

そんな彼らに毎度背筋を凍らされるのが、歩道から突然車道に降りる行為。彼らは、目の前の障害物にしか意識が向かないため、歩道の向こうから人が来たと思った瞬間、何のためらいも確認もなく車道に降りるのだ。

これら3つの理由から分かるように、事故時に一番ダメージのある車両にも関わらず、ルールや危険スポットを知らず、無防備な状態でクルマと並走する自転車は、車体が丈夫であるがゆえに「最強」とされるも立場的には最弱のトラックにとって、もはやただの脅威でしかないのだ。

■コロナ禍でますます高まる自転車需要

そんな自転車は、健康ブームや高齢者ドライバーによる免許返納の機運が高まったことで、ここ数年その需要を大きく伸ばしてきたのだが、昨今のコロナ禍によって、その傾向はより一層高まりつつある。

先日、新型コロナウイルスが通勤形態に与えた影響を分析するべく、au損害保険株式会社が「週1回以上、自転車通勤する東京都在住の会社員男女500人」にアンケート調査を行ったところ、約4人に1人が通勤時の「密」を避けようと、コロナ流行後に自転車に乗り始めた人がいることが分かった。

また、79.0%の人が「アフターコロナの日本社会で自転車通勤は広がっていくと思う」と回答。この結果からも今後、現在以上のサイクリストが日本の道路を走行することが予想できる。

さらに、外出自粛やテイクアウトを始めたレストランの急増によって、宅配代行サービス「ウーバーイーツ」などの需要も急増。道路ではこれまで以上に配達員サイクリストに出くわす回数が増えた。

■時間に追われると走行マナーは悪化する

これらの現象はつまり、道に不慣れだったり久々にペダルを漕いだりする多くのサイクリストが、現在自動車たちとタイヤを並べて走っていることを意味する。

こうして趣味ではなく「生活・労働手段」として自転車に乗り始めると、必然的に気にせざるを得なくなるのが「時間」だ。

実は自転車には法定最高速度の規制がないのだが、そこに時間という追われるものができれば、彼らの走行マナーはより悪化する。

実際、今年5月には「時間短縮のために首都高速を走った」という理由から首都高を走るウーバーイーツの配達員がいた。また今年7月にはスマホを見ながら車道の右車線を走り、タクシーと接触事故を起こした配達員の映像が大きな話題になった。

■トラックドライバーもあきれる「自由すぎる自転車」

今回、こうしたサイクリストのマナーやルール違反に対して、現役のトラックドライバーはどう思っているのか意見を聞いたところ、以下のような声が聞こえてきた。

○自転車は軽車両 車の仲間だから最低限、講習を受けて交通ルールを守らせてほしい(40代長距離トラックドライバー)
○スマホや両耳イヤホンでの“ながら運転”の自転車は相変わらず多い(50代男性中型トラックドライバー)
○自転車乗りさんの後方ノールックでの歩道からの車道への急な進路変更はホント勘弁して欲しいですね(40代男性大型トラックドライバー)
○自転車の逆走と突然の車道への飛び出しは、車体の大きいトラックにとってはどうすることもできない(50代長距離ドライバー)
○一番怖いのは自動車の左折レーンを直進しようとするサイクリスト(30代地場ドライバー)

また、昨今トラックドライバーからその存在を頻繁に指摘されるようになったのが、トラックの「左後方」ではなく、「真後ろ」につくサイクリストだ。

箱型のトラック(箱車)の後ろには、空気抵抗を受けない「スリップストリーム」と呼ばれるスポットができやすく、そこに入ると消費エネルギーを抑えたまま速いスピードで走れるということから、トラックの後部にピタッとくっついた状態で走ろうとするサイクリストが最近増えてきているという。

■真後ろからトラックを煽る自転車

が、この行為は、先月改正道路交通法に新設された「あおり運転罪」が自転車にも適用されることになったため、同法の処罰対象となるのに加え、なにより非常に危険であることは言うまでもない。トラックが急ブレーキを踏めば、彼らはトラックに追突するか、後続車に轢かれるか、またはその両方に確実に巻き込まれる。

また、サイクリストだけでなく、トラック以外の道路使用者の中には、「車両に発生する危険現象を知らない人が多い」という指摘も多い。

その代表例が「リアオーバーハング」だ。

リアオーバーハングとは、後輪より後ろの車体部分のこと。車体の長いトラックが左折する際、内輪差が大きく生じることはある程度知られてきているが、実は右折時にもこのリアオーバーハング(トラックの後輪からお尻部分)が隣車線や歩道にはみ出す危険性があり、左後方を定位置にするサイクリストや歩行者が巻き込まれやすい。

■自動車と自転車の「相互理解」が事故を防ぐ

このように、トラック目線でサイクリストを見ると、彼らが悪者であるように見えてしまうのだが、その一方、自転車に乗らないドライバーにはなかなか気付いてもらえないサイクリストたちの事情もある。

あまり知られていないが、日本の道路はその多くが雨水やゴミなどを効率よく道路から排除させるため「右高左低」にできている。そのため、サイクリストが走らされている車道左側には、雨水や排水溝、転がり集まったゴミ、そしてクルマの体重が左に偏ることでできる轍(わだち)といった障害物が集中している。

中には、そのまま素直に追い抜かず、わざわざサイクリストに向かって幅寄せしたり、急ブレーキをかけたりして嫌がらせしてくるドライバーも少なくない。

コロナ禍によって今後ますます増えるであろう自転車と初心者サイクリスト。無意味な事故を起こさぬためには、サイクリストのマナーの向上だけでなく、ドライバーの理解や道路環境の整備も今後必要になってくるのかもしれない。

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橋本 愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター
元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化祭、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆や講演を行う。

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(フリーライター 橋本 愛喜)

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