オンワードに「ゾゾへの再出店」を決断させた想定以上の苦戦と赤字

プレジデントオンライン / 2020年7月22日 15時15分

オンワードホールディングス オンワード樫山 本社=2020年1月10日 - 写真=アフロ

オンワードホールディングスは、7月13日、「ZOZOTOWNへ再出店する」と発表した。ブランド撤退からわずか1年半で、なぜ復帰することになったのか。流通・ファッションビジネスコンサルタントの小島健輔氏は「百貨店依存への危機感の表れだ。だが、両社の思惑は微妙にすれ違っている」と指摘する――。

■身長・体重を入れるだけでセットアップが注文できる

オンワードホールディングス(HD)は、7月13日、ZOZOとの提携開始を発表した。その骨子は、ZOZOが蓄積したサイズデータ「マルチサイズ」に基づき、身長と体重を選択するだけで、スマートテーラー事業「KASHIYAMA(カシヤマ)」のスーツなどをオンラインで簡単に注文できるというものだ。

オンワードは8月下旬からサービスを始め、5年後までに100億円規模の売り上げを目指すとしている。ただ、商品の企画、生産は、すべてオンワードによるもので、それらはすでに「KASHIYAMA」として展開されているため、それほど新味がある発表ではない。

ZOZOが提供するのはサイズマッチングのITサービスと会員顧客、受注と決済、発送だ。完成品は中国・大連のオンワード自社工場から一着毎のパックランナー(運賃を抑え、型崩れを防ぐ独自の圧縮パック)でZOZOの倉庫に届き、顧客に宅配出荷される。

デジタル化された大連の自社工場でスピード生産される「KASHIYAMA」のパターンオーダーは採寸から1週間で顧客に届く。ZOZOとの取り組みではZOZOの倉庫を経由するため10日~2週間と、やや時間がかかる。EC業界で言う「ドロップシッピング」(販売者があらかじめ商品をモール事業者の倉庫に預けず、受注してから倉庫に届ける)というスタイルだ。

なお似たようなマルチサイズ選択型パターンオーダーサービスを展開するユニクロの「ジャストサイズ」は“擬似”パターンオーダーで、全サイズのミニマムストックを出荷倉庫に積んでいるから、欠品しない限り注文の翌日か翌々日には届く。

ZOZOの倉庫は経由するものの、倉庫に在庫を預かって注文に応じて出荷するわけではなく、在庫を預かるフルサービスを売ってきたZOZOとしては異例な取り組みだ。オンワードに復帰してもらいたいZOZOと顧客を広げたいパーソナルスタイルが折れ合った取り組みで、遠からず次のステップへ進むと思われる。

■ZOZO側の発表に見る「すれ違い」

セレクトショップ集積からブランドが広がった「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」はファッション好きの20~30代イメージが強く(今年1~3月間の会員平均年齢は男性31.6歳、女性33.9歳)、Zホールディングス傘下となってPayPayモールにも出店し、保守的な百貨店客も含めて幅広い世代を取り込みたいZOZOにとってオンワードの復帰は不可欠だった。閉店ラッシュにコロナ休業も加わって百貨店客がECに流れ込む中、オンワードが再出店すれば他の百貨店アパレルもそろい、百貨店客を取り込めるという思惑もあったに違いない。

ZOZO側の発表ではオンワードの「J.PRESS」や「Paul Smith Woman」など11ブランド・13ショップの「ZOZOTOWN」再出店の方が大きくフォーカスされていたから、両社の思惑は微妙にすれ違って見えた。

■衰退を食い止めるため、百貨店からECへ

オンワードはコロナ以前から「百貨店からEC」という引き返せないルビコンを渡っていた。非効率な運営で商品が割高になり若者も大衆も離れていく百貨店に依存していてはオンワードも衰退するばかりだから、00年代にはショッピングセンター(SC)や駅ビルなど商業施設に店を広げた。さらに元経産省キャリアの保元道宣氏がオンワードHDの代表取締役に就任した15年以降は着々とデジタル化への布石を進め、18年3月には支店営業軸からEC軸へ営業組織も物流体制も一変させた。そのうえで2019年10月には全国約600カ所の店舗を閉鎖すると発表した。

EC売り上げは17年(2月期、以下同)の150億2100万円から18年は36.8%増の202億6900万円、19年は25.8%増の255億円、20年は30.6%増の333億800万円と順調に伸び、売り上げに占めるEC比率もグループ全体で6.1%から13.4%へ、オンワード樫山単体では9.9%から16.8%まで伸び、ほぼ目論見(もくろみ)通りに進んでいたところにコロナ危機が襲った。

コロナ危機が直撃した20年第1四半期(3~5月)は売上高が前年同期より34.9%も落ち込んで21億1200万円の営業損失、24億1700万円の純損失を計上し、純資産は19年2月期末から127億8700万円も減少するというダメージを受けたが、その窮状を力強く支えたのがECだった。

■コロナ禍でEC事業は急伸したが…

百貨店売り上げが前年同期から71%、SCや駅ビルの売り上げが40%も落ち込む中、ECは50%伸びて全社売り上げの45%に達した。コロナパンデミックでライフスタイルも購買行動も激変し、百貨店や商業施設の一斉休業で店舗売り上げが激減したという特殊事情とはいえ、まだ何年もかかるとみていた「半分はECで売る」という目標がほぼ実現してしまったのだ。

とはいえ、オンワードのEC体制は規模ほどに盤石ではない。18年段階でオンワード樫山単体の自社EC比率は85%と高く、コロナ危機下の20年3~5月期では単体で94.8%、全体でも90.0%に達したが、システム改修からささげ(採寸・撮影・原稿書き)まで外注比率が高く、自社ECではあっても自社運営とは言い切れないところが残る。今期はEC売上500億円を計画し、中期的には1000億円を目指して「メーカー機能を持ったデジタル流通企業」と謳うには心許ない。

百貨店顧客の取り込みも一巡し、さらにEC売り上げを伸ばすには異なる顧客層に広げる必要があったし、ECのシステムにもフルフィルにも通じたZOZOと提携すれば自社EC体制の整備も進むと期待したのではないか。

■退店のきっかけ「ZOZOARIGATO」は終了

コロナ危機がいつまで続くのか誰も読めないが、アフター・コロナではなくウィズ・コロナとなってライフスタイルも購買行動も元には戻らない公算が極めて高い。コロナ危機で高まったECの勢いを継続するには店舗からECへ転じる会員数を増やし続ける必要があるが、17年の160万人から18年は28%増の204万人、19年は30%増の265万人と増やしてきた会員数が20年は18.3%増の313万人と、百貨店からECに転じる顧客も一巡しつつあった。保守的な高齢層に偏る百貨店客の取り込みだけでは頭打ちは目に見えており、衣料消費に積極的な若い世代の取り込みが急務となっていた。

そこに持ち込まれたのが「ZOZOTOWN」への復帰であり、827万人(20年3月期第4四半期)というZOZOの若い会員層はオンワードがEC顧客を広げるのに不可欠と思われた。離反の契機となった会員制割引サービス「ZOZOARIGATO」は導入後、半年で終了し、導入した前澤友作前社長もすでに会社を去っているから、復帰に何の問題もなかった。

■若いビジネスマンを取り込むために必然だった

加えて、オンワードには、もう一つの課題があった。採寸から納品まで1週間という画期的な短納期を実現して好調に離陸したスマートテーラー事業の「KASHIYAMA」も、スーツ需要の衰退もあって計画通りには伸びず、顧客層を広げる必要があったのだ。

スマートテーラー事業を手がける子会社のオンワードパーソナルスタイルは、実質初年度の19年8月期は5万6000着、37億円を売り上げたが、大連の第2工場が稼働した20年2月期は60億円を計画しながら43億2900万円にとどまって18億3300万円の営業損失を出し、21年2月期で150億円という計画の実現も危うくなっていた。ZOZOへの再出店を検討する中、若いビジネスマン&ウーマンのスーツ(セットアップ)需要を取り込みたいスマートテーラー事業を提携の柱とするに至ったのは必然だった。

オンワードとZOZOで提携の思惑は微妙にすれ違っていても、互いに必要としていたことは間違いなく、結果としてウインウインの関係が成立するのではなかろうか。

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小島 健輔(こじま・けんすけ)
流通・ファッションビジネスコンサルタント/株式会社小島ファッションマーケティング代表
慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、(株)小島ファッションマーケッティングを設立。19年までファッションビジネスの経営実務研究会SPACを主宰して業界の経営革新に注力。業界紙誌やネットメディアにも寄稿している。2016年には経済産業省のアパレル・サプライチェーン研究会委員も務めた。近著に『ポストECのニューリテールを探る 店は生き残れるか』(商業界)がある。公式サイトはwww.fcn.co.jp。

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(流通・ファッションビジネスコンサルタント/株式会社小島ファッションマーケティング代表 小島 健輔)

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