都民だけが損をする「Go Toトラベル」の責任は一体だれが取るのか
プレジデントオンライン / 2020年7月21日 19時15分
■「キャンセル料は国が持つべきだ」との批判の声も
政府が7月16日、「Go To トラベル」の対象から東京発着の旅行を外すことを決めた。新型コロナウイルスの感染拡大でダメージを受けた観光業への政府の支援事業がこの「Go To トラベル」で、需要喚起策「Go To キャンペーン」のひとつだ。22日から実施され、1人1泊あたり2万円(日帰りの場合は1万円)を上限に国内の旅行代金が補助される。
東京都内で新型コロナウイルスの感染者が急増し、地方への感染拡大を懸念する声が高まっていることが、方針転換の背景にある。
東京発着の除外とは、具体的には目的地を東京に設定している旅行と、東京に住んでいる人の都外への旅行についてそれぞれ外される。しかし、首都の東京が除外されることで、観光業への支援の効果は薄れる。かつ実施目前の方針転換であり、混乱が生じる可能性は高い。
たとえば、東京発着の旅行を外した「Go To トラベル」の対象かどうかの確認作業が複雑になる。旅行会社などが新たに旅行者に住所を確認する書類(住民票など)を求める必要が出てくる。
「Go To トラベル」を当て込んで夏休みの旅行を予約した人々からは「キャンセル料は国が持つべきだ」との批判の声も上がっている。
*キャンペーン開始の前日となった本日7月21日、国土交通省は、東京を補助の対象外にしたことで生じる旅行のキャンセル料の支払いを免除すると発表した。
■表面化した混乱を覆い隠そうとした「アベノマスク」と同じ
政府は7月10日、夏休みの需要喚起を狙って8月中旬だったスタートを22日に前倒しすることを発表した。だが、前日の9日には都内の1日あたりの感染者数が過去最多の224人を記録するなど、都内の感染が確実に拡大していた。
感染拡大を懸念する声は強く、本来なら政府は前倒しなどではなく、この時点で東京発着の旅行を外すべきであった。さらに「Go To トラベル」自体を中止に踏み切ってもよかった。
感染拡大の防止と社会・経済活動の再開。この2つはバランスの取り方が難しく、柔軟性が必要だ。しかし、今回の政府のやり方は、場当たり的で、愚行と批判されても仕方がない。
あの「アベノマスク」と同じである。アベノマスクでは全国の全世帯にマスクを2枚ずつ配布することで表面化した混乱を覆い隠そうとした。安倍政権の防疫対策を何とかよく見せようとした。かかった費用は総額260億円。しかも配布が始まると、不良品が多く、回収と交換などにさらに数億円の費用がかかるという。これでは税金の無駄遣いだろう。
大体、閣僚でもアベノマスクを着けているのは、安倍晋三首相ぐらいではないか。すべての国民に配布したマスクだ。なぜ閣僚の足並みがそろわないのか。
■「菅対小池」の対立が「Go To トラベル」の在り方に火をつけた
コロナ対策をめぐっては官邸と東京都の間でさまざまな摩擦が起きている。
7月11日、菅義偉官房長官が北海道千歳市での講演で「圧倒的に東京問題と言っても過言ではないほど、東京中心の問題になっている」と話すと、小池百合子都知事は13日、「(Go To キャンペーンとの)整合性を国としてどう取っていくのか」と反論した。
結局、この菅氏と小池氏の対立が「Go To トラベル」の在り方に火をつけ、与野党や経済界、地方の首長らを巻き込んだ議論にまで大きく発展した。16日になって、「Go To トラベル」は東京発着の旅行を外すという形で縮小された。小池氏はこの日、記者団にこう言い放った。
「国として都民国民に対しての説明が求められるのではないでしょうか。国がよくご判断されることなんだろうと思います」
こうした発言からは、感染拡大で不安を抱く国民の気持ちを捉え、国や官邸にものを申して注目を浴びるという小池流の政治姿勢が見える。小池氏には、日本初の女性首相になるという強い野心がある。それゆえ、安倍政権に反発して自分の強さを政界にアピールしているのだろう。「Go To トラベル」という政府の政策まで自らの出世に利用する、小池氏の計算の高さには驚かされる。
■「いったん延期して抜本的に見直すべきだ」
「これで不安が拭えるとは、とても言えない。この事業はやはり、いったん延期して抜本的に見直すべきだ」
こう訴えるのは7月18日付の朝日新聞の社説だ。見出しも「GoTo事業 立ち止まって見直しを」である。
沙鴎一歩はこの訴えに賛成だ。朝日社説は「Go To トラベル」の対象から東京発着の旅行を外すことに対し、「その対応は泥縄と言わざるを得ない」「問題の根底にあるのは、経済活動の再開を急ぐあまり、感染の実態から目をそらすかのような政府の姿勢だ」とまで酷評する。
朝日社説はさらには皮肉を込めてこう疑問視する。
「今後、首都圏や関西圏などでさらに感染が拡大した場合に、事業の対象地域を迅速に見直す用意が、政府にはあるのだろうか」
いまの安倍政権にはスピードをもって見直すことなどできないだろう。これまでの対応ぶりを見ていればそれはよく分かる。
■「旅行業界の支援が必要」と言いながら「税金は使うな」
朝日社説は書く。
「コロナ禍で苦境に陥る旅行業界の支援が必要なのは言うまでもない。感染拡大の防止と社会経済活動の両立をめざす必要もある。だからといっていま、税金を投じて旅行を促すべきだということにはならない」
朝日社説は「旅行業界の支援が必要」と言いながら、「税金は使うな」と言いたいのだろう。しかし、沙鴎一歩は冷え込んだ旅行業界をもとに戻すには、税金の投入も必要だと考える。天下の朝日社説にしては説得力の欠ける主張である。
朝日社説は「東京都の住民や業者も同じ納税者だ。東京都だけを対象外にして事業を進めるのは、公平性の観点からも疑問が残る」とも指摘する。
「公平性の観点」で考えた場合、どうしても不公平さは残る。だが、いまはコロナ禍という非常事態にある。そのなかで衰退しつつある地方経済をできるだけ早く活性化せるには、多少の不公平感は仕方がない。
さらに朝日社説は書く。
「朝日新聞は社説で、事業の実施をいったん見送って1.35兆円の予算は自治体に移し、地域独自の観光支援策を後押しするよう提案してきた。どんなかたちで観光業を支援するのかという判断は、地域に委ねるべきだと考えるからだ」
「1.35兆円の予算は自治体に移す」という提案には賛成だ。
■読売社説は「東京を除外することはやむを得まい」と指摘
次に7月18日付の読売新聞の社説を見てみよう。
見出しは「GoTo見直し 感染防止が最優先の課題だ」である。「感染抑止と経済再開を両立させることが、いかに難しいかが浮き彫りになったと言えよう」と書き出し、こう主張する。
「全国の観光業界は今、宿泊者数が前年の2割以下に落ち込むなど、深刻な打撃を受けている」
「感染を抑え込みながら、観光事業者を救済するGoTo事業を進めるには、東京を除外することはやむを得まい」
前述した沙鴎一歩の考えと類似し、理解できる訴えである。読売社説は指摘する。
「問題は、事業の実施時期を前倒ししたことにある。本来、コロナの流行が収束した後に実施される予定だったが、7月の4連休に間に合わせるため、感染が収まらない状況下での開始となった」
なぜ、安倍政権は収束を見定めなかったのか。しかも菅官官房長官は「東京問題」とまで言い切っていた。長期政権の驕りではないかと、沙鴎一歩は考える。
■職場や保育所など「夜の街」以外での感染例も目立つ
読売社説は「旅行者の住所確認など課題は多く、混乱も予想される。事業の恩恵を受けられない都内の観光事業者の落胆は大きい。事業を見込んで予約を済ませていた人もいる。政府は、分かりやすい制度設計と説明を急がねばならない」とも主張する。
だが、いまの安倍政権には「分かりやすい制度設計」など無理かもしれない。私たち国民ひとり一人がそんな政権の実態を見極める必要がある。
「いま一番大切なのは、感染をこれ以上、広げないことである。特に、東京は陽性率が高まっており、職場や保育所など『夜の街』以外での感染例も目立っている」
「感染をこれ以上、広げない」ことが重要なことは当然だ。
読売社説は「東京の感染者数が急増したことを受けて、菅官房長官が『東京問題』と発言し、小池百合子都知事が反発する場面があった」と書き、最後にこう訴える。
「感染拡大の危機を乗り切るためには、国と自治体の緊密な連携が重要だ。そのことを、いま一度、肝に銘じてもらいたい」
「国と自治体の緊密な連携」が大切なことも、当たり前のことである。しかし、世界では自国第一主義を標榜する国家が目立ち、感染症対策の基本となる「連帯」つまり「国際協調」が失われつつある。
■安倍政権は予想される混乱にどこまで対処できるのか
「旅行を通じて地方に感染を拡大させないため、全国一律の運用を見直した政府の判断は当然といえる」
「ただし感染者の増加傾向は東京以外の首都圏や大阪などでもみられている。こうした感染者の動向を見極め、今後も補助対象のあり方を機動的、恒常的に見直すなどの柔軟な対応が求められる」
こう訴えるのは、7月18日付の産経新聞の社説(主張)だ。見出しも「GoToトラベル 機動的な見直しが必要だ」である。
産経社説は指摘する。
「全国知事会は近隣県からの誘客から事業を始めるなど、段階的な実施を求めている。すでにほとんどの道府県が利用者を県内や周辺に限定した独自の旅行割引制度を導入している。こうした自治体に対しても国が財政支援する仕組みも検討すべきだ」
産経社説が指摘するような「段階的な実施」や「独自の旅行割引制度を導入する自治体支援のシステム」も欠かせない。
さらに産経社説は指摘する。
「事業は開始時期も対象も方針が転換され、混乱を招いた。すでに東京から地方への旅行を予約した人も多い。今後も状況の変化によって変更はあり得る。予約キャンセルの補償やあり方などを検討し、政府は混乱の回避に全力を挙げねばならない」
安倍政権は予想される混乱をどこまで避けることができるのか。私たちはしっかりと見ていく必要がある。国民の厳しい監視があってはじめて政権が国民のために機能するからである。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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