リストラ、借金地獄、ドロ沼離婚。こんな人生もう嫌です。自殺したら楽になれるのでしょうか
プレジデントオンライン / 2020年8月1日 11時15分
■死にたいと悩むのは本当は余裕があるから
絶望は早いうちに済ませなさい。このように私はアドバイスすることがあります。失望や絶望に対する免疫を獲得しておけば、人生の悲劇的状況に陥っても乗り越えやすくなるからです。
親が不仲なために喧嘩の絶えない家庭に育った私は、10代の頃に家出や2度の自殺を企て、親に一生懸命に抵抗を繰り返していました。そのようにあがくことで、後に人生でピンチに見舞われたときには経験則を生かして乗り切ることができました。
私は日本の大学を卒業後、パリ大学に留学し、帰国後、いくつか職を替え、バブル期には給料の高さに惹かれ、大手ゼネコンに中途入社。40歳前に結婚、高級マンションに移り住みましたが、バブル崩壊。リストラ、離婚、業界仲間の自殺、大借金……と度重なる苦難を経験しました。そして、阪神・淡路大震災、数人の友人が圧死しました。
心の底が抜けたような虚しさを感じていたときに、心のよりどころになったのが大阪の“坊主バー”でした。会社勤めをしながら夜は時々、坊主バーのバーテンダーとして働きました。が、交通事故に遭い、一命をとりとめたものの復帰までに時間がかかったこともあって、会社を辞めました。それまでに一生懸命あがき続けた末に仏門へ入ろうと思ったのです。
人の死は病気であれ、交通事故や犯罪被害であれ、予想だにしなかった形でおとずれることがほとんどです。日頃は己の死と向き合いたくないと目を背けているものですが、新型コロナウイルス禍という事態に直面したことで、死に対するリアリティが生まれました。特に志村けんさんが亡くなったことで、死がさらに身近なものになりました。欧米のように都市のロックダウンをしなくても、おとなしく自粛に甘んじたのも、死がより身近なものになり、直視せざるをえなくなったからでしょう。
自然界からわれわれは人の言葉では得られない教えと体験を学びます。お坊さんの言葉による説法は、どこか人ごとに聞こえてしまいます。これに対し、新型コロナウイルスや震災、洪水、津波といった自然界からの働きかけは、ほとんどが突然にやってきて猛威をふるい、言葉以上のものを示唆してくれます。
みなさんにも苦しいことはあるでしょう。そのときに悩んだ末、死ねば楽になると考える人もいるでしょうが、そう考えている時点では、まだ余裕があるのです。たとえば、戦火の海で命の危機に晒されている人たちは生きることに必死で、悩んだり、死んだりしたほうが楽だなどと考える暇さえもないでしょう。災害など切迫した状況のときも自殺者は減り、通常の生活に戻って余裕が生まれると、自殺者が増えるといわれています。3度の食事をちゃんと食べる余裕がなければ、悩むための頭は機能しません。悩むことができるのは、それだけ余裕があるともいえます。
そもそも自ら命を絶つことは仏教では殺生に当たります。基本的に仏教では自他の弁別がなく、一体のものであると考えます。自分というものは、その体も思考も他に支えられて、相互に依存し合って存在しているからです。命を絶つことは、その関係性を絶つことになるわけです。もっといえば存在の本当の関係性は、みなさんの中に命としておられる仏様との関係です。ですからそれを断つことは仏様を殺めていることになるのです。仏様からいただいた命のご縁を自分から断ってしまうからです。それでも仏教では、亡くなられた方は自死の方もすべてがあの世で仏様に生まれ変わるのですが、だからといって自ら命を絶っていいわけではありません。
■最後は一人ぼっちであがくしかない
死にたくなるような辛さの背景には孤独があります。人生の最初と最後は極限の孤独の状態でしょう。母親のお腹から1人で産道を通って生まれてきますが、脳が発達していないため、寂しいとは思いません。ただ、無意識にギャーギャー泣いているだけです。また、人生の終わりにさしかかると、やっぱり孤独です。人間の生存のあり様は、いくら仕事に忙殺されようが趣味に生きようが本質的には孤独なもので、それを死から目を背けるのと同じように紛らわしているだけです。
お釈迦様は生まれて間もなく、すくっと立ち、西のほうへ向かって7歩歩き、「天上天下唯我独尊」とおっしゃったといわれています。これは、お釈迦様だけが「天上天下唯我独尊」なのではなく、諸個人みんなが「唯我独尊」であり、一人ぼっちなのです。しかし、一人ぼっちであるからこそ、他者と交流を深めるのです。1人では不足だから他者の助けを借り、他者からの影響を受け、いろいろなものを学ばせてもらい、人と交流しているのが人生なのです。
誰もが基本は孤独です。その孤独をよくよく承知している私のような者は、他人の孤独がわかります。ですから、死にたくなるような孤独を感じたら、私の元へ話をしに来てください。
それでも最後に頼りになるのは、自分しかいないことを忘れてはいけません。命を絶ってしまえば、何もかも終わってしまいます。あなた自身の生きたいという生命力を信じることです。言葉を超えた、火事場のくそ力のような、ありえない力が湧いてきます。私も、もうダメだという瞬間が、何度もありました。そういうときに何か妙な知恵が湧いてきたりするものです。だから諦めずにせいぜいあがき、大いに悩めばいい。それをできること自体が元気な証拠です。健全であるならばあがけるはずだし、悩めるはずだし、孤独に耐えられるはずです。
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真宗大谷派・瑞興寺僧侶
スーパーゼネコン在職中にバブルが崩壊。リストラと借金苦を経験して、50代を目前にして仏門に入る。2014年より東京・中野の名物雑居ビル「ワールド会館」で坊主バーの経営者も務める。
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(真宗大谷派・瑞興寺僧侶 釈 源光 構成=吉田茂人 写真=石橋素幸)
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