最高の雑談ネタは「御社の向かいのパスタ店、最高ですね」である理由
プレジデントオンライン / 2020年7月27日 9時15分
最近のビジネスパーソンは「雑談」に対して苦手意識があります。私がネット上でアンケートを実施したところ、53%の人が、雑談が「苦手」「やや苦手」だと回答しました。
雑談は本来、なにを話してもいいものです。それなのに、なぜ雑談を苦手に感じるのでしょうか。私の仮説ですが、その原因の1つに「スマートフォンの普及」があるのではないかと考えています。スマホは私たちに3つの大きな変化をもたらしました。
■スマホのせいでみんなで盛り上がれる「共通の話題」が激減
【雑談が苦手な理由】スマホによる変化①「共通ネタ」がなくなった
若い世代の人には信じられないかもしれませんが、少し前の日本では、男性は「プロ野球」と「ゴルフ」、女性は「ファッショントレンド」さえ押さえておけば、話題に事欠くことはほぼ皆無。国民全員が同じスポーツに興味があり、同じファッションに身を包んでいた、といっても過言ではありません。
その理由は明らかです。情報源が「テレビ、新聞、雑誌、ラジオ」の4つのメディアに限られていたからです。ほとんどすべての国民が、同じコンテンツを、同じタイミングで楽しんでいましたから、それらの話題にすればだいたい雑談がうまくいったのです。
それと比べて、現代はどうでしょうか。スマホを手にしたわれわれは、自分が欲しい娯楽を、自分が見たいときに、閲覧し消費できるようになりました。スマホは、究極のパーソナルメディアです。スマホは大衆の興味を分散化させ、みんなで盛り上がれる「共通の話題」を減らしてしまいました。だから以前に比べて、雑談のキモである「共通の話題」を見つけることが難しくなってしまったのです。
【雑談が苦手な理由】スマホによる変化②「物知り」の価値が下がった
まだインターネットが一般に普及していない1994年ごろ、『東京いい店やれる店』(ホイチョイ・プロダクションズ/小学館)という本が大ヒットしました。デートに使える、イケてるレストランを紹介した本でした。
当時、おいしいお店や、ワインの知識がある人は間違いなくモテました。口コミは貴重な情報源なので、「物知り」な人はリスペクトされたのです。私たちは、ふだんから「お役立ち情報」をせっせと仕入れておいて、雑談の機会があれば、それらの知識を披露していました。
しかし現在、誰もがスマホを使っていつでもどこでもネットにアクセスできるようになり、必要な情報は、検索すれば簡単に入手することができるようになりました。手元のスマホでどんな情報も「秒でゲット」できてしまいます。
頑張って「ウンチク」を身につけても、相手の手元にあるスマホの知識量にはかないません。スマホは、「知っていることの価値」を著しく下げてしまいました。
■リアルの会話の「話の脱線」「想定外のリアクション」が嫌い
【雑談が苦手な理由】スマホによる変化③「対人」が苦手になった
カフェや電車で人間観察をしていると、「スマホの画面を見ながら隣の人と会話をしている人」をよく見かけます。「話す時は、相手の目を見て話すように」と教えている「話し方教室」の先生が見たら卒倒しそうな光景ですが、私もときどきやってしまいます。今の若い人には、こうしたコミュニケーションスタイルはすでに当たり前のものになっています。
臨床心理学者のシェリー・タークルは『一緒にいてもスマホ』(青土社)のなかで、スマホが、「フェイストゥフェイス」の会話を激減させており、会話能力の低下を招いていると警鐘を鳴らしています。
仕事で知り合ったある高校生はこんなことを言っていました。
「リアルの会話は、話がいつ脱線するかわからないし、想定外のリアクションが返ってくるし……うまくコントロールできない感じ、嫌なんですよね」
彼らにとっては、もはやスマホのSNSなどでの言葉のやりとりが「メイン」で、リアルの会話が「サブ」なのかもしれません。ある調査(*)によれば、10代、20代の平成生まれ世代の67.6%が、「人の視線をストレスに感じている」そうです。これは昭和生まれ世代の48.8%をはるかに上回ります。確かに、スマホがあれば、人の目を見て話す必要もないのですから、そうなってしまうのも無理もないかもしれません。
*マンダム「視線耐性とデジタルコミュニケ―ションに関する調査」(2018年8月、調査対象:15歳~59歳 男女 n=1091)
■スマホが目の前にあるだけで、対人関係に悪影響をもたらす
さらに驚くべきことに、最近の研究では「スマホがそこにあるだけで、対人関係に悪影響をもたらす」ことも明らかになっています。英国の心理学者、アンドリュー・パージビルスキ博士は、初対面の男女でペアをつくらせ、小部屋に入ってもらい、「最近起きたこと」について10分間の雑談をさせる実験を行いました。
会話中、半数の被験者には、スマホをずっと机の上に置いておくように指示し、残り半数はスマホをしまって会話をさせます。会話の後、話した相手のことを評価してもらいました。すると、スマホを机の上に置きながら話したグループでは、スマホをしまって会話をしたグループに比べ、会話の質を低く評価し、相手への共感度や信頼度も低くなってしまいました。会話をするときは、スマホはカバンにしまったほうがいいかもしれませんね。
■雑談ネタの量は相手2:自分8、相手の4倍は持っておけ
こうした時代でうまく雑談する一番の方法は、日頃からネットで検索してもすぐに調べられないようなオリジナリティの高い「雑談のネタ」をストックしておくことだと私は考えています。どんな人が聞いても、「その話、おもしろいですね!」と身を乗り出してくるようなトピックスをふんだんに持っておくのです。
多くの「雑談の本」には、会話は、相手にたくさん話してもらうのが正解としています。その通りだと思いますが、間違えてはいけないのは、提供する雑談ネタは、こちらが用意しておくということなのです。
雑談をするにあたっては、
話す割合は、相手8:自分2。
雑談ネタの量は、相手2:自分8。
これを、理想的な比率とします。
雑談が苦手な人というのは、要するに「話のネタが少ない人」なのです。
■スマホの最新商品を必ず発売日に並んで買う営業部長の狙い
では、どうやって雑談ネタを増やせば良いのでしょうか? いろいろなコツがありますが、ここでは「話題価値」を意識することをおすすめします。
「話題価値」とは、あらゆるモノ・コトが持っている「話題へのなりやすさ」のことです。毎日の生活で何かを選択する際、「<話のネタ>になるのはどちらだろう?」と考えてみるのです。
たとえば、スマートフォン。最近のスマホは、コモディティ化が進んでおり、1つ前のモデルでも、最新型とそれほど性能は変わらないこともあります。コスパ(コストパフォーマンス)の点では割安な旧モデルを選ぶほうが賢明かもしれません。
しかし、最新型ならば、「あれ、早速入手されたのですね?」と話のネタになる「話題価値」が付加されます。私の知っている営業部長は、このためだけに、発売日に並んでまで、最新のスマートフォンを入手することを絶対ルールにしています。
■「御社の向かいにあるパスタのお店、最高ですね!」の威力
私は、この「話題価値」を、RPG(ロールプレイングゲーム)の「経験値」と同じものだと考えています。
たとえば、記念日の食事のお店選び。せっかくのハレの日に、的外れなお店に入って後悔したくありません。熟慮の結果、いつもの「馴染みの店」にする人も多いでしょう。しかし、これでは自分が「確実に倒せる敵」(=ザコキャラ)を倒しているのと一緒です。失敗こそしませんが、「経験値」は上がりません。
「話題価値」を得たければ、自分のフィールドから出て、未知の世界にチャレンジすることが大切です。たとえば「予約がとれないレストラン」の予約をコネでゲットするとか、ネットで紹介されていない「知る人ぞ知るお店」に突入してみるなど、「経験値が稼げそうな行動」を、わざわざ選んでいくのです。
私の同僚は、普段のランチでも、経験値の獲得に余念がありません。
会社周辺の店を制覇することはもちろん、新しいクライアントの担当になれば、その周辺のお店を一つひとつ攻略していきます。もちろんスマホからの情報も駆使しますが、それよりも実際に自分の足を運び、自分の舌で味わうことによって得た、現場ならではの情報を重視するのです。
「御社の向かいにあるパスタのお店、最高ですね!」
と、クライアントと話す「ランチネタ」を増やしているわけです。手間も時間もかかりますが、親近感を覚えたクライアントとの仕事がスムーズに進むことも多いそうです。
おもしろい雑談ができる人は、もとから話題が豊富で、話し好きな人に見えます。しかし、実際は人と会う場面に備え、水面下で常日頃から「雑談の準備」をしています。その根底には、つねに相手を第一に考える「相手ファースト」の精神があるのです。
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ショッパー・サイコロジスト/マーケティングプランナー
1000名以上の雑談の達人の会話力を解析し、「人を惹きつける会話」を解明。広告・販促領域で買物心理学をベースにした「買わせるメソッド」を活用。「SNS活用マーケティング」「モノ・コト消費からネタ消費へ」「売れるコミュニケーションの伝え方」をテーマに、企業・自治体・大学での講演多数。著書に『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(大和書房)、『武器になる雑談力』(きずな出版)がある。
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(ショッパー・サイコロジスト/マーケティングプランナー 本間 立平)
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