「いきなり真っ黒にしたくない」コロナで生まれた白髪染めの新潮流
プレジデントオンライン / 2020年7月24日 11時15分
■中高年男性の身だしなみは変わった?
社会人の経験を重ねて中年になると、見た目に関しては「実年齢より、若く見られたい」と思う人は多いだろう。「オレはいくつに見える?」が口ぐせの人もいる。
世間で言われる「人生100年時代」や「生涯現役」といった言葉や風潮も、知らず知らずのうちにプレッシャーとなってきた。
それもあってか、ネット上にも、若く見られるコツやノウハウの記事や広告が目立つ。「withコロナ」でリモートワークも増えたが、オンライン会議などもあり、一定の身だしなみは欠かせない。
そこで今回は、「中高年男性の白髪染め」について考えたい。女性向けのこうした情報は多いが、男性向けは少ないからだ。
以前に比べて、意識も変わってきたので、ヘアカラーを発売するメーカーにも話を聞き、生活文化や消費者心理の視点で考察してみた。こうした企画意図ゆえ、「若づくり」や「白髪染め」ノウハウを知りたい人は、それらの情報をご参照いただきたい。
■コロナの打撃を受けなかった白髪染め剤
市販のヘアカラーは、大きく「おしゃれ染め」と「白髪染め」に分かれる。前者は髪色の変化を楽しむ「主に若い世代」、後者は白髪隠しなので「主に中高年」向けとなる。もちろん体質があり、若い世代でも白髪に悩む人もいる。
今回話を聞いたのは、男性向け化粧品「GATSBY(ギャツビー)」で知られるマンダムだ。ヘアカラーは「LUCIDO(ルシード)」ブランドで訴求する。現在は40代向けが中心の「ルシード」は発売して30年以上になる。
まず、緊急事態宣言中のヘアカラー商品の動きを聞いた。
「4月の緊急事態宣言で外出自粛となり、美容院や買い物に行く頻度も少なくなりました。そのため、セルフ白髪染めの実店舗の売り上げは、前年同月に比べ93%と減少しています(マンダム調べ、4、5月合計)。色はブラウン系、ブラック系が中心です」。
同社はこう説明する。実店舗で「前年比93%」(7%減)は、思いのほか健闘した印象だ。
在宅勤務中心のリモートワークで、通勤する必要がなくなり、消費者の美容意識は大きく変わった。マスクで口を覆う機会も増え、特に女性の消費は顕著だった。
筆者の取材でも「最近は口紅もファンデーションも一切買っていません」(20代の女性会社員)という声が寄せられたが、具体的な調査記事もある。
東洋経済オンラインでは「コロナで『売れた』『売れなくなった』商品TOP30」(筆者=伊藤歩氏)という記事を5月8日に発信。それによれば、売り上げ金額の減少2位が口紅(4月第2週で前年比27.5%)だった。
ドラッグストアのマツモトキヨシとトモズでは、自粛期間中にセルフカラー剤の売り上げがいずれも2桁伸びたという報道もある(WWD、6月5日)。こうした当時の消費者事情も勘案すると、ヘアカラーの購入意欲は高かったのだ。
■ネット通販の売り上げは増加
マンダムは、こうも話す。
「一方、ECの実績は上がっており、実際に白髪が目立って、これまで美容院や理髪店で染めていた人が、インターネットを通じて購入したことが推察されます。また、自宅で過ごす時間が増えたことで、『自分磨き』や『新しい身だしなみ行為へのトライアル』の意識が高まり、白髪染めをインターネットで購入した人も増えたのではないか、と考えています」
「新しい身だしなみ行為へのトライアル」では、今月、東京都内の美容師から興味深い話を聞いた。「この機会に髪を伸ばす女性が増えた」という。男女を問わず、美容院・理髪店に行けない時期を前向きにとらえた人が一定層いた。
もともとネットでの売れ筋には「実店舗では買いにくい商品」も多い。中高年男性向けは精力剤や育毛剤だ。それらに比べると染毛剤(ヘアカラー)は、店頭で買う抵抗感が少ないが、非接触型のご時世でネット販売が伸長したのだろう。
ただし、在宅勤務でも「白髪染めで明るいカラーリングを楽しむ」男性は少ない。小売店の店頭でも、例えば「ナチュラルブラック」や「アッシュブラウン」など、ブラック系やブラウン系が売れ筋の色味だ。
■自粛生活で染め方にも変化が
市販のヘアカラーには、押すと液体で出てくる「液状型」「乳液型」「リンス型」、泡で出てくる「泡型」、「スプレー型」などがある。液体でも、一剤と二剤を混ぜるタイプ、混ざって出てくるタイプなどさまざまだ。
自粛期間中、マンダムの売れ筋に変化が出ていた。
「ルシードのラインアップの中でも、『ルシード スピーディカラーリンス』が好調に推移しています。これは通常の白髪染めと異なり、シャンプー後のリンス代わりに使い、3分放置するだけで、簡単に白髪を目立たなくすることができる商品です。約5回の連続使用で、白髪が徐々に目立たなくなります。
外出自粛で、人と直接会う機会が少なくなり、しっかり染め上げるのではなく『目立たなくなる程度でいい』と、カラーリンスを選ばれる消費者が増えているようです」(同社)
例えば「オンライン会議の参加者」も、自粛期間が長くなるにつれて、身だしなみを工夫する人が増えた。職場の同僚など社内相手の場合と、取引先など社外相手とでは服装を変える人もいる。リモートワークでのTPOも育ってきた。
カラーリンスの伸びには、2つの消費者心理が考えられる。1つは「簡単・便利」という機能性、もう1つは「いきなり真っ黒にしたくない」という情緒性だ。メーカー視点では、機能的価値と情緒的価値の訴求になる。
これまで通勤が当たり前だった会社員も、リモートワークで新たな働き方を手に入れた。それに伴い高まったのは、「そこそこの見た目で十分」という心理だ。
■続ける人が多い一方、「グレイヘア」への憧れも
最近では、白髪になっても染めない著名人も目立つようになった。女性では、近藤サトさん(フリーアナウンサー、日本大学芸術学部特任教授)が有名で、『グレイヘアと生きる』(SBクリエイティブ)という著書も出している。
男性では、俳優で歌手の陣内孝則さんや吉川晃司さんが知られる。
マンダムは、「ルシードの利用層である40代男性の多くは、それほど白髪量が多いわけではないので、継続して白髪染めをする方がほとんどです」と前置きしつつ、こう話す。
「少数ですが、『美しいグレイヘアを楽しんでいる芸能人へのあこがれ』や『定期的にずっと染め続けないといけない煩わしさ』を話す人もおられます」
以前、取材したファッション関連企業の男性経営者(当時60代)は、細身で上質なスーツを着こなすダンディな人だったが、美容院で「目立たなくする白髪隠しを勧められると断ります」と話していた。「何も足さない、が自分のモットー」だからだと言う。
今後は、こうした自然派も増えそうだ。
■セルフ染めの傾向は続きそう
ここからは「支出」の視点で、withコロナ時代の消費者意識を考えたい。
今回のコロナ禍で、収入減に追い込まれた人も多いだろう。そうなると、生活防衛の心境から伸びるのが「内向きの消費」だ。
これまでも、飲食の世界では収入減になると、外食が減り、自宅で食事を作る機会が増えていた。自粛期間中も、総じて食品スーパーの売り上げが好調だった。
感染者が拡大する「第2波」問題もあり、白髪染めでも「美容院・理髪店ではなく自宅で」という傾向は高まるだろう。その場合のノウハウは、女性の達人に学ぶのもよさそうだ。
例えば、美容意識の高い女性でも「美容院での白髪染めは数カ月に1度」と決めている人が多い。ロングヘアでない限り「美容院できちんと染めた後、しばらくして目立ってきたら、自分でリタッチ(補正)する」という。この「リタッチ」も、前述のカラーリンス志向に似ている。あまり気負わない部分も参考になりそうだ。
最後に、白髪染めは、少なからず髪にはダメージがかかる。かぶれる人もいるので、実施する場合は、取扱説明書をよく読んで行いたい。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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