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対面から手紙まで、相手の心を本当につかむ「お礼」と「お詫び」の基本

プレジデントオンライン / 2020年8月29日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/RoBeDeRo)

仕事上、「お礼」と「お詫び」をする機会は多いが、マナーの基本があやふやな人も多いのではないだろうか。相手の心に響く「お礼」と「お詫び」のマナーを知れば、より円滑な人間関係が築けるはず。

■相手の性格を見抜きつつ相手の気持ちを考える

お礼とお詫(わ)びのマナーの基本は、相手の性格を見抜くこと。特に相手が嫌だと思うことを見極めましょう。そのうえで、相手の気持ちや立場を考えることが大切です。

とはいえ、相手の気持ちを察するのは難しいもの。人はそれぞれ考え方や物事の捉え方が異なるので、Aさんに喜んでもらえたことを、そのままBさんにしても、喜んでもらえるとは限りません。それなのに、人は相手の気持ちを無視して、自分がうれしいと思うことを押しつける場合があります。それでは、相手の気持ちを考えたつもりになっているだけ。「自分ならどう思うか」ではなく、「相手がどう思うか」を考えてください。例えば、お礼を言われるのはうれしいものですが、人によっては、何度もお礼を言われると、しつこいと感じることもあるのです。

加えて、相手との関係性や距離感を考慮しましょう。お礼もお詫びも、相手との関係性によって、ふさわしい対応が異なります。相手の気持ちを考慮しつつ、人間(じんかん)距離を上手にとることを心がけてください。

■マナーは愛であり相手を大切に思う心

マナーは堅苦しいものと考える人も多いようですが、私は新渡戸稲造の著書『武士道』の中の言葉にマナーの原点があると思っています。「体裁を気にして行うのならば、礼儀とはあさましい行為である。真の礼儀とは、相手に対する思いやりが外に現れ出たもの。礼儀の最高の姿は愛と変わりありません」(『武士道』より)

これを読むまで、私は「愛」という言葉は気恥ずかしく、あまり好きではありませんでした。でも、“LOVE”という言葉が日本に入ってきたとき、私たち日本人は「愛」ではなく、「ご大切に」と訳したのです。つまり、「愛」とは自分を大切にするように、家族や職場の仲間、お客さまを大切にする思いやりの心。私は『武士道』を読んで、マナーは愛であり、思いやりの心をもって、“I am OK, You are OK.”と言える世界をつくっていくことだと解釈しました。現代人は忙しく、文字どおり心をなくしがち。気持ちにゆとりをもち、思いやりの心を忘れず、日々過ごしたいものです。

お礼やお詫びの際にも、意思を伝達するだけでなく、相手の気持ちを思いやる「愛語」を使うことが大切です。愛語は助詞が変わるだけで、相手を思いやるどころか、不快にさせる言葉に変わります。特にメールは無機質になりがちなので、書いた後に必ず読み返し、愛語を使っているか、そして受け取った人はどう思うかを考えましょう。お礼もお詫びも、思いやりと誠意のある言葉が相手の心に響くのです。

また、日本で生まれた「大和言葉」はやさしい印象を与えるもの。さまざまな表現があるので、お礼やお詫びに取り入れるといいでしょう。

そして最近は、「ありがとう」や「ごめんなさい」でなく、あらゆる場面で「すみません」と言う人が増えています。ビジネスの世界では、その場にふさわしい言葉を選ぶことが重要です。そのためにも、多くの言葉を知って、お金持ちならぬ“言葉持ち”をめざしてください。

■話し方や表情が印象を左右する

お礼もお詫びも気持ちを伝達するものですが、アルバート・メラビアンという米国の心理学者は、人間の伝達効果は「言葉が7%、話し方が38%、表情が55%」と唱えています。

例えば、目を閉じた状態で「申し訳ありません」という言葉を聞いても、まったく申し訳なさそうに聞こえません。一方、目を開けて、相手の表情や動作を見ながら、お詫びの言葉を聞くことで、「申し訳ない」という気持ちが伝わるのです。特に、電話は相手の表情が見えないので、声に表情をつけることを意識してください。

■手紙を送るには日ごろの準備が必要

現代はメールを使うことが多いため、手紙が届くと印象に残ります。一文字一文字ていねいに書いた手紙でお礼やお詫びを伝えると、より相手に気持ちが伝わるでしょう。

お礼やお詫びの手紙は、便せんと封筒を使うのが基本。特に目上の方に葉書を使うのは失礼です。葉書は読んで字のごとく、本来タラヨウの木の葉や着物の切れ端に書いたもの。封書で送るのがマナーです。

しかし、いざ手紙を書こうと思っても、便せんや封筒が手元にないと送るのが遅れてしまいます。そこで、お礼の手紙であれば葉書を使い、1行目に「葉書にて失礼いたします」と書けばOK。マナー違反をするときは先手必勝。相手も「この人は自分のマナー違反をわかっているんだ」と思い、許してくれるはずです。

また、お礼の手紙を書くとき、おすすめなのがメッセージカードです。カードを封筒に入れることで封書扱いとなり、相手に敬意を表すことができます。手紙に香りを添える文香(ふみこう)を同封すれば、封筒を開けたとき、ふっと香り、気持ちがなごみます。

こうした手紙をいつでも出せるよう、素敵なカードや封筒、文香を常備しておくといいでしょう。そして、切手の準備も忘れずに。仕事も人生も準備が大切です。手紙も日ごろから準備をしていないと、タイミングよく出せません。いくら相手を思いやる気持ちがあっても、タイミングがズレると相手に届かないのです。

このように思いやりの心をもって、言葉遣いや声の表情、便せんなど隅々にまで心を配ることが、お礼とお詫びのマナーです。しかし、思いやりの心は急にはもてません。常に周囲の人々を大切にし、誠実な気持ちで接することが、お礼とお詫びのマナーにつながるのです。

■ありがたい思いを感想とともに伝える

昔から「お礼は3日以内に!」といわれていますが、時代が変わっても、人の気持ちは変わらないもの。できれば3回、最低でも2回はお礼を伝えましょう。

お礼のマナー

例えば、ビジネスの場で食事をごちそうになったら、会計後に「ごちそうさまでした」と伝え、翌日にメールまたは電話で「昨日は、ありがとうございました」とお礼を言います。そして、3回目は次に会ったとき。「先日は、ごちそうさまでした」と伝えましょう。しかし、感謝を心に刻まないと、3回目を忘れてしまいます。日々、感謝の気持ちを忘れずに過ごすことで、相手も自分もハッピーになります。

また、相手にきちんと感謝の気持ちを伝えたいときはメールや電話のあとに手紙を書きますが、メールでも手紙でも、「素敵なお店で、豊かな時間を過ごせました」など感想を添えて。ありがたい気持ちが、より相手に伝わります。

基本は“感謝のこころ”を伝えること

■素直に誠心誠意話をすることが大切

お詫びをするときは、「逃げない、待たせない、正直に伝える」の3つを心がけましょう。お詫びには勇気がいりますが、逃げずに一歩前に出る気持ちをもってください。待たせれば待たせるほど相手の怒りは増し、ボヤが大火事になります。そして、誠意をもって正直に話しましょう。ごまかさず、正直に伝えたほうが自分も早くラクになります。私も今までたくさん失敗してきましたが、素直に誠心誠意謝って、許してくださらなかった人はいませんでした。

お詫びのマナー

また、ビジネスシーンでは、お詫びの言葉だけでなく善後策まで伝えたほうがいい場合も。お詫びのマナーにもマニュアルはありません。どんな謝り方をすれば相手の心に届くか、真摯(しんし)に考えることが重要です。

そして、お詫びのときこそ日ごろの誠実さが生きるもの。普段から思いやりをもって周囲に接していると、問題が起こっても、相手は理解を示してくれるはずです。

お詫びは“真摯にこころから”伝えること

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岩下 宣子(いわした・のりこ)
マナーデザイナー
現代礼法研究所主宰。NPO法人マナー教育サポート協会理事・相談役。企業や学校などでマナーの指導、研修、講演を行う。近著に『図解 日本人なら知っておきたい しきたり大全』(講談社)。

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(マナーデザイナー 岩下 宣子 構成=籔 智子 写真=iStock.com)

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