民主主義か経済か…究極の選択!「米中対立激化」で日本はどちらの踏み絵を踏む
プレジデントオンライン / 2020年8月8日 11時15分
■アフターコロナの潮流は「分断」
新型コロナウイルスによって大きく揺れ動いた国際社会。日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中均氏は、アフターコロナのひとつの潮流として、「分断」を挙げる。
「アメリカでは、新型コロナウイルスに感染した死亡者は黒人の割合が高かった。その原因として所得や医療の格差があらわになり、人種差別問題に火がつきました。また欧州ではイタリアやスペインが医療の支援を頼んでも、EUベースの協力が不十分でした。少し前まで欧州にあった統合に向かって進んでいく雰囲気が失われつつあります」
社会が不安定化することで強いリーダーが求められ、コロナ以前から先進国で勃興していたポピュリズムが加速していく。さらに田中氏は、コロナによって中国の世界に対する浸透力が強まったと分析する。
「近年、東南アジアを中心に中国に対する経済依存度が大きくなっています。その中国は経済回復が早く、アメリカ、欧州、日本などの先進国は回復が遅れるかもしれません。そうなると新興国と先進国の間の経済的差異が縮小していくでしょう」
国際社会の振れは大きくなるのか。専門家の予測に耳を傾けてみよう。
■「香港の中国化」で米中対立が激化する
これからの半年を予測するうえで大きな要因になるのは、アメリカの大統領選挙です。トランプ大統領の頭にあるのは、いかにして再選を果たすかということ。普通、現職大統領の一番強いカードになるのは、経済です。経済がよい状況において、現職大統領はまず負けません。しかしアメリカ経済はコロナで大きなダメージを受けて、突然よくなる見通しはない。
トランプ大統領に残されているカードが、中国に対する強硬策です。急速に台頭し、世界で影響力を拡大している中国をアメリカは脅威に感じており、反中意識はほぼコンセンサスとなっています。
現在の米中の対立で鍵を握るのが、香港と台湾です。これらの動向によって、きびしいシナリオと、穏当なシナリオに分かれていきます。
中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会で、香港の反政府的な動きを取り締まる「香港版国家安全法」の導入が決まりました。これまで香港は「一国二制度」の下で高度な自治と自由な資本主義を認められ、中国にとってもプラスに働いていました。ところが中国は香港におけるデモの拡大により危機意識を持ったのでしょうか、中国の法体制を香港に持ち込む強硬策を採ろうというわけです。
もし中国本土と同じ保安体制が敷かれるなら、世界は「香港が中国化される」と見るでしょう。おそらくアメリカは中国に対する制裁措置を導入し、香港に認めてきた貿易や渡航における優遇措置を停止するはずです。さらにアメリカ株式市場への中国企業の上場制限、中国ハイテク企業の製品締め出しなど、中国の排除を進めていく。中国も対抗措置を採るでしょうから、全面的な対立に発展していきます。
さらに尾を引く問題が、台湾です。蔡英文総統は、統一を目指して中国が提案する「一国二制度」は実体を失ったとして受け入れない姿勢を示しています。つまり独立を意識した台湾化が進んでいくということです。香港をめぐって米中が軍事的な衝突にまで発展していくことは考えにくい。
しかし香港情勢の悪化を受けて、台湾が独立の方向に舵を切れば、中国は軍事的な示威行動を行うかもしれません。戦時下において、アメリカの大統領は人気があります。再選される目的でトランプ大統領が戦争に打って出ることはさすがにないでしょうが、中国が脅威を与えるような行動に出れば反応せざるをえません。その事態が悪化していくのが、最悪のシナリオです。一方、中国が穏当な形で香港問題を処理して、アメリカとの対立を先鋭化させない静かな外交ができれば、最も平和なシナリオにおさまります。
米中の対立が激化したとき、最も被害を受けるのは日本です。中国は日本にとって最大のマーケットですが、日本の安全保障はアメリカに依存しています。もし米中が深刻に対立する事態になったら、民主主義的価値を共有し同盟関係にある日本はアメリカにつくしかありません。そうなると、中国との経済関係は大きな打撃を受けます。そうならないためにも、日本が中心になって国際的な協調体制を構築し、米中に自制を求めるべきだと私は考えます。
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日本総合研究所国際戦略研究所理事長
京都大学卒業後、外務省入省。経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官などを歴任。2005年退官。日本国際交流センターシニア・フェロー。
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(日本総合研究所国際戦略研究所理事長 田中 均、プレジデント編集部)
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