働き方改革とは「働く人に優しく」という甘いものではない
プレジデントオンライン / 2020年7月31日 11時15分
※本稿は、『Indeed特別編集 あの人の仕事論』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■これから、働き方はどう変化していくのか?
2019年には政府による働き方改革関連法案の施行もあり、ここ数年、「働き方改革」があちこちで叫ばれるようになりました。従業員の副業を認めたり、労働環境の整備を進めたりといった取り組みを積極的に行う企業も増え、ワークライフバランスをより重視して仕事を選ぶ人々も、多く見られるようになってきています。
そんななか起こった、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大。
日本でも、緊急事態宣言によって外出自粛が要請され、テレワークやオンライン会議を導入する企業が一気に増加。さらには、人々の行動変容により経済活動にも大きな影響が及び、倒産する企業や失業者も現れるなど雇用不安も広がっています。
■働き方改革を迫られる「withコロナ時代」
以前とまったく同じ生活を送るのは難しいことは、明らかとなってきました。私たちは、「withコロナ時代」を生き抜いていかなければなりません。それは、日々の行動様式を変えていくことであり、いやが応でも「働き方の変革」を迫られることでもあります。
誰もが未知の世界へと向かわざるを得なくなった2020年、日本人の働き方はどうなっていくのでしょうか?
2011年よりクラウド型ビジネスチャットツール「チャットワーク」の提供を開始し、時代に先駆け、働き方の変革を後押ししてきたとも言えるチャットワーク株式会社。代表取締役CEOの山本正喜氏に、あらためて「働くということ」について聞いてみました。
■ものづくりも経営も“コンセプト・ドリブン”に
「withコロナ時代」に仕事をする上で、必須とも言えるクラウド型ビジネスチャットツール。テレワークやオンライン会議が推奨される現在、時間と場所を選ばない働き方を手助けするツールとして、「チャットワーク」の利用者も急増しています。
![『Indeed特別編集 あの人の仕事論』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/6/250/img_16f212dd9011e3afa7b078a4566dd9081070101.jpg)
そもそもチャットワークの出発点は、「自分たちが欲しいものをつくる」こと。
チャットワークを開発した際も、山本氏は、中小企業のITにそれほど詳しくない人でも使える、シンプルで分かりやすいシステムをつくることにこだわりました。
中小企業で働く自分たちに最適化されたツールであることを追求したことで、チャットワークは、幅広く世の中に受け入れられていったのです。
その後、中小企業から、大企業、個人ユーザーと顧客層が広がるにつれ、ニーズも多岐にわたっていきましたが、当初のコンセプトからブレないよう、ロードマップをしっかり定めて開発を進めていったという山本氏。
彼がこのように、まずはキーとなるコンセプトをしっかりと打ち立て、常に、そこからブレていないかを検証しながら物事を進めていく、「コンセプト・ドリブン」な仕事の仕方を意識するようになったのは、スティーブ・ジョブズの影響が大きいと言います。
「日本企業が弱いのは、合議制でものづくりをするからだというジョブズの言葉が、心に突き刺さったんです」(山本氏)。
■働くことがゲームのように楽しい社会の実現
会社や組織づくりにおいても、コンセプトがどれだけしっかり確立されているかどうかが重要です。山本氏がCEOになって初めて手掛けた仕事も、会社のコンセプト、経営理念を一からつくり直すことでした。
「チャットワーク」によって最終的にどんな世界をつくりたいのか、その世界をどのように人々と共有していくのかということを、徹底的に突き詰めた結果、「チャットワークを通して、働くことがゲームのように楽しい社会の実現を目指す」という、新たなコーポレートミッションが生み出されたのです。
「そこに至る前に、まずはやりたいことのアイデアを片っ端から列挙し、それらを何のために行うのか一つひとつ検証していきました」と山本氏。原点に立ち返り、アイデアを徹底的に洗い出す行為は、これからの働き方を考える上でも有効な方法と言えそうです。
![チャットワーク株式会社・山本正喜CEO](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/4/670/img_6457db76b664043749e88b35af0d89c9430830.jpg)
■能動的に選ぶと仕事はもっと楽しくなる
経営者になった今でも、山本氏の根底にあるのは「ものづくり」です。
彼は、ゲーム制作に夢中になっていた子どものころの「人に喜んでもらうことが楽しくて仕方がなかった」という思いを持ち続けたまま、学生時代に兄と共に会社を起業。これまで無我夢中になって、仕事に取り組んできました。
ところが社会に出てみると、「仕事が最高に楽しい!」という人は、意外にもとても少ないことにショックを受けたのだとか。
「人がゲームに夢中になるのは、それが楽しくて仕方がないから。ならば、仕事もそういうものにしていけばいいのではないか」
さらに、山本さんは続けます。
「今の世の中は、できること、お金になることばかりが重要視されている気がしますが、これを、自分がやりたいこと、社会の役に立つことに寄せていくことが大事だと思います。人は、目的が明確で創造的な仕事を自ら選択し、それが人の役に立っていると肌で感じられると、仕事が本当に楽しく感じられてくるものだからです」
チャットワークでは、働くことを楽しくしない行為はNG。「社員には、創造的な仕事だけをしなさいと伝えている」と言います。マネジメント的にも、社員の希望や適性を尊重し、会社の方向性と社員が人生を通して実現したいことが重なる部分で業務をオファー。本人に選択させることを意識しています。
単純労働はIT化し、可能な限りアウトソーシング。経営指標や経営会議の議事録なども全社員に共有し、経営の透明化を図っています。これにより、社員の自律性が格段に上がり、会社の雰囲気もよりよくなったそうです。
図らずも、新型コロナウイルスの影響でテレワーク化が加速し、人々は、通勤の煩わしさや、実は無駄だったかもしれない仕事から解放される快適さを知りました。その分、より自律的に仕事に取り組まなくてはならなくなりましたが、今後も、この流れは止まらず、多様な働き方はますます広がっていくことでしょう。
■「働き方改革」の本当の意味を確認する
コロナの問題以前から、山本氏は「働き方改革とは、働く人に優しい環境をつくろうといった甘いものではないのに、それを誤解している人が多い」と感じていたそうです。
![チャットワーク株式会社・山本正喜CEO(写真提供=KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/6/250/img_b6bcf61b9a3dad8effe80f97660b9cfc205655.jpg)
政府が「働き方改革」を推進している背景には、これから生産年齢人口がどんどん減少していく流れのなか、どうにかして少子化に歯止めをかけ、高齢者や主婦などの潜在労働人口を増やしたい、生産性を向上させて、国力を上げたいというもくろみがあります。
「企業も働く人も、国が推進している働き方改革の本当の意味をしっかり理解し、ITによる業務の効率化などの施策をきちんと講じた上で、働き方を見直していく必要がある」と、山本氏は警鐘を鳴らしていました。
withコロナ時代となって、誰もが安穏とはしていられない状況です。人と接触する必要のある仕事場では、感染症対策が必須です。テレワークが可能な人のなかには、環境づくりやコミュニケーションの取りづらさなど、家で仕事をすることによる新たな悩みも生まれています。企業はますます、社員の声に耳を傾け、不満があればそれを解消し、より働きやすくしていこうという姿勢が求められるでしょう。
■楽しく働く人が増えたら世の中はハッピーになる
チャットワークでも追求しているこの姿勢の根底にあるもの。それは、楽しく働く人が増えれば顧客の満足度も高まり企業の生産性も上がっていく、働く個人の人生もさらに良くなり世の中全体がハッピーになっていくという考えです。
働く側も、自分は今、どのような気持ちで仕事に取り組んでいるのか、仕事を楽しんでいるのかを常に問い続け、どのような働き方をすると気持ち良く仕事ができるのか、仕事の生産性を上げるには何が必要かをしっかり考え、要望し、自らも環境を整えていく必要がありそうです。
これからも世の中は、急激に変化していくでしょう。この機にあらためて、今の自分の立ち位置、理想の働き方について、じっくり考えてみるのはいかがでしょうか。
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チャットワーク CEO
1980年生まれ。大学在学中に、兄の山本敏行と共にチャットワーク社の前身となる、EC studioを創業。CTOとして多数のサービス開発に携わる。クラウド型ビジネスチャットツール「チャットワーク」の開発者であり、現在、チャットワーク株式会社代表取締役CEO。チャットワーク社を通して、楽しく生き生きと働く人が世の中に増えるよう、社員と共に日々奮闘している。
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(チャットワーク CEO 山本 正喜 構成=矢本祥子/クエストルーム カメラマン=井上洋平)
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