「消えないラテアート」老舗コーヒー店が次々と新商品に挑んでいるワケ
プレジデントオンライン / 2020年7月31日 11時15分
■「消えないラテアート」のコーヒーゼリー
7月17日、サザコーヒー(本店・茨城県ひたちなか市。現在の稼働店舗数13店。1店は改装休業中)からユニークな新商品が発売された。
「カフェラテ アートゼリー」(650円)だ。
全体がゼリー状なので、デザインが「消えない」。製造方法の特許出願中だという。
「よくぞ、ラテアートをゼリーにしたな。すごいです」と大手競合の関係者は驚く。
「ラテアート」とは、バリスタ(コーヒー職人)が「カフェラテ」(エスプレッソコーヒーに泡立てたミルクを注ぐ)を淹れる際に作るデザインのこと。ハートマークやリーフ(葉)の模様が知られる。表面に彩られたラテアートを飲んだことがある人も多いだろう。
![新商品「ラテアート コーヒーゼリー」。ゼリー状のため、消えないラテアートを楽しめる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/250/img_6b48980241da70f4b1f67e2b3fbcab05265429.jpg)
きれいに仕上げるのには技術が必要で、上級者ほど、ハートの中に小さなハートを入れた「ハートインハート」など工夫を凝らす。サザコーヒーでは、安優希バリスタ(2019年JBC=ジャパンバリスタチャンピオンシップ4位)が得意とする「あんこうラテ」も、以前に期間限定で提供した。同県大洗町名物の魚・アンコウをかわいくデザインした商品だ。
今回の新商品を企画・開発したのは、6月に新社長に就任した鈴木太郎氏だ。
「最大の特徴は『持ち運びできるラテアート』です。通常のホットドリンクで提供されるラテアートは、時間とともに描かれたデザインも朽ちてしまいますが、ゼリー仕上げにしたため冷蔵もできます」(鈴木氏)
大手チェーンではなく個人店(個人経営の店)だが、南米コロンビアに直営コーヒー農園も持つサザコーヒー。味も「本格派の濃厚なコーヒーゼリー」にこだわったという。
新商品の誕生には、新型コロナウイルスでの活動自粛があった。
■店舗が休業する中、通販向けの新商品を開発
直営店の大半が繁盛店だったサザも、新型コロナでの緊急事態宣言や外出自粛を受けて、店舗の売り上げは激減した。「営業していた13店舗中、商業施設に入居する9店舗は休業。短縮営業した4店舗も売り上げは75%減となりました」(鈴木氏)
コーヒー品評会「ベスト・オブ・パナマ」の国際審査員をはじめ、国内外のコーヒー品評会の審査員も務める鈴木氏は、世界最高級のコーヒー豆「パナマ・ゲイシャ」を日本に紹介した立役者で、通常ならコーヒー生産国を中心に世界各国を飛び回る。
「海外出張ができないので、在庫分のコーヒー豆の違う焼き方を試してみたり、ツイッターで『ウィークリー サザコーヒー太郎』という動画を配信したりもしました。当初は毎日配信したので、焙煎や抽出などのネタが尽きてきた頃、新たなネタと出会ったのです」
どういうことか。
「サザコーヒー本店にはケーキ工房もあり、自家製スイーツを作ります。店舗の売り上げ減少を補う通販の新商品として、コーヒーゼリーを試作していました。これを動画で紹介しようと飛びついたのです。即席でおいしいコーヒーゼリーも自分でつくり配信。色が似ているというだけで、そばつゆでもゼリー状の仕上げを試しました」
![人気メニューの「カステラショートケーキ」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/a/670/img_7a78d1cf6f3ba9c3d8ef17394412dc6e930764.jpg)
鈴木氏の持ち味は、こうした積極性だ。従業員から見れば、「どこに連れていかれるか、分からない」時もあるが、功名心よりも好奇心が強い。意表をつくような発想も、同社の知名度を上げてきた。中小企業が参考にできそうな活動も多いので、一部を紹介しよう。
■夫婦で始めた喫茶店を成長させたサザの「気性」
サザコーヒーは、鈴木太郎氏の父・鈴木誉志男氏(会長)が1969(昭和44)年に創業した老舗だ。27歳で開業した誉志男氏が、妻の美知子氏(前社長)とともに徐々に拡大させた。もともと、昭和時代の「喫茶店マスターとママ」だったが、相撲の親方でいう“一代年寄”で終わらなかったのは、「進取の気性」が従業員も含めて受け継がれてきたからだ。
![ひたちなか市にあるサザコーヒー本店](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/670/img_d143678bc03718f85961c0d83c2b14cb1499897.jpg)
『日本人のコーヒー店』(柴田書店)という著書も持つ父は業界の重鎮で、多くの個性的なコーヒーを開発してきた。時に無鉄砲に思える決断を、みんなで軌道に乗せた事例も多い。
例えばコロンビアで所有するコーヒー農園は、これまでに3回も「コーヒーさび病」などで全滅。近年ようやく良質なコーヒー豆が収穫でき、品評会で入賞を果たすようになった。
また、海沿いの商業施設に入居する大洗店は、もともと東日本大震災直後の津波で建物が被害を受け、競合コーヒー店が撤退。地元から陳情を受けた誉志男氏が入居を決断した。初代店長を任された小泉準一氏(現・取締役)が店舗運営とバリスタ教育に注力。前述の安バリスタらが育ち、最近は鈴木氏が仕掛けた「マリー様のモンブランケーキ」が好評だ。
コーヒーを愛する従業員が多く、主力商品であるコーヒー豆も売れる。特に本店では、注文したコーヒーの味に気に入ったお客が、200グラムで1200円以上するコーヒー豆(銘柄によって価格は異なる)を買い、自宅でも楽しみ、贈答にも利用する。
コロナ自粛中も通販が伸びた。「4月と5月は対前年比で約3倍、通販で豆が売れました」(鈴木氏)。数字は非公表だが、休業した品川店と大宮店の売り上げに匹敵した、という。
こうした社風や果敢な取り組みが、新商品の背景にあったことも指摘しておきたい。
■アニメを再現した「マリー様のモンブランケーキ」
ネット通販でもコーヒー豆を売ってきた同社だが、コロナ自粛を機に、新たな商材を投入した。前述の「モンブランケーキ」を冷凍にしたのだ。
これは、大洗が舞台の人気アニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)の登場人物にちなんだものだ。ガルパンは、戦車同士の模擬戦「戦車道」の全国大会で優勝を目指す女子高校生の物語で、コアなファンも多い。
鈴木氏は、登場人物のひとり「マリー様」がモンブランケーキを食べるシーンにヒントを得て、独自に再現した笠間栗のモンブランケーキを販売(※)。ツイッターでも情報発信を続けたところ人気が沸騰した。コロナを機に、これを冷凍ケーキにしたのだ。
※現在は通販での販売は終了しており、大洗店と水戸駅店で提供。
「超高級冷凍モンブランケーキで1個1500円。毎日20個限定でしたが、いつも完売。コロナ自粛中の50日間で累計1000個が売れました」(同)
実際に注文した人によると、クール便で届き、中にはケーキのほかに1杯取りのドリップパック2つと金メダルチョコが同封されていたという。
同社はこうした“タダコーヒー”も得意だ。ドリップパックや1個250円の金メダルチョコは、時にイベント時などで無料配布する。受け取った人は持ち帰って飲食するまで記憶に残る。つまり宣伝広告の役割も果たす。
商品の品質あってだが、こうした「ふるまい」は顧客満足度の向上につながる。
■コロナ禍でも業績を維持する企業の共通点
コロナ禍でも「業績を維持した企業」を取材してきたが、共通するのは次の3つだ。
(2)従来に近い、サービスを提供する
(3)走りながら修正する
この3つを、サザコーヒーの取り組みに当てはめてみよう。
(1)は、これまでも好調だった通販業務の強化だ。外出自粛期間中の4月1日には公式オンラインショップをリニューアルし、「店舗 営業情報」「YouTube Saza Coffee」「オンライン店舗」をサイトのトップページから検索できるように見直した。
(2)は、前述の冷凍モンブランケーキの通販以外に、これまで本店はカフェのみで提供していたケーキのテイクアウトも始めた。競合も行ったが、サザの実績は段違いだ。
「以前からテイクアウトをしていた水戸エリアの3店では、コロナ前の1月が810個、6月が1688個と2倍以上の売れゆきとなりました」(鈴木氏)
テイクアウトでも小さな工夫を重ねた。
「店で食べていただくケーキと、テイクアウト用のケーキの違いを研究しました。例えば、その場で見た人以外も食べるので、安心・安全な素材を使っていることを分かりやすく伝える。よりおいしそうに見せる。包装箱も大切だなと思いました」(誉志男氏)
特に飲食(モノづくり)については、きめ細かいケアが必要だ。
■宣伝になるならとにかく果敢にやってみる
一方、オンライン配信(コトづくり)については、拙速を気にしない。
7月24日、オンラインイベント「ラテアート コーヒーゼリーまつり」が開催された。
店舗営業中の本店カウンターに鈴木氏が入り、ホットドリンクのラテアートを自ら製作。これをゼリーにしたラテアートゼリーも披露した。
![カフェラテ アートゼリー(提供=サザコーヒー)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/300/img_d17c32d9fc398f1e1dd68a66353bc75b220020.jpg)
ここまでは順調だったが、以前からメニューにあったコーヒーゼリーをホールケーキほどの巨大なサイズで作り、来店客に配るうちに30分の配信時間が終了。視聴者にはラテアートゼリーの印象が薄れてしまった。とはいえ、興味深く近寄ってきた来店客に、次々にコーヒーゼリーを無料でふるまう“タダコーヒー”の姿勢は伝わっただろう。
プロの制作者が見れば反省点の多い内容だが、「拙速」でも「果敢」に行うのが持ち味だ。
withコロナで、業績の先行きが心配な人も多いだろう。この状況では、サザの取り組みは参考になる。実店舗でもオンライン店舗でも「待っていては、お客は来ない」。興味を持った取り組みは、自社流にアレンジしてはいかがだろう。
----------
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
----------
(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
《大手5社アイスコーヒー飲み比べ》最高得点を叩き出した「最安値なのに最高」ツウも満足の1杯
週刊女性PRIME / 2024年7月17日 8時0分
-
1974年創業、奈良のスペシャルティコーヒー専門店が東京に初進出!コーヒー氷にアイスコーヒーを注ぐ新感覚アイスコーヒー「ダブルオリジンアイスコーヒー」、「東京オリジナルブレンド」も新登場 「ROKUMEI COFFEE CO. グランスタ丸の内店」7月17日(水)オープン
@Press / 2024年7月16日 11時45分
-
「アルプロ」オーツミルクから、バリスタ特別仕様の「バリスタシリーズ」今秋、日本向けレシピで発売 発売に先立ちCAFERES JAPAN 2024に出展「バリスタシリーズ」の試飲とフォーミング実演を実施
Digital PR Platform / 2024年7月10日 15時7分
-
50秒でコーヒー1杯、24時間営業のロボバリスタが人に取って代わる?―中国
Record China / 2024年7月2日 14時30分
-
FAMIMA CAFEのアイスコーヒー・ブレンドが2年ぶりにリニューアル!~アイスはやわらかな苦みと芳醇な香り感じる味わいに、ブレンド濃厚はコク深くキレのある後味に進化~
PR TIMES / 2024年6月24日 12時45分
ランキング
-
1マクドナルドが「ストローなしで飲めるフタ」試行 紙ストローの行方は...?広報「未定でございます」
J-CASTニュース / 2024年7月17日 12時55分
-
2申請を忘れると年金200万円の損…荻原博子「もらえるものはとことんもらう」ための賢者の知恵
プレジデントオンライン / 2024年7月17日 8時15分
-
3「再配達は有料に」 ドライバーの本音は
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月17日 6時40分
-
4大谷翔平の新居「晒すメディア」なぜ叩かれるのか スターや芸能人の個人情報への向き合い方の変遷
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 20時40分
-
5「380円のデザートを10人で分けて…」“ラーメン屋でラーメンを頼まない”ヤバい客の実態を店主のプロレスラーが赤裸々証言
文春オンライン / 2024年7月17日 11時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)