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「消えないラテアート」老舗コーヒー店が次々と新商品に挑んでいるワケ

プレジデントオンライン / 2020年7月31日 11時15分

茨城県・大洗駅前に設置されているアニメ「ガールズ&パンツァー」の看板=2018年10月 - 画像=筆者撮影

茨城の老舗コーヒー店・サザコーヒーが「消えないラテアート」を実現させた。カフェラテの表面をゼリーで固めることで、デザインが消えないのだ。同社ではアニメ作品とのコラボ商品など、ほかにもさまざまな新商品に挑んでいる。その背景を経済ジャーナリストの高井尚之氏が取材した――。

■「消えないラテアート」のコーヒーゼリー

7月17日、サザコーヒー(本店・茨城県ひたちなか市。現在の稼働店舗数13店。1店は改装休業中)からユニークな新商品が発売された。

「カフェラテ アートゼリー」(650円)だ。

全体がゼリー状なので、デザインが「消えない」。製造方法の特許出願中だという。

「よくぞ、ラテアートをゼリーにしたな。すごいです」と大手競合の関係者は驚く。

「ラテアート」とは、バリスタ(コーヒー職人)が「カフェラテ」(エスプレッソコーヒーに泡立てたミルクを注ぐ)を淹れる際に作るデザインのこと。ハートマークやリーフ(葉)の模様が知られる。表面に彩られたラテアートを飲んだことがある人も多いだろう。

新商品「ラテアート コーヒーゼリー」。ゼリー状のため、消えないラテアートを楽しめる
新商品「カフェラテ アートゼリー」。ゼリー状のため、消えないラテアートを楽しめる(撮影=プレジデントオンライン編集部)

きれいに仕上げるのには技術が必要で、上級者ほど、ハートの中に小さなハートを入れた「ハートインハート」など工夫を凝らす。サザコーヒーでは、安優希バリスタ(2019年JBC=ジャパンバリスタチャンピオンシップ4位)が得意とする「あんこうラテ」も、以前に期間限定で提供した。同県大洗町名物の魚・アンコウをかわいくデザインした商品だ。

今回の新商品を企画・開発したのは、6月に新社長に就任した鈴木太郎氏だ。

「最大の特徴は『持ち運びできるラテアート』です。通常のホットドリンクで提供されるラテアートは、時間とともに描かれたデザインも朽ちてしまいますが、ゼリー仕上げにしたため冷蔵もできます」(鈴木氏)

大手チェーンではなく個人店(個人経営の店)だが、南米コロンビアに直営コーヒー農園も持つサザコーヒー。味も「本格派の濃厚なコーヒーゼリー」にこだわったという。

新商品の誕生には、新型コロナウイルスでの活動自粛があった。

■店舗が休業する中、通販向けの新商品を開発

直営店の大半が繁盛店だったサザも、新型コロナでの緊急事態宣言や外出自粛を受けて、店舗の売り上げは激減した。「営業していた13店舗中、商業施設に入居する9店舗は休業。短縮営業した4店舗も売り上げは75%減となりました」(鈴木氏)

コーヒー品評会「ベスト・オブ・パナマ」の国際審査員をはじめ、国内外のコーヒー品評会の審査員も務める鈴木氏は、世界最高級のコーヒー豆「パナマ・ゲイシャ」を日本に紹介した立役者で、通常ならコーヒー生産国を中心に世界各国を飛び回る。

「海外出張ができないので、在庫分のコーヒー豆の違う焼き方を試してみたり、ツイッターで『ウィークリー サザコーヒー太郎』という動画を配信したりもしました。当初は毎日配信したので、焙煎や抽出などのネタが尽きてきた頃、新たなネタと出会ったのです」

どういうことか。

「サザコーヒー本店にはケーキ工房もあり、自家製スイーツを作ります。店舗の売り上げ減少を補う通販の新商品として、コーヒーゼリーを試作していました。これを動画で紹介しようと飛びついたのです。即席でおいしいコーヒーゼリーも自分でつくり配信。色が似ているというだけで、そばつゆでもゼリー状の仕上げを試しました」

人気メニューの「カステラショートケーキ」
写真=筆者撮影
人気メニューの「カステラショートケーキ」 - 写真=筆者撮影

鈴木氏の持ち味は、こうした積極性だ。従業員から見れば、「どこに連れていかれるか、分からない」時もあるが、功名心よりも好奇心が強い。意表をつくような発想も、同社の知名度を上げてきた。中小企業が参考にできそうな活動も多いので、一部を紹介しよう。

■夫婦で始めた喫茶店を成長させたサザの「気性」

サザコーヒーは、鈴木太郎氏の父・鈴木誉志男氏(会長)が1969(昭和44)年に創業した老舗だ。27歳で開業した誉志男氏が、妻の美知子氏(前社長)とともに徐々に拡大させた。もともと、昭和時代の「喫茶店マスターとママ」だったが、相撲の親方でいう“一代年寄”で終わらなかったのは、「進取の気性」が従業員も含めて受け継がれてきたからだ。

ひたちなか市にあるサザコーヒー本店
写真=筆者撮影
ひたちなか市にあるサザコーヒー本店 - 写真=筆者撮影

『日本人のコーヒー店』(柴田書店)という著書も持つ父は業界の重鎮で、多くの個性的なコーヒーを開発してきた。時に無鉄砲に思える決断を、みんなで軌道に乗せた事例も多い。

例えばコロンビアで所有するコーヒー農園は、これまでに3回も「コーヒーさび病」などで全滅。近年ようやく良質なコーヒー豆が収穫でき、品評会で入賞を果たすようになった。

また、海沿いの商業施設に入居する大洗店は、もともと東日本大震災直後の津波で建物が被害を受け、競合コーヒー店が撤退。地元から陳情を受けた誉志男氏が入居を決断した。初代店長を任された小泉準一氏(現・取締役)が店舗運営とバリスタ教育に注力。前述の安バリスタらが育ち、最近は鈴木氏が仕掛けた「マリー様のモンブランケーキ」が好評だ。

コーヒーを愛する従業員が多く、主力商品であるコーヒー豆も売れる。特に本店では、注文したコーヒーの味に気に入ったお客が、200グラムで1200円以上するコーヒー豆(銘柄によって価格は異なる)を買い、自宅でも楽しみ、贈答にも利用する。

コロナ自粛中も通販が伸びた。「4月と5月は対前年比で約3倍、通販で豆が売れました」(鈴木氏)。数字は非公表だが、休業した品川店と大宮店の売り上げに匹敵した、という。

こうした社風や果敢な取り組みが、新商品の背景にあったことも指摘しておきたい。

■アニメを再現した「マリー様のモンブランケーキ」

ネット通販でもコーヒー豆を売ってきた同社だが、コロナ自粛を機に、新たな商材を投入した。前述の「モンブランケーキ」を冷凍にしたのだ。

これは、大洗が舞台の人気アニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)の登場人物にちなんだものだ。ガルパンは、戦車同士の模擬戦「戦車道」の全国大会で優勝を目指す女子高校生の物語で、コアなファンも多い。

鈴木氏は、登場人物のひとり「マリー様」がモンブランケーキを食べるシーンにヒントを得て、独自に再現した笠間栗のモンブランケーキを販売(※)。ツイッターでも情報発信を続けたところ人気が沸騰した。コロナを機に、これを冷凍ケーキにしたのだ。

※現在は通販での販売は終了しており、大洗店と水戸駅店で提供。

「超高級冷凍モンブランケーキで1個1500円。毎日20個限定でしたが、いつも完売。コロナ自粛中の50日間で累計1000個が売れました」(同)

実際に注文した人によると、クール便で届き、中にはケーキのほかに1杯取りのドリップパック2つと金メダルチョコが同封されていたという。

同社はこうした“タダコーヒー”も得意だ。ドリップパックや1個250円の金メダルチョコは、時にイベント時などで無料配布する。受け取った人は持ち帰って飲食するまで記憶に残る。つまり宣伝広告の役割も果たす。

商品の品質あってだが、こうした「ふるまい」は顧客満足度の向上につながる。

■コロナ禍でも業績を維持する企業の共通点

コロナ禍でも「業績を維持した企業」を取材してきたが、共通するのは次の3つだ。

(1)その環境のなかで、できることをやり続ける
(2)従来に近い、サービスを提供する
(3)走りながら修正する

この3つを、サザコーヒーの取り組みに当てはめてみよう。

(1)は、これまでも好調だった通販業務の強化だ。外出自粛期間中の4月1日には公式オンラインショップをリニューアルし、「店舗 営業情報」「YouTube Saza Coffee」「オンライン店舗」をサイトのトップページから検索できるように見直した。

(2)は、前述の冷凍モンブランケーキの通販以外に、これまで本店はカフェのみで提供していたケーキのテイクアウトも始めた。競合も行ったが、サザの実績は段違いだ。

「以前からテイクアウトをしていた水戸エリアの3店では、コロナ前の1月が810個、6月が1688個と2倍以上の売れゆきとなりました」(鈴木氏)

テイクアウトでも小さな工夫を重ねた。

「店で食べていただくケーキと、テイクアウト用のケーキの違いを研究しました。例えば、その場で見た人以外も食べるので、安心・安全な素材を使っていることを分かりやすく伝える。よりおいしそうに見せる。包装箱も大切だなと思いました」(誉志男氏)

特に飲食(モノづくり)については、きめ細かいケアが必要だ。

■宣伝になるならとにかく果敢にやってみる

一方、オンライン配信(コトづくり)については、拙速を気にしない。

7月24日、オンラインイベント「ラテアート コーヒーゼリーまつり」が開催された。

店舗営業中の本店カウンターに鈴木氏が入り、ホットドリンクのラテアートを自ら製作。これをゼリーにしたラテアートゼリーも披露した。

カフェラテ アートゼリー(提供=サザコーヒー)
カフェラテ アートゼリー(提供=サザコーヒー)

ここまでは順調だったが、以前からメニューにあったコーヒーゼリーをホールケーキほどの巨大なサイズで作り、来店客に配るうちに30分の配信時間が終了。視聴者にはラテアートゼリーの印象が薄れてしまった。とはいえ、興味深く近寄ってきた来店客に、次々にコーヒーゼリーを無料でふるまう“タダコーヒー”の姿勢は伝わっただろう。

プロの制作者が見れば反省点の多い内容だが、「拙速」でも「果敢」に行うのが持ち味だ。

withコロナで、業績の先行きが心配な人も多いだろう。この状況では、サザの取り組みは参考になる。実店舗でもオンライン店舗でも「待っていては、お客は来ない」。興味を持った取り組みは、自社流にアレンジしてはいかがだろう。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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