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なぜ「苦しいこと」から逃げ続ける人は、決して一流になれないのか

プレジデントオンライン / 2020年8月4日 11時15分

撮影=初沢亜利

勝負に強い人は何が違うのか。総合格闘家の青木真也氏は「試合は怖い。だからこそ勝つことは気持ちがいい。試合の怖さや苦しさから逃げてしまうと、勝つことからも逃げることになってしまう」という――。

※本稿は、青木真也『距離思考』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

■良い意味での「諦めの悪さ」

人は勝負に強い人と弱い人に分かれる。

勝負に弱い人はわかりやすくて、人前で恥をかくのを嫌がるものだ。開き直れないという特徴もある。

格闘技における勝負弱い選手となると、もうひとつ大きな要素がある。そういうヤツらは「勝負師」の顔を持っていない。あくまで自分はいちアスリートであり、いち格闘技選手だと自身のことを考えている。

一方、勝負に強い人はとことん勝負師的思考を貫いている。自分が勝負師として生きていることを強く意識しているのだ。

勝つためには、目の前の戦いを楽しみながら、諦めず、しつこく、粘り強く向き合う。勝負強い格闘技選手を見ていると、良い意味で「諦めが悪い」ことが伝わってくる。

勝負というのは、たとえ劣勢に追い込まれても、本人が諦めるまでは負けじゃない。たとえ勝つ可能性が1%しかないとしても、それをどう受け止めているか。

「100回に1回は勝つということ。その1回勝てばいい」

そんなマインドセットができる人間は、たとえ一度きりの本番でも強さを発揮できる。

逆に「100回に1回しか勝てないのか。だとしたら、次の勝負で勝つのは無理に等しいんじゃないか」と考えてしまうようでは、絶対に勝てない。勝負師の頭には「負ける自分」の姿はない。

■「そんなの知らねえよ」と開き直れる人間こそ最強

世の中で一番強いのは、文字通り「無敵な人」。無敵とは、言葉を変えると「失うものを持たない」人だ。

失うものがない人間は何だってできる。背負うものがないからこそ、自分の思うがままに動ける。「そんなの知らねえよ」というマインドで開き直れる人間こそ最強だ。

僕自身は格闘技が好きないち格闘技選手である以前に、勝ち負けが明確につく勝負事が好きな勝負師だと自覚している。勝負師気質が強いのだ。

勝負の魅力は、なんと言ってもこのことが大きい。

「勝つことですべてが肯定される」

基本的に勝者が全部持っていくし、勝てばすべてが肯定される。評価もされるし、誰からも文句を言われない。

ただ、格闘技選手と勝負師というのは、本質的にはまったく別モノだ。異なる概念といってもいい。

格闘技はどこまでいってもエンターテインメントの要素が強くなる。

格闘技はスポーツであり、格闘技選手はアスリートだと考える人がいることを否定するつもりはないけれど、格闘技選手にはある種のタレントとしての側面もあるからだ。

敗者にスポットライトが当たることもある。自分の言葉で敗北までの「物語」を紡ぎ、それを試合でも表現して見る者を熱狂させ、巻き込んできた敗者は、時に勝者を食ってしまうのだ。

ただ、この世界はやはり、勝ち続けることで自分の立ち位置が作られていく。

勝つことで救われる人は多い。僕自身もまさに勝つことにこだわって、勝ちを重ねたことで救われた人間のひとりだ。

とくに幼少期の僕は、勝負に勝って、他者から認められることでしか、自己肯定感を獲得できなかった。落ち着きがなく、周りの子たちとケンカばかりしていた僕は、ずっと問題児扱いをされてきた。明らかに「普通」や「標準」という枠の外にいた。

■勝つことで自分の置かれた立場に派手な掌返しが起こる

そんなはぐれ者のように孤立していた僕が、自分の居場所を得られたのは、小学3年生から始めた柔道がきっかけだった。そこで勝つことを経験してから、勝つことで自分の置かれた立場に派手な掌返しが起こることを知った。

勝つことは気持ちがいい。

今でも覚えているのは、柔道を始めた当時、初の試合に臨んだときのことだ。

試合前はものすごい恐怖に押しつぶされそうになっていたのだけれど、相手と組んでからの僕は必死に動き回って、気付けば勝ち名乗りを受けることになった。そこで僕はこう思った。

「白黒付く勝負って面白いんだな」

すぐに「また勝負したい」と勝負事を欲するようになっていったのだ。

このときの思いは、格闘技選手となった今でも変わらない。

ひとつの勝負が終わったら、またやりたいなと思うし、勝負事から降りたいと考えたことはない。僕は死ぬまでずっと勝負師として生きるのだろう。

■恐怖心の中身は大きく分けて3種類

僕は試合が怖い。

試合が決まる前から恐怖感を抱えて生活を続けている。その恐怖感は、試合まで何日あるのかによって変わってくるけれど、その日が迫ってくるほどに高まってくる。

恐怖感の中身を自分なりに分析してみると、大きく3種類に分かれる。

1つ目は、メンツが潰れる恐怖。

自分が負けるということもそうだけど、負けて何かを失うことが怖い。これは格闘技選手の誰もが持っている怖さだろう。とくに「自分に注目が集まっているのに負けてしまう」という状況を想像するとなおさら怖くなる。

2つ目は、物理的に傷つけられる恐怖。

格闘技の試合はケガは付き物だし、運が悪ければもっと危険な状況に陥ったりする可能性もある。これが、本能に訴えかけてくる類(たぐ)いの一番強烈な怖さだと思う。

3つ目は「実力が出せなかったらどうしよう」という不安が混じった恐怖。

試合が決まってからは、これらの恐怖が3本立てで攻めてくる。常に追い詰められた状態になる。

でも、逆に恐怖感が芽生えることもある。この3種類とはまったくの別モノだ。例えば、試合が決まっていない時期。もう自分は必要とされていないんじゃないか、という恐怖感をおぼえる。試合が決まりそうで決まらないモヤモヤした時期も、かなりストレスが溜まる。僕へのオファーは最終的に来るのか、来ないのか……そこに恐怖を感じるのだ。

■試合は自分にとって何よりの快楽

この感情は仕事をしている人、とくに僕みたいにフリーランスとして働いている人なら、よくわかるんじゃないかと思う。

新たなオファーが来ないと、必ずこう思ってしまう。

「ひょっとして自分は、世の中から必要とされてないんじゃないか……」

むしろ試合を控えた状況で感じる恐怖感よりも、よっぽど恐ろしいことかもしれない。

そんな気持ちでいるときに「次の試合が決まった」との連絡があることは、非常にありがたいことだ。でも、そうなればなったで、それまで持っていた自分が必要とされていない恐怖感が消える代わりに、試合への恐怖感が少しずつ醸成されていく。面白いものだ。

試合本番が刻々と近づいてくる中で、恐怖にとらわれた僕は、こんなことをよく考えてしまう。

規定体重まで落として、計量をクリアしなければ試合には出られない。じゃあ、逆に規定体重まで落とさなければ、試合をしなくても良くなるのでは……。

そんな気持ちに苛まれても、逃げるわけにはいかない。試合は怖いけど、試合をしたいという思いは強く持っている。これって矛盾するようだけれど、試合は僕にとって何よりの快楽でもあるのだ。

■自分を騙せるのは自分しかいない

ここでいう快楽は「サウナと水風呂」の関係性に近い。

僕はサウナを12分5セットでこなすことを習慣にしている。サウナ室に12分間こもったあと、水風呂に浸かる。冷え切った水に身体を沈めた瞬間は、サウナ室で暑さをこらえて与え続けたストレスから一気に解放される。この快楽に溺れるのだ。

さて、試合当日を迎えた僕は、試合会場に入るまでは音楽を聴くこともあるけれど、それ以降は自分の世界に没入している。

その時点で恐怖の“量”はまったく減る気配を見せない。しかし僕は、そんなときだからこそ、自分に対してポジティブな話をする。自分を騙せるのは自分しかいないからだ。

「今までこれだけのことをやってきたんだ」
「毎日コツコツ練習してきたじゃないか」

そう自分自身に語りかける。だから大丈夫なんだ、と。

これをやっていると、恐怖心を抱えていても、過剰な恐怖を感じない領域まで集中力を研ぎ澄ますことができる。

■入場直前まで音楽を聴く選手は「バカ」

入場直前まで音楽を聴く格闘技選手もいる。すごく失礼だけど「おまえらバカか?」と言いたくなる。

青木真也『距離思考』(徳間書店)
青木真也『距離思考』(徳間書店)

日頃から自分の入場曲を聴いているなんてヤツも信じ難い。いつも入場曲を聴いていたら、それは入場曲の意味を成さないし、本番で緊張感を失ってしまうんじゃないか?

そんな試合前の僕の心情を知ってか知らずか、「恐怖感とどう向き合えばいいですか?」とはよく聞かれる。

ありきたりな答えかもしれないけど、僕なりに考えた最善策は、「時間が解決する」と理解すること。これしかない。

時間は必ず過ぎていく。どんな人にも時間の経過は平等だ。だから、苦しいかもしれないけど、目の前のことから逃げずに、自分がすべきことをコツコツやり続けるだけだ。

しんどさを感じながら、それでもコツコツと努力を重ね続けるのは、なかなかつらい。でも、それを放棄した僕は、きっと試合には勝てなくなってしまうだろう。

だから、僕はこう信じている。

「いつか時間が過ぎたら、この恐怖感から解放される」

ひたすら逃げずに立ち向かうのだ。

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青木 真也(あおき・しんや)
総合格闘家
1983年静岡県生まれ。小学生の頃から柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に柔道から総合格闘技に転身。「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後、静岡県警に就職するも2カ月で退職を決め、再び総合格闘家の道へ。以後「DREAM」「ONE FC」で世界ライト級チャンピオンに輝く。著書に『空気を読んではいけない』(幻冬舎)がある。 ツイッター:@a_ok_i note:https://note.mu/a_ok_i

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(総合格闘家 青木 真也)

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