日本のコンテンツ産業、売り上げ12兆円じゃ納得いかない
プレジデントオンライン / 2020年8月9日 11時15分
■日本のコンテンツ産業、売り上げ12兆円じゃ納得いかない
米国コンテンツ企業の雄、ディズニーの売上高は約7兆4400億円(2019年9月期)。一社だけで上げた数字だ。対して日本は国全体で12兆円を超えるくらい。「文化GDP」の柱となるマンガやアニメやゲーム、映画、音楽など、様々なコンテンツ企業の売上総額は、このところ12兆円でほぼ横ばいだという。
12兆円という数字に著者は納得がいかない。なぜなら世界のコンテンツ市場において、日本は供給者としての優位性を長く保っている。マンガとアニメは最強のコンテンツであり、とくに〈マンガだけは、おそらく将来にわたって、外国に負けることはない産業である〉からだ。
そう断言する背景には、著者の10年以上に及ぶ実体験がある。03年、メリルリンチ日本証券副社長を辞して米国に渡り、小学館や集英社が出費する在米出版社の社長兼CEOに就任。「少年ジャンプ」英語版を発行して米国にマンガブームを巻き起こす。アニメからライトノベルまで多くの日本作品を運用し、欧州にまで販路を広げた。
マンガ「NARUTO」は米国の大きな賞を受け、「DEATH NOTE」はNetflixで映画化。14年には、トム・クルーズ主演のハリウッド映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』をプロデュースした。原作は桜坂洋のライトノベルだ。
■「日本はコンテンツの宝庫」だと確信
著者は実践を踏まえて「日本はコンテンツの宝庫」だと確信する。しかし、それを運用し、ビジネスを構築するシステムが不十分なのだ。
象徴的なエピソードがある。変形するロボットの映画『トランスフォーマー』は、シリーズ累計で約5000億円を稼ぎ出し、関連商品の売り上げを加えれば1兆円を優に超える。このキャラクターの原型は、日本の玩具メーカー、タカラトミーのフィギュアだった。ところが同社は日本での玩具販売権だけを残し、その他の権利をすべて米国の大手玩具メーカーに売却したため、ブームの果実を得られなかったという。
日本のコンテンツの海外での売り上げは、全体の約15%を占めるにすぎない。創る人は大勢いるが、海外に出ていく腰の軽いプロデューサーが少ないからだ。日本は〈当たりくじを持っている。ずっと前から持っているが、うまく換金できていない。その価値に気づいていないからだ。しかし、早く換金しないと、換金期限が来てしまう〉。
キーワードは「デジタル」と「海外」だと著者は言う。いまやオンラインゲームがゲーム市場の68%を占めている。スマホ専用マンガも登場した。新鮮なコンテンツを引っ提げて海外に打って出なければ、文化GDP世界1位など夢のまた夢だろう。
著者は尻を叩く。〈打たないシュートは入らない〉。
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文藝春秋前社長
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、74年文藝春秋入社。『諸君!』『週刊文春』、月刊誌『文藝春秋』編集長、第一編集局長などを経て2013年専務、14年社長。18年退任。
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(文藝春秋前社長 松井 清人)
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