SDGsへの取り組み「若者の心に刺さる」ことに成功した企業はどこか
プレジデントオンライン / 2020年8月6日 11時15分
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鈴木 詩音莉さん/慶応義塾大学法学部政治学科3年生。女性
島本 沙耶香さん(仮名)/早稲田大学社会学部4年生。女性
加藤 耀くん/東京理科大学理工学部2年生。男性
富山 連太郎くん/上智大学経済学部2年生。男性
寺田聡志くん(仮名)/慶応義塾大学経済学部4年生。男性
遠山淳(仮名)くん/明治大学文学部●年生。男性
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■まだ紙ストローじゃないんだ……
【原田】最近は、日本でもSDGsに力を入れる企業が増えているんだ。お金も人材も投資しているし、取り組みをアピールして購買促進や採用につなげようともしている。ただ、それが若者に刺さっているのかどうか、企業側は疑問を感じているようなんだ。そこで、まずは購買促進の面から聞きたいんだけど、皆はSDGsを意識して商品やサービスを選ぶことはある?
【加藤くん】以前ユニクロの店頭で、古着を回収して難民キャンプへ送っているっていうポスターを見て好感度が上がりました。それまではユニクロが難民に目を向けているなんて知らなくて、消費者しか見ていないと思っていたから。ただ、だからってよく買うようにはなっていないです。
【鈴木さん】気にしたほうがいいとは思うんですが、実際に買い物する時はそこまで意識できていないです。でも、スターバックスがストローを全部紙製に変えましたよね。私はスターバックスでバイトしているので、ほかのカフェに行った時にプラ製ストローだと「まだ変えてないんだ、遅れてるな」って感じちゃいます。「もうこのお店には行かない!」とはならないですけど。
【富山くん】僕は引っ越しの時にアート引越センターを選びました。そこは食器の梱包に紙を使わない、引っ越し後にダンボールを回収するっていう方針があって、単純にいいサービスだなと思ったんです。大量にゴミ出しをしなくて済むから、消費者にもメリットがありますよね。ただ、その時はSDGsの取り組みの一環だとは知りませんでした。
■自分の消費で社会をよくしよう、とまでは思わない
【島本さん】私は気にしたことがないです。企業がSDGsに取り組んでいても自分につながらないと言うか、私の消費で社会をよくしようとまでは思えないいんですよね。お金もないし、安いとか見た目がかわいいとかで選んじゃう。
【遠山くん】僕も買い物の時にSDGsは考えないです。「このブランドはちょっと高いけどSDGsに取り組んでいます」って言われても、社会のメリットと自分のメリットがつながらない。商品に関係ない取り組みをするより、もっと安くしてほしいって思います。
【原田】SDGsの取り組みを若者の消費に結びつけるのは、ハードルが高いってことがよくわかったよ(笑)。どうすれば結びつくのかはまた後で聞くとして、先に採用面に関する意見を教えてほしい。就活でSDGsを意識した人、意識するつもりの人はいる?
■就活で心に響いた企業、響かなかった企業
【寺田くん】就活では、SDGsの取り組み事例そのものよりも、取り組んでいるという点に先進性を感じました。そういう企業なら働き方も先進的なんじゃないかと思いましたね。ただ、「ボランティアで砂漠に木を植えています」とか、事業内容と関係ない取り組みを紹介されても……。ボランティアのために社会人になるわけじゃないから、入社したくはならないです。
【島本さん】私も就活ではSDGsの話がよく出てきました。でも、「大企業は皆やってるんだな」って思ったぐらいで、内容はよく覚えていません。社会貢献したい子はそれで入社を決めるのかもしれないけど、私には響かなかった。それよりも残業の有無や給料、勤務地などで企業を選んでいました。
【原田】今の首都圏の大学生が最も求めている「ワークライフバランス」と「給料」と「東京勤務」にSDGsは絶対に勝てないわけだね。
【遠山くん】僕はSDGsにはそれほど興味はないですが、しっかり取り組んでいる企業には優等生のイメージがあります。環境などに配慮している企業は、働き方にも配慮してくれそう。いい社会にしていこうって考えているはずだから、社員に残業させないような風土もあるんじゃないかな。
【原田】環境に優しい企業はホワイト企業なイメージがつくわけだ。いずれにせよ、基本的には事業と結びついていない取り組みは、イメージアップにはなっても入社の決め手にはならないということだね。逆に事業と直結していれば、自分ごととして捉えやすいから企業選びの基準にもなるのかもしれないね。
【鈴木さん】説明の仕方も大事かもしれないです。サステナビリティを掲げているユニリーバでは、企業説明会で目標をどう達成していくかを細かくかみ砕いて説明してくれました。私たちからすれば、「サステナブルな取り組みをしていますよ」だけじゃよくわからない。そこをこちらの知識量に合わせて話してくれたので、自分のこととして捉えやすかったです。
【寺田くん】SDGsって、本来は全員にとって自分ごとの問題なんですよね。途上国支援だけじゃなく、消費やジェンダーなど日本の若者にとって身近な問題もたくさん含まれている。僕は学部で専門的に学んだのでそう思うようになりましたが、同世代の子は意外と知らないみたいで。「地球の反対側の問題ではなくて自分たちの問題だよ」って説明すると、「そうか、知らなかった」って言われることが多いです。
■若者に刺さった無印良品の取り組み
【原田】企業も、若者が自分ごと化して考えられるように説明することが大事なんだね。じゃあ消費の面ではどうだろう。SDGsへの取り組みを若者の消費に結びつけるためには、企業はどうしたらいいと思う?
【鈴木さん】「商品とは関係ないけど会社としてはSDGsに取り組んでいます」だと、そこに魅力を感じる子しか買わないし、そういう子はまだ少数だと思います。それに、そういう打ち出し方をされると、ステイタスとして取り組んでいるように見えちゃいますね。デザインや価格で選んだら、たまたまSDGsを重視しているブランドだったっていうのがいちばん理想的かな。
【原田】それは商品ジャンルによっては難しいよね。例えば今、アメリカの若者の間では「オールバーズ」というブランドのスニーカーが大ヒットしているんだけど、それはデザインや履き心地のよさがうけているんだ。でも実は、ここの靴は廃材でつくられているんだよ。かっこいいと思って買ったら、環境に配慮した商品だった──。確かに理想的だけど、もっと一般的な企業、例えば生活商材のメーカーとかはどうしたらいいのかな。
【島本さん】無印良品の「自分で詰める水」は、いい取り組みだと思いました。ペットボトルのゴミを減らすために、店頭で無料給水サービスを始めたんですよ。マイボトルを持って行ってもいいんですけど、おしゃれな専用ボトルも売っているのでついほしくなっちゃいますね。タダで水がもらえるって若者にとっても得だから、大勢が興味を持つと思うんです。それがきっかけで環境問題を意識するようになるかもしれないし。
【原田】もし無印を真似して、しかも来店目的、つまり、自社の売り上げアップのために行う小売が増えたとしたら、それに対してはどう思う?
【島本さん】集客のためでも全然いいと思います。若者もお店も環境も皆Win‐Winってことですよね。私からすると、いきなり「環境にいいことしよう」って言われても、自分にメリットがないと興味が湧かない。潔く「水がタダだから来てね」って言ってくれたほうが好感が持てます。レジ袋をエコバッグに置き換える活動も同じ。環境にいいとかじゃなくて、エコバッグがかわいければ皆そっちを使いたくなると思うんですよ。
■なぜ、ストローだけ紙製……?
【加藤くん】今、プラ製ストローを紙製に変える動きが進んでいますよね。でも、そうしたからってその店に行きたくはならない。ストローは紙製にしたのに、もっと多くのプラスチックを使う容器がそのままなお店は不思議。SDGsを掲げているのに、踏み切れていない感が否めないです。せめて、レジ袋やプラ製ストローをやめることでどれぐらい環境負荷が減るのか、数値でわかりやすく提示してくれたら意欲が湧くかもしれない。
【富山くん】数値もいいけど、若者に興味を持たせるなら、エンタメ性も交えながらさりげなくアピールしたほうがいいように思います。例えばコカ・コーラ社の「い・ろ・は・す」は、飲み終わった後のボトルを小さく潰せますよね。ねじって潰すって単純に楽しいし、ゴミの減量化にもなる。いいアイデアだなと思いました。
■自分たちもターゲットであるというメッセージを
【寺田くん】SDGsって、若者にとってはまだ「遠い国の誰かを救う」「地球を救う」みたいなイメージだと思うんですよ。もちろんそれも尊いんだけど、もっと自分ごと化できるようにすると、ハッとする若者が増えるのかなと。SDGsには、自分たちもターゲットでありアクターでもあるんだよっていうメッセージがあるので、企業はそこを強調してあげるだけでも意義があると思う。「自分たちの問題だよ」って発信し続けてほしいですね。
【原田】企業の取り組みについて、さまざまな意見が出たね。現段階では、SDGsへの取り組みがそのまま就活や消費に結びついてはいないようだけど、アイデア次第では若者に興味を持たせるきっかけになることがわかったよ。それに、将来を見据えて発信し続けることも大事なんだね。
以前、SDGsへの意識が高いとされているスウェーデンやデンマークで、若者の意識を調査したことがあります。日本では社会保障の充実ぶりがよく取り上げられますが、その分現地の若者は覇気がなく、お金もなくて消費意欲が低い傾向にありました。しかし、環境にいいものは多少高くても買うという意志が強く、その点には非常に感動しました。
日本では、若者の意識はまだそこまで至っていないようです。ただ、自分にメリットがある、あるいは自分ごととして捉えられる取り組みには興味を持つので、企業はそこを押さえた上でアピールしていく必要があるでしょう。短期的には消費や採用に結びつかなくても、彼らも企業の取り組みを入り口として、いつか北欧の若者と同じ意識を持つようになるかもしれません。その未来に向けて、長期的な発信に取り組んでいただければと思います。
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マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平若者研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村洋子 写真=iStock.com)
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