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「スマホ禁止を部員が提案」名物女子ダンス部のすごすぎる自己管理

プレジデントオンライン / 2020年8月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/webphotographeer

全米ダンス大会で優勝経験のある名門・宝仙学園女子ダンス部には、部員自身の決めた「部則」がある。その内容は「校内ではスマホの電源を切る」などかなり厳しい。生徒たちは、なぜそこまで厳しい自己管理を課しているのか。顧問の氷室薫氏が解説する――。

※本稿は、富士晴英とゆかいな仲間たち『できちゃいました! フツーの学校』(岩波書店・岩波ジュニア新書)の一部を再編集したものです。

■「ダンス部を変えたい!」新卒コーチが掲げた目標

2020年、私が宝仙学園女子ダンス部の顧問になってから10年目を迎えました。ダンス部のコーチになった時、私はまだ22歳。当時の高校3年生とは年齢が4つしか変わらず新任でもあったため、生徒たちからすると、先生というより年の近いお姉さんのような感覚だったと思います。

当時のダンス部は問題が多く、問題児が集まる部活というような悪いイメージもありました。また、流行りのK‐POPやJ‐POPを完全コピー、いわゆる「完コピ」が中心、自分たちで「オリジナル」のダンスをつくることはほぼありませんでした。ただ、「オリジナル」に対しての憧れはあり、自分たちでつくってみたい、でも方法が分からないという状態でした。

そのような状況で、新米の顧問に「今までの部活を変えたい」と言われたら生徒たちはどう思うでしょう? 実際、賛否両論あったと聞いています。ただ、その時の部長と副部長が、よく分からない私の提言に「やりましょう」と賛同してくれました。

私はダンス部に「REVOLUTION(革命)」というスローガンを掲げます。自分たちの力で今の状況を変える経験をしてほしい。環境は自分が変わることで変わるということを実感してほしい。そんな強いメッセージを込めました。

そこから5月の体育祭に向けて本当に必死に頑張りました。私は音源作成、衣装集め、振りづくりをし、生徒たちははじめての振り付けを一生懸命覚え、難しいフォーメーションを覚え、時に私から厳しい言葉をかけられながら一致団結しました。

一緒に汗をかき、一緒に楽しみ、一緒に悩みました。大人の本気を見せたことで生徒たちも諦めずに最後までついてきてくれました。

部長に言われた「先生は甘すぎます」

ダンス部が全国大会にはじめて出場したのは4年目のこと。3年間で基礎をつくり、ようやく全国大会という大きな花をひとつ咲かせることができました。その頃、ダンス部には大きな変化がありました。それは自分たちで「部則」をつくったことです。

ダンス部が3年目を迎えた時、部の中では「大会に出場するだけではなく結果もほしい」「全国大会に出場してみたい」という意見が出始めました。真面目に練習をするようになれば全国大会という目標も頭に浮かぶのは当たり前です。

その時、部を率いていた部長は私に物申してきました。

「先生は甘すぎます。ルールは守るためにあるのではないですか?」

真っ向勝負のどストレートです。正論すぎました。

彼女の言う「ルール」とは「校則」のことです。彼女は中学の時、強豪の吹奏楽部に所属していました。部活内のルールが厳しく練習もハード。いろいろな大会で他校を見ていた経験もあり、全国大会に出場するためには部活内に「規律」が必要と訴えてきたのです。

ここで私は面食らいます。まさか生徒がこんな提言をしてくるとは思わなかったのです。そして教員として恥ずかしいなとも思いました。正直、その当時は部員のだらしのない部分も見て見ぬ振りをしていたこともありました。注意しても生徒は「は~い」というひと言で終わらせてしまうこともありました。

あまり注意しすぎても部活が嫌になっても困るし、と内心思っていたのです。その甘い気持ちを捨てて「鬼」になろうと決めたのは、その瞬間です。目指すは「全国大会」。本気になっている部員に懸けてみようと思いました。

■「部則」が部員たちの意識を向上させた

部活は基本休まない、休む場合は事前に必ず顧問に相談し、当日の欠席は体調不良以外は原則認めないなどの規則をつくり、厳しい練習を課すことにしました。

しかし、簡単に事は運びません。部員から猛反発がありました。「全国大会を目指すような部活に入った覚えはない」という意見もありました。自分たちが全国大会という夢のステージになど到底たどり着けるわけがない。たどり着けないのになぜ「努力」しなければいけないのかという訴えです。

そういう部員の意識を変えるためには「結果」が必要です。厳しい「部則」を課した代わりに「全国大会出場」という結果を出すことを部員に約束します。

何が何でも全国大会にという必死の思いと、全国大会を目指していた部員の頑張りにより、4年目の6月に全国大会に初出場し、そこで審査員特別賞を受賞する快挙を成し遂げることができました。「部則」というルールは部内に意識の向上と規律をもたらし、「全国大会で入賞」という結果も出したことで部活の雰囲気は一変します。

■堅実で真面目だけど、「決められない」今の高校生

問題はここからでした。ようやく荒野にひとつの花が咲き、まわりの環境や部員の意識は当然高まり、荒野は草原へと姿を変えていきます。かつて荒野で育った部員は卒業し、それと入れ替えに草原で咲く花を見て入部してくる部員が増えていきます。

すると、新しく入ってきた部員は大きな勘違いをします。それは「先生の言うことを聞いていれば大丈夫」「先生に任せておこう」「先生の指示を待とう」という教師依存マインドをもってしまうことです。

このダンス部は、教員の私が一人だけでつくってきた部ではありません。それまでの部員たちの努力と必死さがあったから、荒野を草原にまで変えたのです。

けれども現実にはいくら説明をしても伝わらず、教師依存の思考停止型ダンス部になってしまいそうな時期でもありました。

今の高校生を見ていると、みんな非常に堅実で真面目な印象を受けます。その反面、リスクを背負ったり、誰かと衝突したり、自分で「決定」することを避ける傾向があります。

自分で「決定」をすれば「責任」が伴います。「決定」をする前には自分で考えなければいけません。まさにそのみんなが大嫌いかもしれないプロセスを経験させることが私の目的であり「大切なこと」だと考えています。

世界大会の出場も大きなリスクを背負いました。高校ダンス部がチャレンジしたことのない未知の領域、全国大会の5年連続出場もかかっていました。でも、国内大会ではなく世界大会に出場することを自分たちで決め、見事に実行できました。

■「部則」は毎年生徒たちが作り直している

教師依存型になりかけたダンス部が、ここまで成長できたのはなぜか?

いろいろな理由はありますが、一番の理由は「部則」を守り続けてきたことにあると、私は分析しています。全国大会に出場するためにつくった「部則」は、その後もずっと受け継がれ、ダンス部に根付いています。この「部則」は「校則」をベースにつくられていますが、作成するのは部員たち。毎年、3月に部則のたたき台をつくるメンバーを全学年から選びます。

2020年度のダンス部部則(画像提供=宝仙学園中学校・高等学校)
2020年度のダンス部部則(画像提供=宝仙学園中学校・高等学校)

メンバーは、昨年の部則を見直し、反省点や分かりにくかった点などを改訂したり新たにルールを追加、撤廃したりします。その後、今年の新しい「部則」を全部員と私の前でプレゼン。部員や私から意見をもらい再度練り直します。それを自分たちでプリントにし、4月から入部してくる新入生への説明会で発表します。

自分たちで考え、自分たちで発表するこのスタイルは、部活内のルールを「決定」する権利は先生ではなく部員にあるという明確なメッセージにもなります。部員たちはなぜこのルールを守らないといけないのかを新入部員に説明しないといけないため、自分たちの「目的」をしっかり意識することができます。

 

■「スマホ禁止」に表れるプライド

この「部則」の中には、「校内ではスマホの電源を切る」というルールがあり、かなり厳格に徹底されています。現在では校則が一部改訂され、「学業および生徒会関連の活動では時間帯によって使用可能」となっていますが、その改訂がされた後でも「部則」では「校内ではスマホの電源を切り使用する場合は先生に許可を取る」という姿勢を崩しませんでした。

なぜ「スマホ」の管理にそこまでこだわるのかというと、「スマホは個人の所有物であり、それをどう扱うかに個人の規律意識が現れるからだ」と思っています。電源をオフにしたかどうかは、本人以外確認しようがないからです。

人が見ているからルールを守るのではなく、「自分がどういう人間でいたいか」という個々人の道徳観念が大事ということです。それは彼女たちにとっての「プライド」だと感じています。その「プライド」を全部員がしっかり持っているかどうか、それがスマホ利用に一番よく現れるのです。

■アメリカに行けるのならば、いくらでも自分を変える

最後にその「プライド」が大きく芽生えた瞬間をご紹介します。

富士晴英とゆかいな仲間たち『できちゃいました! フツーの学校』(岩波書店・岩波ジュニア新書)
富士晴英とゆかいな仲間たち『できちゃいました! フツーの学校』(岩波書店・岩波ジュニア新書)

本校ダンス部は世界大会に出場する前の2016年「JamFest Dance Super Nationals」というダンス&チアの全米大会に出場し、優勝しています。本校の部活がアメリカに行くことは前代未聞で、学校側との協議を何度も重ねていました。部員は当然「アメリカに行きたい!」という思いを強く持っていました。そのため、自分たちの行動や言動が改めて周りからどう思われているかを見つめ直しました。

日々の「授業態度から見直す」ことを決めるなど徹底していました。その徹底ぶりは、私が驚くほどでした。過去の自分たちのだらしない態度を素直に見つめ直し変えたのです。高校生だからこそ持ち得る柔軟性かもしれません。人が変わるとはまさにこのことだと思いました。

当時の部員たちは自分たちを変えることで、アメリカに行けるのであれば、いくらでも改めますという覚悟でした。自分たちにとって「面倒なこと」「嫌なこと」であっても、自分たちの目標のために決定し、行動する力を持ったのです。この力が原動力となり、全国大会に出場し、その2年後アメリカ大会で優勝することになったと思います。

自分たちの決めた「部則」は自分たちで守る。その当たり前にみえて難しいことを可能にしたのは、「自分たちの目標を叶えるため」という強い自覚と、同時にダンス部としての「プライド」なのかもしれません。

「部則」と聞くと一見堅苦しく思いますが、部員たちは自分たちで決めたルールを守る、徹底することでチームとしての団結を確固たるものにしていると思います。

(宝仙学園中学校・高等学校共学部理数インター・高等学校女子部 教諭 ダンス部顧問 氷室 薫)

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