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コロナ危機を乗り切れるのは「他者を助ける人」である学術的な根拠

プレジデントオンライン / 2020年7月31日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

コロナ禍で多くの人が経済的な危機に瀕している。この危機を乗り切るにはどうすればいいのか。米大人気ブロガーのエリック・バーカー氏は「心の強さ、しなやかさを失わないことだ。歴史を振り返ると、過酷な状況から生還した人たちの多くは他者を助ける人間だった。自分以外を気遣うことで、人は恐怖を乗り越えることができる」という——。

※本稿は、エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則 文庫版』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■ペスト禍の都市では教会の鐘すら鳴らなくなった

「黒死病」——ただならぬ不穏さを感じさせる名前だ。

地震の規模をマグニチュードで表すリヒター・スケールになぞらえ、歴史上の大惨事の規模を表した「フォスター・スケール」なるものがある。そのリストで堂々2位に登場するのが黒死病(腺ペスト)だ。

死者数、物理的破壊、精神的苦痛の大きさでそれを上回ったのは、第二次世界大戦のみだと、フォスター・スケールの考案者でカナダの地理学者、ハロルド・D・フォスターは言う。

COVID-19の致死率については意見の分かれるところだが、それでもひと桁台にとどまる。

一方、14世紀に広がったとされる腺ペストでは死亡率が60%に及び、ヨーロッパの人口は3分の2に減った。過去700年の人口増加を考慮し、仮に黒死病が今日大流行したとすれば、じつに19億人が命を落としたことになる。

人口が半減したフィレンツェでは、死者を弔う教会の鐘が鳴りやまなくなり、やがて人びとの士気に響くという理由で鳴らされなくなった。

当時の人びとは、疫病の原因がペスト菌だと知るよしもなく、それどころか、細菌の存在さえ知らなかった。もっぱら超自然的な説明がまかり通り、ある者は神の怒りのせいだと信じ、またある者は吸血鬼の仕業だと言った。

パリの医学界は、「1345年3月20日午後に起きた土星、火星、木星の合」(太陽と惑星が地球から見て同じ方向にくること)が黒死病の原因だという声明を出した。

不可解で説明できないものを防ごうと、気力を奮い立たせるにはどうすればいいのか。人びとには、ただ祈るしか術がないようだった。そんななか、1つの都市が立ちあがった。

その都市は、科学的思考と刷新を取り入れたしなやか(レジリエント)な発想で黒死病に反撃を挑んだのだ。

■今こそ見習うべき「レジリエンスの祖」ヴェネツィア

それはヴェネツィアだ。当時、国際貿易ハブ港として繁栄をきわめたヴェネツィアは、瞬く間に黒死病蔓延の中心地となり、人口の60%が命を落とした。

当初は大敗北を喫したヴェネツィア人たちだったが、KOされたわけではなかった。もちろんヴェネツィア人にとっても、黒死病の原因は皆目わからず、この病気の治療は選択肢になかった。

代わりにとった戦略は、レジリエンス(回復力)に焦点をおくことだった。たとえば、ハリケーンを止められないのなら、風にたわみながらも跳ね返す、しなやかな木になればいい。

彼らは実効性があるもの、ないものを徹底的に検証し、改良を加え、今日でも用いられるレジリエンス管理の実践的な対策を数々生みだした。

■検疫という言葉の発明とその効能

たとえば、ヴェネツィアはペストが流行した当時、「検疫(quarantine)」という言葉を作った。検疫という行為そのものを発案したわけではないが、それを改良し、非常に効果的な策にしたのだ。

ラグサ共和国(現在のクロアチア)はすでに汚染地域からの外国船を、入港前に30日間沖に停泊させ、黒死病の封じ込めに一定の成果をおさめていた。ヴェネツィアはその方法を取り入れ、詳細な記録をつけた。そのデータに基づき、停泊期間を40日間に延長したのだ。

のちに近代医学は、腺ペストの感染から死亡まで37日間要することを発見した。なかなかやるじゃないか、中世ヴェネツィア。

ギリシャや南欧諸国の多くは、16~17世紀にも度々ペストの大流行に見舞われたが、ヴェネツィアやその支配下にあったイオニア諸島ではその間、小規模な流行を見るにとどまった。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は黒死病ではないし、あなたは都市のように大きくて複雑なシステムではない。それでも私たちは、自分と大切な人たちのために、これからも強く、しなやかに闘っていかなければならない。

困難な状況でも前進し続けるために、メンタルの強さを保つにはどうすればいいだろう? 幸運にも、私たちは中世のヴェネツィア人より豊富なデータを入手できる。

ということで、パンデミックに直面しても心の強さ、しなやかさを失わずにいられるように、学術的な研究成果や過酷な状況から生還した人から学べることを紹介する。

■レジリエンスのルール1 ポジティブな心のつぶやき

米海軍爆発物処理チームのリーダーにインタビューをした際に、リーダーの上官が海中で不発弾処理にあたっていたときの話を聞いた。その上官は海底にはまり込み、身動きできなくなった。次の瞬間、上官の頭に浮かんだことは何だったか?

「呼吸ができている。これはいいぞ。ほかにできそうなことは何だろう?」

つまり、「物ごとの明るい面を見る」という姿勢だ。

スティーブン・M・サウスウィックとデニス・S・チャーニーは、20年にわたって、困難な状況から回復する能力をもったレジリエントな人びとついて研究を行ってきた。ベトナム戦争で捕虜となった退役軍人や米軍特殊部隊の教官に加えて、深刻な疾患や虐待、トラウマなど壮絶な体験を克服した一般人にもインタビューを行った。

逆境から立ち直った人びとに共通して見られたものは何だったか? それは楽観主義だった。

■レジリエンスのルール2 体力づくりをする

最もレジリエントな人びとは、体を強く保ってくれる良い運動習慣を持っている。このことは、サウスウィックとチャーニーの調査でも「運動による適度なストレスは、人生で困難に直面した際のストレス耐性を高めてくれる」と証明されている。

激しい有酸素運動をしているあいだ、「不安感受性」の高い人たちは、不安感が高まったときと同じ身体感覚(心拍数の増加、発汗、速い呼吸)に耐えることを強いられる。

精力的に有酸素運動を続ける者は、時間が経つにつれ、これらの症状が危険でないことがわかり、恐怖心が徐々に弱まっていくというのだ。

■レジリエンスのルール3 ゲームに見立てる

さまざまな人から何度となくレジリエンスについての話を聞くうちに、あることに気がついた。共通するコンセプトの1つは、「ゲームに見立てる」だったのだ。

現実に向き合ってみても、今日の状況は日常生活というよりもはやSFに近い。何しろ排気弁つきのマスクを着けて歩きまわっているんだから。この際、現状を受けいれ、流れに順応してやっていこう。

ゲームが難しいからって、私たちは投げだすだろうか? むしろ逆で、嬉々として遊び続けるだろう。それがゲームの魔力だ。

そこで、この難局を不便・不自由な障害ではなく、テレビゲームでの挑戦と捉えてみてはどうか。あなたは家に閉じこめられたウスノロではない。食糧を求めて大惨事後の世界に立ち向かう勇士だ。

ばかげてる? そうかもしれない。でもこんなときだからこそ、途方もなくばかげたことだってやれる。

■レジリエンスのルール4 ユーモアを忘れない

海軍特殊部隊シールズやレンジャー部隊、陸軍特殊部隊グリーンベレーと聞けば、アクション映画のヒーローよろしくストイックで気迫みなぎる姿を思い浮かべるかもしれない。

もちろん、彼らは真剣になるべきときはこのうえなく真剣だ。だが私がインタビューをする度に、彼らは口を揃えて言った。過酷を極めた状況を耐え抜いてこられたのは、ある不真面目なもののおかげだと——それは「笑い」だ。

米陸軍レンジャー連隊のジョー・アッシャーは、最も過酷と言われる訓練を乗り越えられたのは何のおかげだと言っただろう? 「いいかい? レンジャースクールで1日1回笑えたら、なんとかやり遂げられるんだ」。

ストレスへの対処法としてのユーモアの効能に関しては、数多くのエビデンスがある。退役軍人、がん患者、外科手術患者をそれぞれ対象とした研究によると、ストレスフルな状況での威圧感を軽減するためにユーモアが用いられると、人びとのレジリエンスやストレス耐性に効果をおよぼすことが明らかになった。

■レジリエンスのルール5 「意味」を受けいれる

悲惨な出来事を乗り越えた人びとを調査した研究者が見いだした、まさに一番重要なことは何だっただろう? サウスウィックとチャーニーのレジリエンス論によると、「悲惨な出来事とそこからの回復を説明するうえで、当事者の宗教的信仰が、最も大きな力である」という。

では、もしあなたが信心深くなかったらどうすればいいだろう? 問題ない。もっと幅広く調査結果を見ると、重要なのは、何らかの形で人生の意義を見いだしていることだとわかった。そして多くの場合、それは他者との深い絆である。

精神的にレジリエントな人びとには、強い道徳観が共通して見られる。自分の生命が脅かされるような状況でも、自分のことばかりでなく、彼らはつねに他人を思いやるのだ。

■こんな「ソーシャル・ディスタンス」はとってはいけない

というわけで、新ヴェネツィア市民たる諸君に強調したい。人とのつながりを通して、人生の困難の意味を受け入れること。まずはそこから始めよう。

危機的状況のサバイバーたちは、自分のことを一番に考えたから生き延びられた、とあなたは思うかもしれない。それは間違っている。生死にかかわる状況を生き抜いた人びとについて調査を重ねたところ、その結果わかったことはまさに正反対だった。

他者を助ける人間のほうが、生き残る可能性が高かったのだ。ほかの人を助けることこそ、自分の生存を確保する最善の方法だ。自分以外を気遣うことで、人はわれを忘れる。恐怖を乗り越えることができる。あなたはもはや被害者ではなく、救護者となる。

エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則 文庫版』(飛鳥新社)
エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則 文庫版』(飛鳥新社)

自分のリーダーシップとスキルが他者を勇気づけるのを見て、危機に耐えるあなた自身の集中力とエネルギーが高まり、好循環が生まれる。あなたが他者を励まし、彼らの反応があなたを精神的に支える。また、たった独りで生き抜いた人びとの多くは、彼らを待つ誰か(妻、恋人、母、息子)のことを想って生き延びようとした。

ヴェネツィアは島かもしれないが、あなたは違う。私たちはともに同じ危機に立ち向かっているのだ。

そう考えると、「社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)」は、ちょっと腑に落ちない表現だ。今、感染拡大を防ぐために重要なのは、人びとの「物理的距離」を取ることだ。そのいっぽうで私たちは、社会的にはできるだけ親密でいる必要がある。

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エリック・バーカー ブロガー
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)は、初の書き下ろしにして全米ベストセラーに。

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(ブロガー エリック・バーカー)

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