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ジョブズが愛した日本人禅僧の謎の生涯を追う

プレジデントオンライン / 2020年8月10日 11時15分

柳田 由紀子氏

■ジョブズが愛した日本人禅僧の謎の生涯を追う

あのスティーブ・ジョブズに深い影響を与えた日本人の禅僧がいた。その謎の死を知ったとき、ジョブズはすすり泣いたという。この本はその男、乙川弘文の数奇な人生を浮かび上がらせた作品である。

著者の前に姿を見せた弘文は、2つの姿を持っていた。日本における弘文は、非の打ちどころのない禅僧だった。

「京大時代の日記とか修論にしても、非常に生真面目なものなんですよ。永平寺時代の仲間に聞いても生真面目なんです。しかも一生独身を通すと誓っている人ですから」(柳田由紀子氏、以下同)

ところがアメリカに派遣された弘文は、結婚して子供をつくり、酒を飲んでは家族に暴力を振るうようになる。一体、弘文に何が起こったのか。

「ヒッピーとか、フリーセックスとか、人間の本能に忠実に生きる『生命』っていうものを感じたんだと思うんです。だから衝撃も受けた」

そんな弘文を迎えたのが、アメリカ各地にある正統な「禅センター」からあぶれた人たちだった。ジョブズにしても相当な変人だが、そうした人たちを、自分も落ちていく中で救っていく、そうした宗風に変化していった。

■ジョブズはなぜそれほどまでに弘文に惹かれたのか

ジョブズと禅に関わる本の翻訳を任されたことをきっかけとして、著者は、弘文に関心を抱き、何度もくじけそうになりながら、日本、アメリカ、ヨーロッパで関係者へのインタビューを行った。

柳田由紀子『宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧』(集英社インターナショナル)
柳田由紀子『宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧』(集英社インターナショナル)

著者は、この取材の間にたった1人の兄を亡くしている。

「そんな私が『この人になら』と思ったのが弘文だった。もうこの世にはいない弘文だが、かなうことなら会って洗いざらいの心を話し、今の苦しみから逃れたい。私は、そう願った」

しかし、なぜ弘文なのか。

「私的にはね、あまりにもきちっとした人だと自分ではついていかれない。泥中の蓮っていうのはこういう方のためにある言葉でしょうね。人を助けるために、いてもたってもいられない。やっぱり弘文が崩れたからこそ、みんながまたついていった」

それでは、ジョブズはなぜそれほどまでに弘文に惹かれたのか。そこにもこの「泥中の蓮」「慈悲心」があった。ジョブズは生後間もなく父母から捨てられ養子に出されるという、まさに泥の池に生を受けた人間だった。そんなジョブズだからこそ「泥中の蓮」を求めたのではないか。このコロナ禍にあって、様々に理不尽な事態が人を襲っている。まさに人々は泥中でもがいている。そのようなときに人が求めるのはどんな宗教者なのか。乙川弘文がいれば、その「慈悲心」はどこに向かったであろうか。

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柳田由紀子
1963年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、新潮社に入社。「03」「SINRA」「芸術新潮」などの編集に携わる。スタンフォード大学ほかでジャーナリズムを学ぶ。現在、ロサンゼルス郊外に在住。

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(ノンフィクション・ライター 大泉 実成 写真提供=柳田由紀子)

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