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人事部は語る「リモートワークで知らぬうちに評価を下げる"残念社員"たち」

プレジデントオンライン / 2020年8月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

旧態依然の日本企業が突然IT化を求められた。そのとき人事部はどう動いたか。そして炙り出された、いらない社員とは。
建設さん:建設業人事部長。自粛中にネトフリをお試しの1カ月でやめるはずが、退会し忘れている。
広告さん:広告業人材開発部長。電通のトンネル会社問題に「うちもそんな経営体力があればなぁ……」。
サービスさん:サービス業組織開発部長。妻もリモワで家では険悪。コロナ離婚の危機で出会い系アプリを開始。
ITさん:IT業人事担当役員。「支援だ」と行きつけの店でボトルを入れ、インスタでドヤるのがマイブーム。

■自粛明け1日でうつ病になる社員

――緊急事態宣言解除以降もリモートワークを続けている企業も多い。皆さんの会社ではコロナ前と違ってどんな問題が発生していますか。

【建設さん】8割出社制限から今は週3日出社、2日在宅に変わり、しかも電車の混雑を避けるためスライドワーク(時差通勤)になっている。机も斜め横に離して密を避けている。コロナ前は定時に全員揃っていたが、今は出社や退勤もバラバラ。風景が全然変わった。以前は4時頃に部下が帰ると「具合でも悪いのかな」と思ったけど、ああ、スライドね、と何も言わなくなった。

【広告さん】当社も2020年6月から週2~3日は在宅という50%ルールを目標に在宅勤務を維持するように各部門に周知している。ところが自粛明け初日は待ってましたとばかりに一斉に出社してきた。2カ月近く在宅だったからしかたがないけどね。驚いたのは出社2日目に「うつ病で仕事ができません」と医師の診断書を持ってきた40歳の男性社員がいたこと。コロナ鬱とか在宅鬱と言われるが、在宅が長すぎたせいなのか、原因がよくわからない。家庭で病気の原因になる何かがあったとは想像できるけど、今までにないことだし、増えたら本当に困ると思った。

【サービスさん】在宅勤務といっても家族持ちは結構大変だよ。とくに夫婦仲が悪い場合は最悪。ある部署の男性は夫婦共働きなんだが、たまたま奥さんも在宅勤務で、朝起きて家にいるといきなり「あんた、なんで家にいるの?」。その後、どっちが家を出ていくかでしょっちゅうケンカになるらしい。

【ITさん】似たような話もある。やはり夫婦ともに在宅勤務で、反抗期の高校生の息子がいる。夫婦関係もギクシャクしていて、結局3人とも自分の部屋に一日中籠もっている。しかも食事は作ってもそれぞれ自分の部屋で食べるのでリビングには誰もいない。光熱費もバカにならないと言っていた。

【建設さん】一方で在宅勤務が難しい社員から不満の声も上がっている。とくに営業や現場の部門は出社が多い。学校が休校で子供を預けられない社員には「防疫休暇」という公休を付与した。当時は感染拡大の時期で怖くて出社したくないという社員もいたが、休めば有給休暇を使わざるをえない。独身の社員からなぜ私たちは有給を使い、彼らは公休なのかと不満が出た。

【広告さん】うちも同じ不満が出ている。経営企画や広報・IRなど戦略部門は在宅でもできるが、月次の決算処理の経理とか人事部門でもIT化されていない紙の申請書類を扱う担当は出社比率が高い。営業部門は出社比率が高い。在宅しやすい部署とそうでない部署の社員間の軋轢も出ている。

■女性社員が大激怒 Zoomセクハラ

――会議などはZoomを使ってやることが多いですが、コミュニケーションはうまくできていますか。

【サービスさん】最初は慣れていない社員が多くていろんな問題が発生した。画面の背景に自宅の風景が映ることを嫌がる社員もいた。今では操作によって画面の背景を変えられることを知っている人も多いが、それを知らない女性社員の部屋に干してある下着が映ってしまい、会議は音声だけにしてほしいという苦情が人事にきた。

女性社員の部屋
イラスト=辛酸なめ子

【ITさん】当社もZoomの部署内ミーティング中に、先輩社員から「彼女を見せろ」と何度も言われた後輩が、怒って切ってしまったという話がある。あるいは「奥さんを見せろ」とか。互いに在宅中ということで、仕事とプライベートの境がなくなることで、パワハラ、セクハラ問題に発展する可能性もある。在宅勤務中の禁止事項など新たなルールを設ける必要があるな。

【広告さん】リモートハラスメントっぽいのはあった。ある部長がとくに用もないのにZoomで「皆出てこい、元気か?」と呼びかけた。女性社員が化粧をしたくないのでマスクをして顔を出したら「なんで家なのにマスクをしているんだ!」と言われたというクレームがきた。本人は「大きなお世話だろう」と言っていたが(笑)。

【建設さん】やはりWebの会議はちょっと違う。対面の会議だと、朝まで生テレビではないが、誰かが話していても割り込んで自分の主張を述べたり、ワイガヤになるが、Webは話し終えるまで口を出すことがない。その結果、時間切れで結論が出ないで終わることもある。名前を名乗って「いいですか」と言わないと入りづらい。

【サービスさん】確かに会議の時間を1時間と決めてやるので一言も発言しない社員もいる。しかも最初の頃はビデオをオンにしないで画面に顔写真を貼り付けている社員もいた。でも本当に参加しているのか、寝ているのかどうしても気になる。途中で司会者が「○○君、生きていますか~」と声をかけると「生きていま~す、参加していま~す」という返事が返ってきた(笑)。

【広告さん】Web会議だとさすがにパジャマ姿で出る人はいないが、服装は自由だから私服の人が多い。でも中にはちゃんとネクタイを締め、背広を着て出る人が何人かいる。どうしてネクタイをしているんですか?と聞いたら「自分の戦闘服です。家だとダラダラ仕事をしてしまうので」と言っていた。そういう人は50歳以上の人が多いけどね(笑)。

【ITさん】でもWeb会議は本当に優秀かどうかを見極めるのに有効だよ。以前なら大きな部屋に10人ぐらい集まっても、最初に年上の人や上の立場の人が発言するのを聞いて「それはいいですね」とか、適当なことを言うだけで、さも意味のある発言をしているかのように聞こえたが、Webではそうはいかない。発言内容がはっきりとわかるし、この人はどのくらい深く考えているのか、どれほど優秀なのかが明確にわかる。

■上司の俺が会社で、なんで部下は家なんだ

――在宅勤務だと部下の行動が見えづらく、仕事の進捗状況が把握できずにとまどう管理職も多いと聞きます。

【建設さん】じつは自粛期間中に出社率が高かったのは管理職。とくに部長以上の幹部クラスが多かった。本人は「こんな大変なときだからこそ自分が出社しなければ」と言っていた。今も管理職の出社率は高い。責任感の強さはわかるが、会社に来ないと部下の仕事ぶりがわからないので不安なのかと。

【サービスさん】ある部署を覗いたら、課長がぽつんと1人だけ座ってPCに向かってぶつぶつつぶやいている。聞いたら毎日Zoomで朝礼と終礼を30分ずつやっているそうだ。気持ちもわからなくはないが、1日1時間、週5時間、月20時間も費やしていることになる。ムダとは言わないが、本当に必要な会合なのか吟味する必要がある。

【広告さん】今は出社制限があるから大きな声では言えないが、管理職としては「俺が出てきているのに部下はどうして出てこないんだ」と心の中では絶対思っている。とくに日頃から働かないオジさんも出てこないし、家で遊んでいるか、寝ているんだろうと、余計に腹が立つ。50歳以上の管理職に多い。

上司の俺が会社で、なんで部下は家なんだ
イラスト=辛酸なめ子

【建設さん】当社は決裁に印鑑が必要になる。担当者、担当課長、担当部長の3つの印鑑がないと決裁が下りない。しかもその印鑑は総務部に登録しているハンコでなければいけないが、在宅勤務中はデータ印でもよいことにした。でも最終的には原本に印鑑を押して保管する必要があるが、当然、最終決裁者の管理職が一番多く印鑑を押しまくることになる。出社しても部下がいない中で、なんで俺がこんなことばかりやっているんだと頭にきている人もいる。

【広告さん】もう1つの管理職の悩みは部下の行動プロセスが見えづらいので人事評価がやりにくいことだ。営業職は数字や成果による評価が大部分を占めるので多少はいいが、それ以外の人事・経理・総務などの管理部門やマーケティング、制作部門は、成果以外の行動評価や行動プロセス評価も重視している。部下が「コミュニケーションを取りながら周りと連携して仕事を進めていた」「後輩の育成・指導を熱心にやっていた」といった項目は、在宅勤務に入ってから見えづらくなった。

【サービスさん】以前は部下の仕事ぶりを見れば大体わかった。定時前に出社して仕事の準備をしていると「おっ、がんばっているな」と思ったし、ギリギリに出社すると「なんだあいつは、やる気があるのか、ダメだな」と観察できた。また、飲みに誘っていろいろ話を聞いて、がんばり具合を確認することができたけど、今は飲みニケーションすらまったくなくなった。

【ITさん】それって逆に言えば日頃の管理職のコミュニケーションの質が炙り出されているような気がする。管理職にも2つのタイプがいて、日頃からコーチングの勉強をしてワンオンワンの面談をやっていた管理職はWebの面談やZoom会議に移行しても全然大丈夫だよ。逆に昔ながらの「俺の背中を見て学べ」というコミュニケーション下手の管理職は結構きつい状況になっている。各部門にヒアリングしたり、クレームを聞いているうちによくわかってきた。実際に部下とのコミュニケーションがうまく取れない管理職がいる課とそうでない課との組織の成果もはっきり出てきている。

【建設さん】じつは人事部の一部では19年の後半から東京オリンピック時のテレワークを想定し、個々の部員の仕事のスケジュールと情報をネット上で共有化し、週1回のミーティングで進捗管理を行う仕組みをトライアルでやってきた。夏の暑い時期だし、家でビールを飲みながらテレビでオリンピックを観戦したいだろうからね。延期になったけどね(笑)。

【広告さん】在宅中の仕事の基本は、課で取り組むタスクの一覧をつくり、タスクの目的とゴールを共有し、タスクの目標が部員一人ひとりの目標に紐付いていること。いつまでに何をやるかというタスクの目標の進捗状況を事前に記録し、週1回の会議で部員同士や上司が確認しあい、困っていることがあれば皆で議論することだ。もちろん途中で誰かに相談したい場合は躊躇なくチャットで連絡し、相談された相手が忙しいときは「1時間後に連絡をくれ」と、必ず代案を出すなど、管理職がリードして細かいルールをつくって徹底することだ。

【建設さん】それが徹底できない管理職も多い。仕事の進捗状況や個々の成果を在宅勤務であっても把握できるかどうかが鍵を握る。人によって報・連・相がうまいか下手か、業務遂行力などの能力発揮のレベルも見えるだろうし、それに対する管理職の指導力もわかるはず。それができないのは、今までちゃんと管理職が指導してこなかったツケが露呈しているんだと思う。

【ITさん】いずれにしてもZoom会議で意見をはっきり言えるとか、目に見える成果が問われるようになるので成果主義が否応なしに進むのは間違いない。確かに「彼はがんばっている」というプロセスが見えにくくなり、ややもすると短期の成果だけに目を向けがちになる危険はある。そこはうまくやるしかないが、日本の企業はあまりにも成果に注目するのが弱すぎたと思う。在宅勤務中心の働き方では成果を重視しなければいけない。

■経営陣の本音は在宅勤務反対!

――在宅勤務中心の働き方もさまざまな問題と課題を抱えていますが、今後も続けていきますか。

【サービスさん】コロナが収束しない限り、しばらくは続けるしかない。ニュージーランドのように勝利宣言が出れば別だが、会社としては社会的責任を問われるので完全に緩和するのは難しい。今の働き方についてこれからアンケートを取るが、在宅勤務になって仕事もライフも絶好調だという社員もいれば、仕事がはかどらないという在宅に不向きな社員がいるのは確かだ。

【建設さん】当社もできるだけ継続していくことにしている。在宅勤務については正直言って2つの反応がある。お客さんを含めてやはり直接会って顔色を見ながら打ち合わせをしたほうがいいし、説明しやすい。家で仕事をしていると、結局自分でやる仕事が増えてストレスがたまるという人。もう1つは、いちいち出社したり、出向いてやるのは効率が悪いので家でやるほうが助かるという人。仕事の内容や本人の仕事のやり方で違う。

【広告さん】在宅勤務は経営陣の本音としては絶対にやりたくなかっただろう。でもコロナでやらざるをえなくなったが、通信環境が整備され、ペーパーレス化すれば会社にとってもメリットがあると気づいた経営者も多いのではないか。実際にフリーアドレス制や一部のオフィスを解約して賃料を削減する動きも出ている。とくに子供を持つ社員には好評だ。人材を確保するには有効だし、元に戻ることはないと思う。

【ITさん】当社はリモートワークなどの需要で事業は成長しているし、逆に推進していく立場だ。問題はそれに社員がついてこられるかどうかだ。とくに働かないオジさんはますます働かなくなっている。自粛中に家で何をやっていたのかわからない人ほど、出社するとここぞとばかりに上司へのアピールがすごい。部長席の共有スペースに陣取って「部長、こんなアイデアを考えたんですよ」と、周囲の耳にも入るように話す。聞いていても、たいしたアイデアではないことがわかる(笑)。

【サービスさん】仕事をするふりをしていた人や飲みニケーションやゴルフのつきあいで生き残ってきた人たちはますます辛くなるね。当社も業績が低迷し、経営から固定費削減を命じられているが、希望退職募集となったら真っ先にターゲットになる人たちだ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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