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未曽有の低金利と輸出減で大高騰した「韓国タワマン」の末路

プレジデントオンライン / 2020年8月4日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

■過去最大の輸出減で追い込まれる韓国経済

2020年4~6月期、韓国の国内総生産(GDP)成長率は実質ベースで前期比マイナス3.3%となり、22年ぶりの落ち込み幅を記録した。主な理由は、輸出が4~6月期に過去最大の減少を記録したことだ。

韓国経済にとって、輸出は頼みの綱ともいうべきエンジンである。1960年代後半以降、韓国経済は米国や中国などへの輸出を増やすことで成長を遂げ、内需が支えられた。逆に言えば、輸出が減少すると韓国の所得・雇用環境にはかなりのマイナスの影響が出る。近年、家計部門の債務残高が増えてきたことを考えると、輸出減少の影響は軽視できない。

今後、輸出にさらなる下押し圧力がかかり、韓国経済が一段と厳しい局面を迎える展開は否定できない。仮に、新型コロナウイルスの感染がさらに深刻化するとともに、米中の対立が先鋭化するようなことがあれば、韓国の実体経済と金融システムにはかなりの衝撃があるだろう。

■韓国の輸出依存度は日本の倍以上

韓国経済を考える重要なポイントは輸出の動向だ。言い換えれば、韓国経済は外需に依存している。輸出が増加基調にある場合、韓国の社会と経済に大きな問題が生じることは少ない。反対に、輸出が減少すると、韓国経済の不安定感は高まりやすい。

韓国経済にとっての輸出の重要性を確認するために、かんたんにその歴史を確認しておこう。1965年、故・朴正煕(パク・チョンヒ)政権下の韓国はわが国との国交を正常化し、日韓請求権協定を締結した。その中で日韓は過去の請求問題が最終的に解決されたことを確認し、わが国は韓国に総額5億ドルの経済支援を行った。

その後、サムスン電子をはじめとする韓国の大手財閥企業はわが国の技術を吸収し、世界経済の変化に合わせて汎用品を大量生産し、低価格で輸出するようになった。それが、輸出主導型の経済運営を支え、1964年に約5%だった韓国の輸出依存度(GDPに占める輸出の割合)は2012年に54%に達した。輸出依存度が高いため韓国の内需は厚みを欠く。

リーマンショック後も、韓国は中国の自動車需要などを一気に取り込み、比較的短期間で景気回復を実現した。現在、韓国の輸出依存度は40%程度に低下したが、15%程度であるわが国の輸出依存度などに比べるとその水準は高く、輸出が経済を左右する基本構造に大きな変わりはない。

■今の状況で落ち込んだ景気の回復は期待できるのか

問題は、今回も韓国が過去同様の景気回復を期待できるか否かだ。年初来の世界経済を振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大によって景気は一時大きく落ち込んだ。その後、4月中旬ごろに世界経済は底を打った。

ただし、7月に入ってから持ち直しのペースは鈍化している。その背景には、米中対立の先鋭化や世界的な感染の再拡大、および米国の経済政策への不安上昇などがある。感染の再拡大によって各国は自国内の要素に頼った経済運営を余儀なくされ、米中対立はサプライチェーンを混乱させるだろう。

世界全体で貿易取引は低迷、あるいは減少する可能性がある。現状、これまでのように韓国が輸出に頼って経済の安定と成長を目指すことは難しくなっていると考えられる。

■家計の債務残高とともに急騰したソウルの不動産価格

もう1つ懸念されるのが家計部門だ。近年、韓国では家計の債務残高が増えた。データを確認すると、2012年以降、韓国の輸出は伸び悩み、経済成長率は3%前後に低下した。景気を支えるために韓国銀行(中央銀行)は基本的には緩和的な金融環境を重視した。

低金利環境下、家計や自営業者の借入が増えた。それが示唆することは、輸出主導による経済成長の向上が難しくなる中で、家計は金利の低下に支えられて借り入れを行い、日々の生活水準の維持を目指したことだ。中小企業などにも同様のことがいえるだろう。

朴槿恵(パク・クネ)前政権の経済政策も債務残高を増加させた。朴前政権は景気刺激のために不動産市場の活性化を重視し、住宅ローンの貸し出し規制を緩和した。低金利環境による“カネ余り”と不動産価格上昇への期待が重なり、多くの人が資金を借り入れて不動産を購入し始めた。

特に、政治と経済の中心地であるソウルのタワーマンションをはじめとしたマンション価格の上昇が鮮明となった。価格の上昇は不動産市場への投資資金の流入に拍車をかけ、“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が連鎖した。

金融機関は価格上昇が期待される不動産を担保にとって積極的に貸し出しを増やし、債務の積み上がりとともに首都圏の不動産価格は理屈では説明できないほどに上昇している。

■文在寅の経済運営は持続可能ではない

また、文在寅大統領の経済運営も家計の債務増加の一因だ。文政権は経済成長率を大幅に上回るペースで最低賃金を引き上げ、人手不足が深刻化する中で労働時間の短縮を実行した。その政策は中小企業などの収益力を低下させ、雇用を喪失させた。若年層を中心に所得・雇用環境は悪化し、家計の債務依存度は追加的に高まっている。

端的に、2012年以降、韓国は中国経済の成長の限界や米中の対立先鋭化などによる潜在成長率(経済の実力)の低下を、債務に依存した消費などの維持などによって糊塗(こと)したといえる。それは持続可能な経済運営ではない。

現在、現代自動車の業績悪化やイースター航空の救済が難航していることを見ても、外需が雲散霧消した状況は韓国にとってかなり厳しい。

■日中の過去の事例から見る韓国の債務問題のヤバさ

当面、韓国の輸出が増加に転じる展開は期待しづらい。韓国経済が景気後退に陥る中で輸出が減少基調となれば、家計の債務負担は増大するだろう。状況によっては、不良債権が増加し、金融システム不安などかなりの混乱が広がる恐れがある。

昨年末時点で韓国の民間(家計と金融機関を除く民間企業)債務残高はGDPの198%に達した。わが国の経験に照らすと、家計を中心とする韓国の債務残高は維持困難な領域に入りつつある。

1989年後半の資産バブル絶頂期、わが国の民間債務残高はGDPの200%に達した。1990年に入ると株価が急落し、1991年7月には不動産価格が下落し始め、資産バブルは崩壊した。その後、わが国経済は長期の停滞に陥った。中国でも民間債務がGDPの2倍近くに膨れ上がるにつれて成長率は鈍化し、債務問題が深刻化している。

日中の経験から示唆されることはGDPの2倍程度に民間の債務残高が達すると、経済と金融システムの不安定性が高まりやすいことだ。

韓国の場合、状況はさらに深刻と考えられる。家計部門の債務残高はGDP対比で96%、可処分所得対比で180%に達している。その水準は世界的に高い。

新型コロナウイルスの感染拡大によって韓国銀行は追加の利下げに踏み切り、金融政策は限界を迎えている。財政支出にも限度がある。政策発動余地が狭まる中で経済成長のエンジンである輸出が減少トレンドをたどる場合、債務リスクは追加的に高まるだろう。

■かつて経験したことがない混乱に陥る可能性

1つのシナリオとして、ワクチンの開発が期待通りに進まないなどして世界的に新型コロナウイルスの感染が深刻化し、それと同じタイミングで米中の対立が先鋭化すれば、韓国経済はかつて経験したことがない混乱に陥る可能性がある。

そうした展開が現実のものとなれば家計を中心に債務残高は維持困難となり、バランスシート調整と不良債権処理というかなりの痛みを伴う対応が不可避となるだろう。

輸出が減少する中で債務残高が積み上がっていることを考えると、今後、韓国経済がより厳しい環境を迎える展開は排除できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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