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なぜ、頭がよく、金持ちで、ルックスのいい人ほど「バカ」になりやすいのか

プレジデントオンライン / 2020年8月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Spectral-Design

なぜこの地上はバカな人間だらけなのか。バカはなぜバカなのか。バカを治す方法はあるのか。フランスの心理学者が、アメリカの哲学者に「バカの学問的な傾向と対策」を聞いた――。

※本稿はジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)の一部を抜粋・編集したものです。

■バカの条件=「自分は特権を与えられるべき人間だ」

——あなたの理論によると、バカとはどういう人を指すのでしょう?

【ジェームズ】わたしがバカと呼んでいるのは、まずもって、自分を非の打ちどころがない、社会生活で特権を与えられるべき人間だと思いこんでいるような人です。男性に多くて、女性には比較的少ないと思います。典型的な例が、郵便局の窓口の列に割りこもうとするバカです。ふつうは緊急時や、立っているのがつらい妊娠中の女性に与えられるべき特権が、どういうわけか自分にも与えられるはずだと信じているのです。

なぜかというと、自分はほかの人間より金持ち、イケメン、あるいは頭がいいと考えているから。「おれの時間はおまえたちより貴重なんだ」というわけです。そこでもし誰かが「みんなと同じように列に並んでください」と訴えても知らんぷりをしたり、逆ギレしたり。こういう人は、単に他人を見下しているのではありません。むしろ、相手にするに値しないと思っているのです。「おれの素晴らしさをわからないやつらなど、まるで話にならない」というふうに。

——バカはどこで何をしていてもバカなのでしょうか?

【ジェームズ】そうとは限りません。たまたまタイミングが悪くてバカなふるまいをしてしまう者もいないわけではないと思います。たとえば、禁酒、禁煙、ダイエット中などでイライラしていたり、若気の至りだったり。ただ、わたしが思うに、本物のバカはほとんどの場所でバカなことをします。ただし、常に必ずというわけではありません。職場や街中ではバカだけど家庭ではそうではない、あるいはその逆、ということもありえます。100パーセントのバカはまずいないでしょう。例外はスターリンですけどね。頭のおかしい大量虐殺者であっただけでなく、どこで何をしていてもバカだったらしい。

■知性の高さは、バカになるかどうかとは関係がない

——物知りで頭がよい人でも、大バカのくそ野郎になることはありますか?

【ジェームズ】そこまでひどいバカかどうかはわかりませんが、頭がよくてもバカになることはあります。わたしの考えでは、知性の高さは、バカになるかどうかとは関係がありません。むしろ、変に頭がよいせいで、ほかの人たちを見下してバカになることもあります。知性のほかに、裕福、ルックスがよいといった特徴があると、自分を高く評価しがちで、他人からもちやほやされやすい。つまり、恵まれた人のほうがうぬぼれバカになりやすいと言えるでしょう。

——そうすると、バカとは、知性の高さの問題ではなく、社会生活でどういうふるまいをするかによるということですか?

【ジェームズ】まさしく、バカかどうかは社会でどういう言動をするかで決まります。その一方で、これは心の問題でもあります。バカは他人より自分のほうが価値が高いと勘違いしています。だからどんな状況であっても、まわりが自分に合わせるのが当然だと考えるのです。また、バカの友人の中には、バカの要求に嬉々としてしたがってしまう者がいます。ここには、ある面では集団力学上の問題があるのですが、その底にはもっと個人的で根深いものがあるので、治すのはなかなか難しいと思います。

■自覚したぐらいでバカは治らない

——自分のバカなふるまいを自覚しても、バカはバカのままなのでしょうか?

【ジェームズ】困ったことに、自分がどういう行動をしているかを自覚していて、それを誇りに思っているバカはたくさんいます。「ああ、そうさ、おれは確かにバカだよ。だから何だ? おまえに文句を言われる筋合いはない」というように。だから、自覚したくらいではバカは治りません。バカの要塞の内側に閉じこもっているので、それを問題にするなど考えもしないのです。

ただ、絶対に変われないわけではないと思いますよ。大病をしたり、自動車事故に遭ったり、近親者が死去したり、という苦難を体験することで、少しは変われる者もいるでしょう。あるいは、歳をとったせいで変わる場合もあります。バカなことをするだけの体力がなくなったり、男性ホルモンのテストステロンが減少したりするせいで。でも、それもめったにあることではないので、あまり期待しないほうがいいと思います。いずれにしても、自覚したくらいでバカがバカでなくなることはまずないでしょうね。

■「強さを見せつけ上に立とう」というオスの本能

——成人におけるバカの割合はどのくらいですか? 10パーセント? 50パーセント?

【ジェームズ】国、地域、環境などによって異なります。アメリカはカナダより多く、イタリアやブラジルは日本より多い。まあ、日本はたいていの国に比べて少ないと思いますけど。時代によっても変わります。マスコミの報道を見る限り、アメリカは昔に比べると今のほうがずっと多いようです。でも、さすがにどんな国でも50パーセント以上ということはないでしょう。社会は、そこに暮らす人たちの協力と節度によって維持されていますが、どちらの能力もバカには欠けているからです。バカが50パーセントもいると社会が成り立たなくなってしまいます。

——どうしてバカがこんなにたくさんいるのでしょうか。生物の進化がそうさせたのですか?

【ジェームズ】確かに、バカが霊長類の本能と関連していることは間違いないと思います。自らの強さを見せつけて、集団のトップに立とうとするのは、霊長類のオス特有の行動です。自分がまわりより優れていると思いこんでいるバカは、それと同じことをしているわけです。でも、文明が発達し、体制が整えられた社会では、そうした要因が決定的になることはないでしょう。こうしたバカの出現は抑えられるはずです。現代では、個人主義がもてはやされるわがアメリカのような国で、とくにバカが大きな問題になっていると思います。

■バカへの対処法は「隔離」しかない

——バカにはどう対処すべきでしょうか。バカは治るのですか?

【ジェームズ】バカが治るとは考えにくいので、関わらないにこしたことはないでしょう。職場に大バカ野郎が居座っていることがたまにありますが、それはその人が会社に何らかの利益や名誉をもたらすからだと思います。心理学者のロバート・サットンが、著書『チーム内の低劣人間をデリートせよ』〔邦訳:パンローリング〕でバカの取り扱い方法を説いていますけど、残念ながら必ずしもうまくいくとは限りません。だから、どんな手を使ってでもバカを隔離する方法を見いだすのが一番です。

そして、そのためには全員で一致団結しなければなりません。こちらが仲間割れをすると、バカはその隙を突いてのさばろうとします。一般社会のように大きなグループより、職場のような小さなグループでのほうがバカを隔離しやすいと思います。でも、一般社会でもバカを減らすためにできることは必ずあるはずです。ただ、バカはこちらがすることをいちいち邪魔するので、かなり難しい作業になることは間違いないでしょう。

■トランプのバカさは「名人芸」級

——家庭内にバカがいたらどうしたらいいのでしょうか?

【ジェームズ】よくあるケースですが、とても難しい問題だと思います。なるべくバカを遠ざけることでどうにかしのいでいる場合が多いのではないでしょうか。たいていは、何らかの事情があって離婚できない妻が、バカ夫となるべく関わらないよう、話をしないで済むよう努力しています。妻は心の健康をどうにかして維持しなくてはならないのですが、それ以上どうすることもできないのです。

ジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)
ジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)

——2016年、あなたは、トランプの大統領就任における危険性を指摘した『くそったれ ドナルド・トランプ理論』(
Assholes: A Theory of Donald Trump
, 未邦訳)を上梓しました。トランプはやはり超絶大バカ野郎なのでしょうか、あるいは逆にしたたかな賢い人間なのでしょうか?

【ジェームズ】トランプは超絶大バカ野郎……いや、ハイパーメガ級大バカくそ野郎ですよ。つまり、あの男は並みいるバカどもを差し置いて、そのバカの名人芸によって尊敬と称賛を集めるほどのバカです。通常、バカどもはバカの王様(あるいは、バカ大将)の座を巡ってデッドヒートを繰り広げるものですが、あれほど立て続けにバカなことばかりしでかすトランプの前には、誰ひとり足下にも及びません(おっと、例外がひとり。北朝鮮の金正恩を忘れてはいけません)。トランプとバカを競いあった者たちは、のちにたいていは従順なしもべになり下がります(ニュージャージー州元知事のクリス・クリスティのように)。

■天才ルソーも私人としては「ほぼバカ」

——哲学者にもバカはいますか?

【ジェームズ】その点で言うと、18世紀の哲学者、ジャン=ジャック・ルソーが興味深いと思います。〈利己心〉についてのルソーの考察は、バカの自己中心的な思考と、それによって引き起こされる弊害の大きさを理解するのに、非常に重要な文献です。ところがそのルソー自身は、実の子どもたちを孤児院に捨てるという利己的な行動をしています。ルソーは哲学者としては天才ですが、私人としてはバカに近いと言えるでしょう。

——バカについて書いた貴著『くそったれの理論 (Assholes: A Theory, 未邦訳)』を読んだバカたちの反応は?

【ジェームズ】喜んでくれていますよ。あたたかいメッセージをたくさんもらいました。

「この本を書いてくれてありがとう。子どもたちからもらったのですが、これを読んで気づきました。わたしは間違いなくバカです」
「素晴らしい! 実によく書けているね!」

ただし、「これからは生き方を変えます」「もう今までのような行動はしません」と言われても、それは難しいとは思いますけど。わたしが個人的に知っているバカたちについては、本書を読んだかどうかわかりません。できるだけ関わりあいたくないですからね。

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アーロン・ジェームズ カルフォルニア大学アーバイン校哲学科教授
アメリカの哲学者。ハーバード大学にて博士号を取得。専門は倫理学、政治哲学。著書に『くそったれ ドナルド・トランプ理論 (Assholes: A Theory of Donald Trump)』(2016)、『くそったれの理論(Assholes: A Theory)』(2012)がある(いずれも未邦訳)

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ジャン=フランソワ・マルミオン 心理学専門誌『ル・セルクル・プシ』編集長
フランスの心理学者。本書『「バカ」の研究(Psychologie de la Connerie)』はフランスでベストセラーに。シアンス・ユメンヌ社などから心理学関連の著作を多数刊行。編著に、本書と同シリーズの第二弾『バカの世界史(Histoire universelle de la connerie)』、第三弾『美形とブスの心理学(Psychologie des beaux et des moches)』など。

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(カルフォルニア大学アーバイン校哲学科教授 アーロン・ジェームズ、心理学専門誌『ル・セルクル・プシ』編集長 ジャン=フランソワ・マルミオン)

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