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現役医師「これからは『コロナは風邪』と割り切る視点も必要だ」

プレジデントオンライン / 2020年8月6日 15時15分

東京・銀座を歩くマスク姿の人たち。都内で新たに400人を超える新型コロナウイルス感染者が確認された=2020年7月31日 - 写真=時事通信フォト

■人を死に至らしめるウイルスを持つ「動物A」とは?

コロナウイルスも時間が経過し、流行の様相も大きく変化しています。その変化を正しく理解するには、私たちの脳のクセを知る必要があります。まず、頭の体操だと思って動物A、動物Bが何か考えてみましょう。

動物Aは、人を死に至らしめるウイルスを持っていて、子供だけでなく大人も食い殺すことがある動物です。口内にカプノサイトファーガという菌を常に持っていて嚙みつかれると命にかかわる敗血症を発症します。人間は時々襲われ、被害も毎年報告されています。

次は動物Bです。古代では、人間の子供を捕食していたことが報道されました。動物Bは、移動距離が大きく広範囲に生息しています。時折、狂暴化します。重症肺炎を起こすウイルスや細菌を運搬することも知られています。

みなさん、わかりましたか? 恐ろしい動物たちでした。答えは、Aが犬でBは鳥です。犬は忠実でかわいらしく、忠犬ハチ公の話などを思い浮かべるかもしれません。鳥も、美しく羽ばたく姿や歌うインコを思い出します。

■たくさんの要素から偏った点だけをピックアップする

しかし、犬は発症すると致死率100%の狂犬病ウイルスやカプノサイトファーガ菌(※1)を持っています。オオカミと祖先を共通にする犬による痛ましい被害は、毎年報告されています。

鳥も同様で、古代に生息した大きな鳥が人間の子供を捕食していたことが話題になりました。鳥は、クラミジア菌やインフルエンザウイルスを保有しています。クラミジアの肺炎は、オウム病とも言われます(※2)。インコは、シャケ化と呼ばれる暴走モードに入ることがあります。

私は、犬についても鳥についてもウソはつきませんでした。でも、多くの人が描いている像とは大きく異なるものだったでしょう。物事には、たくさんの要素や側面が存在しています。その細かな情報を掘り下げても、全体像にならないことを古来より「群盲象を評す」と呼んできました(※3)

逆に、全体像や真実を知っている人はこのことを利用することができます。たくさんの要素のなかから都合の良い物だけをピックアップして披露するわけです。知られていないカタカナの専門用語を入れた動物クイズもその一つでした。マーケティングなどの行動経済学でもよく利用される手法です。

■脳特有のクセ「認知バイアス」

脳はとても小さな臓器なのに、処理しなくてはならない情報は無限です。放っておくと脳はパンクしてしまうので、全部を分析せずに短時間に勝手に処理を簡単にします。そこに認知バイアスやヒューリスティックと呼ばる脳特有のクセが生まれます。

認知バイアス(cognitive bias)は、いくつか知られています。新型コロナウイルスの報道ではアポフェニア〔少数の法則;law of small numbers(※4)〕や過剰一般化(※5)と呼ばれる手法がよく使われています。

犬の例では、まれな敗血症の話しをしました。報告があるのでウソではありませんが、確率的には極まれな話です。鳥による肺炎も同様です。

図で書くとこのようなものです。ポジティブな情報を青、そうでないものを紫とします。紫を赤にしただけでも目立つようになります。ポジティブな情報を減らすとさらに目立ちます。さらに、青のポジティブ情報をほとんど隠してしまうと絶望的に悪い状況に見えてきます。

ポジティブな情報を「青」、そうでないものを「紫」とする
図版作成=大和田潔
ポジティブな情報を「青」、そうでないものを「紫」とする - 図版作成=大和田潔

■「一部」を「全部」にしてしまう

新型コロナウイルスの感染者数増大や、感染者が出現した県数の増加情報もその一つの例です。少数の重症者の中に時々しか発生しない合併症も全体数からみると非常に稀ですが、頻繁に報道されています。

こういう直感的な人間の認知バイアスは、人間の直感的な思い込みの見地からヒューリスティックスともよばれます。先程のものは、代表性ヒューリスティック(代表性発見的手法、representative heuristic)と呼ばれるものです(※6)

精度は今ひとつでも速度重視で、一部分を聞いて即座に直感的判断をする脳のクセです。有利なこともありますが、後でゆっくり全体を吟味してみると「あぁ、そうだったのか……」という苦い経験にもなります。

2020年8月現在、新型コロナが再度感染拡大と言われています。私は全く違った印象を持っています。なぜそう思うのか、公開されているけれど強調されていない点もゆっくり考察して、少数の法則の認知バイアスや代表性ヒューリスティックを減らして俯瞰してみましょう。

■一定の陽性率と低い死亡率

2月~7月末までの東京都が公開したPCR検査数と陽性率、重症者数(図版作成=大和田潔)
2月~7月末までの東京都が公開したPCR検査数と陽性率、重症者数(図版作成=大和田潔)

これは2月から7月末までの東京都が公開しているPCR検査数と陽性率、重症者数です(本当は重症者数の縦軸はもっと小さい)。なにも加工せず並べました(※7)。このグラフを見ると、私は素直にこう思います。

1.PCR数は、現在は1日6000回近くで初期に比べると何百倍も行われている。
2.PCR陰性の人が圧倒的に多い(薄緑の部分が陰性)。
3.6月下旬から95%以上が陰性で、7月からは陽性率(オレンジの実線)は長期間5~7%の一定で推移。
4.6月末からPCR陽性患者が激増していると報道されて4週間以上経過するが、重症患者数は増加していない。初めからそもそも極めて少ない。
5.PCR検査数が少ない初期には陽性率の高さが注目され、検査数が多い現在は陽性者の数自体が注目されている。

そういうふうに思います。全体を知っている上で目立つところを引き抜くという作業は常に行われていますので、5の視点はとても重要です。そして、私はこの状況をみて日本では重症化しにくく、かつ現在の陽性率は一定なので、「新型コロナウイルスCOVID-19も常在季節性ウイルスの一つになりつつある」と考え、ホッとしています。海外の識者も、その可能性に言及しています(※8、※9、※10)

■「東京全体の流行」は幻

発生状況はずっと軽微だ
図版作成=大和田潔
発生状況はずっと軽微だ - 図版作成=大和田潔

心配されていた墨田区の患者さんがいらしたときにお渡しした図です(※11)。東京スカイツリーや私の母校の都立両国高校があり、20万人が以上暮らしている墨田区も東京都と同じ傾向ですが、ずっと軽微です。5月から週別のPCR陽性者数(黒い棒グラフ)は数人もしくはゼロであり、陽性率(青い折れ線)も数%に過ぎません。

千代田区民の感染者数(画像=神田医師会配布資料)
千代田区民の感染者数(画像=神田医師会配布資料)

私たちのクリニックのある秋葉原は、千代田区にあり6万人が暮らしています。日本武道館近くの九段にはPCR検査施設が設置されています。神田医師会からの報告では、5月からの区民発症者はほぼゼロです。患者さんに医師会から届いた資料をお渡しすると皆さん驚かれています。きっと秋葉原やPCRセンターの近くなんかはたくさん陽性者がいるイメージなのだろうと思います。

患者さんが驚くということは、メディアが作り出した脳内のイメージと現実が解離しているからでしょう。このように東京は、発症者が少ない地域の方が多いのがファクトです。

どうやら最初にお示しした図の沢山の青い丸は伝えられていないようです。東京全体が汚染されているイメージは、メディアの作り出すアポフェニアや代表性ヒューリスティックを利用した幻(まぼろし)です。

■「陽性判明数の増加=感染拡大」ではない

東京都が公開している情報を素直にみると私にはメディアが報道しているような感染拡大には感じられません。

そうではなく「全国的に既に症状も出さずに人々に薄く広がって蔓延している状況」だとすると一番スッキリします。理由は、陽性率が低く一定で、重症者が増えていないことです。

発症していないウイルス保有者が一定数すでに存在するだけであれば、PCRをやればやるほど一時的に粘膜に付着しているだけの人も含め、陽性者は増加します。人知れず少数の陽性者が、日本中で再生産されては治癒して消滅していると考えると辻褄が合います。

どんなに検査数を増加させても陽性率が変わらないということは、一定数が存在するだけ、つまり「常に一定数が発生し一定数が自然に治っている平衡状態」を意味しています。もし、検査数の方が一定で陽性率の方がどんどん上昇して陽性者数が増えているなら陽性者が実際に増えているので感染拡大といえます。

幸い日本では、陽性数が著増して1カ月経過しても重症者は微減微増を繰り返すだけになっています。たとえ検査数が少なかった地域からの、陽性者や重症者のあぶり出しによる判明者の増加があってもウイルスの性質は一緒なので東京と同じ傾向のはずです。

検査すればするほどCOVID-19は、夏季には日本ではただの感冒ウイルスであることがより鮮明化するだけでしょう。8月の夏に沖縄で流行しているのも季節性インフルそっくりです(※12)

現状の陽性者の「判明数の増大」を「感染拡大」と呼ぶにはもっと慎重になった方が良いと思っています。私たちは、アポフェニア(少数の法則)のバイアスへ誘導する陽性者数増大や入院者増大という一つの情報で、代表性ヒューリスティックに判断して群盲像を評する状態にならないように注意しましょう。

■陽性者は「米5万粒に10粒以下」の少数

ウイルス感染症の重症度は、最初に暴露されるウイルス量に左右されます。私たちには異物排除の自然免疫があるので、多少の外敵は粘膜で排除することができますし侵入されてもすぐに退治してしまいます。

たくさんのウイルスがいっぺんに体内に入ってくると、免疫のバリアが突破されやすいだけでなく多くの体細胞に取りつかれて重症化します。避けるべきなのは、短期間に大量のウイルスに暴露されることです。

私は、現在の状況を患者さんにお米を使って説明しています。

現在の状況とお米に例えると…
図版作成=大和田潔
現在の状況とお米に例えると…… - 図版作成=大和田潔

精米1kgは5万粒です。都民1500万人は300袋に相当します。300〜500人の陽性者の玄米を均等に割り振っても5万粒に1~2粒、1000人でも3粒ほどにすぎません。増加したという今でも陽性者はそもそも少数です。玄米が偏っていれば、なおさら暴露は減ります。しかも時間が経つと治癒するので、玄米も勝手に精米に変わっていきます。

たくさんのウイルスに暴露されなければ、感染は成立しにくいのですから、この程度では感染は成立せず“精米”は“玄米化”しにくい状況でしょう。たとえ東京で検査数を数倍にしても1袋5万粒に10粒以下じゃない? なぜ一つの県全体で数人だけで大騒ぎになるの? そもそも玄米を見つける必要があるの? 賢明な皆さんは、そう思われるでしょう。私もそう思います(※13)

■コロナウイルスは「蔓延常在化」している

ゴールを設定せずに、いたずらに業務停止や休校を命じることは有害でしかないと思っています。

新型インフルエンザでも、数十人がいっぺんに感染した時にはじめて学級閉鎖になり、校舎の消毒は行われませんでした。これまではそれぐらい休校には慎重だったはずです。新型インフルエンザ流行でも、ノロでもロタでもO-157でも休業要請なんてしてきませんでした。

学校も、飲食店、旅行業、旅客運送業を含めたくさんのお仕事の人が、重症化しにくい一つのウイルスで被害が続くのは合理的ではありません。

少数の人に陽性が判明したことをクラスター、いあわせた人を濃厚接触者と呼ぶべきかどうかも慎重になるべきだと思っています。検査数増加による判明者の拡大に過ぎず、調べていない隣の場所でも「濃厚接触」が起きているかもしれません。

また、その日にPCR陰性でも次の日に陰性である保証もありません。目標は、日本人全員の毎日PCR? 国土からの駆逐? 封じ込め? どれも不可能です。

ましてや普遍的に存在し始めたコロナウイルスで差別や解雇など社会的排除は無意味です。しばらくすると体からウイルスはいなくなります。差別している人々の方が、陽性かもしれません。そんなことは社会に損害を与え、自分の心も傷つくだけです。

■国民の恐怖に応えつづけると「医療自壊」する

現在見つかっていない地方都市でも毎日1万人ほどPCRやり続ければ、たぶん多数の陽性者や重症者を捕捉することができるでしょう。少数の人を村八分にするところではない数になるはずです。そして夏の今ではなくカゼの仲間として冬に増えるでしょう。

現状は、何もないところに新たに連鎖反応が起きるクラスターのイメージとは程遠いものです。冬の流行初期とは違う状況です。国土に普遍的に存在する常在ウイルス化しつつあることを認めましょう。この県にも発見された、というのは既に存在したものが判明しただけなので報道の価値はあまりありません。

国は検査拡大だけでなく目的や陽性と判断した際の指針を明示しておくとよいと思います。国民の恐怖に応えつづけると病院に元気な人が「大量入院」し、トコロテンのように後がつかえるので元気なままPCR陰性を待つことなく「大量退院」していかざるを得なくなります。

医療者は無為な作業に疲弊し、コロナ以外のもっとずっと多い他の疾患の患者さんも不利益を被り亡くなってしまうかもしれません。そんな日本独自の医療崩壊は避けなくてはなりません。特に郊外ではそうです。

そもそも、そんな元気な人々が病院を経由する必要があるのかどうか。コロナウイルスに神経質になりすぎたことによる医療崩壊は自滅自壊でしかありません。1日に多数がまだ発生している国も多く(※14)、少ない医療リソースを厳密に使って何とか乗り切っています。重症者が多発することによる他国の医療崩壊と日本の「医療自壊」は程遠いものです。

目的とプラン無き検査拡大は、不安感を増すだけで有害性の方が多くなります。

■今はあわてず、冬に備えることが必要だ

夏の今あわてるのではなく増加するかもしれない冬に備えましょう。無症状者は、他者を感染させる危険は少ない前提での新しいルール作りが必要です。

私は、新型コロナウイルスを「日本では常在カゼウイルスの側面も持ち始めた」と割り切る視点が必要になってくると思います。

今後の予測をしてみます。PCR検査が大量に行われれば、陽性者が増加していくでしょう。お米のたとえで言えば、全粒検査はできないのでサンプル検査をして玄米を見つける作業になります。将来的には、東京都の定点報告ぐらいでよいのではないかと考えています(※15)

致死的な強毒ではない感染力のあるウイルスは、最終的に新型インフルエンザのように常在ウイルスになります。冬季に増加し、来年の夏には減るカゼウイルスの一つになっていくでしょう。来年の今頃は、コロナを見慣れた私たちは大騒ぎのことも忘れているかもしれません。

冬に流行するインフルエンザウイルスもRAウイルスも、ノロやロタウイルスも夏の今でもきっと日本内に一定数保有されています。それらのウイルスのPCRを全国規模で行えば、あちらこちらで「夏にもクラスター」しているかもしれません。調べないから知らないだけです。

登場から1年近く経過し(※16)、もう新型ではなく季節性コロナウイルスの性質を帯びてきたCOVID-19。日本にたぶん1年前から持ち込まれていたはずのウイルス。

時間が経過し、私たち日本人に溶け込み季節性の見なれたウイルスの一つに変わりつつあるのかもしれません。

■English abstract

Is “new coronavirus COVID-19” becoming a “prevail seasonal virus” in Japan?

In August 2020, the number of positive cases of COVID-19 has increased according to the number of antigen tests in Tokyo, Japan. However, both this positive rate and number of patients with severe symptoms remain almost immutable. Only asymptomatic carriers of the virus have been increasing.

In other words, only a certain number of asymptomatic persons are positive in the population, which suggests the possibility that the prevail “new” coronavirus SARS-CoV-2 has transformed into one of the “seasonal” viruses in Japan.

In Japan, emergency measures, which were taken in the early stages of the epidemic, blindly continue. Municipalities remain in fear of a small number of asymptomatic antigen-test positive individuals. For example, if one person was found positive, an entire school will be closed, and the buildings will be disinfected.

The first occurrence of SARS-CoV-2 has been reported in the summer of 2019. Global exposure to the virus has reached one year. If emergency measures, such as self-restraint and school closure, will be extended, then damage to the economy and culture will be larger.

Each country or region worldwide will need new strategies against SARS-CoV-2 as a prevail virus. As such, an international dialogue for the formulation of responses to the coronavirus in a new phase will be required.

【参考文献】
1.カプノサイトファーガ感染症に関するQ&A, 厚労省
2.オウム病(psittacosis)とは、国立感染症研究所
3.群盲象を評す, wikitionary
4.Law of Small Numbers, Psychology 
5.Faulty generalization
6.代表性発見的手法(representative heuristic)ヒューリスティックス(心理学), wikipedia
7.東京都コロナウイルス感染症対策サイト
8.COVID-19 could become 'a seasonal virus like influenza,' says expert CGTN
9.COVID-19 Could Become a Seasonal Illness: What We’ll Need to Do healthline, Elizabeth Pratt on April 2, 2020 — Fact checked by Maria Gifford
10.Virus Likely to Keep Coming Back Each Year, Say Top Chinese Scientists, Bloomberg News
11.墨田区内の新型コロナウイルス感染症の発生状況
12.沖縄における夏季のインフルエンザ流行とその理由 日本医事新報
13.「東京を封鎖しろ」なぜ日本人はこれほどコロナを恐れてしまうのか
14.worldometer covid-19 coronavirus pandemic
15.東京都感染症発生動向調査 定点報告疾病週報告分 推移グラフ
16.新型コロナ、19年夏に発生していた可能性, ワシントンAFP時事

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大和田 潔(おおわだ・きよし)
医師
1965年生まれ、福島県立医科大学卒後、東京医科歯科大学神経内科にすすむ。厚労省の日本の医療システム研究に参加し救急病院に勤務の後、東京医科歯科大学大学院にて基礎医学研究を修める。東京医科歯科大学臨床教授を経て、秋葉原駅クリニック院長(現職)。頭痛専門医、神経内科専門医、総合内科専門医、米国内科学会会員、医学博士。著書に『知らずに飲んでいた薬の中身』(祥伝社新書)、共著に『のほほん解剖生理学』(永岡書店)などがある。

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(医師 大和田 潔)

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