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なぜ外為市場ではユーロやドルよりも「円」が評価されるのか

プレジデントオンライン / 2020年8月5日 18時15分

2020年6月8日、東京都内で、東京証券取引所の株価と対ドルの為替レートを表示した電光掲示板の前を歩く歩行者。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■ユーロを皮切りに外国為替に異変

膠着(こうちゃく)が続いていた外国為替相場にこのところ動きがみられる。主役は欧州の通貨ユーロだ。ユーロの対ドルレートは7月1日時点の終値では1ユーロ1.1252ドルであったが、月末31日の終値では1.1776まで上昇、この間の変化率は4.7%となった。対円でも終値で1ユーロ120.93円から124.70まで上昇、取引時間中には125円台にもワンタッチした。

外為市場でユーロが好感された最大の理由は、欧州連合(EU)が復興基金(recovery fund)の創設で合意したことにある。EUは7月17日から異例となる4日間の非公式首脳会議(サミット)を開催し、コロナ禍で打撃を被った経済の復興を後押しするための基金を創設すると決定した。このことが投資家に好感され、ユーロ相場を上昇させる推進力になった。

この復興基金をめぐっては、財政協調に積極的なドイツとフランスといった主要国に対して、財政協調に消極的なオランダやスウェーデンなどの北部諸国、さらに法律の支配や人権の保護などのあり方をめぐって主要国に反発する中東欧諸国がそれぞれ反発する事態が生じた。こうした対立は、重要事項の決定を全会一致で決めるEUにとって、今後の政策運営のあり方をより難しくさせると危惧される。

もちろん復興基金自体に問題がないわけではないが、今回の合意により、コロナ禍での景気の悪化が顕著なイタリアやスペインといった南欧諸国に対する支援のめどが立った。また資金の調達にあたって共同債が発行されるなど、EUの最大の課題である財政の一元化についても弾みがつくことになった。こうしたことを投資家が好感したことが、足元のユーロ相場の上昇につながった。

■米国経済に対する失望もユーロの上昇を促す

一方、ユーロ高の裏にはドル安があるわけだが、それを促しているのは米国経済に対する失望だ。米国の新型コロナ感染者数は460万人を超えるなど世界でも突出しており、感染拡大に歯止めがかからない。厳格な都市封鎖(ロックダウン)を実施したニューヨークでは収束しつつあるが、一方で経済活動を本格的に再開させるまでには至っておらず、米国の景気回復が遅れるとの観測が高まっている。

今年11月の大統領選で再選を目指すトランプ大統領は、経済活動への配慮からこれまで強い感染対策を採用してこなかった。そうした感染対策のあり方に加えて、これまでの政権運営に対する不信感などから、トランプ大統領に対する支持率はこのところ各種の世論調査で低迷しており、野党・民主党の候補者であるジョー・バイデン前副大統領にリードを許している状態にある。

支持率の回復に躍起なトランプ大統領は、7月22日の在ヒューストン中国総領事館の閉鎖命令を皮切りに、中国に対する圧力を矢継ぎ早に強めている。中国企業が運営するショートビデオアプリ「TikTok」を米国で禁止する方針を示したことも、この延長線にある。当然、中国も成都にある米国総領事館の閉鎖命令を出すなど対抗措置を強めており、米中摩擦が再燃している。

コロナ禍も対中摩擦も米国景気の回復の遅れにつながり、FRB(連邦準備制度理事会)による大規模な金融緩和も長期化を余儀なくされる公算が大きい。こうした米国経済に対する投資家の悲観的な見方が、ユーロ買いにつながっている側面も無視できない。円の対ドルレートがこのところ円高気味に推移していることも、米国経済に対する投資家の悲観的な見方を反映している。

■バイデン前副大統領の当選でも「ドル高」にはならない

ユーロは実に政治的な要因によって左右される通貨だ。どの通貨も政治の安定は経済の成長につながるが、27カ国から構成されるEUの通貨であるユーロの場合、政治的な要因が為替レートにとくに反映されやすい。2017年5月にフランスで親EU派のエマニュエル・マクロン大統領が当選した際にユーロ相場が急上昇したことなどは、そうしたユーロの持つ性質を良く表している。

EUでは2021年3月17日にオランダが総選挙を控えている。多党制の国であるオランダでは近年、反EU色が強い自由党(PVV)が台頭、連立政権を組む上でのハードルとなっている。オランダのマルク・ルッテ首相が復興基金のあり方に対してドイツやフランスに対して厳しい態度を貫いた背景には、こうしたオランダが抱える事情もある。とはいえ、言い換えればオランダ以外に目ぼしい国政選挙はない。

こうした意味で、来年にかけてEUの政治は安定しているといっていい。他方で米国は今年11月に大統領選を控えており、トランプ再選に黄色信号が灯っている。トランプ大統領が再選した場合、少なくとも中国に対する圧力は短期的には緩和され、それがドル買い要因になる可能性が高い。とはいえトランプ大統領の政権運営は場当たり的な側面が強く、それが持続的なドル高を阻むだろう。

それにバイデン前副大統領が当選したとしても、持続的なドル高が進むとは考えにくい。むしろ、規制強化を重視する民主党政権の下で、米国景気の回復がかえって遅れてしまうリスクが意識される。実際にそうした方針が打ち出されれば、ドル安はさらに進むことになるだろう。バイデン前副大統領が77歳とトランプ大統領以上に高齢であるため2期目が望めないことも、政治的な安定の面からは問題といえる。

■ユーロ高の後は円高が来る可能性

以上を整理していくと、少なくともこのユーロ高のトレンドは今秋の米大統領選挙までは続きそうだ。このままトランプ大統領が有効なコロナ対策をとれず、また対中摩擦に躍起となるようでは、1ユーロ1.20ドルの節目を超えるのも時間の問題だろう。さらに米国に比べて良好な経済指標の発表が欧州で相次げば、17年5月のマクロン大統領の当選後につけた1ユーロ1.25ドル台も視野に入る。

堅調なユーロ相場の背後で、ドル円相場も緩やかな円高トレンドにある。つまり主要通貨の強さは今、ユーロ、円、ドルの順となっている。とはいえ、政治的な安定を好感したユーロ買いもそう長くは続かないはずだ。投資妙味が薄らいだと判断された場合、これまでの急速な上昇の反動でユーロが急落する展開は十分に予想されるが、その際に受け皿となる通貨はやはり円だろう。

たしかに、足元の日本の貿易収支は輸出の不振を受けて赤字基調が定着しており、実需面から円に買いが入り難い状況である。先行きの世界景気も不透明感が強いため、日本の貿易収支が黒字化するには相応の時間を要する。この要因が円高を進み難くする一方で、これまでの急速なユーロ高を受けて、リスク回避の受け皿となりえる主要通貨は、消去法的に円しかない。

欧米の政治情勢の動き次第では、1ドル100円割れが定着する可能性も視野に入る。輸出企業の業績には逆風となる一方で、日本経済全体にとっては、この局面での円高は必ずしも悪いことではない。円高による物価押し下げ圧力が、雇用の悪化に伴って減少を余儀なくされる所得をカバーするためである。いずれにせよ、円は当面、強含みの展開となりそうだ。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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