1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

取材先と賭け麻雀「ボーイズクラブ」というメディアのムラ社会の正体

プレジデントオンライン / 2020年8月11日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

日本ではあらゆる場所で「男性優位」がまかり通っている。それは歪みを厳しく指摘するべきメディアも同じだ。朝日新聞の南彰記者は「記者と取材先が『賭け麻雀』のような秘密を共有し、男性同士でお互いを認め合っている。この『ボーイズクラブ』が日本メディアのムラ社会の正体だ」と指摘する——。

※本稿は、南彰『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■「ハッシュタグ」デモを生んだ女性

〈1人でTwitterデモ #検察庁法改正案に抗議します
右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法律が通ったら「正義は勝つ」なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください〉

2020年5月8日夜。広告制作の仕事をしている30代の女性会社員・笛美さんが、検察幹部の定年を特例で延長できるようにする検察庁法改正案に抗議するツイートをした。

「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグは芸能人・著名人にも広まり、9日には500万件を超すうねりに。国会での数の力を背景に、成立に意欲を示していた安倍首相も同月18日夜、「国民の理解なくして前に進むことはできない」と通常国会での成立を断念。秋の臨時国会以降に先送りすることを表明した。

笛美さんのもとにはうねりが広がるなかで、「ハッシュタグのおかげで、今まで言えなかったことが言えた」などと感謝のメッセージが次々寄せられた。もともとは仕事一筋で政治に無関心な人生を送ってきたが、2年ほど前から日本で女性として生きるしんどさを感じてフェミニズムに興味を持つようになり、ツイッターでの発信を始めたという。激動の10日間を振り返り、自身のnoteにこう綴った。

■「誰だって声を上げていいし、周りの人が連帯してくれる」

〈私はこれまで通りフェミニストとして、ジェンダーギャップ121位の日本でフェミニズムを当たり前にするために声を上げていきたいです。また1人の声を上げる人として、「1匹のウサギ」として、声を上げようとする人を応援する活動もしていきたいです。SNSのおかげで、誰だって声を上げていいし、声を上げれば周りの人が連帯してくれる時代になりました。次はあなたが声を上げる人になってください〉
(2020年5月19日「#検察庁法改正案に抗議します 激動の10日間と今後について」)

検察庁法改正案をめぐるもう一人の主役は、黒川弘務・東京高検検事長だ。安倍政権は同年1月、国家公務員法の規定を適用するという強引な勤務延長手続きによって、「安倍官邸の守護神」ともいわれた黒川氏の検事総長就任に道を開いた。検察庁法改正案は、違法性が指摘されるこの手続きを後付けで正当化するものと見られていた。

その黒川氏をめぐって、5月20日、週刊文春オンラインが記事を配信した。

■疑惑の人物を記者が囲って接待麻雀

〈黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密?”「接待賭けマージャン」〉

法案審議のさなかの5月1日、黒川氏が都内のマンションで6時間以上、麻雀に興じていたという内容の報道だ。相手は産経新聞社会部記者2人と朝日新聞の元検察担当記者で、日付かわって午前2時ごろにマンションから出てきたメンバーはいずれも男性だった。

黒川氏とこの男性記者たちとの麻雀は5月13日夜も行われた。週刊文春では、「いつも黒川氏と連絡を取り合って日程調整をする記者も、さすがに時期的にマズイと思ったそうです。でも、黒川氏からやりたいと言われれば、当然断れない。『黒川さんがすごくやりたがっているから、仕方ないんだ』とボヤいていました」という産経関係者の発言が紹介されていた。

体育会系などで顕著に見られる男性同士の緊密な絆でお互いを認め合っている集団を「ボーイズクラブ」という。

秘密を共有し合う男性たちの麻雀はその典型だった。

■主要7カ国で最も男女格差がある日本

世界経済フォーラムが2019年12月に発表した同年の「男女格差(ジェンダーギャップ)報告書」で、日本の順位は153カ国中121位で過去最低だった。安倍政権が「女性活躍」を掲げてきたが、同年1月時点の衆院議員で女性が10.1%、閣僚は19人中1人(5.3%)しかいないことが響き、男女格差の指数が前年の66.2%から65.2%に後退。主要7カ国(G7)では最下位になった。

記者会見で結果を問われた自民党の二階俊博幹事長は「いまさら別に驚いているわけでも何でもない」としたうえで、「徐々に理想的な形に直すというか、取り組むことが大事だ」と述べるにとどめた。男女の候補者を均等にするよう政党に求める候補者男女均等法(パリテ法)ができたが、施行後初めての国政選挙となった19年7月の参院選で、自民党の女性候補割合は15%だった。

財務事務次官のセクシュアルハラスメント問題が起きた直後、麻生太郎副総理が「男の番(記者)に替えればいいだけじゃないか」「次官の番(記者)をみんな男にすれば解決する話なんだよ」と周囲に語ったと報じられ、批判を浴びた。

■一方、メディアのジェンダー意識は…

ただ、こうした日本政治の遅れたジェンダー意識を支えているのは、監視する側のメディアにも原因がある。

1990年から国政選挙のたびに日本記者クラブが主催している党首討論会。過去10年の司会と代表質問者の性別は次の通りだ。

【2010年6月22日(参院選)】
司会:女性(TBS)
代表質問:男性(日本経済新聞)、男性(NHK)、男性(読売新聞)、男性(毎日新聞)、男性(朝日新聞)
【2012年11月30日(衆院選)】
総合司会:女性(TBS)
第一部司会:男性(NHK)
代表質問:男性(日本経済新聞)、男性(毎日新聞)、男性(読売新聞)、男性(朝日新聞)
【2013年7月3日(参院選)】
総合司会:女性(日本テレビ)
第一部司会:男性(NHK)
代表質問:男性(読売新聞)、男性(朝日新聞)、男性(毎日新聞)、男性(日本経済新聞)
【2014年12月1日(衆院選)】
総合司会:女性(TBS)
第一部司会:男性(NHK)
代表質問:男性(読売新聞)、男性(朝日新聞)、男性(毎日新聞)、男性(日本経済新聞)
【2016年6月21日(参院選)】
司会:女性(日本テレビ)、男性(NHK)
代表質問:男性(読売新聞)、男性(朝日新聞)、男性(毎日新聞)、男性(日本経済新聞)
【2017年10月8日(衆院選)】
総合司会:女性(TBS)
第一部司会:男性(NHK)
代表質問:男性(読売新聞)、男性(朝日新聞)、男性(毎日新聞)、男性(日本経済新聞)
【2019年7月3日(参院選)】
総合司会:女性(日本テレビ)
第一部司会:男性(NHK)
代表質問:男性(読売新聞)、男性(朝日新聞)、女性(毎日新聞)、男性(日本経済新聞)

■首相はDV被害に「そういう報告は受けていない」

「第一部司会」は代表質問者だ。つまり、記者クラブを代表して質疑を行う記者は男性、司会は女性という枠組みが続いてきており、2019年にようやく質問者に女性が1人入った。ジェンダーギャップ指数121位の日本社会を投影するような性別分業だ。

新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の発出を宣言した20年4月7日の安倍首相の記者会見でも、政治部の官邸記者クラブのキャップが主に参加していたが、質問した12人のうち女性は2人。うち1人はフリーランスだった。

日本テレビの女性記者からドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待に関する質問は出たが、安倍首相は「国内においてまだそういう兆候が出ているということを、私は、報告は今、受けておりません」と答弁した。

実際には、学校の休校や外出自粛の影響でDVや児童虐待の問題が深刻化していることを訴え、その対策を求める「全国女性シェルターネット」の要望書が3月30日に安倍首相らに提出されていた。その要望書のなかには、「夫が在宅ワークになり、子どもも休校となったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力を振るうようになった」「かねてからDVで母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅し、家族を監視したりするようになったので、避難が難しくなり、絶望している」など、切実な声が記されていた。

首相の答弁はそうした課題が政治の中枢で議論されていない証だった。

■メディアこそ男性優位の意思決定が行われている

南彰『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)
南彰『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)

日本マスコミ文化情報労組会議は3月6日、メディア業界における女性管理職比率の調査結果を初めて公表した。

新聞・通信社は現在、新入社員ベースではほぼ男女半々になっているが、女性管理職は平均6.4%。38社中30社で1割未満。1人もいない社が6社あった。デスクやキャップなど社内で指導・教育的立場にある従業員を含む「広義の管理職」でみても、回答した35社中25社で女性が1割未満にとどまった。テレビ局も、在京・在阪のテレビ局には、報道部門、制作部門、情報制作部門に女性管理職(局長相当)は1人もいなかった。

「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という政府目標にほど遠い状況で、新聞・通信・テレビともに「女性役員ゼロ」の社が多数を占めた。圧倒的に男性優位で意思決定が行われているのである。

----------

南 彰(みなみ・あきら)
新聞労連中央執行委員長
1979年生まれ。2002年に朝日新聞社に入社し、08年から東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。18年秋より新聞労連に出向し、中央執行委員長を務める。新聞、民放、出版などのメディア関連労組でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議(通称MIC)」の議長も兼務している。20年秋、東京政治部に復帰予定。共著に『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社新書)など、近著に『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)がある。

----------

(新聞労連中央執行委員長 南 彰)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください