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「子供ができても家は別々」共働き30代夫婦が別居婚を続ける理由

プレジデントオンライン / 2020年8月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

結婚しても別々に住む「別居婚」が注目されている。男女関係や不倫について20年以上取材を続けるフリーライターの亀山早苗氏は、「女性の社会進出が進んだことで、個々人の自由が確保できる別居婚を選ぶ夫婦が現れ始めた」という——。

■「個」を意識する人たちが増えている

「婚姻届を出して同居する」のが一般的な結婚の形ではあるが、ここ10年くらいの間に、さまざまな結婚の形を選択するカップルが増えてきた。婚姻届を出さない事実婚カップルが典型的な例だろう。背景には別姓を選択できないこと、婚姻届を出すメリットが感じられないことなどがある。事実婚の方法も、公正証書で証明する事実婚、住民票に「妻(未届)」と記載するカップルなどさまざまだ。

中でも最近、よく聞くのが「別居婚」だ。これには2通りある。ひとつは結婚する若い世代が最初から別居を選ぶ、もうひとつは子どもが巣立った熟年夫婦が縁婚はせずに別居を選ぶこと。いずれも、これからの時代の夫婦の新しいパートナーシップのように思う。

かつては、結婚=同居だったが、今の時代はそうではなくなった。これはやはり女性の社会進出が進み、「個」を意識する人たちが増えているからではないだろうか。そもそも、「ひとり扶持(ぶち)は食えなくてもふたり扶持は食える」と昔から言うように、「結婚」はかつてはあくまでも男女が少しでも便利に、そして経費を節約しながら生活していくための方策だった。男は稼ぎ、女は家事や子育てをする。分業することで一家をなしていくのが当然の時代が長かった。富国強兵の時代には、子だくさんが奨励された。

ところが今は人の意識が大きく変化してきた。一家に一台の電話がひとり一台になったことに象徴されるように、「個」の時代なのだ。都会は老いも若きもひとり暮らしであふれている。デパ地下もコンビニも、「個食」を前面に売り出している。

■「結婚」に息苦しさを感じる女性たち

「仕事と友だちと趣味があれば、恋愛や結婚はいらないかも」

そんなふうに言う若い女性は多い。結婚したいと思う女性ももちろんいるし、「結婚しないの?」という圧力にめげて結婚しなければならないと思う女性もいる。だが、以前なら表明できなかった「結婚したくない」「ひとりでいるのが好き」という意見も堂々と言えるようになっているのだ。

2018年の厚労省・人口動態統計によると、男性の平均初婚年齢は31.1歳、女性は29.4歳となっている。統計を開始した1955年と比較すると、男性は4~5歳、女性は5~6歳も平均初婚年齢が高くなっている。だが、世界をみると、ヨーロッパでは男性35歳前後、女性33歳前後という国は少なくない。これはヨーロッパでは「男性が女性を扶養する」という考え方がもはやなくなっていること、事実婚が圧倒的に多いことなどがあげられるようだ。女性も仕事をして税金を払い、男女とも平等に仕事や育児をしやすいよう育児休暇や子どもへの手当も厚い。

日本ではまだまだ、男性が育休をとりづらいなど社会的整備ができていない。しかも男女の賃金格差も大きい。だから法律的な結婚へと押し出されることになってしまうのだが、それでもその「結婚」に息苦しさを感じる女性たちが増えているということだ。

■好きな人でもずっと顔をつきあわせるのはストレスだ

そもそも、ひとり暮らしが長くなると他人と生活するのは至難の業。特に高い家賃のわりに狭い住居しかない都会では、いくら好きな人であっても顔をつきあわせることによるストレスは大変なものだ。これは外出自粛中にコロナ離婚、またその予備軍が激増したことでもわかる。妻のストレスの大半は夫によるものではないかと思うくらいだ。

女性たちは、自由に恋愛をする一方で、結婚すると「夫となった男性によるハラスメントがある」ことを、先輩たちを眺めながら知ってしまったのだろう。ましてや自分に経済力がなければ、夫に従うしかなくなる。だから仕事は手放さない。そうやって仕事をすればするほど、男社会の、そして男自身の矛盾やダブルスタンダードを体感していく。

それでも、生涯をともにしたいと思う男性が現れたとき、自分の精神的・物理的リスクを軽減するために、別居婚を選ぶようになったのではないだろうか。

■別居婚のメリットは「自由の確保」

メリットはなんといっても「自分の自由が確保できること」だろう。

「つきあって5年。私は結婚しなくてもいいと思っていたんですが、彼は結婚したいという。『社会的に認められた家族がほしい』と。ただ、私は看護師で夜勤もあるし生活時間が不規則。彼は会社員でそれほど残業もない。今までの生活スタイルを変えると仕事に支障が出るため、話し合って、今まで通り、それぞれひとり暮らしをしていこうということになりました。彼が私の自宅から歩いて5分ほどのところに引っ越してきてくれて。私のシフトに合わせて一緒に過ごす時間を決めるという感じ。生活を変えず、彼という精神的に助けになる存在ができたことはありがたいと思っています。彼も結婚したことで、より充実した日々になったと言ってくれています」(35歳・結婚2年)

「20代で結婚した友人たちから、夫の世話が大変、子どもができたら夫が子どもより聞き分けのない存在になったなどと聞かされていました。うちの姉も離婚しているし、結婚にはまったく期待していなかった。彼とは友だち関係が長くて、『一般論として別居結婚っていいよね』なんていう話もしていました。

それからあれこれあって結婚したんですが、その直後に彼が転勤、単身赴任で結婚生活が始まりました。3年後、彼が帰ってきたけど、彼は借り上げの社宅でひとり暮らし。週末は彼が私の自宅にやってくるというスタイルです。彼も私もひとりでいることが好きなんですよね。他人と過ごすのは週一くらいがちょうどいい。だから結婚して5年たちますが、今も新鮮な関係です」(33歳)

時間的にも物理的にも精神的にも、個人の自由と尊厳が確保される。そのことを話し合って別居結婚を選ぶカップルが多いようだ。一方が、「ひとりでいるのが好き」、もう一夫が「ずっと一緒にいるのが好き」と、人に対する距離感への価値観があまりに異なる場合は、うまくいかない可能性が高い。結婚=同居と考えている人にとっても、別居婚はむずかしい。

■子どもができたとき別居婚夫婦はどうしたか

デメリットとしては、経済的な問題が一番大きい。それぞれに家賃や光熱費がかかるのだから当然だ。「個」としての自由と経済的損失を、どう天秤にかけるのか、それぞれのカップルのありようだと思う。

他人の噂、世間体などもデメリットになるかもしれない。

そして、なにより子どもができたときに心が揺れるようだ。別居婚のベテランであるハルカさん(仮名=以下同・46歳)は結婚して14年、11歳のひとり娘がいる。妊娠したとき、夫はがらりと変わって、同居をさかんに口にするようになった。

「私はずっと働くつもりだったから、30歳で1LDKのマンションを買ったんです。家族では住めないけど、私と娘ふたりだけなら住める。夫は家を売れと言ったけど、私のお城ですから売る気はありませんでした。それに子どもが生まれるからって、どうして同居にこだわるのかわからなかった。お互いを尊重するために別居ということになっていたのに」

何度も何度も話し合った。結論が出ないまま、彼女は出産。いざとなったら離婚も視野に入れていたという。そして彼女は、近所の子育て中のママや、元保育士の友人やベビーシッターなど多くの人たちの協力体制を築いていく。

現在も、夫はすぐ近くに住み、娘は行ったり来たりしている。

「同居していれば今より便利だったかというと、そんなこともないような気がするんです。週末はだいたい3人で一緒に過ごしていますし、夫が家で作った料理を冷凍して持ってきてくれることもあるし。そんな生活だと娘が落ち着かない子になると義母に言われたこともありますが、自由でいるメリットのほうが大きいんじゃないかと私は思っています」

母がぶれなければ子どももぶれないと彼女は信じている。デメリットを考えて怯えるようではダメなのよ、と彼女は大きく笑った。

■「同居する意味も婚姻届を出す必要もわからない」

都内在住のユキさん(37歳)とカズキさん(35歳)は、結婚して3年。同じマンションの別部屋に住んでいる。

「私は会社員で、彼は30歳のときに友だちと起業して、肩書は社長です。とはいえ、まだ小さな会社。泊まり込むこともあるし、なにより妻のことを気にしていちいち連絡したりするのはストレスになると思ったんですよ。だから結婚したいねと言う話になったときも、私から別居を言い出しました。

私自身、実家にいるとき、母親から『何時に帰ってくるの』とか『今日はどんなことがあったの?』とか聞かれるのがとにかくイヤで、家を飛び出してひとり暮らしをした経験があるんです。一緒に住むとどうしても気になる。だから最初から別居がいいと思っていました」

カズキさんはその意見を聞いて、少し戸惑ったという。彼もひとり暮らしが長かったため、身の回りの世話を妻にしてほしいという欲求はなかったが、結婚したら一緒に住むのが当然だと思い込んでいたからだ。そしてそんなふうに距離をとっていたら、いつまでたっても本当に夫婦になれないのではないかと危惧した。

「本当の夫婦って何よと思いました(笑)。自分たちに都合のいい生活スタイルを選んで何がいけないのか。そもそも、どうして結婚したら一緒に住まなければいけないのかまったくわからない。もっといえば、別に婚姻届を出す必要だってわからない」(ユキさん)

「好きな人と結婚するのは当たり前、結婚したら同居するのも当たり前、子どもをもつのも当たり前だと決めつけていたんです。でも彼女は、そんな当たり前はどうでもいい、あなたはどうやって生きていきたいのかと迫ってきて。初めて真剣に“自分のプライベートな人生”について考えたような気がします」(カズキさん)

■「縛りつけ合わないと安心できない愛情って何だろう」

話し合った結果、ふたりとも仕事を優先したいと意見が一致、別居婚を選んだ。ユキさんは平日が休みなので、カズキさんが合わせることが多い。最初は電車で40分ほどかかる場所に住んでいたが、賃貸住宅の更新時期にカズキさんがユキさんの住むマンションに越してきた。

「同じ建物に住んでいる安心感はありますね。でもお互いに仕事の日は連絡を取り合わない日もあるし、結婚したことで束縛感を覚えることは一切ありません」

万が一、どちらかが婚外恋愛に陥ったらどうするのかと友人に聞かれることもあるそうだが、それは同居していても同じリスクがあるとユキさんは言う。

「縛りつけ合わないと安心できない愛情って何だろうと逆に思いますよ。ただ、人との距離のとり方は個人差が大きいと思う。だから別居婚するにあたっては細かなルールを作ったほうがいいカップルもいるんじゃないでしょうか。うちは本当に適当で、その適当な感じがふたりとも心地いいんです」

■定年後に別居婚を選んだ熟年夫婦

一方、熟年になってから別居婚に切り替える人たちもいる。結婚して27年、夫は定年後、関東北部の実家で暮らし、妻は東京で分かれて生活している夫婦がいる。そんな状態が3年目に入り、妻のキョウコさん(57歳)は、非常に快適な日々を送っていると話す。

「仲が悪かったわけじゃないけど、定年後、夫が24時間家にいることを考えたらうんざりしていました(笑)。ところが定年になる3年前にひとり暮らしだった夫の母が亡くなって実家が空き家になったんです。売ることも考えたようですが、夫はときどき行って手入れしていました」

定年後、その実家で一緒に暮らさないかと言われたが、キョウコさんは拒否。彼女にはまだ仕事があったし、友だちもいる。ふたりで話し合った結果、夫は実家でひとりで暮らすと言い出した。

「夫は実家近辺に幼なじみもいますし、家庭菜園もやってみたい、と。凝り性なので今では家庭菜園ではなくて、もっと大きく農業に取り組むことにしたようです。長男は独立、私は大学生の長女とふたりで暮らしていますが、気楽な生活です。食事の支度ももうしないし、仕事帰りに友だちと会っても時間を気にすることもない。一種の卒婚状態ですね。こんなにうまく夫といい距離になれると思っていませんでした」

■まるで新婚時代に戻ったかのよう

夫は月に一度くらい帰宅するが、お互いに久しぶりなので話も弾む。27年間の生活でたまっていった澱(おり)のようなものは一掃され、新婚時代に戻ったかのように感じられるとキョウコさんは言う。

「私もたまに夫のところに行ってみますが、仲間たちに囲まれて農業をやったり地域起こしに携わったりしている夫が楽しそうで、本当によかったなと思っています。残りの人生、お互いに好きなように生きていけたらいいですね」

子育てを終えたからこそ、心置きなく、それぞれが好きなように生きていく。離婚件数というのは、このところずっと横ばいなのだが、熟年に限っては増えているのが実態。だからこそ熟年別居をすることでふたりの関係を再構築していけば、新たなパートナーシップが生まれていくのではないだろうか。

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亀山 早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター
1960年生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動を始める。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』(ともに新潮文庫)『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』(扶桑社)など著書多数。

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(フリーライター 亀山 早苗)

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