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コロナ危機で米国ではモールも潰れるのに、日本ではテナントだけが苦しい理由

プレジデントオンライン / 2020年8月7日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない米国では売り上げが激減した百貨店やアパレルが次々に破綻し、商業施設デベロッパーまで破綻が危ぶまれている。一方、日本はそこまで追い込まれてはいない。その違いはどこにあるのか。流通・ファッションビジネスコンサルタントの小島健輔氏が解説する――。

■未曾有の破綻ラッシュが起きている

日本では、新型コロナウイルス感染拡大による長期休業や客数減で売り上げが激減したアパレル企業が入居する商業施設の家賃減免を求め、家主である大手デベロッパーの多くが減免に応じたが、それでデベの経営が危なくなったという話はとんと聞かない。ところが、米国ではコロナ危機で家賃が入らなくなって破綻が危惧される商業施設デベが少なくないという。日米で、いったい何が違うのだろうか。

まず、米国アパレル業界の深刻な状況から説明したい。3月半ばからロックアウトで商業施設が全面封鎖され、5月末になってようやく大部分の商業施設が再開したが、この間の休業による売り上げ激減で百貨店のニーマンマーカスやJCペニーをはじめ、J.クルーやアセナ・リテール・グループなど多数のアパレルが破綻した。メイシーズは2~4月期で35億8100万ドルの損失を計上して4000人規模のリストラに追い込まれ、ギャップは家賃の未払いで大手デベに告訴されている。

営業を再開してもコロナ感染の第2波が荒れ狂う状況では客足は戻らず、米調査会社のコアサイトは持ちこたえられず閉店する店舗は年内に過去最高の1万5000店に達すると、1月末時点で8000店とした予測を大幅に修正した。

19年の米国小売業売り上げのうち自動車関連・燃料・建築資材・園芸用品を除く「コア売上」は前年から4.2%伸びて3兆2873億ドルに達したが、そのうちショッピングセンターの売り上げは2兆9211億ドルと小売業コア売上の9割近くを占めるから(日本は22.0%)、1万5000店の大半はショッピングセンターから消えることになる。

■モール型からオープン型へ人気が移る

米国のショッピングセンター(SC)は、「クローズド」と「オープンエア」の2つのタイプで明暗がくっきり分かれつつある。前者は「モール」と呼ばれる空調された屋内型で大規模な広域施設が多く、コロナ前(19年第4四半期)でも入居率が前年同期から1.9ポイント落ちて89.1%と翳っていた。

一方、ディスカウントストアや食品スーパーなどを核店舗とするオープンエアSCの方は同0.2ポイント上がって93.3%だった。パンデミック以降はクローズドSCが疎まれオープンエアSCの人気が高まっているから、入居率の格差も一段と開いていくと思われる。それは3密を恐れる顧客だけでなく、クローズドSCの家賃の高さを嫌った店舗(テナント)にも共通する動きだから、閉店はクローズドSCのテナントに集中することになる。

後者には各店舗前に直接、車を乗り付けられるストリップセンターも含まれる。今後しばらくは必然にW.C.(ウィズコロナ)となるから、顧客の購買行動が生活圏にシフトし、テナントも家賃の安いオープンエアSCに流れるのは必然だ。

ディスカウントストアや食品スーパーなどを核店舗とするオープンエア型のショッピングセンター
写真=筆者撮影
ディスカウントストアや食品スーパーなどを核店舗とするオープンエア型のショッピングセンター - 写真=筆者撮影

■運営する不動産業者にも破綻の危機が

コロナ感染が第2波、第3波と長引いて家賃が払えず撤退する店舗が広がれば、さすがに商業施設を運営する大手不動産業者も経営が傾く。コロナ禍で破綻する最初の大手商業施設デベになりそうだと囁かれているのが、全米第6位のCBL&アソシエイツプロパティで、連邦破産法の申請を準備していると報じられている。

同社は米国中西部、南東部に108の商業施設を運営。支配所有する61モールの年間販売効率は147万円/坪、入居率も90%とクローズドSCの平均水準をクリアしていたが、19年は7億6870万ドルの収入で1億2860万ドルの営業損失、1億5370万ドルの株主損失を計上と、コロナ以前から業績が悪化していた。

このような状況の中、コロナ禍のロックアウトで3月中旬から全面閉鎖されたモールのうち5月の段階で66のモールが再開されたが、4月は請求した家賃の27%しか受け取れず、5月も同様な集金率だった。テナントの大半は長期休業や客数減で経営が悪化し家賃の軽減や支払い延期を要求しており、交渉が難航して家賃の回収は今年後半から来年になりそうだと開示している。それでは家主であるデべの資金繰りがつかなくなるのは時間の問題で、連邦破産法の申請を準備せざるを得ない。

不動産最大手のサイモン・プロパティー・グループとて家賃の遅延や不払いに苦しんでおり、大手アパレルチェーンのギャップ社を家賃不払いで告訴するなど対策を講じているが、株価もコロナ以前の160ドルから60ドル台まで落ちている。

■日本の商業施設は容易に潰れない

一方、日本の商業施設デベロッパーは、米国のような悲惨な状況にはなりそうもない。日本ショッピングセンター協会(以下、SC協会)によれば、国内既存SCの売上高はコロナ危機で3月28.0%減(うちテナント売上高は30.7%減)、4月68.8%減(同76.2%減)、5月61.4%減(同69.1%減)と落ち込み、営業を再開した6月も都心施設が苦戦して15%減と回復が遅れており、売り上げが激減したテナントからは固定賃料や最低保障家賃の減免と猶予が繰り返し要求されている。

SC協会が6月29日~7月8日にデベロッパー会員314社に実施したアンケート調査(回答73社/1168施設)によると、回答73社の96%が賃料の減免に応じており、固定賃料は20社、最低保障家賃は14社が減免し、減免率は50%以上60%未満が最も多かった。資金力のない中小の単館デベは減免に消極的だから、減免に応じたのは資金力のあるイオンモール、三井不動産などの大手デベや電鉄系・百貨店系デベ中心と推察される。

コロナによる打撃は米国と同じでも、わが国では商業施設デベの廃業や破綻はごく限られるはずだ。なぜなら、わが国の商業施設はテナントの売り上げを一定期間、預かって家賃や共益費を精算してからテナントに渡す「売上金預かり制」であり、米国の商業施設デベのように売り上げが激減したから家賃が入らなくなるという事態は起こらないからだ。

■テナントに不利な仕組みになっている

日本では売上金から家賃を天引きされるテナントがデベに減免をお願いする構図だが、テナントが売上金を直接収納している米国では「売り上げが減っては払えません」とテナントが実力行使している。だから、資金繰りに窮して破綻する商業施設デベも出てくるが、わが国ではそんな事態は起こらず、テナント側だけが破綻に瀕することになる。

「売上金預かり制」では商業施設デベがテナントの売上金を預かって、月の前半の売り上げから固定の家賃や共益費を差し引いて月末に、後半の売り上げから歩合家賃や変動共益費を差し引いて翌月15日にテナントに振り込むのが一般的だ。よって、直接収納より22.5日、売上金の入金が遅れる。

加えて、キャッシュレス決済もデベがクレジットカード会社(アクワイアラ)と包括契約して手数料を上乗せするから、テナントが直接契約するより1.5~2.0%も高くなる。政府のキャッシュレス政策にコロナ感染を恐れての現金離れも加わってキャッシュレス決済比率が急上昇しているから、テナントの負担はさらに重くなる。

■建前は「共存共栄」だが…

そんなわが国の「売上金預かり制」はテナントの資金繰りも収益も圧迫するから、大手外資チェーンは受け入れておらず、国内企業でも核の総合スーパー、サブ核のカテゴリーキラーや大型ファッション店は直接収納している。テナント店ばかりなら売掛金の回収日数は22.5日より長くなるはずで、ユナイテッドアローズは26.3日、TSIホールディングスは26.1日を要しているが、外資系のH&Mは9.2日、ZARA(インディテックス)は10.1日、ユニクロを展開するファーストリテイリングは9.6日に収めている。

結局のところ家賃の減免は部分的でありテナントの苦境を救うには不十分で、家賃支援給付金など公的救済に頼ることになるが、焼け石に水でしかない。売り上げの減少が大きく在庫の負担ものしかかり、不採算店を閉めたり破綻したりするテナントが続出することは日本でも避けられない。

デベとテナントの関係は共存共栄が建前だが、最低保障家賃やさまざまな共益費・協力金、キャッシュレス決済手数料の上乗せ徴収、出店時の内装監理費や工事協力金、退店時のペナルテイ徴収、定期借家契約の一方的な運用など、両者は対等とは言い難く、この機会に抜本から見直してサスティナブルな共存関係に改めるべきだろう。

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小島 健輔(こじま・けんすけ)
流通・ファッションビジネスコンサルタント/株式会社小島ファッションマーケティング代表
慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、(株)小島ファッションマーケッティングを設立。19年までファッションビジネスの経営実務研究会SPACを主宰して業界の経営革新に注力。業界紙誌やネットメディアにも寄稿している。2016年には経済産業省のアパレル・サプライチェーン研究会委員も務めた。近著に『ポストECのニューリテールを探る 店は生き残れるか』(商業界)がある。公式サイトはwww.fcn.co.jp。

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(流通・ファッションビジネスコンサルタント/株式会社小島ファッションマーケティング代表 小島 健輔)

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