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宮崎・鹿児島・沖縄のコロナ感染率を急上昇させた「ファクターZ」とは何か

プレジデントオンライン / 2020年8月7日 12時15分

新型コロナ感染拡大の勢いが止まらない。統計データ分析家の本川裕氏は「6月までの累計感染者数と7月の感染数を比較すると、宮崎・鹿児島・沖縄の感染率(人口10万人あたりの感染者数)が急激に増えている。『ファクターZ』と名づけ、関心を高めるべきだ」という——。

■愛知、福岡といった大都市が「東京圏」のミニチュア版に

わが国における新型コロナの感染状況は、4月に急増した後、いったん収束に向かうと見られたが、6月末から7月に入って、再度、感染が拡大し、第1のピークを越えて、なお、増加の勢いが止まらない。

こうした新たな動きを受けて、今回は、新型コロナの地域別の感染状況の現状を国内地域間の比較と海外との比較で追ってみたい。

国内における新型コロナの感染状況を地域別の動きとしてとらえるために、まず、「東京圏」「大阪圏」「その他」の3地域に分けて感染者数の推移を図表1に示した。

新聞・テレビでは、感染拡大の中心となっている東京における毎日の新規感染者数の推移を棒グラフで報じたのち、全国の動きを同じ棒グラフであらわすのが定番となっているが、ここでは、国内全体の眺望を同時的にとらえるため、生活圏が一体である東京圏や大阪圏について、それぞれ、各圏域を構成する都府県の積み上げグラフとして感染者数の推移を示している。東京圏、大阪圏以外の地域はその他として一括し、主要地域を表示した。この3つのグラフで国内全域がカバーされている点がミソである。

東京とその周辺の県を含む「東京圏」の動きが、やはり、全国の中でも感染拡大の中心的な地位を占めている点が、まず、目立っている。

感染の再拡大がはじまった当初は、全国の中でも、東京の感染拡大ばかりが目立っており、以前、菅義偉官房長官の「東京問題」だと決めつける発言が物議をかもしたが、現状では、グラフを見れば一目瞭然である通り、「大阪圏」、そして愛知、福岡といった大都市を中心とする地域が、東京圏のミニチュア版として、類似した再拡大の動きを示していることが明らかになっている。

それとともに、第1波の感染拡大の時には、目立っていた北海道や北陸3県におけるような、特定のクラスターの動きに影響された個別地域における特異な感染拡大が、7月の再拡大ではあまり見られなくなり、大都市圏中心の感染拡大となっていることも見て取れよう。

■東京の感染率は「6月まで」は45.5人、「7月」は47.0人

こうした動きをさらに細かくチェックするため、都道府県別の感染率(人口10万人当たりの感染者数)の状況としてあらわしたグラフを図表2に示した。このグラフでは、都道府県別の感染率を「6月までの累積感染者数」と「7月1カ月間の感染者数」の両方について対比させている。

全国では、6月までの感染者数は1万8513人と人口10万人当たりの感染率では14.6人だったのに対して、7月1カ月間の感染者数は1万7671人と感染率は13.9人となっている。すなわち、最近の感染再拡大にともなって、感染がはじまってから4カ月余にわたる累計と7月だけの感染者数とがほぼ同じ水準となっているのである。

地方圏でも特定地域で高かった感染率が大都市圏に集中化の傾向

一方、都道府県別に見ていくと、7月1カ月の感染率が最も高いのは、東京の47.0人であり、全国平均の3.4倍の水準である。また、6月までの感染率45.5人を若干上回る水準である。

東京に次いで感染率が高い地域は、大阪の25.1人であり、福岡、愛知が、それぞれ21.7人、18.9人で続いている。6月までの感染率と比較すると大阪、福岡は東京と同様、だいたい同じ水準であるが、愛知は6月までは7.5人だったが、7月は21.7人にまで上昇している点が目立っている。

大都市圏の都心部以外の周辺部も感染率は比較的高いが、それでも、都心部を抱える大都市圏の中心都府県で感染率が特に高くなっている状況がうかがえよう。

東京の中でも、歌舞伎町に代表される夜の繁華街を抱える新宿区が今や感染率がダントツに高く、都内周辺部というべき多摩地域は、ずっと感染率が低くなっている。同じような人口密度に比例した地域傾斜が全国的にも成立しているといえよう。

■感染者数、宮崎16人→140人、鹿児島9人→242人、沖縄139人→269人

7月の地域別感染率は、6月までの状況とどんなところが異なるかを整理すると以下の5つのポイントが目立っている。

①6月までは、北海道、南東北、北陸(新潟を除く)、四国西部、長崎など大都市圏以外の特定地域でも高かった感染率が、7月には、おしなべて低下。

②東京圏、大阪圏、および愛知、福岡といった大都市圏では、6月までにも増して7月も感染率が高い。とりわけ、愛知は6月までより格段に感染率上昇。

③大都市圏に集中する傾向にある7月の感染分布の中で、南九州・沖縄は、例外的に感染率が高い地方圏として際立っている。「6月までの累計」と「7月」の感染者数は、宮崎/16人:140人(感染率1.5人:12.8人)、鹿児島/9人:242人(感染率0.6人:14.8人)、沖縄/139人:269人(感染率9.4人:18.2人)。

④大都市圏への感染集中は、感染者の年齢構成が若年層に傾斜する傾向、あるいは夜の街や宴会などでの感染が拡大という7月の特徴と整合的である。

⑤こうした法則的な傾向とは反する南九州・沖縄の高い感染率は、理由が不明。沖縄は米軍が持ち込んだ感染の影響の可能性もあろう。6月までの北陸3県における特段に高い感染率も理由が不明だったが。両方とも、偶然に帰せられてよいものなのか。

■南九州・沖縄の高感染率要因を「ファクターZ」と名づけ関心喚起せよ

感染の再拡大の特徴が、以上に述べたように、主に都心部を中心とした拡大、しかも感染経路不明を多く含む市中感染の拡大であることから、新型コロナ感染対策のポイントは、「都心的生活よ、さようなら。非都心的生活よ、こんにちは」ということになろう。

すなわち、このような感染拡大が長く続くのであるならば、人が密集して営む都心的生活を自粛し、リモートワーク、リモートライフ、ネット通販や田舎暮らしなど非都心的生活を充実させる「新生活創造」が対策の基本となろう。

しかし、それだけでは十分ではない。都心部的な拡大以外の感染拡大にも注意を払わねばならないのである。

上記⑤については、沖縄だけ、あるいは福井だけが高いのではなく、南九州・沖縄全域、北陸全域で感染率が高い(高かった)点に、何らかの共通要因の存在が予想される。

日本の新型コロナ感染率、死亡率が欧米諸国などと比較して格段に低い理由について、ノーベル賞を受賞した山中教授は「ファクターX」と名づけ、その理由を明らかにすることが、新型コロナの感染対策にとって重要だと訴えている。

■これが「ファクターZ」か。九州南部・沖縄にキャバクラ店舗数が集中

そうだとすれば、6月までの北陸3県、7月の南九州・沖縄地域で感染率が高い要因を、それぞれ、「ファクターY」「ファクターZ」と名づけ、各界の関心を喚起したいところである。「ファクターZ」については、沖縄における最近の感染拡大を例にして、GoToトラベル・キャンペーンの影響という説も出そうだが、いまのところ明らかでない。

大都市の都心部には大きな夜の街(繁華街)が立地しているという特色があり、それが最近の感染拡大に大きく寄与している可能性がある。そして、地方圏にそれが当てはまらないかというとそうでもない。

警察資料から「20歳以上人口10万人当たりのキャバクラの店舗数」(2016年)を調べてみると、沖縄、および九州南部の鹿児島、熊本、宮崎は、全国順位が、それぞれ、1位、2位、6位、7位と高いのに対して、九州北部の大分、佐賀、長崎は、それぞれ、36位、43位、45位と対照的に低くなっている(ちなみに福岡は5位)。これを「ファクターZ」と考えるのは早計だろうか。

■日本の感染再拡大と似ているの感染規模が世界トップの米国だった

日本の感染再拡大は、そもそもなぜ起こっているのだろうか。感染防止と経済回復との両立に失敗したためなのだろうか。なぜ日本だけ、この両立に失敗しつつあるのだろうか。

こうした点に関するヒントを得るためには、やはり、国際比較が重要である。主要国の中で日本と同じ経路をたどっている国はあるのだろうか?

感染者数の規模が大きく異なっていても、感染拡大や収束の動きのパターンを把握するためには、対数グラフがやはり有効である(対数グラフによる分析は、5月の本連載記事でも書いた「世界中で日本だけ『コロナ感染のグラフがおかしい』という不気味」ので参照されたい)。

図表3には、累積数ベースで、「感染者数」の推移(A)と「感染死亡者数」の推移(B)を対数グラフであらわし、また、普通のグラフで、死亡者数を感染者数で除した「感染死亡率」の推移(C)を掲げた(2020年8月5日までの状況)。

感染者数の動き(A)を見ると、いずれの国でも、一気に垂直に近いカーブで感染が拡大し、ある時点を境に、感染拡大が止まり、横ばいに近いカーブに転じていることが分かる。

欧米諸国や日中韓といった東アジア諸国でもこの点は一緒である。

こうした国とは対照的に、当初の感染拡大カーブ自体はあまり垂直的ではなく(つまり激しい急拡大ではなく)、しかし、最近になっても拡大ペースが衰えない国として、ブラジル、インド、ロシアが目立っている。

こうした中で、日本は、感染数規模は非常に小さいものの、「当初の立ち上がりが遅かった」点と「最近になって再拡大が顕著となっている」点の2点で目立っている。

この、最近になって再拡大が顕著であるという点で共通の国を探すと、意外にも、感染規模が世界トップである米国がやや似た動きを示している。

主要国の感染動向の中で以外にもよく似た日本と米国の動き

■感染再拡大の日米の共通点はヘンテコな政治家リーダー

次に、感染死亡者数の動き(B)を見ると、感染者数より規模のばらつきが大きい点が異なっているが、時系列的な動きについては、感染者数の動きとほぼ平行している。ブラジル、インド、ロシアの死亡者数の拡大幅がなお大きい点は欧米や東アジアの諸国と異なっている。

ただし、感染者数と異なり、死亡者数の場合は、米国も日本も再拡大の傾向は見られない点に気づかされる。

さて、そうだとすると感染死亡率の動き(C)は、日本と米国で似ているのではないかと想像されるが、実際に、死亡率の動きのグラフを見てみると、日米は、一時期高まった死亡率が(といっても欧州諸国ほどではないが)、近年になって顕著に低下してきている点が共通である。

このように、日本と米国は、感染規模は天と地ほどに違いが大きいが、感染者数や死亡率の動きとしては非常によく似たパターンを示しているのである。

これは、なぜであろうか。

経済の回復を最優先にする国民性が共通で、感染拡大が収まりつつあるのに安心して生活のタガを緩めすぎたのであろうか。

あるいは、ヘンテコな政治リーダーが国を率いて、経済を過当に重視し、感染拡大に対しては油断の連続である一方、地方レベル、あるいは国民レベルでの自発的な取り組みが強力なので最悪の事態を避けることができている。そんな共通点があることで、期せずして同様な動きとなっているのであろうか。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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