1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

連載・伊藤詩織「"目が見えない人"も楽しめるギャラリーが渋谷区松濤にある理由」

プレジデントオンライン / 2020年8月29日 11時15分

1996年にギャラリーTOMで開かれた「みんなの要るもの、要らないもの」展で出品された作品(筆者撮影)。

■渋谷にある「目が見えない人」も楽しめる不思議なギャラリー

東京都渋谷区松濤の閑静な住宅街を歩いていると、こんな文字が飛び込んできた。「ぼくたち盲人もロダンを見るけんりがある」。そこは小さなギャラリーだった。独創的で思わず触れたくなるような作品たちを眺めていると「どうか触ってみてください」とスタッフの方が声をかけてくれた。

私が訪れたその日は、盲学校に通う生徒が作ったアートを展示していた。「見えないからこそ、他の作品の真似っこができないのでしょう」。そう、館長の村山治江さんは言う。だから、どれも個性的な作品なのだろう。

この場所に“作品を触ってもいい”ギャラリーTOMができて36年。創館当時、目の見えない人のための美術館をつくりたいという村山さんの想いは容易に受け入れてはもらえなかった。一般的な美術館は絵や彫刻の前に人が触れられないように線が引かれている。眺めるようにアートが設置されていることがほとんどだろう。

入り口でひきよせられた「ぼくたち盲人もロダンを見るけんりがある」という言葉は視覚障がいを持つ村山さんの息子、錬さん(故)のものだった。この言葉に突き動かされ、村山さんはTOMをオープンした。「この場所を選んだことにも意味がありました」と村山さんは話す。権力や富を持つ人が集まるこの土地に「白杖をつき訪れる視覚障がい者の存在を示したかった」。

■両腕が義手の女性が訪れた

そんなギャラリーTOMにある日、両腕が義手の女性が訪れた。盲目でもあったその女性は村山さんにこうお願いしたという。

「汚しませんので舌の先で触ってもいいですか?」

その後女性は1つの作品に2時間をかけ、じっくりと向き合っていった。

作品を触れるようにするためにはオリジナルの作品からブロンズに鋳造したり、買い取ることも。村山さんはこう説明する。

「アートは目や手で触れるものでもないんです。心で触れるものなんです。そして、そのためには心を開かなくてはいけません」

見た情報がすべてではない、見えないものを心を解放してハートで感じるアート。その言葉にハッとさせられた。

----------

伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

----------

(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください