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視聴率稼ぎで「コロナ不安」と「やらせ」を垂れ流すテレビは終わりだ

プレジデントオンライン / 2020年8月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

■不確定な発言をする専門家を起用し続けている

「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系、以下、モーニングショー)などに出て、“コロナの女王”といわれる岡田晴恵白鷗大学教授の評判がすこぶる悪い。

週刊現代(8/8・15号)によれば、5月19日のモーニングショーで彼女はこう発言したという。

「コロナウイルスは高温多湿と紫外線が大嫌いですから、(暑くなって来れば=筆者注)下火になって来ると思う」

ひところ週刊誌が、こういう説を流していた。山形大学医学部附属病院検査部・感染制御部の森兼啓太部長が、コロナは屋外ではなく、飲食店や家庭内で感染が広がっているので、湿度が上がっても下火になることはない。紫外線でコロナが不活性化するという研究はあるが、そのレベルの紫外線を浴びれば、人間には大きな害となってしまうと批判している。

岡田氏は以前、アビガンが効くようなので、医療従事者に持たせろと、安倍晋三首相のようなことをいっていたが、結局有効性は確認できず、承認されなかった。

週刊新潮(8/13・20号)では、やはり羽鳥の番組で7月13日、「医療現場も、あと2週間したら大混乱になる可能性もありますよ」と発言したが、2週間後、「病床数の逼迫や医療関係者の負担は指摘されても、それを“大混乱”とまでは言えるのか」(厚労省担当記者)

たしかに、感染者は増え続け、小池都知事は緊急事態宣言を今にも出したいと金切り声を上げているが、感染症の専門家というからには、占い師のようなことをいって、視聴者により一層の不安を植え付けるのは、いかがなものか。

■「恐れを広げた専門家に怒りが湧きます」

週刊文春(8/13・20号)でも、1998年頃、宮沢孝幸東京大大学院農学生命科学研究科助手(当時=現京都大准教授)が、エイズのメカニズムを研究し、HIV-1の中にあるNefというたんぱく質がリンパ球を殺すという先行研究があったので、再現しようと試みたがうまくいかなかったと話している。

だが、感染研にいた岡田氏が、ネズミによる再現実験を次々に成功させていると聞いたので問い合わせしたが、何の反応もなかったという。別のエイズ研究者は、今ではあの学説は学術的に認められておらず、「あの実験を成功できたのは世界中で岡田さんただ一人」だと話す。

まるでSTAP細胞騒動を起こした小保方晴子氏を彷彿とさせるではないか。

モーニングショーはコロナの恐怖を煽ることで視聴率を稼いできた。それに大きく貢献したのは岡田教授である。

岡田教授は、知名度を生かしてタレント活動をするようで、ワタナベエンターテインメントに所属したそうだが、この程度の専門家を起用し続けるテレビ側に、大いに問題があると思う。

アメリカの疾病対策センター(CDC)にいたことがある西村秀一国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長は、「専門家はコロナの感染の確立を語れ」と朝日新聞(7月11日付)で、メディアに出ている専門家たちを批判している。

加えて、「ゼロリスクを求めれば、『念のため』と対策もどんどん大きくなる。しかし、その下で数多くの弊害が出ています。人と人の関わりが無くなったり、差別してしまったり。職を失い、ウイルスでなく、その対策で命を落とす社会的弱者もいる。(中略)そんな恐れを広げた専門家に怒りが湧きます」と語っている。

■「硬派」ディレクターたちを10人以上解雇

岡田教授やモーニングショーを指しているわけではないが、正しく恐れるのではなく、徒(いたずら)に、コロナに対する恐怖心を煽り続けて、視聴率を稼ぐやり方は終わりにしたらどうだろう。

今回の本稿の主旨はモーニングショー批判ではない。テレビ朝日を含めたテレビ全体が壊れているという話である。

同局でいえば、「報道ステーション」で、これまで硬派なものを長年扱ってきた派遣の腕利きディレクターたち10人以上を、突然、解雇すると、昨年秋に会社側が一方的に発表した。

政権批判などはやらず、番組を完全なニュースバラエティ化するためだといわれている。

それに対して、社内でも批判の声が上がり、他局やメディア全体にも広がっていった。すると、おそらく早河洋CEOの指示によるものであろう、民放労連を脱退するという驚くべき手に出たのである。

早河氏は安倍首相と親しいといわれるが、まさに安倍流の“問答無用”の批判封じ込めではないのか。

かつてのテレビ朝日には、久米宏の「ニュースステーション」や田原総一朗の「サンデープロジェクト」、鳥越俊太郎の「ザ・スクープ」などがテレビジャーナリズムを競い合っていた。だが、今のテレビ朝日にはその面影はまったくなくなってしまった。

■「テラスハウス」やらせ問題で揺れるフジ

フジテレビも大きく揺れている。

「台本は一切ございません」が売りの「テラスハウス」に出ていたプロレスラーの木村花さんが、自殺してしまった「やらせ」問題が広がりを見せているのである。

彼女は番組の中で、一緒に出ていた小林快氏が、自分の大切にしているプロレスのコスチュームを洗濯して、縮まってしまったことを詰(なじ)り、彼のキャップを叩き落とした。そのことでSNS上で非難が殺到し、それを苦に自殺したのではないかといわれている。週刊文春(7/9号)によると、番組のスタッフから「ビンタしたらいいじゃん」と指示されていたというのである。

なぜ木村花さんは、スタッフの要求に従ったのか? フジテレビと制作会社と交わした「同意書兼契約書」があったからだという。

そこには、収録中は撮影方針などに関して、全て貴社らの指示・決定に従うことを誓約しますということまで書かれていたというのである。

文春は、この番組は「やらせ」オンパレードだったと告発している。同誌は毎号のように、花さんの母親のインタビュー、番組スタッフや小林快氏の証言などから、やらせが実際にあったことを立証していく。

そんな中、フジテレビ側は7月31日、ホームページ上で突然、この事件の検証報告書を公表するのである。そこでは当然ながら、やらせはなかったと、文春側のいい分を否定している。

■調査は本当に正確だったのか

だが、そもそも調査の仕方がおかしいと、文春(8/13・20号)が難じている。

元々、出演者などへの聞き取りは、制作会社社内で、プロデューサーら身内同席で行われたので、「芸能界で活躍したい若者がテレビ局に不利となる話を話せる環境ではなかった」と、制作会社の関係者が文春に語っている。

しかも、文春で実名を出して、やらせがあったことを告発した、花さんの相手役の小林快氏のところにも、母親へも、フジから連絡はなかったという。

これではいくら、「制作側が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されませんでした」といっても、信じるわけにはいくまい。

花さんの母親は、7月15日に、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会に審議を申し立て、「今度こそ第三者による公正な審議を願っています」と語っている。

以前、遠藤龍之介フジテレビ社長は文春に対して、バラエティーショーだから段取りとかそれなりの指示はあるとは思うが、「それをやらせと思うか、思わないかという部分はあるかもしれませんね」と語っている。だが、ねつ造とまではいわないが、文春を読む限り、やらせはあったと見る。

しかもやらせはこれだけではなかった。

■「ケンカしてください」ととにかくお願いされる

週刊女性PRIME(7/13〈月〉4:00配信)が、フジテレビの日曜日に放送している「ザ・ノンフィクション」でもやらせがあったと告発している。私はこの番組が好きで、録画して見ている。この中に、「マキさんの老後」という人気シリーズがあった。オナベのジョンさんとオカマのマキさんの「老年」ではない中年カップルだ。

マキさんがこう話す。

「とにかく“ケンカしてください”と言われるんです。ケンカするまで帰ってくれないから早く帰ってほしくてケンカをしていましたね」

マキさんは、生活費として10万円入れているのに、「たった2万円しか生活費を入れずに威張り腐っているオカマとして放送されたんです」。

究極のやらせはこんな具合だ。

「年越しのシーンで言い合いになった際に私が怒ってワインボトルを割ったように演出されました。ガチャーンという効果音がはめ込まれていたんです。もちろん私はボトルを割っていません!」(マキさん)

こんな番組がノンフィクションであるはずはない。私が知っているだけでも、やらせがあったように思えるシーンがいくつかあった。ときには面白いものもあるだけに残念だが、フジは、きっちり調べて、彼女たちのいうことが事実なら、番組内で謝罪すべきである。

■NHKは戦前のような「国策放送会社」になった

フジテレビでは、コロナの感染者が出たことも隠していたという。感染者は昼のバラエティー情報番組「バイキング」だとNews Socra(7/31)が報じている。

「関係者によると、30日午後にスタッフの感染が報告され、幹部が夕方の報道・情報番組での公表を決めた。しかし、その後、遠藤社長が直接、報道局長などがいるフロアーに現れ、『そこまで認めていたわけじゃない』と強い姿勢で、放送での公表を止めるよう求めた。その後、報道局長なども加わって協議し、放送での開示は取りやめ、ホームページで番組名は伏せる形で、いわば『こっそり』(局関係者)と公表した」

もはやフジテレビは報道局を潰したほうがいいのではないか。

今さらここでNHKを持ち出すまでもないが、新型コロナウイルス感染が拡大する中で、NHKは完全に戦前のような「国策放送会社」になってしまった。

感染者数を一日に何度となく繰り返すことはもちろん、政府のいうことを検証もせずに垂れ流すだけのメディアに成り下がっている。

「1937年に日中戦争が始まり、総力戦体制が進展すると、監督当局からは積極的に番組指導を行うべきとする見解が示されるようになり、監督当局と放送協会の関係も、監督・被監督の関係から、両者が協力して国策に合致する情報を発信していくものに変化した」(NHK放送文化研究所「戦前・戦時期日本の放送規制」より)

NHKというのは、非常事態宣言のようなものが出されると、あっという間に国策放送会社として機能し始めるのである。

コロナで各メディアが取材を制限される中、由々しき事態が進行している。

■危機を口実にして権力の行使が強化されている

批評家の東浩紀氏が朝日新聞(8月5日付)で、イタリアの哲学者・アガンベンの言葉を引用して、こう語っている。

「アガンベンの指摘は妥当だと思います。主張の眼目は『ウイルス危機を口実にして権力の行使が強化されていることを警戒すべきだ』というものでした」

安倍首相を含めた自民党の中に、この機に乗じて憲法を改正し、「緊急事態対応」の対象に大規模な感染症を加えようとする動きがある。「国難」を名目に、安倍首相の悲願である憲法改正を火事場泥棒的にやろうというのである。

菅義偉官房長官も、7月19日、フジテレビの報道番組「日曜報道 THE PRIME」の中で、新型コロナ対応をめぐる現行の特別措置法の改正が必要だという認識を示したそうだ。さらに菅氏は、感染が広がる温床といわれる歌舞伎町を念頭に、ホストクラブやキャバクラに対し、警察を介入させるとも発言している。

権力側は、この時とばかりに、国民生活への警察の介入、マイナンバーカードの早急な普及、「国難」という大義名分を掲げて、言論表現の自由を一層狭めることを目論んでいることは間違いあるまい。

だが、新聞もテレビも権力側の危険な動きに、抵抗する意志すら見えない。

■質問を制止する官邸になぜ各社は抗議しないのか

中でも、権力と一番近い政治部の記者たちが、ウオッチドッグの役割を果たさないどころか、捨て去ってしまっているのである。

8月6日の首相会見で“事件”が起きた。安倍首相が49日ぶりに広島で会見を開いたのだが、わずか20分程度で、内容はこれ以上ないというほど空疎だった。頬はこけ生気がなく、持病の悪化を思わせた。

司会役の広島市職員が15分を過ぎたところで会見を「強制終了」させようとした時、看過できないことが起きたのである。朝日新聞記者が、「総理、まだ質問があります」と挙げた手を、官邸報道室の職員が妨害するため、記者の腕をつかんだのである。

これまでも、内閣記者会から事前に出させた予定調和の質問にだけ答え、他の記者の質問を無視して会見を打ち切ることは何度もあった。

だが、暴力的に記者からの質問を打ち切ることはなかった(菅官房長官が会見で、東京新聞の望月衣塑子記者の質問を遮るのは、私には暴力的だと思えるが)。民主主義を標榜している国のリーダーが、自ら民主主義を踏みにじったのである。

毎日新聞(8月6日付)は「追加質問をしようとした同社(朝日新聞=筆者注)の記者が首相官邸報道室の職員から右腕をつかまれたとして、報道室に抗議した」と報じている。

おかしいと思うのは、「右腕をつかまれたとして」という表現である。会見には他社の記者もいて、その連中は現場を見ていたはずだ。

だったらなぜ、「何をやっているんだ」と声を上げなかったのか。そうすれば「官邸側は否定」(毎日)できるわけはない。

■「『一億白痴化運動』が展開されていると言って好い」

政治部記者は権力の走狗だから、官邸に逆らえるわけはないと、したり顔でいう輩(やから)がいる。だったら、そんな記者を、社はなぜ高い給料を出して飼っておくのか。安倍官邸はけしからんが、それに唯々諾々と従って、国民の知る権利に答えようとしない記者という腑抜けたちのほうが、よほど始末が悪いではないか。

コロナ禍以前から、新聞は精彩を欠いている。テレビは今書いてきたように、ジャーナリズムを捨て去ってしまっている。

ステイホーム要請のため、家にいる時間が長いから、テレビを見る時間は多くなっているようだが、愚にもつかないお笑い芸人の戯言と、再放送ばかりでは、この国の水面下で密かに進んでいる監視国家完成への動きなど、分かりはしない。もっともテレビの現場の人間も、そんなことに関心はないだろうが。

私が出版社に入った年に亡くなった評論家の大宅壮一氏は、今から60年以上前にこういった。

「テレビに至っては、紙芝居同様、否、紙芝居以下の白痴番組が毎日ずらりと列(なら)んでいる。ラジオ、テレビという最も進歩したマスコミ機関によって、『一億白痴化運動』が展開されていると言って好い」(『週刊東京』1957年2月2日号「言いたい放題」より)

今、大宅氏が生きていたら、きっとこういうだろう。

「それみろ、オレのいった通りになっただろう」

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198630283/presidentjp-22" target="_blank">編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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