「巨人ファンと阪神ファン」が対立を続ける理由を、心理学で解説する
プレジデントオンライン / 2020年8月19日 11時15分
※本稿は、榎本博明『ビジネス心理学大全』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
■郷里が一緒というだけでなぜか親しみを感じる
共通点があると話が盛り上がるというのは、だれもが経験しているのではないでしょうか。取引先の担当者と趣味が同じだと話が盛り上がるし、実際に一緒にゴルフをしたり、野球観戦に行ったりする人もいます。郷里が同じということで話が盛り上がることもあります。出身校が同じとわかって、懐かしさが込み上げ、急に親しい雰囲気になるということもあります。
そうした経験から、営業活動を進める際に、相手先の担当者と趣味が同じ人物や出身地が近い人物、あるいは出身校が同じ人物を送り込むというような戦略がしばしば取られます。でも、経営者や管理職の中には、それがほんとうに効果的なのだろうかと疑問に思う人もいるようです。
ある経営者は、素朴な疑問を口にしました。「ウチでも相手先の担当者と出身地や出身校が同じ人物を営業に行かせたりしてきましたけど、ときどき不思議に思うんですよ。だって、同じ県出身とかいっても、いろんな人がいるじゃないですか。気の合う人から気の合わない人まで。同じ学校にだって、嫌なヤツもいたじゃないですか。それなのに、出身地が一緒とか出身校が一緒だといって、気を許したり親しみを感じたりするもんですかね」
それはもっともな言い分です。でも、共通点があると交渉事がうまく進行しやすいというのは事実なのです。ここからわかるのは、人間というのはよく考えて反応しているわけではなく、反射的に動いてしまうものだということです。
では、そこにはどのような心理法則が働いているのかをみていきましょう。
■人間関係は三者間の関係性で決まる
この問題をうまく説明してくれるのが、心理学者ハイダーの認知的バランス理論です。
図表1の三角形で、P‒O‒Xの三者間の符号を掛け合わせて「+」になれば、その三者関係は均衡状態にあり、そのまま安定するとみなされます。しかし、それが「-」だと、その三者関係は不均衡状態にあるとみなされ、不快感など心理的緊張が生じるため、何とかして均衡状態、つまり積が「+」になるようにどこかの符号を変化させようという動きが生じます。
Pは本人、Oは相手を意味します。Xには、人物、モノ、価値観、趣味、ひいきのチーム、郷里、出身校など、さまざまなものを想定することができます。
符号の「+」は「好き」とか「懐かしい」「思い入れがある」「傾倒している」など、肯定的な関係・感情を意味します。「-」は「嫌い」とか「思い出したくない」「気に入らない」「関心がない」など、否定的な関係・感情を意味します。
■巨人ファンと阪神ファンの対立もこの理論で説明できる
たとえば、Pが巨人ファンで、Oも巨人ファンだとします。それは、図表の①でXに巨人を置いたケースに相当し、PとX、OとXの関係は「+」なので、3つの符号の積が「+」になるためには、PとOの関係が「+」になる必要があります。そこで、PとOは良好な間柄になりやすい、ということになります。
ところが、Pが巨人ファンで、Oは阪神ファンなので巨人が嫌いだとします。それは、図表の④でXに巨人を置いたケースに相当し、PとXの関係は「+」、OとXの関係は「-」なので、3つの積が「+」になるためには、PとOの関係は「-」になる必要があります。「-」を偶数個掛け合わせれば「+」になるからです。そこで、PとOは仲が悪くなりやすい、あるいは疎遠になりやすい、ということになります。
ゴルフが趣味の人同士が親しくなる心理も、出身地や出身校が共通の人同士が親しくなる心理も、同様にこの図表の①で説明することができます。ただし、出身地や出身校に対して否定的な感情を抱いている場合は、その出身地や出身校の人物を避けようとする心理が働くので、図表の①でなく⑤のような構図となり、これでは不快感が生じたりするため、OがPを避けるようになったり表面的な関係にとどめようとするようになったりして、④の構図に落ち着くことになります。
■日常の人間関係もこの原理で動く
趣味や出身地が共通というようなケースだけでなく、Xに第三者を置くこともできます。そうすることで、日常の人間関係の動きの説明がつくことがあります。
たとえば、PはXさんに好意的で、Oとも仲良くつき合っているとします。何かのきっかけでXさんのことが話題に出て、OはXさんのことを嫌っているのがわかったとします。これは図表の⑤の構図に相当します。
このままでは3つの符号の積が「-」であるため、これを「+」にもっていくべく、PはXさんの良いところを話し、OはXさんのことを誤解しているのだと言います。その結果、Oさんが納得し、自分はXさんのことを誤解していたと言い出せば、図表の①の構図となり、みんな仲良くなり、三者関係は安定します。あるいは、OがXさんの悪いところを話し、PはXさんに騙されているのだと説明し、Pも納得し、Xさんを見損なったと言い出せば、図表の②の構図となり、Xを排除した形で三者関係は安定します。
ところが、PもOも譲らない場合は、図表の④の構図となり、PとOが決裂するといった形に三者関係は落ち着きます。
ときに職場の仲間のことを中傷する人がいたり、悪い噂が流れることがあったりしますが、そこにはこの図表の積が「-」の関係を「+」の関係にもっていこうとする何者かの意図が働いていたりします。ややこしい人間関係に振り回されないためにも、この図表を念頭に置いておくと便利です。
----------
心理学博士
МP人間科学研究所代表。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)など著書多数。
----------
(心理学博士 榎本 博明)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
クレアール 公認会計士講座で「CROSS STUDY」導入。効果を検証したWeb学習で効率的に実力を養成
PR TIMES / 2024年7月31日 16時15分
-
「女性からいつも好意を抱かれる男性」は仕事でも成功している“シンプルすぎる理由”
日刊SPA! / 2024年7月26日 15時54分
-
【残り2日】NY在住医学博士による日本未公開メソッド「幸せな人間関係をつくる法則」の書籍を届けるクラウドファンディングが目標金額1500万円達成
PR TIMES / 2024年7月17日 11時45分
-
夢の億万長者か?現実の数千万円か? 「サマージャンボ」どう狙う...「宝くじ研究家」がすすめる組み合わせ(1)/ニッセイ基礎研究所 主席研究員・篠原拓也さん
J-CASTニュース / 2024年7月16日 19時22分
-
テクニックは不要!人間関係を円滑にする「気軽なひと言」の使い方【心理コンサルタントが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月7日 10時0分
ランキング
-
1「日本の歴史に残る急落」日経平均2200円超の暴落にNISAで投資する人は? 今後の株価はどうなる?背景にアメリカ経済への不安感【news23】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年8月3日 13時40分
-
2松屋が「200円台」朝定食を値上げ! 代わりに大幅値下げしたメニューとは? 外食チェーンの「朝食」競争に新展開
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年8月3日 6時15分
-
3円の暴落どころか紙くず化が始まってもおかしくない…儲けるのではなく資産防衛のため持つべき株と金融商品
プレジデントオンライン / 2024年8月3日 7時15分
-
4「ハリス大統領誕生」にはまだ多くの関門がある 大統領選まで100日弱、息を吹き返した民主党
東洋経済オンライン / 2024年8月3日 9時30分
-
5「校内スマホ禁止」は絶対か?動き始めた生徒たち 生徒主導の「校則見直し」西武文理の場合ー前編
東洋経済オンライン / 2024年8月3日 8時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください