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「女性専用車両を許せない男」が女性に抱く6種類の怒り

プレジデントオンライン / 2020年8月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/filadendron

ツイッターには「ミソジニスト」と呼ばれる女性嫌悪に満ちたアカウントが存在する。彼らはなぜ女性に怒りを抱いているのか。性問題の解決に取り組んでいるホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾氏は、「彼らは抽象概念としての『女性』に対して怒りを抱いている。この怒りは大きく分けて6つある」という――。

※本稿は、坂爪真吾『「許せない」がやめられない』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

■ネット上で存在感を強めるミソジニスト

今の日本は、男性差別に満ちている「女尊男卑」社会である。

いきなりそう言われても、あなたはとても信じられないかもしれない。

男女間の収入格差、家庭内における女性の家事・育児負担率の高さ、管理職・国会議員の女性比率の低さなどを見ても、現在の日本社会が男性優位社会であることは、火を見るより明らかだ。

そして、「女性差別が許せない」という怒りの声は、今日もメディアやSNSのタイムラインを賑わせている。

男女平等を重んじるリベラルな価値観を持った人が集まる家族や職場、同僚やクラスメートに囲まれて暮らしている人にとっては、「女尊男卑だって? どこの国の話だよ」と肩をすくめたくなるにちがいない。

しかし、あなたの生活や仕事とは全く接点がない領域、あなたのタイムライン上には決して表示されない情報空間の中で、「今の日本は男性差別が公然と行われている『女尊男卑』社会であり、男性はあらゆる場面で女性から虐(しいた)げられている」と信じている人たちは、確実に存在している。そしてネット上における彼らの存在感は、日々強まってきている。彼らの主張を、統計的・学問的な事実を提示して否定することは、きわめて容易である。しかし仮にそうしたところで、彼らは自らの信念を曲げない。その背景には、女性に対する嫌悪や蔑視(ミソジニー)に基づく怒りがあるからだ。

■抽象概念としての「女性」を忌み嫌っている

ツイッター上には、「ミソジニスト」と呼ばれる女性嫌悪に満ちた言動をするアカウントが山のように存在している。「フェミ」や「ツイフェミ」というキーワードで検索すると、そうしたアカウント群を大量に確認することができる。

多くはフォロワー数がゼロや一桁、あるいは数十~数百にすぎない泡沫の匿名アカウントだが、中には数千以上のフォロワーを持つアカウントもある。著名な女性活動家やフェミニストに対して執拗な批判や罵倒を繰り返すアカウントもあり、ツイッターの世界では一定の存在感を醸し出している。

女性嫌悪という言葉からは、過去の失恋体験によって女性を敬遠、あるいは逆恨みするようになった男性がイメージされるかもしれない。

しかし、彼らは自分の個人的な経験や女性から受けた具体的な被害に基づいて女性に対する怒りの声を上げている、というわけでは決してない。

彼らが蛇蝎(だかつ)のごとく忌み嫌っている「女性」は、顔の見えない抽象概念としての「女性」である。それゆえに、彼らと同じ文脈を共有していない第三者から見ると、彼らがなぜ・何に対して怒っているのか、理解することが難しい。

一方で、実体のない抽象概念に対する怒りであるがゆえに、膨張して歯止めが利かなくなる傾向がある。

ミソジニストたちが抱く「女が許せない」という怒りの燃料となっている信念、女性嫌悪を強化している思想の体系を、彼らがツイッター上で発信している主張から読み解いてみよう。

■共通するのは「女性の既得権益が許せない」という怒り

ツイッター上でミソジニストたちが熱心に拡散させているツイートを分析すると、その背景には「女性の既得権益が許せない」という怒りがあることが見えてくる。

数百を超える大量の「いいね!」を集めているツイート、千を超えてRTされているツイートの内容には、「女性の既得権益が許せない」という怒りが必ず絡んでいる。

この怒りを因数分解すると、以下の6つの「許せない」に整理することができる。

■女性から都合よく金を引き出される「ATM」にしかなれない

1.「恋愛市場における圧倒的女性優位」が許せない

恋愛市場においては、女性は男性に比べて圧倒的に有利な立場に置かれている。

女性にはいわゆる「穴モテ期」=膣がついている(女性である)という理由だけでモテる時期があるが、男性にはそうした時期はない。

また女性は、パパ活などの愛人契約によって、高所得男性から富の再分配を受けることができる。しかし、高所得女性が自分より所得の低い男性に対して富の再分配を行うケースは、圧倒的に少ない。

低所得男性と低所得女性の賃金(最低賃金)はほぼ完全に平等である一方、女性だけが高所得男性からの贈与を受けられるという選択肢を持っている。

ここ数十年は、社会が女性の「既得権益」をますます増加させる方向に進んでおり、男性の社会的・経済的不利は手つかずのまま放置されている。許せない……!

2.「結婚市場における圧倒的女性優位」が許せない

女性は、自分より所得の高い男性と婚姻契約を結ぶことで経済的安定を得られる。しかし、男性には妻や子どもを養うという「永久に消えない経済的コスト負担」が発生する。

それに耐えきれずに離婚した場合は、養育費の支払いという「生涯完済不可能な負債」を背負わされる。

結婚する若者の減少については、「未婚化」「晩婚化」「非婚化」といった言葉で論じられるが、それらはいずれも間違っている。正解は、男性の「避婚化」である。

最初から圧倒的な性的魅力を持ち、社会的に優遇され、それでいてなお上昇婚志向を持っている女性には、弱者男性は勝てない。どれだけ仕事を頑張っても、女性から都合よく金を引き出される「ATM」にしかなれない。許せない……!

■男性は暴言をぶつけられても被害者になれない

3.「被害者になれない」ことが許せない「女尊男卑」社会の中では、女性には被害者になれる受け皿が多数用意されている。

しかし、男性はどれだけ女性から搾取や差別を受けたとしても、被害者として振る舞うことが許されない。ツイッターで「#旦那デスノート」というハッシュタグで検索すると、妻から夫への殺意と憎悪に満ちたツイートが大量に出てくる。

これが「#妻デスノート」だった場合、間違いなくDVとして通報されるが、男性はどれだけ女性から暴言をぶつけられても、決して被害者にはなれない。

男性のあらゆる行動は、女性によって「女性への加害行為」として解釈・認定・喧伝される。男性は、被害者ポジションを握っている女性をはじめとした既得権益層から、常に抑圧されているのだ。

いかなる局面でも被害者として振る舞えることが女性の加害者性であることに、女性たちは全く気づいていない。許せない……!

■「賃金の支払われないボディガード」として女性を守らねばならない

4.「男性の身体・精神・生命の軽視」が許せない

現代社会では「女性の身体を傷つけた」「女性に不快な思いをさせた」ことが重大な罪になる。

痴漢や性犯罪の加害者として認定された男性は、弁解の余地なく社会の敵=パブリック・エネミー扱いされ、社会的地位や仕事を失うことになる。

一方で、「男性の身体を傷つけた」「男性に不快な思いにさせた」ことが社会的に重大な罪になることは、女性の場合と比べると圧倒的に少ない。

平均寿命の格差に代表されるように、男女間の健康格差は歴然と存在している。

自殺率、過労死、殺人被害者の割合、孤独死の割合、遺体が発見されるまでの日数、ホームレスの割合……いずれも男性の方が女性よりも圧倒的に高い。それにもかかわらず、男性は「賃金の支払われないボディガード」=不払い労働者として、身を賭して女性を守ることが義務付けられている。

こうした事実はまさに、日本が「女尊男卑」社会であることの証拠に他ならない。

フェミニストたちは、女性の昇進を阻(はば)んでいる見えない制度や文化の存在を「ガラスの天井」と呼ぶが、男性には「ガラスの地下室」がある。

男性は、収入と引き換えに、危険な職種への従事や長時間勤務を強いられ、自殺、病気や事故による高い死亡率、徴兵、自殺、死刑といった過酷なリスクにさらされながら、使い捨てにされている。日々目の前で起こっているはずのそうした出来事は、見えない「地下室」に押し込められ、決して問題化されない。

男性の精神と肉体が女性に比べて圧倒的に軽んじられていること。それにもかかわらず、男性は、女性の精神と肉体、生命に対して圧倒的な尊重を強いられること。この不公平さこそが女性の既得権益であり、男性を苦しめている元凶になっている。許せない……!

■「男である」というだけで何をしても否定される

5.女性批判がタブー化されていることが許せない

女性のネガティブな側面を公の場で語ることは、社会的なタブーとされている。女性から「女性差別だ!」と言われたら、良心的な男性は沈黙するしかない。

女性が男性を公の場で批判すること、男性に対する嫌悪や憎悪を表出することは許されているにもかかわらず、男性が女性に対して同じことをすると「差別」や「ヘイト」というレッテルを貼られてしまう、という明らかな非対称性がある。

さらに、何が「差別」や「ヘイト」に当たるのかについて、男性が女性に尋ねること自体がけしからん、と非難される。「性差別について女性に教えてもらおうとするな。自ら学べ」と上から目線で糾弾される。

ジェンダー平等意識の高い男性も、「ジェンダー平等について語るだけでなく、自ら実践せよ」「女性に褒(ほ)めてもらおうとするな。まともな人間として振る舞うだけでご褒美をもらえると思うな」と攻撃される。

「男である」というだけで、何をしても否定され、糾弾される。そうした理不尽かつ差別的な状況に置かれているにもかかわらず、公の場で女性を批判することはタブーになっている。許せない……!

■「フェミニストが諸悪の根源」と思っている

6.「フェミニストの陰謀」が許せない

女性の既得権益の構造を周到に作り上げ、男性を搾取し続けている諸悪の根源が、フェミニストである。

フェミニストは、「日本社会に女性差別が根強く残っている揺るぎない証拠」としてジェンダー・ギャップ指数(153カ国中121位(※1))だけを取り上げて、他の指数や調査を全く見ようとしない。

※1……世界経済フォーラム(WEF)が各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」で毎年発表している指数。対象となる世界153カ国が「ジェンダー間の経済的参加度および機会」「教育達成度」「健康と生存」「政治的エンパワメント」の4種類の指標を基に格差を算定され、ランキング付けされている。2019年のランキングでは、日本は過去最低の121位となった。

ジェンダー不平等指数(※2)(2018年)を見れば、日本は162カ国中23位の上位国である。世界価値観調査(2010~2014年の平均)では、男女の幸福度差が世界で1位(女性の方が幸福)であり、2018年に行われたUSニュース&ワールド・リポートの調査「女性が最も生活しやすい国」では、80カ国中17位にランクインしている。

※2……ジェンダー不平等によってその国の人間開発にどれほどの損失が生じたと考えられるかを測る目的で、国連開発計画(UNDP)が2010年から用いている統計的手法。リプロダクティブ・ヘルス、エンパワメント、労働市場への参加、の3側面において、5つの指数(妊産婦死亡率、15~19歳女性1000人当たりの出生数、国会議員の女性割合、中・高等教育への男女進学率、男女の就労率)に基づきジェンダー不平等を数値化している。

こうしたデータがあるにもかかわらず、メディアではジェンダー・ギャップ指数を嘆く記事だけが溢れている。

■「許せない」と叫ぶ人たちは論破しても意味がない

そもそもジェンダー・ギャップ指数は、女性が自発的に行動している国ほど上位になる。

121位と低い日本人女性は反省し、何でもかんでも男のせいにする前に、自らの努力不足を恥じるべきだろう。

ここ数十年間は、フェミニストによるこうした印象操作が功を奏して、女性の利権が増える一方で、男性に対する社会的な差別や搾取の圧力は強まっている。許せない……!

こうしたミソジニストたちによる主張を、統計的・学問的事実を基に論破することはきわめて容易である。彼らが抱く「女性の既得権益が許せない」という怒りを因数分解することによって見えてくるのは、「女性とは何者であるべきか」について、彼らが抱いている性規範と願望だけである。

しかし、SNS上で論破したところで、彼らは自らの考えを決して変えない。

むしろ批判されればされるほど、彼らは「ほら見ろ、やっぱり女性を公の場で批判すると、こうやって四方八方から攻撃を受ける羽目になるんだ」「やはり自分たち男性は差別されている」とさらに被害者意識を強めていき、女性に対する怒りをより激しく燃やし続けるようになるだけだ。男性の中に巣食うミソジニーは、女性から批判されればされるほど、強化される。

■ミソジニストたちの歪んだ正義感

ミソジニストが固く信じている「全てはフェミニストによる陰謀である」という世界観は、否定することが意外と難しい。

坂爪真吾『「許せない」がやめられない』(徳間書店)
坂爪真吾『「許せない」がやめられない』(徳間書店)

陰謀論は複雑な現象を明快な論理や物語で説明できるため、納得感や高揚感を得やすい。統計的事実よりも、人の感情を動かす物語の方が、説明力や共感力、伝播力が圧倒的に高いからだ。

結果として、ミソジニストたちは、「自分たちだけが、見えない真実を見ることができる」「だからこそ、この真実をもっと広く知らしめなくてはならない」「そのためには、どんな手段をとっても許されるはずだ」という歪んだ正義感を抱くことになる。

こうした正義感は、男性を搾取する女性に対する怒り、そして「女尊男卑」を正当化している社会に対する怒りとして、暴力的な形で表面化することがある。

■国内ではまだSNS内での小競り合いで収まっているが…

ミソジニストの中には、女性専用車両(痴漢免罪)に反対する立場から、「女性専用車両は女性優遇・男性差別であり、女尊男卑の象徴である」「追い出すべきは痴漢であり男性ではない」「推進派は、反対派=痴漢の加害者というレッテル貼りをしている」といった主張をSNS上で繰り返している人たちがいる。

彼らの発言は、フェミニストからの批判や反発、そして同じ意見を持つ男性たちからの賛同や擁護の中で、次第にエスカレートしていく。

最終的には、「推進派の女性は感情でしかものが言えないので、力ずくで闘うしかない」「とにかく男性の賛同者の数を集めて女性専用車両に乗車し、形骸化させるしかない」といった、実力行使を正当化するような主張へと発展していく場合もある。

国内ではまだSNS内での小競り合いや中傷合戦程度で収まっているが、海外ではミソジニストたちの暴力が、現実の世界において陰惨な形で暴発してしまう事件が起こっている。

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坂爪 真吾(さかつめ・しんご)
ホワイトハンズ代表理事
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗産業の社会化を目指す「セックスワーク・サミット」の開催など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館新書)、『男子の貞操』(ちくま新書)など。

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(ホワイトハンズ代表理事 坂爪 真吾)

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