孫正義のスピーチ「ホラ=ビジョン」の類まれなるユーモアセンス
プレジデントオンライン / 2020年8月29日 11時15分
■「ホラ=ビジョン」の類まれなるユーモアセンス
カリスマ経営者のなかでも、「プレゼンの名手」として知られているのが孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長だ。1992年当時から孫会長と親交があるというハリウッド大学院大学教授の佐藤綾子さんは、「孫さんは有言実行の人。よく夢を語りますが、大言壮語のようでも実際に具現化されていくので、誰も文句が言えない。信用されるのも、もっともです」と話す。
大言壮語といえば、有名なのが「豆腐屋の話」。佐藤さんが理事長を務める国際パフォーマンス学会でも、「第1回ベストパフォーマー賞」に選ばれた孫会長が、受賞スピーチでその話をした。コンピュータの将来性に着目した孫会長は81年、米国から帰国して小さな会社を立ち上げると、アルバイトを前に「売り上げを5年で100億円、30年後に1兆円にする。豆腐屋が豆腐を1丁、2丁と数えるように、売り上げを1兆、2兆と数えられる企業にする」と演説。それは現実となった。
「目標を人前で言うことが、実は目標を達成しやすくする秘訣なんです。パフォーマンス学では『アナウンス効果』といい、みんなに宣言したら後には引けなくなるので、実現するために猛烈に努力するわけです」(佐藤さん)
孫会長は人の心を摑む達人でもある。佐藤さんによれば、「しっかり働かないと、ボウズにしちゃうぞ!ボクみたいに」と社員を叱咤したエピソードがある。また、スピーチで比喩を取り入れるのも巧みで「ホラ吹きのホラを英語で何と言うか、知っていますか」と聴衆に質問し、答えは「ビッグトークではなく、ビジョンです」と言って、会場を沸かせたこともあるそうだ。
「経営者としての厳しさを持ち合わせている一方で、愛嬌や茶目っ気があるから、孫さんは憎めないんです。海外の経営者、とりわけ欧州の経営者は、ユーモアのセンスを問われますが、その意味では孫さんは、グローバルな経営者としての資質も十分です」(同)
■両手を同時に動かしダイナミックな印象
孫会長のパフォーマンスは、「情熱的で、アグレッシブ」といったイメージが強いのだが、佐藤さんは、「最近では、グローバル企業のトップとしての落ち着きが出て、円熟期に入ったという印象を受けますね」と評する。
「先日もテレビで孫さんのインタビューを見ていたのですが、語り口は物静かで、眼差しもやさしくなりました。人間としての幅の広がりが、話しぶりにも表れていると感じます」(同)
孫会長のプレゼンを観察したデジタルハリウッド大学教授の匠英一さんは、孫会長の身ぶりや手ぶりについて、「歩きながらスピーチをする欧米流のスタイルが特徴的ですね。そして手を下げているのがデフォルトモードで、話をしているときはリラックスしているのがわかります。時折、両手を同時に動かすオープンスタイルも取りますが、相手に自由、かつダイナミックな印象を与える効果があります」と話す。
プレゼンの内容についても、「考え抜いたエッセンスに絞り込んでいるので、ムダがなく、わかりやすいですね」と高く評価している。さらに匠さんは「現場で相手の反応を見ながら、声のトーンや話しぶりなどを臨機応変に変えている特徴もあります」と言う。
(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=小倉和徳)
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