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なぜケンタッキーは、コロナ飲食危機でも絶好調なのか

プレジデントオンライン / 2020年9月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ola_p

コロナショックの影響が大きい業界なのに、絶好調の企業もあるのはなぜか。その背景には偶然の成功ではなく、日々の努力の積み重ねがあった。どんな努力を重ねてきたかを取材した。

■2年前に始まった超復活の改革

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下にあった2020年4月から20年5月、外食業界は危機に陥った。巣ごもり消費を余儀なくされたことで外食需要が蒸発し、売り上げ半減はもちろん、8割、9割減という企業も続出した。その中で健闘したのがファストフードである。もともとイートイン、テイクアウト、デリバリー、ドライブスルーと多様な販売形態があり、特にテイクアウト、ドライブスルーの利用が巣ごもり消費に合致していた。

このため、前年同月比の既存店売上高は、日本マクドナルドHDで20年4月が106.5%、20年5月は115.2%、モスフードサービスは20年4月が103.7%、20年5月が112.2%と好調だったが、日本ケンタッキー・フライド・チキン(以下日本KFC)は20年4月が133.1%、20年5月は137.6%と、驚異的な伸びを示した。ちなみに、すでに自粛ムードが高まっていた20年3月も、日本マクドナルドの99.9%、モスフードサービスの100.9%に対して、日本KFCが108.2%と、同じファストフード業界の中で日本KFCが頭一つも二つも抜けている。

KFC快進撃の要因は、「巣ごもり特需」だけではない。実際、同社の業績回復は2年前の夏から続いている。2018年3月期、KFCの業績は前年比で大きく落ち込み、テコ入れを迫られた。今回、マーケティング本部長を務める中嶋祐子と、広報CSR部長でブランド戦略担当の新井晶子に話を聞いた。KFCで何が変わったのか。

■KFCはハレの日の商品というイメージが消費者に定着

「それまで、KFCを利用されるお客様は年1回、それもクリスマスに買いに行くという方がとても多かった」(新井)というように、特別な日に、ファミリーサイズの商品を買って、パーティなどで家族や仲間と賑やかに食す傾向が強かった。また、クリスマスの定番商品としての需要は世界の中で日本だけ。比較的単価が高いことも相まって、KFCはハレの日の商品というイメージが消費者に定着していた。それがKFCの強みともいえるのだが、業績停滞によって弱点が顕在化し、そこを打破する必要が生じていた。

日本ケンタッキー・フライド・チキン マーケティング本部長 中嶋祐子氏
日本ケンタッキー・フライド・チキン マーケティング本部長 中嶋祐子氏

たとえば、どのハンバーガーチェーンでも、お得なお一人様用のセット商品や期間限定商品で来店頻度を上げ、単品商品のついで買いを誘うという合わせ技が普段から行われている。KFCでもセット商品がなかったわけではないが、そこを前面に押し出していくと、価格競争に相対せざるをえない懸念があり、あまり積極的な施策は打ってこなかったのだ。

だが、海外の成功事例から日本でも割安なセット商品は勝機ありと確信していた中嶋は勝負に出た。それが、2年前の夏に期間限定で実施した「500円ランチ」である。

「狙いは日常使い、個食と昼食需要の掘り起こしです。それぞれを単品でお買い上げいただくと1000円弱するところを500円でご提供するので、利益率や客単価の観点での不安や、安売りイメージが付いてしまわないかという意見は当初、社内でもありました。

日本ケンタッキー・フライド・チキン 広報CSR部長 運営本部付 ブランド戦略担当 新井晶子氏
日本ケンタッキー・フライド・チキン 広報CSR部長 運営本部付 ブランド戦略担当 新井晶子氏

しかし、まずはお客様にお店に足を運んでもらい、オリジナルチキンを食べていただきたいと考えました。KFCの商品にある、誰にも真似のできない美味しさを再認識してもらえれば、また利用したいと思っていただける。そして、来店回数が増えればいろいろな好循環が生まれると考えたからです。『KFCは美味しいけど高い』『KFCはお昼じゃないよね』というお客様の固定観念を払拭し、クリスマス以外の来店動機をもっとつくることができればと。その答えが500円ランチだったのです」(中嶋)

女優の高畑充希が「今日、ケンタッキーにしない?」と呼びかけるテレビCMの効果も相まってKFCの日常利用が進んだ理由を、新井はこう補足する。

「お客様にケンタッキーへ行こう!と想起いただけるよう、テレビCMで『今日、ケンタッキーにしない?』というメッセージを一貫してお伝えしました。以前よりKFCの広告が増えたと思われたお客様も多かったかもしれませんが、実は広告量そのものは以前から大きく変えているわけではないんです」

■500円ランチが想定を超えるヒット

中嶋も、500円ランチが想定を超えるヒットを飛ばしたことに対し、「多くのお客様からご支持をいただけたのは、KFCは高い、あるいは個食向けでないと思われていた裏返しであり、それまで昼食の選択肢に入っていなかったということだと思います」と言う。

500円ランチをきっかけに、ケンタッキーのイメージが変化した。
500円ランチをきっかけに、ケンタッキーのイメージが変化した。

テレビCMで広くランチセットの認知度を上げた後、SNSやアプリなどのデジタルツールで購買行動分析や販促を手がけ、500円ランチが浸透したことから、20年1月以降、期間限定から定番商品へと切り替えている。その勢いを駆って今春、コロナ禍での難しい商戦に向き合ったわけだが、同時期ははからずも、従来のKFCの強みを再認識することにもなった。

「グループやファミリー向け、テイクアウトの夕食、あるいは週末需要といったKFCのもともとの強みを、外出自粛の中で改めて感じました」(中嶋)

「海外のKFCに比べ、日本のKFCにおけるオリジナルチキンの販売比率は高く、店舗で取り組んできたオリジナルチキンの調理技術の磨き上げという原点回帰の取り組みも、結果的にお客様にご評価いただけたのではないかと思います」(新井)

以前から強かった夕食、家族ニーズへの対応力に、ここ2年強化してきた昼食、個食ニーズへの対応力が大きく上乗せされた構図だが、それは20年4月、20年5月の前年同月比の客数からも見てとれる。両月、日本マクドナルドとモスフードサービスは日本KFC同様、客単価が大幅に上昇した一方で、客数は15%~20%減となった。複数人数分のテイクアウトやデリバリー、ドライブスルーの利用が上昇したことで客単価は上昇したものの、イートインの客数が落ちたからだ。

この数字が、ハンバーガーチェーンは個食需要に強い特性を浮き彫りにした一方、日本KFCは客数も20年4月に107.3%、20年5月も106.5%と上昇、テイクアウト需要が高く、個食、家族向けニーズの両方を摑んでいることがうかがえる。

「客数の伸びしろはまだあります。どのような客層に対してアプローチしていくかという点で、まだ改善の余地は大きいと考えています」

中嶋はこう語り、さらなる客数アップに照準を定める。一方、新井が目指すのはKFCがこだわり続ける部分の認知度向上だ。

「オリジナルチキンの素材には徹底的にこだわっており、全量、国内のKFC登録飼育農場で、独自に開発したハーブ飼料を与えて飼育いただいています。贅沢に中雛(ひな鳥)を使い、お店で生の鶏肉の粉付けからすべて手作り。ですが、その認知率は国内産鶏のみ使用という点でまだ6割ですし、手作りについても5割でしかありません。また、厨房スタッフ全員に“チキンスペシャリスト”というKFC独自の調理認定資格の取得を義務付け、品質へのこだわりをさらに磨いています。サービスや品質面でのブランド力も、より向上させていきたい」

7月4日はKFCの創業日で、節目の50周年を迎えた。次の100周年に向け、上げ潮のKFCは今後、どんな打ち手を繰り出していくのか注目したい。(文中敬称略)

過去27年間で最高売り上げを記録
アナリスト分析〈外食業界〉●澤田遼太郎(エース経済研究所アナリスト)

■お店という箱から抜け出せるかが鍵

コロナ禍で激震に見舞われた外食業界の中で、好調を維持しているのがファストフードです。以前からテイクアウト比率が高かった業態だけに、日本マクドナルドや日本KFCが善戦したのは当然といえるでしょう。

KFCの場合、お得な500円ランチの牽引ぶりが喧伝されることが多いものの、その点には私は少し懐疑的です。同業他社を含めて割安なセット商品はあまたあり、価格訴求そのものより、テレビCMを中心に日常使いを繰り返しアピールした、マーケティング戦略の転換がより効いたのではないかと考えます。ともあれ、ファストフードはこのウィズコロナ時代、しばらくは堅調に推移するでしょう。

一方、厳しいのが居酒屋チェーンとファミレスです。前者は、友人と、あるいは会社の同僚や上司、部下と連れ立って利用するシーンが多いわけですが、ソーシャルディスタンス、あるいはアクリル板やビニールの垂れ幕で仕切り、入店客数に制限があると、店側も採算的に厳しいですし、利用者側も本来の居酒屋の使い方とはかけ離れてしまいます。後者のファミレスは家族利用が中心ですが、コロナ禍が沈静化していない現状では、世間体を気にして行くことに二の足を踏む親御さんも少なくありません。オフィス街の飲食店も、当面はどれだけテイクアウトやデリバリーでしのげるかにかかってきます。

外食産業は、当面はアフターコロナの時期が来ても、コロナ前に比べて最大でも8~9割、居酒屋のような業態ではさらに厳しい前提で経営を考えていかねばならないと思います。お店という箱でのビジネスに限界がある以上、イートイン以外の模索が続いていきます。たとえば郊外型回転寿司を展開する銚子丸では、以前から寿司職人を老人介護施設や学校などに派遣する、出張回転寿司を実施してきましたが、今後は個人宅にも出張するサービスを強化していくでしょう。テイクアウト、デリバリー、ドライブスルー等、イートイン以外の販売形態をどう拡大できるか、やはりそこが鍵ですね。

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中嶋祐子(なかじま・ゆうこ)
日本ケンタッキー・フライド・チキン マーケティング本部長
広告代理店を経て、2012年にKFCブランドのフランチャイザーであるヤム・ブランズのアジア部門で6年間日本を中心としたアジアマーケットのブランドマネジメントを担当。日本KFCには18年4月に入社。
 

新井晶子(あらい・あきこ)
日本ケンタッキー・フライド・チキン 広報CSR部長 運営本部付 ブランド戦略担当
KFCの親会社である三菱商事の出身で、同社の子会社、三菱食品を経て2018年5月、KFCに着任。三菱食品における社内融和や戦略再構築の経験を活かし、現在ブランド戦略を担当。
 

澤田遼太郎
エース経済研究所アナリスト
 

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(河野 圭祐 撮影=門間新弥)

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