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心理学者が解説「なぜ世間には『バカ』がこれほどまでに多いのか」

プレジデントオンライン / 2020年8月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/charles taylor

なんでこんなにバカが多いのか。日々のニュースを見て、そう思う人もいるだろう。フランスの心理学者セルジュ・シコッティは、「世の中にバカが存在することは事実だが、わたしたちの心にも『ネガティビティ・バイアス』という、他者のネガティブなところばかりが目についてしまう偏りがある」と指摘する――。

※本稿はジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)の一部を抜粋・編集したものです。

■バカな「言動」の原因に着目する心理学

あらかじめ断っておくが、心理学において「バカ」という研究対象が存在するわけではない。むしろ、「人間はどうして時折バカみたいな言動を行なってしまうのか」という疑問が研究テーマとされる。

〈スクリプト〉〔心理学における一連の手続き的知識〕に関する研究によると、「人間はまわりの状況をあまりよく考えずに行動する」傾向があるという。いつもの自分がいつもの状況で行なっている言動を、自動的に、ルーチンとして、いつでもどこでも行なってしまう。

だからこそ、こういうことが起こりうる。「こっちがめそめそ泣いてる時に、『やあ、元気?』って言ってくるバカがいるけど、あれって何なの!?」

同様に、たった今見たばかりなのに、またすぐに腕時計に目をやるバカもいる。時間を知りたい時、わたしたちは腕時計に目をやる。それは自動的な手続き、つまり〈スクリプト〉だ。この時、わたしたちは自らの行動にほとんど注意を払わない。何かを実行するのに注意力をほとんど使わずに済むメカニズム、それこそが〈スクリプト〉なのだ。そうやって、目の前のことに集中しなかったり、別のことを考えていたりするから、結局は何も見えておらず、情報も頭に入ってこないので、二度も時計を見るはめになる。まったくバカげている。

■人間は「変化に弱く、思い込みたっぷり」

注意力に関する研究では、「人間は変化に気づきにくい」という結果も出ている。しかも、かなり大きな変化なのに気づかないことがあるという。だからこそ、こういうことが起こりうる。「ダイエットして10キロもやせたっていうのに、全然気づかないバカがいるけど、あれって何なの!?」

また、〈コントロール幻想〉〔自分の力が及ばないことなのに自分で制御できると思いこむこと〕に関する研究によると、こういうこともありうる。「急いでるからってエレベーターのボタンを執拗なまでに連打するバカがいるけど、あれって何なの!?」

■付和雷同も人をバカにする

さらに、社会心理学における〈社会的影響〉〔他人に同調したりされたりすることで働く集団力学〕に関する研究によると、こういうことも起こりうる。「誤って行き止まりの道を進んでしまった車の後を、のこのこついてくるバカな車があるけど、あれって何なの!?」「クイズ番組の『地球のまわりを回ってるのは月と太陽のどっち?』みたいな超簡単な問題で、客席投票を選択するバカな解答者がいるけど、あれって何なの!?」

時に人間は、合理性や真理から遠ざかってしまうことがある。結局のところ、究極のバカとは、研究結果の平均からもっとも遠いところにいる人間なのだ。一般的に、バカはものの見方が単純だ。だから、桁の大きな数字、平方根、複雑な現象を苦手とする。ガウス曲線の両端(編集部注:正規分布を示す釣鐘型の曲線の両端、つまり平均を大きく外れた極端な例外)しか理解できない。スターリンもこう述べている。「数千人の兵士の死は統計で、ひとりの兵士の死は悲劇だ」

確かに、どんな人でも、数字の羅列にすぎない研究結果より、エピソードのほうにより心を動かされるだろう。だが、バカはエピソードに必要以上にのめりこむ。そして、「ビルの40階から落ちたのに死ななかった人を知ってるわ!」と言って興奮するのだ。ただしこれは、民間テレビ局2社で報道されていたニュースで、本人の知り合いでも何でもないのだが。

■あなたの仕事についてあなたに説明しようとするバカ

アメリカの社会心理学者、デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーに、「能力が低い人はそのことに気づかない」というタイトルの研究論文がある。わたしはこれは「あなたの仕事についてあなたに説明しようとするバカに関する研究」とすべきだったと思う。そうしなかったのは、おそらくそんな変なタイトルでは科学専門誌に掲載してもらえないと思ったのだろう。

だが、ふたりの研究内容はまさにこのとおりだ。能力が低い人ほど自分を過大評価し、他人に平気でその価値観を押しつける。だからこそ、バカは一度も犬を飼ったことがないくせに、犬を飼っている人にしつけのしかたをアドバイスしようとするのだ。

この〈優劣の錯覚〉という認知バイアスは、ある一定の状況において、自らの真の能力を認識できなくなる現象を指す。それだけではない。ダニングとクルーガーによると、能力が低い人は自分を過大評価するだけでなく、能力が高い他人を過小評価する傾向もあるという。

■プロを見下す素人がつぎつぎ湧いてくるワケ

ふたりの研究のおかげで、わたしたちは日常のさまざまな出来事に合点がいくようになるはずだ。なぜバカな客はプロの料理人に対して、「料理とは」と長々とうんちくを傾けるのか。わたしたちがなくし物をした時、「おい、よく考えろ、最後にそれを見たのはどこだ?」と言うバカが必ずいるのはなぜか。バカはいつも、さもわかったような口をきく。

「弁護士になるのなんて簡単さ。法律を暗記すればいいんだから」
「禁煙? その気になれば誰だってできるよ」
「飛行機のパイロット? まあ、バスの運転手のようなもんだな」

そしてバカは、量子物理学の難解な講義を受けながら、何ひとつ理解できなかったにもかかわらず、講師に対して「まあ、そういう考え方もありますね」と、平然とのたまうのだ。

さらに、ダニングとクルーガーによると、謙虚な人ほど選挙の時に投票に行かない傾向が強いのだという。「だって、わたしって経済音痴だし、地政学や社会制度のことなんて何も知らないし、選挙公約だってどれがいいか決められないし、どうしたらフランスがよくなるかなんて、さっぱりわからないんだもの」

その一方で、バカは飲み屋で集まった友人たちに向かって得意げにこう言う。「今の経済危機からどうしたら抜けだせるかって? おれにはわかるぞ」

だが、多くの研究結果によると、アジアの国々では、こうした〈ダニング=クルーガー効果〉と真逆の現象が起きているという。アジア人は自らの能力を過小評価する傾向が強いらしいのだ。とくに極東の国の人たちは、欧米人のように能力をひけらかさず、自分は何でもできると自慢したりしない。

■心理学的な「傾向」や「バイアス」が極端に強いのがバカ

バカとはどういうものかを定義する研究結果は、ほかにもごまんとある。だがここでは、その集大成ともいえる〈シニシズム的不信〉を最後に挙げておこう。シニシズムとは、人間の性質と行動について否定的な信念を抱くことだ。わたしたちは誰でもみなこの種の不信を抱きがちだが、バカ、あるいは大バカ野郎は、並はずれて深くこれにとらわれる。

とくに大バカ野郎は、現代社会や政治に対してシニカルになりがちだ。試しに何でもいいからバカに尋ねてみよう。自らの考えを、単語を並べただけの短文で言い表すはずだ。

「そんなの全部ダメさ」
「オービス? あんなの、脅し、カツアゲ、無意味だよ」
「心理学者? 詐欺師ばかりさ」
「ジャーナリスト? みんなごますりよ」

バカにとって、まじめな人間はみな臆病者なのだ。だが、バカは何もかもうまくいかない暗い生活を送っている。ある研究結果によると、シニカルなバカは非協力的で疑い深いため、社会でステップアップする機会を逃してしまい、平均以下の収入で細々と暮らしている者が多いという。

結局のところ、「バカ」とは、心理学研究によって証明されたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉が極端に誇張されている人物をいうのだ。そして、そうしたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉をすべて併せ持つ人物こそが「キング・オブ・バカ」、バカの王様だ。地球史上最強の大バカ野郎と言っていいだろう。

■人の欠点ばかりが目につく「ネガティビティ・バイアス」

さて、ここで冒頭の問いかけに戻ろう。あのバカげた……いや、重要な問い、「バカを科学的に研究できるか?」だが、むしろ「どうして世の中にはこんなにバカがたくさんいるのか?」と考えるべきではないだろうか。試しに、「このバカ野郎!」と路上で怒鳴ってみるとよい。通りかかったほぼ全員が、「おれのこと?」「わたしのこと?」という顔でこちらを振り返るはずだ。その理由は、これもまたやはり心理学の研究結果に見いだせる。しかも複数ある。

どうして世の中にはバカがたくさんいるのか。第一に、わたしたち人間には元々バカを探し当てるレーダーが備わっているせいだ。これを〈ネガティビティ・バイアス〉という。

わたしたちは、ポジティブなものより、ネガティブなものにより注意を向け、関心を抱き、重要視する傾向がある。そのせいで、最悪の場合、他人に対して偏見を抱いたり、先入観を抱いたり、固定観念を持ったり、差別をしたりする。そこまでひどくなくても、たとえばパートナーが部屋の掃除をしてくれても、汚れが残っているところばかり気になって、きれいになっているところには目もくれなかったりする。

つまりこの〈ネガティビティ・バイアス〉のせいで、さまざまなタイプの人間がいるこの社会において、頭のよい人ではなくバカばかりが目についてしまうのだ。さらにこの〈ネガティビティ・バイアス〉のせいで、わたしたちはネガティブな出来事に見舞われると、その裏に隠れた別の原因を探ろうとしてしまう。たとえば、家の中で探し物をしながら「なくしたのは自分じゃない。ほかの誰かだ」と思いこみ、こう言うのだ。「おれのあれを最後に使ったのは誰だ? どこに置いたんだ?」

仕事で大きなミスがあった時も、わたしたちは別の原因を探ろうとする。そしてこう思うのだ。「すべてが台なしだ。それもこれも、あの大バカ野郎が悪いんだ」

■「バカだからあんな行動をとるのだ」という思い込み

さらに、世の中にバカがたくさんいると感じる理由がもうひとつある。ある研究結果によると、わたしたち人間は〈根本的な帰属の誤り〉〔他人の行動を判断するのにその人の気質や性格を重視しすぎること〕に陥りやすいという。ある人が行なった言動は、本人の性格によるものだとして、その時の状況などの外的要因があるとは考えない。そして多くの場合、きっぱりとこう断言する。

「あいつはバカだ」

ジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)
ジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)

だから、猛スピードで追い越していった車を見て「あの運転手はバカだ」と思い、学校で大ケガをした子どもを慌てて迎えにいくのだとは考えない。二時間経ってもラインの返信がない友人に対して「何を怒ってるんだろう」と思い、電波が届かないところにいるとは考えない。部下が資料を提出しないと「あいつ、怠けやがって」と思い、部下が膨大な仕事を抱えて身動きができないとは考えない。自分の問いかけに対して教師の返事がそっけないと「この先公はバカだ」と思い、自分の質問がくだらなかったとは考えない。

このメカニズムのせいで、わたしたちは「この世の中はバカばかりだ」と思いこんでしまうのだ。

以上のように、世の中にバカがたくさんいるとわたしたちが思いこむ原因は、少なくともふたつはあるのだ。

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セルジュ・シコッティ ブルターニュ・シュッド大学客員研究者
心理学者。著書に『急いでいるときにかぎって信号が赤になるのはなぜ?〈あるある体験〉の心理学』神田順子、田島葉子訳(東京書籍、2006年)などがある。

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(ブルターニュ・シュッド大学客員研究者 セルジュ・シコッティ)

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