少年ジャンプ+編集長「出版社系漫画アプリで日本一になった理由」

プレジデントオンライン / 2020年9月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanJaka

出版不況に長らく苦しんできた出版業界。しかし、出版大手が次々に復活の狼煙を上げている。

たとえば集英社は、2019年5月期の売上高は1333億4100万円で、前年比14.5%増。当期純利益は98億7700万円で、前年の4倍弱。100億円の大台が目前だ。集英社以外の大手出版社である講談社、小学館も、最新の決算は同様に増収増益だ。その要因で共通しているのが、デジタル収入の増加だ。

そんな中、いま大注目されているのが、集英社の漫画アプリ「少年ジャンプ+」だ。ダウンロード数は累計1500万を突破。出版社系漫画アプリでアクティブユーザー数はNo.1だ。いかにして人気アプリを育てたのか。細野修平編集長に、デジタルで読者の心を摑む秘訣を聞いた。

■No.1につながった、8年前からの努力

オリジナル連載作品「SPY×FAMILY」(遠藤達哉・著)の人気の高まりなどの影響で、19年後半から「少年ジャンプ+」のユーザー数は一気に増加しました。この春は在宅需要に対応するため、「週刊少年ジャンプ」や、「ONE PIECE」などの人気作品を無料公開する施策を打ったこと、週刊少年ジャンプの大人気漫画「鬼滅の刃」の連載終了時期と重なったことも増加の理由だと思います。とはいえ、今まで積み重ねてきたものがあってこそだということに注目してもらいたいです。

週刊少年ジャンプが初めてスマートフォンアプリに挑戦したのは、2012年の「ジャンプBOOKストア!」です。私はもともとデジタルが大好きで興味もありました。週刊少年ジャンプ編集部の前にいた、ジャンプスクエア編集部で増刊号のデジタル版を出したのですが、それは出版社ではかなり先行した取り組みでした。

「少年ジャンプ+」はユーザ数が147%増加

■コミックスをアプリで売りたい

一方、ビジネスの視点でデジタル化の遅れに焦りを感じていたのが、当時デジタル事業部にいた現・少年ジャンプ+副編集長の籾山(もみやま)悠太です。私が週刊少年ジャンプ編集部に異動してデジタル担当になった後、籾山から「コミックスをアプリで売りたい」と話があって企画がスタートしました。

当時は、漫画アプリはおろか、Amazonの電子書籍サービス「Kindle」が上陸する前です。市場はまったく読めず、かなりチャレンジングな企画だったと思います。しかし、当時の週刊少年ジャンプ編集長の瓶子(へいし)吉久(現・部長)が「新しいことはどんどんやれ」と背中を押してくれて実現しました。あのタイミングで、デジタル好きな私、ビジネス視点で危機感を持っていた籾山、そして新しいものに積極的な瓶子、それぞれの思いが合致したからこそ、「ジャンプBOOKストア!」は生まれたと考えています。

いざ「ジャンプBOOKストア!」を始めると、驚くほど反応が良く、すぐ黒字化しました。デジタルにもしっかり読者がいることがわかったのです。

さらに、その層に向けて新しいエンタメを試そうと、翌13年に次のアプリ「ジャンプLIVE」をリリースしました。最初のアプリは漫画の電子書店でしたが、次は漫画に加え、小説やアニメも配信、動画配信も試しました。しかし、残念ながら「ジャンプLIVE」は利益が十分に出ませんでした。基本無料、有料部分で課金をするモデルで、それなりに売り上げは立ちましたが、いろいろ作り込んでしまい、お金をかけすぎてしまったのです。

その反省から、一番反応が良かった漫画に絞って新たに開発したのが「少年ジャンプ+」です。ビジネスの柱は3つ。まず、「週刊少年ジャンプ」デジタル版の定期購読。次に、コミックスの販売。そして、オリジナル作品の課金です。

なかでも目玉として考えていたのは「週刊少年ジャンプ」デジタル版でした。紙でしっかり利益が出ているコンテンツをデジタル版で出すことについては、いろいろな意見がありました。当時、漫画雑誌でデジタル版を出していたのは、講談社の青年誌「Dモーニング」だけ。他の少年誌はやっていないし、もう少し様子を見てもいいのではないかというわけです。

■ジャンプは真っ先に新しいことをやろう

しかし、もともとジャンプには「ジャンプは真っ先に新しいことをやろう」という気風があります。また、前年にデジタル版も出した「週刊少年ジャンプ」45周年記念号は、デジタルも売れたし、紙もしっかりと売れていた。その実績もあって、無事にゴーサインが出ました。

少年ジャンプ+編集長 細野修平氏
少年ジャンプ+編集長 細野修平氏

「少年ジャンプ+」のリリースは、14年です。まず反応があったのは、やはり「週刊少年ジャンプ」の定期購読でした。新しい読者もいたし、紙から移ってきた読者もいました。

そして、「少年ジャンプ+」がオリジナル作品で目指したのは、曜日ごとにスターをつくること。「週刊少年ジャンプ」は、発売日の月曜日を楽しみにしている人がすごく多いですよね。「少年ジャンプ+」は、その楽しみを読者に毎日提供しようと思いました。そのためには、曜日ごとにある程度の作品数を揃えて、ジャンプらしい健全な競争を促す必要があります。そうすると、1曜日10本×7日で、計70本くらいが理想ですが、最初はその作品数が少なくて苦労しました。

スタート時は、復刻作品を除いて20本くらいだったでしょうか。そこから現在のオリジナル作品約70本弱に持っていくときに貢献してくれたのは、「ジャンプルーキー!」という漫画投稿のデジタルサービスです。ここに新人作家さんが投稿すると、すぐ公開されて、編集者と読者が評価をします。新人作家発掘のために始めたサービスなので、才能があると感じる方がいたら積極的に声をかけて、「少年ジャンプ+」でも描いてもらっています。

新しいユーザーを増やすための仕掛けは、初期はあまりしていませんでした。宣伝施策を行い始めてからしばらくして、藤本タツキ先生「ファイアパンチ」や、原作・LINK先生、作画・宵野コタロー先生の「終末のハーレム」の連載が始まると、アクティブユーザーが一気に増えた。デジタルでも、やはり一番大切なのは、作品の力だと痛感した出来事でした。

ただし、それが行き過ぎて「作品さえ良ければいい」になるのもマズい。作品に頼り切るのではなく、編集部としてきちんとデータ分析しながらマーケティング施策も打つようにしています。たとえば19年4月のアプリ改修時に、アプリを初回ダウンロードした人は、オリジナル作品を一回限り全話無料で読めるようにしました。それまでは最初と最新の3話のみ無料でしたが、ほかは有料でした。それだと短期的な収益は得られても、読者のすそ野は広がらない。まずは漫画を多くの人に読んでもらうことが大切だと考えて、初回全話無料に切り替えたのです。

■ユーザーを獲得できる

実はこの改修時に、いまや「少年ジャンプ+」の看板作品になった「SPY×FAMILY」の連載が始まりました。それもあって、相乗効果でユーザー数が1割近く増えました。作品の力とマーケティングの力、両方がうまくかみ合ったときに、もっともユーザーを獲得できるのかもしれません。

今日のランキング

19年の1月からは、海外向けに「MANGA Plus」というアプリも始めました。対象は日中韓を除く全世界で、英語とスペイン語、タイ語でジャンプの人気作品を無料で読めます。

アプリ開発の背景にあったのは海賊版の存在です。海外にも読者がいることはわかっていました。ただ、その多くは正規版が読めないので海賊版で読んでいる。ならば正規版を作って読者に届けるのが、私たちの仕事だろうと考えました。

もう1つ、韓国発祥のデジタルコミック「WEBTOON」の勢いも意識しました。WEBTOONはスマホに合わせたタテ長形式で描かれた漫画で、世界で急速に普及しています。我々としては、それに負けていられないという思いがありました。

実際にリリースして気づいたのは、いまや漫画を含めたオタク文化が世界で同時多発的に楽しむものになっていること。19年の秋、シンガポールで開催されたアニメイベントに行きました。そこには「鬼滅の刃」の主人公・竈門(かまど)炭治郎の半纏(はんてん)を着たコスプレイヤーがたくさんいた。以前は日本で人気になったものが少し遅れて世界でも流行っていたのですが、いまは新しいものが出てきたら世界みんなで同時に楽しむことが当たり前になっている。その様子を見て、「MANGA Plus」をやってよかったなと思いました。

ほかにも「少年ジャンプ+」では、4年前からアプリ開発コンテストを始めました。昔、友達と漫画を回し読みしていたように地図上で漫画を交換できる「マワシヨミジャンプ」も、このコンテストから生まれました。20年はさらに進化させて、「マンガテック2020」と銘打ったプログラムを行う予定です。そこから、まだ世界にない新しいビジネスモデルを生み出せたら面白いと考えています。

そういった新しい挑戦も含めて、「少年ジャンプ+」はもっと成長できると考えています。目指すは、週のアクティブユーザー1000万人。「週刊少年ジャンプ」は600万部発行していたこともありました。友達や兄弟で回し読みするから、読者は1000万人いたはず。デジタルで、「週刊少年ジャンプ」を超えるのが目標です。

アナリスト分析〈電子書籍市場〉●柴谷大輔(インプレス総合研究所所長)

■電子コミックは、なぜ読まれるのか

電子書籍市場の成長が著しい。2018年度の電子書籍市場規模は2826億円(推計)。17年度の2241億円から585億円増えて、前年比126.1%の成長になった。この市場を牽引しているのが、コミックだ。文芸・実用書・写真集などの「文字もの」が43億円の増加だったのに対して、コミックは542億円増加の2387億円を記録した。

コミックが売れているのは、スマートフォンで手軽に短時間に読み終わり、続きが気になれば端末上ですぐに次の巻や話を購入できるからだ。各電子書籍ストアも、この特性を利用した売り方をしている。最初の巻、あるいは数話を無料で配信して、続巻の購入を促すのが王道の施策。「待てば無料」モデル(1日待てば1話無料で読める)を導入しているマンガアプリも人気だ。

テレビCMやネット広告にも積極的だ。最近はSNS上で、コマを見せる広告の効果が大きいと言われている。これも、続きが気になるというコミックの特性を生かしたマーケティングの1つだ。

オリジナル作品の質や量も重要な要素だ。「少年ジャンプ+」は、この点で強みがある。「週刊少年ジャンプ」で培ったノウハウで作家を育成。作品の質も高く、最近では、「SPY×FAMILY」が4巻で累計400万部を達成した。電子発でもこのようなヒット作品を生みだせるのが「少年ジャンプ+」の強みだ。

いまのところ在宅需要の増加で電子書籍市場も拡大している。20年3月に出版社や電子書籍ストアが、在宅支援のために無料で多くの作品を公開した。この時期に電子書籍に新しく触れたユーザーは多く、そのユーザーの一部が早くも有料に転換している。電子書籍ストアの中には、20年度になり単月の売り上げが過去最高を記録しているところも多い。過去に海賊版サイトが社会問題化したことにより電子書籍の認知が広がって市場が伸びたことがあったが、ウィズ/アフターコロナにおいても一過性とはならず、同様の現象が起こり得るだろう。

----------

細野修平(ほその・しゅうへい)
少年ジャンプ+編集長
2000年、集英社入社。「月刊少年ジャンプ」に配属され、マンガ編集者としてのキャリアを積む。以降、「ジャンプスクエア」を経て、12年から「週刊少年ジャンプ」に所属。アプリ・マンガ誌「少年ジャンプ+」の立ち上げに関わり、17年から現職。
 

柴谷大輔
インプレス総合研究所所長
 

----------

----------

村上 敬(むらかみ・けい)
ジャーナリスト
ビジネス誌を中心に、経営論、自己啓発、法律問題など、幅広い分野で取材・執筆活動を展開。スタートアップから日本を代表する大企業まで、経営者インタビューは年間50本を超える。

----------

(ジャーナリスト 村上 敬 撮影=的野弘路)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング