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上沼恵美子さんの突然の降板は「コロナ鬱」だったのではないか

プレジデントオンライン / 2020年8月13日 9時15分

関西テレビ「快傑えみちゃんねる」HPには、「1000回を超える放送を続けることができたのはひとえに視聴者の皆さまに応援していただいたおかげ」とのスタッフの言葉が残されている - 写真=関西テレビHPより

タレントの上沼恵美子さんが25年間司会を続けた「快傑えみちゃんねる」(関西テレビ)が、今年7月に突如終了した。精神科医の和田秀樹氏は「上沼さんの発言をみると、コロナによって精神的に不安定な状態だった可能性がある。コロナ禍や自粛行為は、人をうつ状態にしやすくする要素がいくつもある」という——。

■上沼恵美子「突如降板」のウラに「コロナ鬱」があるのか

関西の大御所タレント・上沼恵美子さんが25年間司会を続けたトークバラエティ番組「快傑えみちゃんねる」(関西テレビ)が、7月24日の放送で突如終了した。

終了の経緯に関しては、上沼さんが出演者へパワーハラスメント発言をしたことや、その対処法を巡りテレビ局と齟齬(そご)があったことなどが原因となり、自ら「辞めると言った」と一部メディアで報道されている。

筆者が心配に思うのはその頃に、上沼さん本人がコロナによって精神的に不安定な状態だった可能性があることだ。

自ら出演するラジオ番組で「いやな世の中になったな、改めて。何にもできないじゃない。コロナ鬱ってあるけど、ちょっと私もそうやな。今」と暗いトーンで語っていたのだ。

彼女が実際そうであるかは不明だが、うつ状態が賢い人間にバカな決断(この最悪のものが自殺である)やバカな思考に導いてしまうことがしばしばある。

■「もう一生、まともな仕事につけない」「自分は人生の落伍者だ」

うつ病というのは、さまざまな症状が生じる心の病だが、その中に悲観的な認知というものがある。たとえば、失業しても正常な心理状態であれば、職探しであれ、自分の適性の判断であれ、再就職に有利な資格を取ろうといった形で建設的な判断ができるのが通常である。

しかし、うつ状態やうつ病(失業のせいで発症したものも含む)の時は、「もう一生、まともな仕事につけない」とか「自分は人生の落伍者だ」などと決めつけて、自暴自棄になったり、再就職活動に身が入らなかったりして活動を放棄してしまうことがある。その結果、症状が悪化してしまう。まさに悪循環である。

この悪循環の行きつく先は何か。悲観的な将来予測は絶望感につながり、生きていても仕方がないといった誤った判断となり、最悪の場合、自殺ということになってしまう。

日本では自殺した人を生前の活躍などを引き合いにして美化する傾向があるが、少なくとも自死という選択は、本人の「知的レベル」から考えると賢明な選択でないのは確かである。また、それによって別な人物の自殺を誘発してしまうこともある。WHO(世界保健機関)などの「自殺報道のガイドライン」でも避けるべきこととされている。

■うつ状態になると、悲観的な思考パターンで誤った判断をする

自殺というような極端な行動や判断でなくても、うつ状態になるとどうしても思考パターンが悲観的になり、誤った判断をしやすい。

たとえば、業績低迷の会社が早期退職者を募集するとしよう。それを聞いた社員は、ふだんなら、新たな就職先を探して応募する、会社に残るほうが有利か早期退職で退職金を多めにもらったほうが得か冷静に判断してからそれに応じる、といった行動ができる。

ところがうつ状態の時は、「自分は会社に邪魔になっている」「これは私をピンポイントで自主退職を促している」と悪いほうに考えてしまってしまう。条件的にそれが不利であっても、あるいは次の就職先のめどが立っていなくても退職に応じてしまう。

窓のそばに使い捨てマスクが置かれている
写真=iStock.com/flyparade
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyparade

さらにいうと、うつ病の時の悲観的思考として指摘できるのは、物事を疑うことができず、まだ決まったことではないのに、これしかないと思ってしまう、といった決めつけをすることが多いことだ。

経営判断をする立場にある人がこの状態になると、悲観的な判断しか思いつかなかったり、自分は悲観的すぎるのではないかと疑うことができなくなったりすることが多い。楽観的な可能性を示唆する周囲の意見を聞き入れなくなってしまう。

アメリカなどで、経営者がマイ精神科医を持つようにするのも、自分がうつ病などにならないようにというメンタルヘルスのためだけでなく、メンタルヘルスを健康に保つことで、自分の判断力を維持する、自分が悲観的になりがちになっていないかをモニターしてもらう、という狙いがある。

■コロナ禍で人がコロナ鬱になりやすい理由

冒頭で触れた「コロナ鬱」の話に戻ろう。

私の見るところ、今回のコロナ禍やそれにまつわる自粛は、人をうつ状態にしやすくする要素がいくつもある。

その筆頭は、経済的不安や感染不安である。

セロトニンという神経伝達物質が足りなくなるとうつ病になることが知られている。今の多くのうつ病の治療薬は、それを増やすようなモデルなのだが、このセロトニンは不安を和らげる作用もある。

不安状態が続くとセロトニンが消費され、うつ状態やうつ病になりやすくなる。心配事があったり、周囲の雰囲気が悪かったりという、心理的な要因だけでなく、脳に対しても不安の多い時勢は決して好ましいものではない。

■テレワークで外に出ないでセロトニンが不足すると……

さらに、インターネットの普及でZoomやSkypeなどを使ったテレワークで会話することも可能になったが、一方で実際に会って食事したり悩みを打ち明けたりして、気持ちを発散する機会が激減している。その結果、不安がなかなか解消しないという問題が発生する。

自粛生活を続けているとそのセロトニンそのものが不足するリスクもある。セロトニンは、明るいところにいたり、日光に当たったりすることで分泌が増えることが知られている。

窓辺に座り、外をみるテディベア
写真=iStock.com/Geshas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Geshas

実際、冬場になると日照時間が激減する北欧のような国では、冬季にうつ病になる人が増え、季節性のうつ病とか冬季うつ病とも呼ばれている。そして、その治療として光療法といって、蛍光灯などの強い光を1時間程度当てる治療法が現実に用いられている。

日本の場合、欧米と比べて間接照明が少なく、蛍光灯やLEDが普及しているので部屋が明るいことが多いのが救いだが、それでも部屋に閉じこもりきりになるより、少しは散歩して、日光を浴びたほうがうつ病の予防になるだろう。

■自粛要請による運動不足で、セロトニン不足→うつ症状のおそれ

また運動もセロトニンを増やすことが知られている。激しい運動でなくてもウオーキングなどのリズムのある運動がセロトニンを増やすのだが、自粛で部屋に閉じこもっているとそれも望めず、うつ状態になりやすい。

さらにいうと、家に閉じこもって運動をろくにしないと空腹感がなかなか出ないので、食べ物も粗食になりがちだ。セロトニンの材料であるトリプトファンはタンパク質から作られるし、コレステロールがセロトニンを脳に運ぶのに一役買っているとされる。

家に閉じこもって、あっさりしたものやカップ麺のようなものばかりを食べていると、うつ状態になる危険は大だ。

またうつ状態になると眠れないため、アルコールに頼る人が増えるが、逆に脳内のセロトニンが減ってしまうことも知られている。

一人飲みはうつ症状のリスクだけでなく、アルコール依存症のリスクも増やすが、「会食禁止」の影響でこうした危険も増している。

■セロトニンの不足はイライラの原因にもなる

ついでに言うと、セロトニンの不足は、うつ病のリスクを高めるだけでなく、イライラの原因にもなる。

そうでなくても、「かくあるべし」思考の人はうつ病になりやすいが、セロトニンが不足していると、自分の「かくあるべし」と合わない人についイライラしてしまう。今なら、マスクをしない人、外出する人などにイライラが向かうのだろう。いわゆる自粛警察をする人には、このような生物学的メカニズムも関与していると筆者はみている。

いずれにせよ、うつ病は人間の思考パターンを変え、賢い人をバカにしてしまう側面もあるし、現実的な仕事の能力も落としてしまい、さらにいうとものすごくだるいなどのつらい症状もあるので、コロナを契機にうつ病にならない予防は大切だ。

前述のように日光に当たらない、運動をしない、肉を食べないなどはうつ病のリスクを高める。逆に言うと、こんな時期でもなるべく日光を浴びる、感染リスクの低いような形で運動をする、あえて肉を食べる、といった行動を心掛けたい。

また思考パターンも柔軟にしておくことが大事だ。いろいろな可能性が考えられるほうがうつ病になりにくいため、認知療法といううつ病の治療法(予防法にもなる)では、そのような思考パターンの変化を促している。

和田秀樹『「コロナうつ」かな? そのブルーを鬱にしないで』(WAC BUNKO)
和田秀樹『「コロナうつ」かな? そのブルーを鬱にしないで』(WAC BUNKO)

決めつけや道徳の押しつけはやめて、いろいろな可能性や他の案を考える習慣もこの機会につけておきたい。

自粛ができない人、マスクをしない人に腹が立つ気持ちもわかるが、「メンタルヘルスのためなのかもしれない」「熱射病の予防やマスクにかぶれる体質かもしれない」といった可能性が考えられるようになることは、自分の思考パターンをうつになりにくいものにしていると言える。

賢い人がバカにならないためにも、コロナ鬱の予防のためにも生活の改善を心掛けたい。

このような「コロナ鬱」の予防のために、『「コロナうつ」かな? そのブルーを鬱にしないで』という本も出したので参考にしてほしい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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