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え、損するの?… 知らないでは済まない! 「通知カード廃止」の超危険な落とし穴

プレジデントオンライン / 2020年8月14日 15時15分

2020年5月8日、新型コロナにともなう給付金の手続きで、多くの住民が訪れた窓口。東京都練馬区役所にて。 - 写真=読売新聞/アフロ

定額給付金10万円の支給の遅れにもかかわらず、普及率がいまだ2割弱のマイナンバーカード。5月25日にその申請方法が変わったのをご存じか?

■“お上”に私有財産を把握されるのはイヤ

日本国内の住民票を持つ国民すべてに、1人に1つずつ個人番号が付与されるマイナンバー制度。2016年に発足したものの、普及は遅々として進まず、今年3月の時点でようやく15%。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう特別定額給付金10万円のオンライン申請が可能となったことで、短期間に申請者が急増。数カ月で普及率が数%上昇したとの観測も出ている。面倒で放置している者はともかく、多くの国民は、“お上”に私有財産を把握されることに根強い抵抗を感じているのがよくわかる。

とはいえ、普及率はまだ2割弱だ。もし「マイナンバーカード」がすでに100%近く普及していたら、給付金もずっと迅速な口座振り込みが可能だったろうし、そもそも特定の世帯に一律30万円を現金支給する当初案を、「減収した世帯を正確に把握できないから」という理由で断念はしなかったかもしれない。

ただ実際には、マイナンバーカード発行と給付金の手続きの現場となった各自治体の窓口では、相当の混乱があったことがすでに報じられている。政府のオンラインサービス(マイナポータル)のシステム障害や窓口の大混雑。果ては混乱の末に支給を中止する自治体も現れた。「給付金がまだ来ない」「遅い」などと安倍政権批判の格好のネタにされたのも、理由がないわけではなかったのだが。

■2015年に配布「通知カード」は新規発行を廃止

コロナ禍を機にマイナンバーカード取得を決めた方々向けに、今さらながら申請の仕方や使い道など、基本的な事柄を整理しておこう。

1人に1つずつ、12桁のマイナンバーを管理する主役は、顔写真付き・ICチップ内蔵のプラスチック製「マイナンバーカード」。身分証の代わりになり、①オンラインの確定申告、②マイナポータルを通じた子育て関連の手続き、③コンビニなどでの住民票の取得、④バイト・就職の際のマイナンバー提示などが、これまでは必要だったさまざまな書類を用意することなく簡単に行える。

このマイナンバーカードを取得するには、2015年10月に各世帯に簡易郵便で届けられた縦長の紙製「通知カード」をもとに各自治体に申請すればよかった。が、5月25日以降は「通知カード」の新規発行が廃止され、「個人番号通知書」がそれに取って代わっている。出生などで住民票を登録すれば、2~3週間後に自動的に簡易書留で送られてくる。

ただ、旧「通知カード」は、住所の変更がない限り引き続き申請に使うことができる。紛失した場合の再発行は、自宅で無くしたのなら市区町村の窓口に紛失届を出せばいいが、自宅以外ならおおごとになりかねない。最寄りの警察署・交番に遺失の届け出をするべきだろう。

■「通知カード」も「個人番号通知書」も身分証明書にはならない

ちなみに、「マイナンバーカード」を取得せずに「通知カード」か「個人番号通知書」を持っていても、それじたいを身分証明書として使うことはできないし、他にもできることは限られる。当然だが注意が必要だ。前述の「マイナンバーカード」の機能①②③④についていえば、「通知カード」が本人確認のための運転免許証などを添えれば④が可能だが、①~③については使えない。「個人番号通知書」は、①~④すべてで使うことはできない。

マイナンバー制度導入の目的は「行政運営の効率化」「国民の利便性の向上」そして「公正な給付と負担の確保」の3つということになっている。しかし、気になるのはやはり3つ目だ。今回のような定額給付金の給付を迅速に進めるためには、マイナンバーと各自の銀行口座とのひも付けが必然となる。

しかし、現在のところマイナンバーと個々人の銀行口座との紐づけに強制力はなく、任意のままだ。非難轟々だった給付金の遅れという教訓から、マイナンバーカード取得者が激増するかと思いきや、前述の通り数%増にとどまっており、急ピッチで増える様子は今のところなさそうである。

■マイナンバーと銀行口座と課税の公平性

なぜか。それはこのひも付けに対する拒絶反応が非常に強いからだ。とりわけ左派メディアや市民運動家ら抵抗勢力のアレルギーは相当なもので、プライバシーに直接国家が入り込むことを断固として拒絶する。また、その物言いの影響を中途半端に受けた一般の国民にも、漠然と「いやだな」という拒絶反応を示す人は少なくない。導入の目的を前述の3つとしたのは、その反発を避けるのに表現を和らげる必要があったからだ。しかし、このままで本当によいのだろうか?

とっくにお気づきだろうが、マイナンバーには課税の公平性が深く関わる。同制度の導入に関して財務省・国税庁の意向が色濃く出ていることに、誰も異論ははさまないだろう。目的は言うまでもなく、洩らさず税金を徴収すること。とりわけ富裕層への課税強化である。

国家が個々人のプライバシーに触れることに「いやだな」と感じることは重要かもしれない。情報漏洩も心配だし、そもそも国じたいを信用できないという人もあろう。しかし、富裕層とは縁遠い大半の国民の収入や資産を、当局が把握するのは現在のままでもさほど難しくない。給与は1社からの振り込み、銀行口座も数個、資産の構成も単純だ。把握しづらい実入りを強いてあげるなら、副業の収入くらい。マイナンバーの有無で大きな不利益を被るとは考えづらい。

逆に、富裕層の収入や資産は複雑だ、複数の会社から収入を得たり、保有資産も国内外の不動産、有価証券等々多岐にわたり、その全容を把握するにはコストがかかってしまう。しかし、たとえば相続税対策で家族名義の口座に資産を移そうとしても、国税当局が口座を把握していれば難しくなる。財務省・国税が本当に把握したいのは、彼らの収入・資産だと言い切って間違いなかろう。

■IT化の遅れを嘆きながらマイナンバー制度を拒絶

実際、貧困層に等しく給付されるべき生活保護の不正受給を防ぐ効果も期待できる。なのに、格差社会を糾弾し、給付金の遅れ、国のIT化の遅れを嘆きながら、一方でマイナンバー制度を盲目的に拒絶することは、累進課税の税率がずっと下がってきた富裕層の税金逃れを放置して税制上の不公平を招き、ひいては格差社会の深化を是認することにつながりかねない。それでも声高に反対する人々というのは、実は富裕層かその代弁者なのかもしれない。自分が拒絶反応を示す論拠がどこから来たのかを、一度確認しておくことも肝要だろう。

今後、政府は「マイナンバー制度改革」を本格的に推進させる。今年1月、麻生太郎財務相はマイナンバーと預貯金口座を連結する制度の義務化について、年内に具体策をまとめ、2021年の通常国会での法案改正を目指すことをすでに示唆していた。改革は2段階ある。まず第1段階では、給付金の振込先として口座1つをひも付けるが、その人のすべての口座をひも付ける第2段階が一番のキモである。その是認と否認のどちらが、自分にとって損なのかオトクなのか、あるいは無関係なのかを、広い視野に立って見極めておいたほうがよさそうだ。

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西川 修一(にしかわ・しゅういち)
プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。

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(プレジデント編集部 西川 修一)

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