"生き物の5億年先輩"今こそ人間が昆虫から学ぶべき生存戦略
プレジデントオンライン / 2020年8月19日 15時15分
※本稿は、ペズル『もしも虫と話せたら』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■人が誕生したのは約700万年前
自粛しない人に対してイライラしたり、逆に自粛警察におびえたり……。新型コロナによって可視化された事実、それは「人によって『正しさ』の基準は違う」ということ。
ここ最近は、だれもが日々発表される感染者数を気にしながら、自粛と他粛のはざまでなんとも言えない不安な時間を過ごしています。そんな中で過度に人の目を気にしたり、人の行動に目くじらを立てても、混乱や対立を長引かせるだけ。とは言え、目に見えないストレスを抱え続けるのもつらいものです。そこで、ガス抜きも兼ねて少し目線を変え、人ではなく「虫」と向き合ってみてはいかがでしょうか。
昆虫が誕生したのは今から約4億8千万年前。一方、人が誕生したのは約700万年前。つまり、昆虫は生き物として人より約5億年も先輩です。
毎日更新される情報に振り回されるより、生き物として大先輩である昆虫の生存戦略から何か学べることはないだろうか。そんな視点でまずはアリの生態に目を向けてみたいと思います。
■アブラムシとクロオオアリは「ギブ アンド テイク」
仕事をする上で、自分(自社)の利益を優先するのは当然のこと。しかし、アリの生態を見ると、「本当に自分の利益を考えるのなら、相手の利益を考えるほうがいいのかもしれない」という気づきがあります。
例えば日本各地に生息するクロオオアリ。彼らは、アブラムシを食べようとするテントウムシを追い払う代わりに、アブラムシから甘い蜜をもらっています(ちなみに蜜はアブラムシのおしりから出ます)。つまり、クロオオアリはアブラムシと、「守ってあげる」「蜜をもらう」という「ギブ アンド テイク」の関係を築いて生き抜いているのです。
この関係を築くのは、昆虫同士だけではありません。身近なところでは、花の蜜を吸う昆虫と、花粉を運んでもらう植物の関係も「ギブ アンド テイク」と言えます。
また、ハチの仲間にはキャベツと「ギブ アンド テイク」の関係を築いているものもいます。キャベツにとっての天敵は、葉っぱを食い荒らすモンシロチョウの幼虫。その幼虫の天敵が、彼らの体内に卵を産みつけるアオムシコマユバチ。
キャベツは葉っぱがモンシロチョウの幼虫に食べられ始めると、かじられた部分からにおいを発してアオムシコマユバチを引き寄せます。アオムシコマユバチにモンシロチョウの幼虫の居場所を教えることで、結果的に退治してもらおうとするのです。
キャベツのにおいに引き寄せられたアオムシコマユバチは、モンシロチョウの幼虫に卵を産みつけることができるので、これも「ギブ アンド テイク」と言えます。
■他の植物の成長を妨げるセイタカアワダチソウの末路
「ギブ アンド テイク」とは言っても、「できるだけ自分のテイクを多くしよう」という気持ちも沸くもの。植物の話が出たところで、次はセイタカアワダチソウという植物の話をします。
野原や空き地などに群生するセイタカアワダチソウは、「日本の侵略的外来種ワースト100」に指定されている外来植物。この植物、根から化学物質を出して他の植物の成長を妨げ(この作用を「アレロパシー」と言います)、辺り一面をセイタカアワダチソウだらけにしようとします。「できるだけ自分のテイクを多くしよう」とするのです。
しかし、成長が妨げられるのは他の植物だけではありません。化学物質がセイタカアワダチソウ自身の成長を妨げてしまうこともあります。
これを人に例えると、「他人を蹴落として利益を独占することに集中するあまり、自分の仕事に悪影響が及ぶ」みたいなことでしょうか。どうやら自分の利益だけを追求すると痛い目にあうのは、人も植物も同じのようです。
「奪い合う」より「与え合う」ほうが、結果的に甘い蜜を吸える……クロオオアリやセイタカアワダチソウの生態を見ていると、そんな気がしてなりません。
■自分の利益だけを考えると長期的には損をする
私は本づくりを仕事にしているのですが、最近は自分がもらう制作費を抑え、その分、他の制作者の方にお金が配分されるようにしています。今年からデザイナーさんにも印税が配分されるようにしました(本にもよりますが)。
ただ、これは決して私が「いい人」だからではありません。「目先の制作費」を得るより「長期的な信頼関係」を築くほうが、結果的に自分の利益になると考えているからです(打算的な人間ですね)。
自分の利益を優先して生きるのは、生き物として自然なこと。しかし、本当に自分の利益を優先するのなら、まずは他人の利益になる行動をとり、「この人を助けたい」「この人と一緒にいたい」と思ってもらえる存在になるほうがいいのかもしれません。
結局、クロオオアリとアブラムシの関係のように、他者と強い協力関係を作ることが一番賢い生存戦略なのではないでしょうか。「ギブ アンド テイク」という使い古された言葉は、意外と生き物の真理を突いているんですね。
そう考えると、自分だけが得をすることや、相手の善意につけ込むことは、その場では利益を得ても、長く続かないし、結果的に敵対関係を作るので得策ではなさそうです。
生き物として約5億年先輩である昆虫の生存戦略は、新型コロナに振り回されギスギスしがちな私たちに生きるヒントを与えてくれます。
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著書に『 もしも虫と話せたら』『 せかいいっしゅう あそびのたび』『 三国志に学ぶ人間関係の法則120』がある。Twitter:ペズル( @pezzlepuzzle)
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(文筆家 ペズル)
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