最新研究が明かす、ポストコロナ時代に「部下も組織も幸せにするリーダー」の条件
プレジデントオンライン / 2020年8月20日 11時15分
■従来型リーダーシップと、これからのリーダーシップ
リーダーシップとは、不確定な事柄を、勇気を持って進めていく、まさにチャレンジングなあり方を意味します。VUCA(不確定性)の時代に求められるリーダーシップは、これまでのような管理型リーダーシップでは立ち行かないことは自明でしょう。
図表1は、今回の調査で得られた結果をもとに、組織内のマネジメントを要因とする、はたらく幸せ/不幸せについて分析した結果です。
この図表には、幸せ/不幸せの増減を縦軸・横軸として、組織におけるさまざまな課題を2軸上に示しています。例えば、肯定的で公正なフィードバックや、組織目標の落とし込みといった要因は、幸せを増加させる傾向にあります。赤い部分に入っているものは、のびのびと、その人の良さを育てるという現代的なリーダーシップです。一方、成果主義や競争、ハラスメントなどの要因は、不幸せが増加する傾向にあります。
■管理型リーダーシップからの脱却
この結果から、合理的に仕事を分配し、成果を上げるといった従来型(管理型)のリーダーシップよりも、メンバーそれぞれの良さや強みを生かしながら、育んでいくタイプのリーダーシップが、メンバーの幸せに大きく寄与することがわかります。
とくに、今の社会は新型コロナウイルスの蔓延により、VUCAが大きく増大しました。このような時代に求められるのは、仕事をうまく分配するとか、目の前の問題解決だけに注力するような管理型リーダーシップではありません。目先の利益を上げることのみならず、メンバーそれぞれの強み、良さを活かすところにフォーカスをし、すべての人に成長機会を与えられるようなリーダーシップです。
■チームを幸せにできるリーダーのマネジメントスタイル
従来、「社員の幸せ」を考慮していなくても、効率的に仕事を分配するマネジメントが、合理的で生産性が高く、良しとされてきました。ところが、そのようなマネジメントスタイルですと、まだ育ちきっていないメンバーには、やりがいを感じられない仕事がまわりがちであるため、成長機会が奪われてしまうという悪循環が起こります。
人は成長することで「幸せ」を実感しやすくなりますから、リーダーの役目とは、メンバー一人ひとりの強みを見つけ、伸ばしてあげること。メンバーの強みや特性を活かせそうな、チャレンジングな仕事を分配することです。
そうすることで、メンバー自身も成長を感じられ、やりがいを持って業務に取り組むことができます。つまり、チームを幸せにできるリーダーとは、人をうまく育てられるリーダーなのです。
なかには、自分にはできないと思われる方もいらっしゃるでしょう。まずはしっかり考え、自分自身の目標を掲げること、部分ではなく大きな視点で捉えることが大切です。例えば、課長であれば部長の視野で考え、部長ならばその上。本来ならば、全社員が社長のように考えられたら最高なのですが。これらを意識しつつ、メンバーを信頼し、変化を恐れず、多様性を受け入れ、コミュニケーションを大事にして学び、成長すれば、あなた自身が自ずとそのようなリーダーへと変わっていくでしょう。
■社員の幸福度は会社の業績に影響する
なぜ、リーダーはそこまでしてメンバーの幸せを考える必要があるかと思う方もいらっしゃるでしょう。その理由は、【図表2】の通りです。社員のはたらく幸せ実感は個人のパフォーマンス、組織のパフォーマンス、そして最終的には企業業績に影響するのです。
![はたらく幸せ実感と企業業績の関係(出所:パーソル総合研究所×前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/670/img_dfb49ad8e4997d67ab17c239d4b6c26c276566.jpg)
■会社のスタンスもリーダーシップも、二極化する
今のような苦しい時、あえて新しいことに果敢にチャレンジする人と、危機が去るのを待つだけの人、この2つのタイプがあると思います。私は、この2タイプの人たちの結果は、明確な差となって表れるだろうと考えています。
組織の場合も同様です。とくに会社や組織は、さまざまなもので守られていることが多いですから、古い気質の会社が何も変わらないまま、ずっと存続している場合もあります。
過去の、例えば高度経済成長期のような時代であれば、部分だけを見ていれば安泰でした。テレビが売れる時代には、テレビの部品だけを作っていればよかったのです。ところが今はどんなものが良いのか、誰にもわからない時代です。そのような時代に「いや、私は半導体だけを作っていますから」とは言えません。高いところから広い視点で見渡し、何がどう流れ、どう去っていくのかを見極めることが大切です。
そうして皆で決めたビジョンをチーム全体で共有してこそ、メンバー全員が、ビジョンに向かって、同じ方向を目指せるのです。そしてそのことがメンバーのはたらく幸せ実感を高めます。
■「正しい成果主義」を進めなければ会社は滅びる
最後に、社員の不幸せ実感につながる「成果主義」について触れておきます。一般に成果主義とは数字が伸びた人だけをピックアップする仕組みです。成果主義について皆が合意している会社や、アメリカの成果主義のように、多様なところで成果をあげられるような成果主義ならまだ良いですが、【図表1】で示されているように、いわゆる業績評価のみを目指す成果主義では、関わる人たちが不幸になります。なぜなら、競争が不幸につながるからです。たとえ競争に勝ったとしても、得られるのは年収やポジションなどの地位財であり、長続きする幸せではありません。また、競争に敗れた者はやりがいも幸福度も失います。
実際、アメリカの会社では成果主義を見直しているケースがあります。GEでは営業順位を公表するしくみを廃止しました。
■「これからの正しい成果主義」について考えよう
リモートワークによって、普段の仕事を見られなくなっている分、成果で判断しがちになっているという話を聞きます。これでは、当てはまらない人の幸福度が下がりますので、気をつけなければなりません。
ではどんな仕組みにしたら良いでしょう。例えば、チーム全員の成果主義にすることが考えられます。リーダーはチーム全体で成果を上げられるようにするのが仕事ですから、チームメンバーが10人いれば、成果が上がった人だけを昇給するのではなく、10人全員が報酬を得られるようにするのです。
そのためには、コミュニケーションが大切です。適切な仕事を与えられているか、のびのびと仕事できているか、しっかり把握した上で、全員の成果を見る。
今までの成果主義とは違う、「みんなの良さを伸ばす主義」とでもいいましょうか。私は、これこそがこれからの正しい成果主義だと考えています。
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慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。
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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司 構成=富岡 麻美 写真=iStock.com)
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