幸福学の第一人者が語る、「危機的状況でも幸せな人」の意外な共通点

プレジデントオンライン / 2020年8月27日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Hakase_)

新型コロナウイルスの感染拡大とともに、私たちのライフとワークは大きく変化しました。ワークにおいては、在宅ワークを強いられ、慣れないオンライン環境に悪戦苦闘した方も多いのではないでしょうか。ところがある調査では、コロナ禍において、日本人の幸福度が増加しているという結果が報告されました。そこにはどんな理由があるのでしょう。また危機的な状況においても、幸せを実感できる人にはどんな力があるのでしょうか。幸福学の第一人者、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授に伺いました。

■コロナ禍で起きた、幸福度を上げる要因とは

さまざまな状況の人がいますから、一概には言えませんが、この状況下で日本人の幸福度が上がっている大きな要因のひとつは、やはり通勤時間が減ったことでしょう。例えば、都市部の人であれば、都内への通勤時間に片道1時間半程度かかります。1日のうち3時間も、満員電車に乗っていたわけです。それがなくなったことは、心身ともに大きな変化だと思います。しかもその時間を、家族で食事を共にする時間に使うことができたり、自分の趣味や学習の時間に充てられるようになったのですから、そのような人は幸せを感じられることでしょう。

また、リモートワークにより、無駄な会議が減ったことや、社員間(上司との)での無駄な会話が減少したことも要因だと考えられます。ただし、社員間の無駄な会話というのは、大切なコミュニケーションという側面もありますから、これについては注意する必要があります。

■コロナ禍で突きつけられる根源的な問い

未知のウイルスというのは、不確定性の象徴です。このような時には、根本について考えさせられますし、視野を広くせざるを得ません。例えば、本当にこの仕事をしたかったのか、ここに住みたかったのか、そもそも生きるとは何だろうか、というように。読者のなかにも、このような根本的な問いについて考えた方は多いのではないでしょうか。

現に、私の実感では「幸福学に興味があります」とおっしゃる方が増えたように感じます。どうすることが幸せか、生きる本質を、皆が問い直しているように思います。

今回の新型コロナウイルスで言えば、このウイルスの猛威が去ることを、ぐっと小さくなって待っている人がいます。一方で、新たな世界でどんどんチャレンジしようとする人、適応しようと努力する人がいます。これは会社でも国でも同様です。つまり、世界が二極化しているのです。

前者としては、緊急事態宣言が解除されると、すぐに出社したり、自ら進んで通勤を再開した人もいます。意外とあっさり戻ってしまった人と、新しい働き方に適用しようと進化する人と、二極化が明らかになりました。

前者の多くの人は、変わることに不安を感じているのだと思います。

■危機的状況の中でも幸せを見いだせる人の力とは

まず大切なことは、怖がらないことです。こんなことを言うと不謹慎に聞こえるかもしれませんが、どうせいつか、死は皆に平等に訪れます。急に病気になるかもしれないし、明日、事故に遭うかもしれない。誰のもとにも不確定なことが起こりうるのです。

今回、新型のウイルスという不確定な事象が、全世界に同時に起こりました。人類全体に同時に不確定なことが起きたという意味ではまれなことです。しかし、不確定なことは、実は、これまでも、これからも、全ての人に起こることです。

人は必ず、つらいこと、予想すらしなかったことを経験します。誰もが悲しくて、つらいことを経験し、豊かな人生を終えるのです。私は仕事柄、常にそういうことを考えていますから、いつ死んだとしても悔いのないよう生きようと思い、日々を過ごしてきました。ですから、新型コロナウイルス禍においても、何も変わりません。授業や打ち合わせ、講演などがすべてオンラインになっただけで、本質的な仕事は変わっていません。単に、リモートでやるなど、新しいやり方に適応すればいいだけの話なのです。

■最悪1秒後に死ぬし、最高でも数十年後に死ぬ

大切なことは、生まれて死ぬという一生の計画を、よく考え、イメージすることです。誰もが、最悪1秒後に死ぬし、最高でも数十年後に死ぬ。人生のなかで、必ず何らかの予測できないことが起きます。予想通り死ぬ人なんていないのです。そう考えれば、新しい環境にも適応すればいいし、適応するしかないのだと、純粋に思えます。

どんなことが起ころうとも、心はかき乱されず、イキイキと「生きること」に注力していればいいのです。会社の社員としてどう生きるべきか、ではなく、まずは「人間として何をすべきか」。私は皆さんに、人間として生きる一つの選択として、今の仕事を選択していますか、ということを問いたいですね。

このように、俯瞰的な視点をもっている人は幸せな状態にあることが研究によって明らかにされています。もちろん、幸せについてだけでなく、不幸せについても考え、準備しておく必要があります。最悪の事態を想定しておくことは、ネガティブシンキングではありません。ポジティブ心理学は誤解されがちなのですが、ポジティブなことだけを考える学問ではなく、ネガティブなことがあっても大丈夫、ネガティブとポジティブを包み込むように考えましょう、という学問です。常に俯瞰的視点で、ネガティブな事柄でも、ポジティブに捉えることが大切なのです。必要以上に恐怖に支配されるべきではありません。判断力も鈍るし、他人を攻めてしまったりします。

■幸せな人の4つの要素

やりがいを持ち、今、生きていることに感謝し、何とかなるとチャレンジして、いつ死んでも悔いがないように、ありのままに自分らしく生きる。これができていれば、何も恐れる必要はありません。

一度しかない人生、皆さんがそれぞれの人生をどう生きるか。ぜひ、この機会に考えていただきたいと思います。

東日本大震災が起こったとき、日本人の心は変わったと言われましたが、残念ながら多くの人は戻ってしまいました。この時、しっかりと一歩を踏み出し、意識と生活を変えた人は、もう元には戻らないでしょう。未来を予想できない時代の到来を機に、皆さんが本当の幸せに気づき、自分らしい人生を手に入れることを心から願っています。

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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。

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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司 写真=iStock.com)

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