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まったく校則のないドイツの学校が「学級崩壊」と無縁なワケ

プレジデントオンライン / 2020年8月17日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KiroM

校則は誰のためにあるのか。ドイツ出身のサンドラ・ヘフェリン氏は「ドイツの学校には校則がないが、何の問題もなかった。厳しい校則で生徒を縛る日本のやり方は、みんなを不幸にするだけだ」という――。

■高校生の髪型がニュースになる驚き

先日、東京都予算特別委員会の質疑の動画がインターネットを中心に話題となりました。

動画では共産党の池川友一都議会議員の「なぜ都立高校の校則ではツーブロックが禁止されているのか」という質問に対して、藤田裕司教育長が「その理由といたしましては、外見等が原因で事件や事故に遭うケースなどがございますため、生徒を守る趣旨から定めているものでございます」と回答しています。

確かにツーブロックは高校生の髪型としては目立つため「絡まれる」などといった問題が一部で発生しているようです。しかし治安に関していえばドイツをはじめとするヨーロッパの国のほうが明らかに日本よりも治安が悪いにもかかわらず、「ツーブロック禁止」という校則はヨーロッパでは聞いたことはありません。

今回はこの「ツーブロック禁止」を例に海外と比較しながら「ニッポンの校則」というものについて考えてみたいと思います。

■ドイツの学校に校則がない理由

「ツーブロック禁止」の校則に関するニュースが流れたとき、とても日本的なニュースだなと思いました。日本の一部の高校がツーブロックを禁止する背景には、髪型を規制することで生徒がどんどん派手になりいわゆる「荒れた学校」になるのを防ぐ目的もあるといいます。でも「生徒が派手にならないように」「学校が荒れないように」と生徒の生活面での指導をしているところが日本的だなと思いました。

筆者はドイツで育ちましたが、ドイツの学校には「校則」そのものがありません。そのため筆者が通っていたギムナジウムでは膝のあたりがビリビリに破かれたジーンズをはいて登校をする同級生もいましたし、胸元が大きく開いたデザインの服を着てデコルテを見せている生徒もいました。パーマはもちろん、毛染めからピアスまで「何でもあり」でした。

特に荒れた学校ではなくむしろ逆でしたが、なぜこんなにも生徒の自由が重んじられているのかというと、ドイツでは「身だしなみや生活指導は家庭の役割」「学校の役割は勉強の面倒を見るところ」といういわば役割分担に関する「すみ分け」がはっきりしているからです。そのため仮に生徒が学校の外で問題を起こしたり、またはトラブルに巻き込まれたとしても、学校の責任が問われることはありません。

もしもドイツで子供に「ツーブロック」を禁止するとしたら、それはドイツでは「学校」ではなく「親」の領域です。ただし実際にはドイツでツーブロックを禁止する親の話は聞いたことはありません。

■カップルの「相部屋禁止」が唯一の規則だった

ドイツの学校には日本でいう生活指導の時間はありません。生徒が放課後にどこを歩いていようと、週末に何をしようと、学校や先生はノータッチです。生徒の「性生活」に関しても基本的にはノータッチであるため、結果として生徒の恋愛にも寛容です。学校で堂々と恋愛をしているカップルがいるのはドイツでは珍しくありません。

筆者が通っていたギムナジウムでも17歳の頃、先生公認のカップルがいました。このカップルは授業中に隣同士の席に座っていましたし、もちろん休み時間もいつも一緒に過ごしていました。

クラスで修学旅行に行くことになった際、「修学旅行中に万一妊娠すると問題になるので、修学旅行中はカップルが同じ部屋に寝泊まりするのは禁止」という先生からのお達しがありました。それも頭ごなしにいうのではなく、カップルと先生がじっくり話し合ったうえでのルールでした。

このように恋愛も含めドイツの学校は生徒を「一個人」として扱うのが普通です。奇抜な格好や、とっぴな行動も「もうすぐ大人なのだから」ということで、「自立の証し」として見守ってくれていたように思います。

そうはいっても、「宿題をしない」「授業の邪魔をする」などといった問題行為についてドイツの学校は厳しく、先生から親に注意の手紙が送られることもあります。これが3回続くと、今度は校長から親に戒告の手紙が送られます。校長による戒告が3回続くと、生徒は退学になり別の学校へ転校を余儀なくされます。学校での暴力や授業の邪魔をするなどといった問題行為についてはこのように厳しい対応をとるドイツの学校ですが、生徒の身だしなみや放課後の生活態度など「授業や勉学と関係ない」とされていることに関する規制はないというわけです。

そのためドイツでは生徒が何か危険なものに巻き込まれる可能性があったとしても、規則として何かを禁止することはありません。法は守らなくてはいけませんが、それは学校の問題ではなく生徒個人の問題だと考えられています。したがって仮に何かに巻き込まれる可能性が否定できなくても、その上で自分のスタイルを守るか否かは生徒本人の判断に委ねられています。

■ドイツの学校で大事にされている「多様性」

ドイツの学校の先生が生徒の生活面にタッチしないのは、「先生による管理が時間の面でも労力の面でも不可能」だと考えられているからでもあります。

ドイツの学校に給食はなく、当然日本の小学校でたまに問題になるような「完食指導」もありません。それは「食」も「私」に該当すると考えられているからです。よって「食」に関する指導は家庭の管轄です。

ドイツにはイスラム教徒の生徒も多く、彼らは豚肉が食べられません。また親がベジタリアンで、「子供に肉は食べさせない」という方針の家庭もあります。色んな主義や考え方がある中で、学校が生徒をひとつの方向に「これが正しい」と導くことは不可能だと考えられています。

日本人からすると、このような割り切った考え方であるドイツの学校は「冷たい」と感じるかもしれません。でも勉強以外のさまざまなことが本人や家庭に委ねられていることの利点は確かにあるのです。それは、わざわざ「多様性」を主張しなくても、「自然な形で多様性が保たれている」点です。

いろいろな肌の色の人がいて、さまざまな髪質の人がいる。家庭によって文化も違えば、生徒個人の好みもいろいろ――学校はまさに「社会には色んな人がいる」ことを学ぶ場所です。

日本の学校でも外国人や外国にルーツを持つ生徒は増えています。学校が「黒髪の直毛」をスタンダードとし、そうでない髪質や髪色の生徒に「地毛届」の提出を求めることは時に人種差別の問題もはらんでいます。

学校が「子供が将来社会に出た時にうまくやっていけるよう準備をするところ」であるならば、校則による「縛り」はむしろ逆効果なのではないでしょうか。校則により均一的な格好を長年強いられてきた生徒が社会に出た時に「多様性」というものにポジティブに向き合えるのか――そんなことが心配になってきます。

■そもそも「校則」は必要なのか

都立高校186校、都立中高一貫校5校の全191校を検査した結果、83.1%の全日制の高校に生徒の頭髪に関する校則があることが分かっています。生まれつき髪の色が明るい生徒が学校に地毛届を提出させられる問題もまだなくなっていません。

日本の校則は規定が細かく、女子生徒の制服のスカートの丈に関する規定があったり、靴下がワンポイント禁止だったり、寒い冬場でもコートやマフラーが禁止されていたり、さらには生徒の下着の色まで決められていたりします。

今回の「ツーブロック禁止」についてインターネットでは「理不尽」「意味不明なルールの典型」など非難の声も多く見られました。

そんななかで尾木ママはブログに「ツーブロックは、自由でもいいし、禁止でもいいと思います。一番のポイントは【誰が決めたのか】ということ」と自身の見解を述べ、続けて「高校生にもなって、いちいち細々とした校則を学校の先生たちがきめる。(一部中略)学校生活を快適に過ごすかどうかは生徒たちの問題です。生徒会で議論して決めるのが筋ではないでしょうか?」と書きました。

つまり同じルールであっても、大人が勝手に決めるのではなく、あくまでも生徒が互いに話し合った上で決められたルールであるべきだと尾木ママは主張しています。

ただ校則がない学校に通っていた筆者は「学校に校則ってそもそも必要なの?」と思ってしまいました。

■未成年だから髪型や下着の色に口を出してもいいのか

仮に生徒同士でルールを決めたとしましょう。生徒が多数決で「下着の色は白に限る」と決めたとして、なぜ他人が決めた色の下着を身に着けなくてはいけないのかと疑問に思います。

社会人に置き換えて、この問題を考えてみましょう。仮に会社の平社員同士の多くが「ブラジャーの色は赤がいいと思う」と思ったとしても、口に出すことは難しいでしょう。異性がいる場合は間違いなくセクハラになりますし、自身が身に着ける下着について、他人が意見を述べること自体がおかしいからです。

そう考えると、相手が未成年で学生だからといって、大人が平然と下着にまで口を出すのはやはり理不尽だと思ってしまいます。

甲子園を見ても分かるように、日本では丸坊主が男子高校生にふさわしい髪型だとされているフシがあります。確かに丸刈りにしてしまえば、髪の手入れに手間がかからないのは確かです。

しかし「手間がかからないこと」を選ぶのか、それとも「おしゃれ」を選ぶのかは本来は各自が決めれば良いわけです。そこを統一させて全員を丸刈りにさせてしまうのは、大人たちによる「高校生らしさ」の押し付けなのかもしれません。

■校則は結局「ダレ得」でもない

校則があることにより窮屈な思いをするのは生徒ばかりではありません。生徒に対する細かい規則があることで、先生もそれらの規定が守られているかどうかをチェックしなくてはならなくなります。このことにより、そうでなくても部活等の時間外労働に忙殺されている先生に負担が強いられるわけです。そういったことも考えると、「校則があるのはダレ得でもない」と思います。

ヨーロッパの学校とは違い、日本の学校では「地域の目」も気になるといいます。しかし地域からの「お宅の学校の女子生徒はスカートの丈が短い」「お宅の学校の男子生徒はツーブロックが多い」などといったクレームには、どこかの芸能事務所のように学校は「プライベートは生徒に任せています」と返すのが理想的だと思います。

そもそも今の時代、「ツーブロックを禁止すること」は別の意味でも問題です。コロナ禍で美容室や理髪店に行くことがはばかられるいま、自宅でバリカンを使って気軽にできるツーブロックこそが時代に沿った髪型だと思うのですが、どうでしょうか。

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サンドラ・ヘフェリン 著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)など。

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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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