超ヒット「半沢直樹」の顔芸は名門カトリック系暁星高校の男子校ノリが生み出した
プレジデントオンライン / 2020年8月14日 9時15分
■4週連続で視聴率22%超「半沢直樹」を支える顔芸と暁星学閥
ドラマ「半沢直樹」(TBS系、日曜夜9時)が4週連続で世帯平均視聴率22%超えを記録しました(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。毎回の盛り上がりは、セリフがツイッターのトレンドになるほどです。ネットニュースには現実のビジネスニュースと並んで「半沢“7年ぶり”親会社・銀行に復帰!」などの見出しがおどり、主人公の半沢直樹の言葉に感動する人々が続出しているようです。
先週の日曜日に放映された第4話。半沢が放った「どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、自分の仕事にプライドを持って日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝ち組というんじゃないかと、俺は思う」というセリフに、実業家の前澤友作氏もツイッターで「ここで泣いた」と書いていました。
この第4話では、他にも「仕事は客のため、ひいては世の中のためにする」「人事が怖くてサラリーマンがつとまるか」といった、共感を呼びそうなセリフが。仕事観を学べるドラマとしてまじめに観ている人も多いようです。
■歌舞伎役者が至近距離でにらみ合い、眉間のしわの動きで威嚇する
会社員経験のない私も第1話から見ていますが、人事とか派閥とか買収といった組織内や企業間のドロドロした駆け引きなどよりも、単純に出演者たちの激しい顔芸が心に刺さりました。お互い至近距離でにらみ合い、眉間のしわなどの動きで威嚇するシーンなど、銀行員のイメージからはかけ離れたエモーショナルな感情表現。冷静沈着なメガネの男性が多い印象でしたが、ドラマの銀行員や証券マンは全く違った人種のようです。
ドラマの舞台となる東京中央銀行には、キャラの立った人がたくさんいます。中でも、半沢の積年の宿敵である大和田暁取締役を演じる香川照之、証券営業部部長の伊佐山泰二を演じる市川猿之助など、歌舞伎界からの出演者が目立っています。
他にもIT企業スパイラル瀬名洋介社長役の尾上松也、金融庁のオネエ系検査官、黒崎駿一役の片岡愛之助など、とにかく濃いキャラが大渋滞しているのですが、歌舞伎役者が入ると華やかさと色気が加わり、さらに顔芸の迫力がドラマを盛り上げます。
一方、半沢が出向していた東京セントラル証券側は、半沢を演じる堺雅人、賀来賢人、及川光博など顔芸的にはクールなタイプが多いですが、顔の筋肉を動かす代わりに目力(とくに堺雅人のすわった上目遣い)で対抗します。
また、銀行側も、三笠副頭取(古田新太)や、中野渡頭取(北大路欣也)のようにポストが上になるほど、あまり顔の筋肉は使わなくて良くなるようです。古田新太のたれさがった顔筋が貫禄を醸し出し、北大路欣也は眉毛をピクッとさせるだけで人を動かす圧力がありました。
■北大路欣也 香川照之 市川猿之助…カトリック系名門暁星学園の出身者
第1話からのドラマの展開で特に目立っていたのは、ヒール役の伊佐山部長でした。「ぜってぇに許さねえ! 世界の果てまで追い落としてやる!!」と、戦国武将のようなセリフで、かつて自分の上司である大和田を土下座させたことのある半沢への怒りをぶちまけます。
ただ、IT企業の買収を巡って半沢とやり合い伊佐山部長が「お前も終わりなんだよ!」などと悪い顔で吐き捨てるシーンもあるのですが、私には憎々しいというよりもかわいく見えてしまいます。品格がにじみ出てしまうというか……。どうやらそれは歌舞伎役者のオーラだけではなかったようです。「半沢直樹」には「学閥」が存在する、ということを耳にしました。
北大路欣也、香川照之、市川猿之助、そして賀来賢人が東京都千代田区のカトリック系名門男子校、暁星学園の出身者なのです。頭取・北大路の同窓会会長のような威厳も納得です。
回を追うごとにこうした主要キャストの顔芸が激しく、アドリブも独創的になっていったのは、同じ男子校のノリがあったのでしょうか。同じ学び舎で過ごした先輩後輩という気心の知れた間柄で、放課後のようにふざけ合ううちに、アドリブが加速し、数々の名シーンが生まれたのかもしれません。
■「お・も・て・な・し」のパロディのような「お・し・ま・いDEATH!」
そのひとつは第3話でした。香川演じる大和田常務が半沢と再会した時に言い放った「お・し・ま・いDEATH!」のインパクトが大。「DEATH」の「TH」の発音を舌で強調していて、かなりのパワーフェイスでした。
しかも首を斬るようなジェスチャーつきです。ちょうど東京オリンピックが開幕されるはずだった時期に、滝川クリステルの「お・も・て・な・し」のパロディのように、「お・し・ま・いDEATH!」とは、五輪の命運を物語っているような決定的なセリフにも聞こえ、不吉さに震えました。
SNSではこのセリフが笑えたと盛り上がっていました。ちなみにこの「DEATH!」はアドリブだったそうです。さらに市川猿之助演じる伊佐山部長が半沢に対して「詫びろ詫びろ詫びろ詫びろ!」と8連発して、歌舞伎のような抑揚で連呼するシーンも圧巻でした。
市川猿之助は、演技について先輩で親戚の香川照之からのアドバイスがあったと情報番組「王様のブランチ」(TBS系土曜9時半)に出演した際に語っています。
■「まこ……とに~あい……すい……ません……でしたぁぁ……」
第4話も市川猿之助演じる伊佐山部長は大活躍しました。上司を二重に裏切って、伊佐山は大手IT企業である電脳雑伎集団へ無謀な追加融資を密かに実行していました。これを阻止するため、本来は犬猿の仲であるはずの半沢と大和田が手を組むという想定外のシナリオです。
かわいがっていた伊佐山に裏切られていたことがわかり、大和田が問いつめると伊佐山は「あんたのせいだ。あんたのした土下座のせいだ。くだらん土下座のせいだ! つまらん土下座のせいだ! 土下座、土下座がすべてを潰したんだ!」と得意の連呼技で攻撃。「土下座野郎」とこれ以上ないパワーワードを吐き捨てて部屋を出て行きます。
そのあと屈辱と怒りに襲われた大和田は半沢と結託するわけですが、そこまでに至るシーンも、半沢が大和田の乗った車の前に立ちふさがって「エンジン切れ~!!」と怒鳴ったり、その後、大和田の車が一度走り去ってから高速バックして戻ってきたりと、激しい演出の連続でした。銀行利用者としては、こんな危険な行為が横行する銀行に預金を預けたくない気がしますが……。
第4話のクライマックス。半沢は綿密な調査で電脳の秘密を暴き、会議に乗り込みます。この時、何人もの暁星OBがいる中に入っていく堺雅人は、別の意味でもアウェイ感を抱いていたのかもしれません(せめて暁星出身の部下役の賀来賢人が同行していれば……)。
会議では、融資プランの欠陥を指摘された伊佐山が、結果的に三笠に謝罪を要求されます。「詫びろと言っているんだ、伊佐山!」
三笠に無理やり床に押さえつけられ、片膝を立てて土下座寸前の体勢に。歯を食いしばり震えながら「まこ……とに~あい……すい……ません……でしたぁぁ……」と、憎しみの表情で絞り出した伊佐山。歌舞伎のように大仰なセリフに圧倒されます。
■男子校的な世界観、BL(ボーイズラブ)のような側面も楽しめる
さらにその後、東京セントラル証券内で情報をリークし、裏切りを働いた人物を半沢が皆の前で謝らせるシーンがありました。ただし、ここは土下座ではなく90度のお辞儀です。そう簡単には土下座は出てきません。まさに勧善懲悪ですが、悪いことをした人は皆の前で謝らせられるというシーンで視聴者はカタルシスを得られるのでしょう。
謝罪シーンや激しい顔芸、炸裂するアドリブなど見どころが多い「半沢直樹」。ツッコミどころ満載ですが、また別の要素としてBL(ボーイズラブ)のような側面で楽しむこともできます。メインの出演者は男性ばかりで、女性は銀行では出世できないのかというやるせなさを感じますが、派閥意識が強い男性の生態を観察できるドラマです。
誰が誰にかわいがられているかを重視し、威嚇し合う時は顔をやたら近づけてキス寸前の距離感。謝罪した人は、攻めから受けになるという儀式を見ているようでした。これもまた男子校的な世界観なのかと妄想できます(ただ、萌え度は低いです)。
これからもますます盛り上がると予想されますが、伊佐山部長が、今回の失態で出向になってしまったので、顔芸と男子校ノリを担う重要なキャラが次回はいなくなることに……。早くも「伊佐山ロス」になりそうです。
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漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。
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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)
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