非常事態に陥ったとき、国に頼らずに生き延びるために一番大切な事とは
プレジデントオンライン / 2020年8月23日 11時15分
※本稿は尾原和啓『あえて数字からおりる働き方 個人がつながる時代の生存戦略』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■コロナが加速させる「個人主体」の働き方
インターネットとテクノロジーの発展によって、ビジネスは個人が主体になって成立できる時代になりました。
たとえば、これまで企業が主体となって行なってきたホテルやタクシーなどのサービスも、インターネットで、個人の細かな需要(何月何日に泊まりたいなど)と、個人の供給できるサービス(何月何日なら泊められる)をつなぐことができるようになりました。ウーバーやエアビーアンドビーといったサービスがはじまり、今ではグローバル規模で展開するようになっています。
このように、かつてなら遠くに離れていた個人とサービス、需要と供給を、物理的距離や時間に関係なくインターネットがつないでくれるようになったことによって、企業を主体としなくても、個人が寄り集まってサービスを展開したり、仕事をしたりできるようになったのが、今の時代の大きな流れといえるでしょう。この点は、企業に勤める人もリモートでできる副業を持つことが安全弁にもなるため、新型コロナウイルスの影響で加速していくと私は考えています。
特にポイントとなるのは「遠く」という点です。正解が見えているときは、近くの同質性の高い強い群で一丸となって進むことが大切ですが、どこに変化が起きるかわからないときは、ゆるやかに遠くの物に分散することで、どこかが沈んでもどこかが生き残ることが大事になってきます。
■コロナ禍だからこそ「互助」と「共助」を
コロナショック以降、収入から習慣まで、生活が根こそぎ揺らぐ体験を誰もが経験していると思います。有名なマズローの5大欲求で例えるならば、生理的欲求と安全欲求までもが揺らぐ事態です。これらは日本で生活している限り、まず脅かされることのない領域でした。
また日本は、災害のように一気に崩れた状態から復興していくことは経験済みでも、コロナショックのようにじわじわと崩れ、終わりが見えない不安に長く付き合った経験はほとんどありません。
しかし、海外ではどうでしょう? たとえばベルリンは、長く続いたベルリンの壁の悲劇を経験しているからこそ、市民は非常時でも、公助を当てにしすぎることがありません。まず自分のことは自分でまかない(自助)、余力で相手を助け(互助)、そしてみんなで助けあう(共助)、というように、連続性を持って助けあう市民性が備わっています。
僕は、本来の人のあるべき助け合いとは、自助、互助、共助、公助の4段階で行なうものではないかと考えています。しかし日本人は、生活が脅かされる事態を長く経験していない影響からか、まず公助を当てにしてしまうところがあるのかもしれません。だからこそ今回のように生理的・安全欲求が崩れたとき、日本人がまず思い出すべきは互助と共助ではないかと思うのです。
■「互助」と「共助」の輪を作るメリットとは
もともと日本は長屋文化があったくらいですから、互助も共助も当たり前の国だったはずです。キングコングの西野亮廣さんも同じことをおっしゃっていて、東北地方には地域の共助のための「結」という集団があって、たとえば積雪で家の屋根が落ちたら、グループで直してあげたりするそうです。これらは地域に限定された互助・共助の輪ですが、インターネットの時代では、物理的距離に関係なくサポートし合うことができます。
今回のコロナショックでも、インターネット上では共助の輪が数多く生まれています。たとえばコロナショックの影響で出た大量のキャンセル商品を、農業や漁業の業者さんたちが安く提供するため、フェイスブックを通して各地の支援者とつながるなどの試みが増えているのです。
僕は今回のコロナショックに限らず、これからの時代は、「互助・共助のつながり」をいかに個人がつくっていけるかが大事なのだと思います。
そもそも、互助・共助のつながりを物理的距離に関係なく持てることのメリットは何なのでしょうか。2つあります。
■1.価値観の相対化ができる
遠く離れた場所にいる仲間や友人のように、価値観が同じで、かつ物理的距離が離れている者同士は、お互いを違う角度から見たり、意見を言ったりすることができます。
たとえば同じ日本人同士だと、普段から似たような世界で生活しているため、外出自粛などこれまで経験したことがない現状を前にしたとたん、ついお互いを不安の渦に巻き込んでしまうかもしれません。しかし、僕の海外の友人らは「日本は医療レベルが高いからいいよね」「罰則もなしに国民自ら自粛するなんて、うちの国じゃありえないよ。日本は優秀な国だね」などとメールしてくれるのです。
彼らは、物理的距離が離れているからこそ、より相対的な視点を投げかけてくれるのです。
今日本にいて無事でいられている自分だからこそ、もっと困っているかもしれない人に対して、今できることは何かを自然と考えられるようにもなります。
■2.遠く離れているからこそのサポートができる
![尾原和啓『あえて数字からおりる働き方 個人がつながる時代の生存戦略』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/d/200/img_3dfeb0e0a224992e5561f9dff13e878b301214.jpg)
さらに、物理的距離が離れている者同士なら、片方が沈んだとき、片方がサポートすることもできるのです。たとえば会社が沈んだとき、同じ会社員同士では助け合うことができません。しかし、もしあなたがITマーケティング会社に勤めていて、飲食業で困っている友人がいたら、ネットを駆使したサポートをしてあげられるでしょう。もしあなたが日本で飲食業をしていて、中国に輸出業を営む友人がいたら、彼らにサポートしてもらえるかもしれないし、彼らが大変なときは、あなたがサポートしてあげられるかもしれません。
つまり、非常事態でそれぞれ困難に見舞われていたとしても、物理的距離があって、かつ同じ価値観を持つ者同士は、インターネットを通じて共助の関係をつくることができるのです。
今僕たちに必要なのは、安全欲求、生理的欲求さえ満たされなくなるかもしれない時代の中で、物理的距離にかかわらず、いかに仲間と支えあって、自分ができることを困っている人におすそ分けする互助・共助の輪をつくっていけるのかを、それぞれが意識していくことなのです。
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IT批評家
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『モチベーション革命』『アフターデジタル』(共著)、『ザ・プラットフォーム』『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ"これから"の仕事と転職のルール 』『ITビジネスの原理』などがある。
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(IT批評家 尾原 和啓 写真=iStock.com)
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